異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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C級クエスト

 ユリヤンと飲み明かした翌日。

 昼過ぎまで眠りこけ、起きたら頭痛がひどかった。

 寝た時間は長いものの、眠りは浅く、頭がボーッとする。

 これが二日酔いというやつか。

 酒を覚えてから、初めての二日酔いだ。

 うーむ、痛い。

 

 今日は依頼をこなすのは無理だ。

 とはいえ行動しないともったいないので、冒険者ギルドで次のクエストのあたりをつけることにした。

 ベッドからなんとか這い出て、着替えを済ませて外に出る。

 今日もいい天気だ。

 しかしそのいい天気に責められてるような、妙な罪悪感がある。

 ……二日酔いで昼に起きた日は、雨の方がかえってうれしいのかもしれない。

 

 

 ギルドは、珍しく閑散としていた。

 馴染みの受付嬢がいたので声をかける。

 

「今日は人が少ないな」

「お昼は、いつもこんなものですよ。

 依頼を受ける朝と、帰ってくる夕方がいつも混んでるんです」

 

 なるほどな。

 俺も今まで、その時間しかギルドに来たことがなかった。

 

「何かいい依頼はあるかな?」

 

 受付嬢がヒマそうなので、ついでに聞いてみることにした。

 

「そうですねぇ……大抵、お昼を過ぎたらめぼしいものはとっくに取られてしまっています。

 それにC級になりますと、難易度の極端な差はなくなってしまいますね。どれも相応に困難な依頼ばかりです。

 まぁ、私は冒険者じゃないから、あまり意見に価値はないと思いますが」

 

 

 そう言いながら、カウンターを出て、掲示板の前まで来てくれた。

 さらに額に手をかざし、掲示板とにらめっこしている。

 

「うーん。やはりなかなか、コレというものはありませんね」

「いや、十分参考になるよ。ありがとう」

 

 昨日酒場でもらった飴のようなお菓子がポケットに入っていたので、それを渡してお礼を言った。

 

「な、なんですかこれは。私にくれるんですか?」

「ああ、お礼にと思って。嫌だった?」

「いえ、嫌じゃないですけど……。ありがとうございます」

 

 不思議そうな顔をして、受付嬢はカウンターへと戻って行った。

 

 

 ふーむ。

 受付嬢の言う通り、どれも似たような難しさのようだ。

 C級クエスト入門編、みたいな簡単そうなものは見当たらない。

 逆に、これは無理そうだ、と思うような難しそうなものもない気がする。

 

 まぁ、今日は依頼をみるだけのつもりだったしな。

 とりあえず帰って、明日の朝にまた見てみるか。

 

 と思ったが、明日の朝にまたギルドに寄るのも面倒に思えてきた。

 混雑の中で依頼書を剥がして、内容を確認して出発するのは、毎度繰り返してきたことながら少しストレスではある。

 どうせどれもあまり変わらないなら、ここにあるものから選んでも構わないのかもしれない。

 

 そのとき、1つの依頼書が目に止まった。

 

<グレイウルフ捕獲 必要物:毛皮 2匹分で依頼達成 銀貨10枚 以降1匹毎に銀貨2枚 西の森A地域>

 

 グレイベアなら見たことがある。

 熊のような魔物で、爪と牙が発達していた。

 グレイウルフもそんな感じだろう。

 アバロンからも近い。

 他にいいのもなさそうだし、これにするか。

 

 俺は依頼書を剥がした。

 

「これで頼む」

「はい。確認いたしました。グレイウルフですか。気を付けてくださいね」

「ああ、ありがとう」

「ちなみに、メンバーは見つかったんですか?」

 

 メンバー、というとパーティーメンバーということか。

 以前考えたが、とりあえず1人でやってみるという結論になったのだ。

 

「いや、1人でやるつもりだ」

「そう……ですか。わかりました。くれぐれも、気を付けてください」

「ああ、了解した」

「では、こちらが資料になります」

 

 それらを受け取り、冒険者ギルドを後にした。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 夜明けとともに起きて、西の森へと向かう。

 

 馬車で西の城門へ向かい、そこからは徒歩だ。

 

 地図と見比べながら、グレイウルフが出現するエリアを探す。

 1時間ほど街道を進み、近いところから森へと入った。

 

 昨日予習した内容によると、グレイウルフとはその名の通り、狼っぽい魔物だそうだ。

 多くの場合、3匹〜5匹程度の群れで行動し、牙と爪は鋭く、身のこなしも素早いという。

 

 うーん。

 群れ、牙、爪、素早い。

 予習してて、ちょっと心配になった。

 大丈夫だろうか。

 命は1つしかないからな……。

 

 まぁでも、耐久力は普通の狼と同様のようだ。

 エアスラッシュで仕留められるだろう。

 詠唱には数秒もかからない。

 規模を大きくすれば、少なくとも2匹は同時に倒せるはずだ。

 つまり3発撃てば全滅できる。

 

 そしていざとなれば、全方位に最大規模のファイアを撃って一掃してしまおう。

 素材は手に入らないが、命の方が大事だ。

 

 方針に変更なしだ。

 狼どもを毛皮に変える。

 帰ってきたら、銀貨がザックザクだ。

 

 

 そのまま、森の奥へと進んでいく。

 

 魔物の気配はなんとなく分かるのは、せいぜい半径5メートルくらいの範囲だ。

 背後から獣の速度で駆けてこられたら、対応できない可能性がある。

 気配に頼らず、視認することを心がける。

 

 もうこの辺は、狼どもの住処のはずだ。

 

 遠くで音がしたと思ったら、鹿がこちらを見ていた。

 こっちの世界の鹿は、ツノが発達していて強そうだ。

 しかし魔物ではなく、動物である。

 

 ギルドは動物の肉も買い取ってはくれるが、アレを仕留めて持って帰ってたところで割りに合わない。

 運べる量には限りがある。

 目的の狼を探し、歩く。

 

 森を歩いていると、たまに同業者とも出会う。

 この森に入ってからも、2組のパーティーに会った。

 俺が魔術師1人だと言うと、たいてい驚かれる。

 魔力切れや近接戦闘の心配をされ、たまに勧誘されるときもある。

 が、適当にいなして別れる。

 とりあえずは、ひとりでやってみると決めたのだ。

 

 

 歩けど歩けど、グレイウルフは見つからなかった。

 途中でゴブリンとジャイアントバットに出くわし、エアスラッシュで撃退した。

 ゴブリンの耳は頂いておく。

 たかが銅貨5枚、されど銅貨5枚。

 さらにジャイアントバットの牙も回収する。

 翼も素材になるが、大きくて持てないので放置するしかない。

 

 徐々に、森の深いところへと入りこんでいく。

 

 もう昼を過ぎようとしている。

 気を張っていると、疲れるのが早い。

 腹も減ってきた。

 昼休憩にするか。

 

 俺は少し見通しの良い場所を探し、昼食を取ることにした。

 カップにカシーを注ぎ、パンを頬張る。

 もう慣れたものだ。

 

 一息ついて、むしゃむしゃとパンを食べていると

 遠くに獣の姿が見えた。

 

 狼のような姿。

 灰色の毛並み。

 鋭い爪と牙。

 

 ――グレイウルフだ。

 

 カップとパンを即座に投げ捨て、木に立て掛けていた杖を掴む。

 向こうも気づいたのか、俺が行動した瞬間に、こちらに向かって走り出した。

 

 狙いを定めて。

 

「エアスラッシュ!」

 

 風の刃がグレイウルフを襲う。

 しかしそいつは、ギリギリのところで体を捻り、避けた。

 勢いは少し削いだが、なおも向かって来る。

 

 避けられた。

 これまで、一度も躱されたことがなかった、俺の魔術が。

 

 落ち着け。

 まだ距離が長い。こちらに接近するまでにあと3発は撃てる。

 今の距離でギリギリだったなら、次は躱せない。

 

 再度狙いを定めて杖を向けたその時。

 俺は気づいた。

 そいつの左右から、全く同様の速度で走ってくる2匹の獣に。

 

 グレイウルフだ。

 3匹いたのだ。

 きれいに3方向に分かれて、こちらへと向かってきている。

 

 大丈夫だ。

 想定の範囲内。

 魔術の規模を上げ、2匹を同時に狙う。

 もう1匹分、詠唱する時間はある。

 

「エアスラッシュ!」

 

 2匹の狼を繋ぐように、1筋の風の刃を放つ。

 先程とは段違いの規模。

 直線上の木々を切り倒し、その奥の狼2匹に命中した。

 

 よし!

 片方はまだ死んではいないが、前脚の1本を失っている。

 放っておいて問題ない。

 あと1匹!

 

「エアスラッ……」

 

 詠唱しかけた言葉が思わず止まる。

 

 やばい。しくじった。

 

 俺は、()()()()()()()()()2匹の狼の存在に、ようやく気づいた。

 ……こいつらは、最初から5匹いたのだ。

 

 前の3匹は陽動。

 後ろの2匹が本命だ。

 甘くみていた。

 魔物がこれほど高度な連携を行うとは。

 

 3匹が肉薄する。

 とにかく時間がない。

 ファイアを。

 

「ファ」

 

 急いで詠唱しようとしたが、それしか発声できなかった。

 後ろから来たグレイウルフの1匹が、俺の右脚に食いついたからだ。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 痛みに絶叫する。

 

 そいつは俺の右脚に食いついたまま首をブンブンと振り、俺はなす術もなく空中を振り回される。

 普通の狼ではあり得ない力だ。

 脚から牙が離れたと思ったら、俺の身体は宙を飛び、近くの岩に叩きつけられた。

 

「がはっ!」

 

 更に間髪入れず、目前にもう1匹が迫って来た。

 俺の首にかぶりつこうとしている。

 必死に杖で頭を殴る。

 あまりダメージはなく、その牙は方向を変え、俺の腹に食いついた。

 

 服が真っ赤に染まる。

 俺の血だ。

 

「ああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 食われている。

 腹を食われている。

 

「あぐぁ!

 うああぁ!」

 

 ダメだ。

 詠唱なんてできない。

 こんな状態で、集中力が必要な魔術なんて使えるわけがない。

 痛い、痛い。

 痛い。

 死ぬ。

 

 

「――やめろっ!」

 

 その場に、凛とした声が響き渡った。

 同時に、俺にかぶりついていたグレイウルフの首が切り飛ばされた。

 

「ここは私が引き受ける! 早く身体を治癒しろ!」

 

 よく通る声。

 朦朧とする意識でそちらを見ると、騎士風の女性が立っていた。

 残る2匹の狼を相手に、こちらに来させないように牽制してくれている。

 

 ――誰?

 いや、考えている場合ではない。

 女性の言う通りだ。

 今はとにかく治癒だ。

 

 腹には穴が開き、腹膜を破って腸が見えている。

 破れた血管からダラダラと血液が流れるが、拍動性の出血はない。どうやら大動脈は無事のようだ。

 灼熱のような痛みに、少し動くだけで意識が飛びそうになった。

 

「ぐぅっ、うっ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 耐えろ。

 ここは命の瀬戸際だ。

 失敗すれば死ぬ。

 一生に一度の集中力を持ってくるんだ。

 

 痛みに耐えながら、なんとか欠損した腹部の構造をイメージし、唱える。

 

「ヒール!」

 

 柔らかな光が俺の腹部を包み、痛みが引いていく。

 成功だ。……よかった。

 こんな状態でも、杖を離さないでいた自分を褒めたい。

 杖がなかったら危なかった。

 

 

 女性の方を見ると、まだグレイウルフと戦っていた。

 彼女は2匹の連携を巧みにいなし、俺を守ってくれている。

 

 奥からもう1匹、前脚を失ったやつがやってきた。

 器用に3本脚で移動している。

 

 命の恩人だ。

 傷つけるにはいかない。

 

「エアスラッシュ」

 

 まずはやってきた3本脚を倒した。

 

「エアスラッシュ」

 

 続いて、女性から少し離れた位置にいるやつを倒す。

 

 その魔術をきっかけに、女性が剣を振り、残る1匹を仕留めた。

 

 状況終了だ。

 狼は全て倒したはずた。

 

 

 女性は剣を布で拭いたあと鞘に収め、こちらへと近づいてきた。

 


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