異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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魔術学院

 クリスとの祝勝会から2ヶ月が経った。

 お金は順調に貯まっている。

 

 クリスと組んでからというもの、もはやC級のクエストは無双状態だった。

 

 クリスが索敵し、俺が先制攻撃。

 それで終わらなければクリスが盾になり、俺がクリスのどちらかが止めをさす。

 その勝利の方程式は、崩れることがなかった。

 

 特筆すべきは、やはり連携の熟達だ。

 クリスの戦闘中に、絶妙な距離感をもって魔術を放り込めるようになった。

 

 1ヶ月くらいで目標額は貯まった。

 しかしそのことを告げるとクリスが寂しそうな顔をしたので、もう少し稼いでおくことにした。

 俺も、狩れば狩るほど金が貯まっていくのは気分が良かったし。

 金なんて、いくらあっても困りはしないしな。

 

 そして今日。

 ついに目標の倍以上の金が貯まったところで。

 ひとまず狩りを休んで本来の目的を進めることとした。

 

 ただ、狩りも全くやらないわけではなく、合間を見て行う方針だ。

 俺が狩りをできない時にクリスはどうするのかと聞いてみたら、伯母達と過ごすのだという。

 これまで育ててくれた感謝を伝えたいとのことだ。

 

 俺の本来の目的とは、すなわち中級魔術の習得である。

 そのために、魔術学院に通う。

 ようやく、王子様がくれたタダ券を使う時がきたのだ。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 魔術学院。

 

 それは国によって創立された、魔術師を育てる場である。

 魔術師の需要は高く、その数が国力を表す1つの指標にも用いられる。

 故に、優秀な魔術師を育て、抱え込むことは、国にとって重要な責務なのだ。

 

 よって、いくつもの街に、魔術学院が設置されている。

 しかし中でも、このアバロンの魔術学院は特殊だ。

 

 最古の歴史を誇ることもさることながら。

 その卒業生の一部は、王に仕える宮廷魔術師となるのだ。

 故に、王家の潤沢な資金援助のもとに、最高と自負する魔術教育が行われている。

 

 アルバーナ唯一の、王立魔術学院。

 それがここ、アバロン魔術学院である。

 

 ……とまぁ、本で読んだ知識だとそんな感じだ。

 

 

 さっそく、学院を訪ねてみた。

 

 敷地はすごく広い。

 石造りの校舎は大きく、歴史を感じさせられる。

 

 歩いていると、ちらほらと制服を着た生徒とすれ違った。

 正面入口から中に入り、受付へと進む。

 

「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 受付嬢が、慣れた様子で尋ねてきた。

 

「すみません。入学希望なんですけど」

「了解いたしました。

 では、こちらの書類に必要事項をご記入のうえ、少々お待ちください」

「あ、あと、ユリヤン=ウォード=アルバーナ殿下よりお手紙をいただいておりまして。

 これも確認をお願いします」

「はい、確かに承りました。では、少々お待ちください」

 

 そう言って、受付嬢はどこかへと行ってしまった。

 とりあえず、書類を記入して待つ。

 

 しばらくして、受付嬢が戻ってきた。

 

「お手紙を拝見させていただきました。間違いなく、王家の推薦状と確認いたしました。

 では、これから校長が面接を行いますので、こちらへいらしてください」

 

 校長じきじきに面接するのか。

 しかも俺が来てすぐにって……ヒマなのか?

 

「――数日待っていただくこともあるのですが、本日はたまたまこちらにおりましたので」

 

 思考を読んだかのように、受付嬢が言った。

 

 

 受付嬢に連れられて、奥にある階段を登る。

 どうやらこの建物は、職員用のものらしい。

 5階まで上がり、廊下を少し歩くと、「校長室」と書かれたプレートがある部屋の前に来た。

 

「校長先生。お連れいたしました」

「お入りください」

 

 受付嬢がドアを開けた。

 執務用の机が奥にあり、手前に来客用のソファと低いテーブルが置いてある。

 ソファには、一人の老人が掛けていた。

 

「どうぞ、座ってください」

「失礼します。ハジメ=タナカと申します」

「校長のダスティン=ブラッドリーです」

 

 渋い声だ。

 60歳くらいだろうか。

 顔には深く皺が刻まれているが、背筋は伸び、その眼には力強い光を感じる。

 

「楽にしてください。

 私の方針で、入学希望者は全員、私が面接をさせていただいているのです。

 入学の時期は、4、5人ほど一緒にさせていただきますがね。

 ……さて、質問は1つだけです。

 あなたはなぜ、魔術を学びたいと思ったのですか?」

 

 柔らかな口調で尋ねてくる。

 なぜ、か。

 答えは決まっている。

 

「私には目的があります。

 そのために、魔術について詳しく知る必要があるからです」

「ほほう。その目的とは?」

「自分が何者なのか、知ることです」

 

 校長の目が、少し見開いた。

 

「自己の探求ですか。面白いですね。

 なるほど。

 それなら魔術はピッタリかもしれません」

 

 少しニュアンスが違う受け取り方をされた感じだが、面白がってるし、まぁ、いいか。

 

「……いいでしょう。我が校へようこそ。タナカ君。

 面接は以上です。

 以後の事務的なことについては、また受付で尋ねてください」

 

 校長は立ち上がり、執務用の机へ戻ろうとした。

 おっと。

 せっかく会えたんだから、聞いておこう。

 

「あの、1つ伺ってもいいですか?」

「なんでしょうか?」

「離れた場所を行き来する魔術について、何かご存知だったりしますか?」

「……ふむ。

 転移魔術ですか。

 昔から研究は行われていますが、今でも実用には程遠い水準です。

 なかなか成果が上がらないので、最近では研究する者も減ってきてるようですね。

 残念ながらこの学院にも、研究している者はいません。

 ……転移魔術に興味が?」

「いえ……」

 

 返事を適当に濁して、部屋を出た。

 

 そうか。

 まぁ、そんな気はしていた。

 俺がこちらの世界に来たのは、この最高峰の魔術教育機関のトップから見ても、おかしな現象だということだ。

 

 とはいえ、手がかりが全くないわけではない。

 校長の口から転移魔術という言葉が出た。

 さらに、昔から研究されているという。

 調べれば何か、分かるかもしれない。

 

 

 受付に戻って合格だと告げると、いろいろと説明が始まった。

 面接で不合格という人はほぼいないらしい。

 

 まずはお金のこと。

 手紙のおかげで入学金は免除になったが、通常の学費や教科書代、制服代などがかかる。

 初期費用で銀貨20枚、学費が月に銀貨3枚といったところだ。

 入学金まで払ったら、初期費用は銀貨50枚になるらしい。

 高い気もするが、まぁメインターゲットは貴族の子息令嬢だからな。

 ある程度はしょうがない。

 このアバロンにこれだけの敷地を持ち、建物を維持して教師や事務員などを雇うとなると、コストもかさむのだろう。

 今の俺には余裕がある。

 1年分まとめて払うことにした。

 

 続いてカリキュラムについて。

 全4年間の課程らしく、

 

 1年生で初級魔術と一般教養を。

 2年生で初級治癒魔術を。

 3年生で無詠唱での初級魔術を。

 4年生で中級魔術を。

 

 それぞれ習得することが目標となる。

 上級魔術の習得を望む場合、卒業後、大学院での課程となる。

 

 大学院を卒業するには、上級魔術に加えて、論文を書くことが必要らしい。

 それらを達成すると、博士号がもらえ、魔術博士を名乗れるのだそうだ。

 魔術博士。

 そこはかとなくダサい響きだ。

 

 あとは年末に試験があり、進級判定をされるらしい。

 出席もいくらかの点になるが、重要なのは試験。

 試験に落ちてしまうと上の学年に上がれず、計4回留年すると退学。

 逆に半年に1度、希望者は飛び級試験を受けることができ、これに合格すれば次の学年に上がることができる。

 

 俺は初級治癒魔術まで使えるので、2年生くらいの力があるということになる。

 そのことを伝えると、編入試験に合格すれば、3年生として入学することが可能と言われた。

 

 編入試験を希望すると、5日後に受けさせてくれるとのこと。

 出題範囲は、初級の魔術教本からだそうだ。

 俺が使っていたものと同じ本だが、持ってこなかったことが悔やまれる。

 ほとんど覚えているとは思うが、かなり時間が経ってしまっているので怪しい。

 

 どうにかならないか、と思ったら、学院の図書室にも教本は置いてあり、利用してもいいとのことだ。

 明日からさっそく、復習に励むとしよう。

 

 その他、細々とした説明が続き、受付嬢の話は終わった。

 

 

―――――

 

 

 これで準備は整った。

 あとは魔術の勉強を頑張るだけだ。

 

 しかし転移魔術について、実用段階からは程遠いと校長は言っていた。

 魔術協会の図書館に入れるようになったとしても、そこに答えがある可能性は低いのかもしれない。

 そんな懸念も頭に浮かぶ。

 

 だが、他に糸口もないのだ。

 確かめもせずに次を探すなんてできない。

 一度決めたことだ。最後までやり通そう。

 

 さしあたって、編入試験の勉強だ。

 がんばるぞ。


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