異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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反省会

「ぷはーっ! うまい!」

 

 ゴクゴクとエールを飲む。

 

 オークを討伐した後。

 俺とクリスは、俺の馴染みのバーに来ていた。

 

「うむ、戦闘後の酒は悪くないな」

 

 クリスは果実のカクテルを飲んでいる。

 

「さて、今日のクエストだけど、何か気づいたこととかあるか?」

 

 飲み会の本題は反省会だ。

 問題点を炙り出し、キマイラとの戦いに活かす。

 別に酒を飲みながら行う必要はないが、俺が飲みたいからここにした。

 

「概ね問題なかったと思うが、そうだな。

 やはり、戦闘中に敵だけに魔術を当てるのは難しいものか?」

「やっぱりそこになるよな。

 ……正直、思ったより難しかった」

 

 今日の戦闘。

 クリスが吹っとばされるまで援護ができなかった。

 敵との距離が近いと、クリスに魔術が当たってしまうのを避けるため、どうしても慎重になってしまう。

 最後の魔術をエアスラッシュではなくストーンバレットにしたのも、線でなく点の攻撃が可能だからだ。

 

「いや、でも慣れてないという部分も大きいと思う。

 もう少し繰り返せば、クリスの動きから次を予測して、もっと的確に援護できるようになる気がする」

「なるほど。確かに、今日が初めての連携だからな」

 

 俺はエールを飲み干し、おかわりを頼んだ。

 クリスも気づけばグラスが空いている。

 

「次は何を飲む?」

「うーん、おすすめは何かあるか?」

「そうだな……アバロンなんかどうだ?」

「じゃあ、それを1つ」

 

 アバロンは、俺がここで初めて飲んだ酒だ。

 ウェイターがテーブルにグラスを置く。

 それを飲んだクリスの表情に、笑みがこぼれた。

 

「美味しいな。この酒は」

「そうだろ」

「うん、いい味だ。街の名前と同じというのもいい」

 

 カクテルのアバロンに、クリスもご満悦だ。

 割と強めだけど、問題ないらしい。

 

 話を戻す。

 

「逆に俺としては、たまにわざと距離を取るようにしてもらえるとありがたいが」

「距離を? なるほど。その隙に魔術を撃ち込むわけか」

「可能か?」

「問題ない。

 むしろ、ただのバックステップが攻撃になるなら、選択肢が増えていいことづくめだ。

 その作戦は、積極的に使おう」

 

 クリスの頬は少し赤みを帯びてきた。

 なんだか色っぽい。

 

「あとは、そうだな……。

 私が敵とやり合ってるとき、ハジメはもう少しそばに来てもいいんじゃないか?

 距離があると届くのに時間がかかるわけだろう?

 その分、私が動いて被弾する危険性が高くなる。

 なら、近くにいた方が良さそうじゃないか?」

 

 なるほど。

 確かにそうかもしれない。

 魔術師は後衛であるべきだろうが、相手が1匹なら、前衛を潜り抜けてこちら来ることはない。

 それならば、魔術が届く速さを優先して、もっと近くにいるべきだ。

 

「確かにその通りだ。次はもっと近づくことにするよ」

「ほかに、意見はあるか?」

「そうだなぁ……」 

 

 そういえば、もとの世界の知識で、戦闘に役立ちそうなものはないだろうか。

 銃器とか作れたら、戦闘を有利に運べるだろうが。

 ……そんな物が俺に作れるわけがないな。

 うーむ。

 ……あ、そうだ。

 

「クリスは魔術を使えないんだよな?」

「ああ。私は魔術についてはからっきしだ」

「だったら一応、教えておきたいことがある。

 あのな……」

 

 俺は心肺蘇生法について、クリスに教えることにした。

 つまり心臓マッサージと、人工呼吸だ。

 俺がやられて、クリスが残った時とか。

 もしかしたら必要な場面があるかもしれない。

 まぁ致死傷を前にしたら、おまじない程度の効果かもしれないが。

 この世界の知識だとうさん臭く聞こえるだろう話を、クリスは興味深そうに聞いてくれた。

 

 

 その後も、あれやこれやと話し合った。

 しかしそのうち戦略的な部分は出尽くして、終盤は雑談になった。

 

 クリスは伯母に引き取られてから、騎士養成学校に通い、卒業したらしい。

 卒業後、騎士にならずにフラフラしてるので、伯母は心配しているそうだ。

 しかしクリスのことを信頼しているので、放置しているという。

 キマイラを狩ろうとしているなんて、夢にも思っていないらしい。

 

 いい具合に酔っ払い、その日は解散とした。

 別れ際、体が火照ったのか、服の胸元を引っ張ってあおぐクリスから目を離すのに苦労した。

 

 

 

 それから何度も、C級クエストを2人でこなした。

 

 クリスがいれば、C級でもヒヤリとすることはない。

 次第に、更に連携が取れて、安定して狩ることができるようになった。

 クエストの度に反省会を行ったが、そのうち改善点は出尽くして、ただ飲むだけになってしまった。

 

 その日々は楽しかった。

 このままずっと続けばいいと思った。

 が、そういうわけにもいかない。

 

 そしてついに。

 その日がやってきた。

 

 

 ーーーーー

 

 

「おはよう。早いな」

 

 朝日に照らされる街の中。

 こちらへと歩いてくるクリスには、何故だか、物語の一場面のような美しさがあった。

 

「いや、今来たところだよ」

 

 俺はそう答え、共に馬車を待つ。

 

「どれくらいかかるんだ?」

「馬車で2時間走った後、徒歩で3時間といったところだ」

「そうか」

 

 クリスの緊張が伝わってくる。

 今日この日のために、クリスはこれまでの6年を過ごしてきたのだ。

 

 願わくば勝利を得て、無事に帰ってきたい。

 

 馬車が止まり、俺達はそれに乗り込んだ。

 

 

 ……さぁ、決戦の時だ。


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