異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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ユリヤンとの再会

 晴れてC級冒険者になった。

 お金も着々と貯まっている。

 

 ということで、またお祝いの飲みに行くことにした。

 しかし前回、1人で飲んで少し寂しい思いをしたので、今度はユリヤンを誘うことにする。

 魔術学院の入学金無料の話も、ついでにお願いしよう。

 

 

 翌日。

 アバロンの中心にどっしりと鎮座する、アルシュタット城へとやってきた。

 近くで見ると本当にでかい。

 てっぺんの塔からは、街が一望できるのだろう。

 

 目の前には分厚い城門。

 その正面には2人の兵士が、微動だにせず直立している。

 

 あれ、場違い感が半端じゃないけど、大丈夫かこれ?

 曲者! 出会え出会え! みたいなことにならないだろうな。

 

「……あのー」

「むっ、何だ貴様は。城に用か」

 

 話しかけた瞬間、スッと剣柄に手を置かれた。

 怖い。

 

「えーっと、ユリヤン……様にお目通りをお願いしたいのですが……」

「貴様、名前は?」

「ハジメです。ハジメ=タナカ」

 

 兵士は2人でじろじろとこちらを見て、ぼそぼそと話し合ったあと、急に相好を崩した。

 

「失礼いたしました。ハジメ様ですね。

 殿下よりお話を承っております。どうぞこちらへ」

 

 急に態度を変えられても、逆に怖いわ。

 俺は兵士に案内され、城門をくぐった。

 

 絢爛豪華な部屋の数々を横目で見つつ。

 長いこと歩かされてようやく目的地へとたどり着いた。

 兵士は目の前の扉をノックする。

 

「殿下。ハジメ=タナカ様をお連れしました」

 

 兵士が言うと、中から「入れ」と聞こえた。

 

 兵士に促されて扉を開ける。

 中では、ユリヤンが本を読みながら飲み物を飲んでいた。

 

 広い部屋だ。

 ユリヤンがついている机とは別に、来客用のソファとテーブルが置いてある。

 花瓶や絵画が飾られ、調度品の一つ一つにセンスの良さを感じさせる部屋だった。

 

「よう。ハジメ。久しいな」

 

 ユリヤンが振り返って言った。

 ブロンドの髪がサラリと流れる。

 相変わらずのイケメン野郎だ。

 

「……お前、本当に王子様だったんだな」

「なんだよ、信じてなかったのか?」

「ああ、こんな下品な王子様が、存在するわけないと思ってたからな」

「俺だって、こんな典型的なおのぼりさん、いるわけないって思ってたよ」

 

 軽口を言い合うと。

 一瞬にして、旅をしていた頃の感覚が蘇った。

 懐かしい。

 

 コンコン、とノックの音。

 

「入れ」

 

 ユリヤンが言うと、扉から入ってきたのはメイドさんだった。

 飲み物とお菓子を運んできてくれている。

 

 それらをいただきながら、しょうもないやり取りをしつつ、しばし思い出話に花を咲かせた。

 

 

 -----

 

 

「しかしアレは傑作だったな。どこだったか……そう、テグスの街の宿屋だ」

「俺たちの部屋に、おっさんが怒鳴り込んできたやつだろ。『お前らがヤッてる声がうるさくて眠れねぇ!』って言ってな」

「それだ。扉を開けて、ハジメが『なんなら混ざりますか?』って言ったんだよ。ははっ。あの時のおっさんの顔は傑作だった」

「うるさかったのは結局、廊下挟んで反対側の部屋のやつらだったよな」

「ああ。こっちにも響いてたからな。おっさんがあんな口調じゃなきゃ、味方になれたんだが」

 

 ひとしきり笑って、ユリヤンは一息ついた。

 さりげなくメイドさんが入ってきて、飲み物を注ぎたしていく。

 

 俺はそれを口元へ運ぶ。

 ふわりと甘い香りがした。

 この世界における紅茶だ。

 カシーよりも希少で高価なのだそうだ。

 銘柄は知らないが、高いだけあって、飲むとホッとするような、優しい味がする。

 

  ユリヤンも合わせて飲み、おもむろに時計を見ると、ハッとした表情を作った。

 

「……っと、そろそろ時間だ。

 悪い。これから会議なんだ。

 ここに来たのは、魔術学院への口利きの件でいいんだよな?」

「ああ。頼めるか?」

「当たり前だろ。もともとこっちから言い出したことだ。

 ただ、入学金だけだからな?

 あとの費用は自分で何とかしてくれ」

「分かった。助かるよ」

 

 ユリヤンは机に向かうと、高級そうな紙にサラサラと何事かを書き、印鑑を押した後、封筒に入れて俺に寄越した。

 

「学院へ行って、これを見せれば通るはずだ」

「ありがとう、ユリヤン」

「礼には及ばない。

 俺も体面上は、地方に埋もれた人材を探しに行くってことになってたからな。

 お前が魔術学院に入ってくれれば、少しは面目が立つ」

 

 そうは言うものの、ユリヤンは入学を強く勧めることはしなかった。

 そう思うとこの言い草も、俺に恩を感じさせないための気遣いのように感じる。

 だがまぁ、それを指摘するのは野暮というものだろう。

 

「そうか。

 それなら、お前が困ったときは相談してくれ。

 何か手助けできるかもしれん」

 

 まぁ、俺にできて王子様にできないことなんて、想像もつかないが。

 

「分かった。またな、ハジメ。話せて楽しかったよ」

 

 しかし俺の発言を侮る気配など微塵もなくそう言って、ユリヤンは部屋を出ようとした。

 あ、いかん。

 

「待った。まだ用件が1つあるんだ」

「なんだ?」

 

 訝しげな顔でユリヤンがこちらを見る。

 

「今夜、久しぶりに飲みに行かないか?」

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 その後、会議が終わるのを待って、ユリヤンと街に繰り出した。

 

 ユリヤンも、なんやかんやで鬱憤が溜まっていたらしい。

 ニヤリと笑い、「親父には内緒だぜ?」と一言。

 王族にしか伝わっていないという抜け道を通り、城門の外へ抜け出してきた。

 影武者を置いてきた、とのことだ。

 そんなものまでいるのか。

 

 落ち合った後は、浴びるほど酒を飲んだ。

 

 せっかくなので前に行ったバーを紹介すると、ユリヤンも知っていた。

 というか、アバロンでこいつが知らない店は、もしかしたら存在しないのかもしれない。

 

 途中で隣の席の女の子が声をかけてきたが、いつになくユリヤンにその気がなかった。

 

 地元でうかつに手を出すとまずいからな、などと言っていたが、どうだろうか。

 俺は正直、今日はユリヤンと2人で飲んでいるのが、一番居心地がよかった。

 さすがに2か月も人と話してないと、大人数での会話は疲れそうだ。

 俺のそんな気配に気づいていたのかもしれない。

 

 

 ユリヤンは、あと半年ほどアバロンにいるそうだ。

 それからは、前にも言っていた通り、魔族との戦争の前線に行くという。

 まぁ、1000年間停滞中の前線だが。

 

 C級冒険者になったと知らせたら、ワインっぽい酒のボトルを1本おごってくれた。

 その酒がかつてないほど美味しく、こっそり値段を見たら銀貨1枚だった。

 少し高いが、名前を覚えて家に置こうと決めた。

 

 店を3軒ハシゴし、俺もユリヤンも完全に酔っぱらって、夜明けも近くなった頃。

 どちらからともなく、お開きにすることにした。

 

「楽しかったぜ。ハジメ。またな」

 

 そう言って、ユリヤンは歩いていった。

 

 ……俺も楽しかった。

 アバロンに来てから、一番楽しい夜になった。

 

 よし。気分が晴れた。

 明日からまた、魔物狩りの毎日だ。


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