異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。 作:nyaooooooon
<クリス視点>
私は今日、ついに目的を達成した。
6年間。
今日という日をずっと夢見て生きてきた。
学校で友人も作らずに剣の腕を磨き。
卒業後は道場に通って鍛え上げた。
全ては今日のため。
今日だけのための努力だった。
しかし、私ひとりでは、恐らく達成できなかった。
自分の愚かな心得違いに、気づくことすらなかっただろう。
ハジメがいたから。
彼がいたから、私は今、こうしていられる。
彼には感謝しても、しきれない。
最初は、何とも思わなかった。
魔物に襲われている人がいたから、助けた。
私にとっては、当然のことだった。
思えば、そうした善行を重ねることで、過去の記憶から目を背けて過ごしていたのだ。
振る舞いを演じた結果、たまたま彼を救ったに過ぎない。
同じようなことは、これまでにもあった。
私は遠くの魔物の気配が分かる。
それ故に、襲われている人を見つけることも多かった。
これまで出会った人は、全て同様に助けてきた。
皆、礼を言い、謝礼を渡してきた。
私が必要ないと断ると、礼だけ言って去っていく人が殆どだった。
……ハジメだけだった。
あそこまで頑なに、礼を返そうとしてくれた人は。
だから私はハジメに、話してしまった。
思えばこの6年間、誰にも自分の思いを明かさずに生きてきた。
家族には言えるわけがないし、打ち明け話ができる友人もいなかった。
あの時私は初めて、自分の思いを打ち明けたのだ。
そして話してしまえば、期待してしまう。
私はずっと、自分が不安だったのだと気がついた。
勝てるかわからない相手に挑むことへの不安。
死ぬかもしれないことへの不安。
身勝手にも、それらを分かち合ってくれる人を欲していたのだ。
そしてハジメは、手伝うと言ってくれた。
本当は、私の行動は全て私のためのもので、恩に報いる必要なんてないというのに。
それから、ハジメと長く一緒に過ごすようになった。
ハジメとの日々は、心地よかった。
ハジメといると、ワクワクした。
ハジメといると、何だか浮き足立った。
ハジメといると、心臓が高鳴った。
不思議な感覚だったが、決して嫌なものではなかった。
こんな日々が、いつまでも続いてほしいとさえ思った。
そんな時、夢を見た。
あの時の夢だ。
あの夢を見るのはいつものことなのに。
その日は何故か、自分の抱えている感情に、違和感を感じた。
今にして思えば、それは事の成り行きを初めて自分以外の人に話したからだった。
話したことで、顛末が整理されてしまったのだ。
しかし、私はそのことを深く考えずに過ごしていた。
違和感は次第に大きくなり、その矛盾を確信したのは、戦いの直前。
ハジメとの会話によってだった。
私がキマイラに挑む理由は、両親のためではなく、自分のためだった。
私の利他的な振る舞いは、他人のためではなく、自分のためだった。
そんなことに、今更になって、気づいたのだ。
取り乱した私に、ハジメは言った。
復讐の目的がなんであれ、関係ないと。
どんな理由であれ、私の行動は、私のものだと。
私のことを信じてくれると。
そう、言ってくれた。
――その言葉に、救われた。
もしハジメがそう言ってくれなかったら。
私は動揺した心でやつに挑み、あっけなく死んでいただろう。
ハジメは私の、命を救ってくれたのだ。
私が彼の命を救ったのは、私のためだ。
なのに。
彼は私のために、私の命を救ってくれた。
……本当に、感謝しても、しきれない。
やつの首を落としたとき。
それまでの葛藤が、全て吹き飛んだ。
最初に浮かんだのは、両親の顔だった。
両親は、笑顔だった。
私が我が身可愛さに逃げたことなど全く気にせず、ただ私の幸せだけを願ってくれているような。
そんな都合のいい空想を、信じることができるような。
そんな笑顔だった。
――初めて自分の事を、好きになれそうな気がした。
燃えていくキマイラを見ながら、私は過去の私と決別した。
これからが、本当のスタートだ。
何にだってなれる。
私は自由なんだ。
そんな風に思えたのは、子どもの頃以来だった。
ひとまず、これからしたいのか、考えた。
ハジメと冒険者を続けたい。
浮かんだのは、そんなことだった。
彼といる時の。
ワクワクするような、浮き足立つような、心臓が高鳴るような。
その感覚の正体が何なのか、知りたい。
そう思った。
また、毎日が始まる。
今度こそ、後悔をしないように生きていこう。
手始めにまずは、ハジメに、パーティーの継続をお願いしてみよう。