異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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初級魔術習得

 さて、ニーナに遅れること約2ヶ月。

 ついに俺も準備が整った。

 ニーナが使うのを間近で見られたことで、かなりイメージの助けになった。

 今ならできる気がする。

 

 ニーナはその間も魔術の訓練を行い、ファイアの大きさを変えることができるようになった。

 使える回数も少し伸びて、今では5回使っても少し余裕がある。

 

 

 

「どう? ハジメ」

「うーん。あとちょっとな気はするんだけど……」

 

 今日もニーナとカシルス畑で特訓中だ。

 ニーナは水魔術にチャレンジしている。

 

 俺は、魔力を取り込む段階に苦戦している。

 目を閉じて集中すれば、周囲に満ちている魔力を感じることはできる。

 しかし、それを両手から取り込もうとしても。

 何故かうまくいかない。

 体が魔力の進入を拒否しているかのようだ。

 

 教本には術式の説明は長々書いてあるのに、魔力を取り込むことについてはほとんど書かれていない。

 まるで、そこでつまずくことを想定されていないかのようだった。

 うーむ。

 

「ニーナ、魔力を取り込むのってどうやってる?」

「え、そうだなぁ……。

 私はあんまり意識してないかも。

 周りにある魔力を感じて、術式に集中したら勝手に入ってくる感じかなぁ」

「そうか……。うーん」

 

 ニーナもやはりつまずかなかったようだ。

 どうしたものか。困った。

 

 ……いや待てよ。

 あまり考えない、というのは良いアドバイスかもしれない。

 これまで魔力が入ってきてないことを自覚した時点で、集中が途切れてしまっていたからな。

 魔力が入ってこなくても、イメージを続けてみるか。

 

「ありがとうニーナ。それでやってみる」

「うん。がんばって!」

 

 まずは深呼吸。

 目を閉じ、集中する。

 自分の周囲に魔力が満ちているのを感じる。

 しかしやはり、その魔力が自分に取り込まれることはない。

 

 だが、気にしない。

 そのまま、術式を起動する。

 イメージはニーナのものと同様。

 前方に炎をつくる。

 両手をかざし、そこから魔力を放出。

 それが拳大程度の炎となる様を、鮮明にに想い描き、唱える。

 

「ファイア」

 

 ――その瞬間。

 頭の中のイメージが、強制的に変化した。

 拳大の火が、その数十倍に膨れ上がる。

 何だ?

 

 分からなかったが、危険を感じた。

 咄嗟に、手を上に向ける。

 そしてすぐに、目を開けた。

 ――眩しい。

 

 頭上には、人を丸焼きにできそうな大きさの炎が、煌々と揺らめいていた。

 

「え?」

 

 夜なのに昼間みたいに明るい。

 眩しさで目がくらむ。

 それに熱い。

 何だ、これ?

 俺がやったのか?

 

 空中の炎は少しずつ小さくなり、数十秒後に消えた。

 ニーナが絶句してこちらを見ていた。

 自分の魔術が成功した時よりも驚いた顔をしている。

 唖然とした表情だ。

 

 何だ今のは?

 状況から考えると、やはり俺がやった可能性が高い。

 今の通りの光景が、頭の中に確かに浮かんだ。

 しかしやろうとしていたのは、拳大の炎を作ることだ。

 何がどうなって、あんなものが生まれてしまったんだ。

 

「ハジメ……今の……」

「……えーっと、うん。

 とりあえず……成功、ってことでいいか?」

 

 ダメに決まってる。

 危うく、カシルス畑を燃やし尽くすところだった。

 コントロールできない魔術ほど、危険なものはないだろう。

 

「すごい! ハジメ!」

 

 しかしニーナは、嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。

 興奮した表情で、俺の手を取る。

 

「すごいよハジメ!

 今の何? ファイアって言ったよね?

 ファイアって、私のみたいな小さい火を出す魔術だって、教本に書いてあったよ!

 私はそれしかできないし。あんなの作れるなんて、すごいよ!」

 

 ニーナの高ぶった褒め言葉に、つい頬が緩みそうになった。

 いやダメだ、落ち着け。

 アレは作ろうとしてやったものじゃない。

 危険だ。

 

「違うんだ。アレは俺がコントロールして起こしたものじゃない」

「え、そうなの?」

「ああ。詠唱した瞬間に、無理やり変化させられた感じだった」

「つまり、ハジメは私とおんなじような炎を作ろうとしてたってこと?」

「ああ。それに失敗して、あんなものができた」

「そっかー。

 ……え、でも、すごいよ?

 だって、あんなの作れるなんて、聞いたことないもん。

 クレタの街の魔術師だって、きっとできないと思うよ」

「……うーん、とにかく、検証が必要だと思う」

 

 そうだ。検証をするべきだ。

 あれを俺がやったとして、何故そんなことが起こるのか。

 コントロールできるようになるのか。

 使える回数は。

 確認すべきことがいくつもある。

 

 俺の態度に、ニーナは少し不満そうだった。

 まぁ、それもそうか。

 せっかく喜んでくれてるのに、当の俺がこんな感じじゃつまらないだろう。

 ……ちょっとくらい、喜んでもいいのだろうか。

 

「……まぁ、できたってことにするか」

「できてるよ!

 すごいよ、ハジメ!」

 

 俺がそう言うと、ニーナの顔に笑顔が咲いた。

 その喜びように耐えられず、ニーナの手を取って俺も笑った。

 

 まぁ、思ったのとはちょっと違ったが、恐らくは魔術を使えたのだ。

 嬉しさは抑えられない。

 起こったことに対する反省と対策はしっかりするとして。

 ひとまず今は、魔術が使えたことを喜ぼう。

 

 ――やった。

 初めて、魔術を使えた。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 翌日、魔術の検証をすることにした。

 カシルス畑では危ないので、カンテラ片手に村の広場へとやってきた。

 

「ハジメの魔術、すごかったねー」

 

 ニーナは一晩経ってもこの調子だ。

 今日も1日上機嫌で、シータに何があったのか聞かれていた。

 一応、俺が魔術に成功したとだけ伝えてくれているらしい。

 カシルス畑が危うく燃え尽きるところだったと聞いたら、シータはいい気はすまい。

 

 広場を歩き回って、誰もいないことを確認した。

 さて、じゃあ始めるとするか。

 

「ニーナ、危ないから下がっといてくれ」

「はーい」

 

 ニーナを後ろに下がらせ、深呼吸する。

 目を閉じ、集中して、事象を想い描く。

 イメージは、拳大の炎だ。

 そして詠唱する。

 

「ファイア」

 

 するとやはり、イメージが書き換わり。

 炎の大きさが膨れ上がる。

 ……昨晩と同じ、巨大な炎が出現していた。

 

「すごーい」

 

 後ろでニーナがはしゃいでいる。無視する。

 次は、出現した炎と同じ大きさのイメージで行う。

 

 

「ファイア」

 

 すると、イメージは書き換わることなく、そのまま炎が出現した。

 ふむふむ。

 

 次は、より大きな炎だ。出現したものよりも、さらに大きなイメージで。

 

「ファイア」

 

 またイメージは書き換わり、最初と同じ大きさの炎となった。

 ふーむ。

 

 結局、出現する炎の大きさ以外は、ニーナのときと一緒だ。

 ニーナも最初、大きさを変えることができなかった。

 異なるのは、炎の大きさだけ。

 とりあえず俺が魔術を使えるようになったのは、間違いないようだ。

 ひとまずは、安心した。

 

 次は使用制限について検証する。

 3回やってみたが、今のところ体調に変化はない。

 まだまだ使えそうな感じだ。

 限界までやってみよう。

 

「ファイア」

「ファイア」

「ファイア」

「ファイア」

「ファイア」

 ……

 

 20回使ってみたが、一向に出なくなる気配がない。

 これはどういうことだ?

 続けてみる。

 

「ファイア」

「ファイア」

「ファイア」

「ファイア」

「ファイア」

 ……

 

 50回だ。

 飽きてきた。いや、もう少しかもしれない。がんばってみよう。

 

「ファイア」

「ファイア」

「ファイア」

「ファイア」

「ファイア」

 ……

 

 100回に到達した。

 もうダメだ。終わりが見えない。

 やめにしよう。

 

 俺が何度も魔術を使えることにはしゃいでいたニーナも、もはや飽きて眠そうにしていた。

 俺も眠い。

 

「ニーナ、帰ろう」

「いいの?」

「ああ。もう疲れた。とりあえず100回は使えることが分かったから、それでよしとしよう」

「100回!?

 すごいなぁ。

 ……ねぇもしかして、ハジメって魔術の天才なんじゃない?」

「俺、すごいのかな?」

「すごいよー。普通じゃないと思う」

「そうか……」

 

 確かに異常だと思う。

 魔術の知識は教本2冊分しかないが、それでもおかしいことは分かる。

 教本には、魔力切れを起こさない可能性など微塵も考慮されていなかった。

 ファイアがあんな大きさになることも同様だ。

 ふーむ。

 

 ……まあいいか。

 とにかく魔術が使えるようになったし、他の人よりも制約が少ないみたいだ。

 いいことづくめだ。

 

 もしも本当に才能があるなら、魔術の道を究めるのも悪くないかもしれないしな。


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