異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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魔術についての疑問

 

 試験の2日後。

 採点が終わり、合格者が発表された。

 俺は見事合格。

 エミリーは満点で、学年最優秀者として表彰されていた。

 すごいやつだ。

 

 さて、あと3日ほどで、学院は10日間のお休みとなる。

 教室内の空気も、普段と比べてなんだか賑やかだ。

 皆、肩の荷が降りたようで、休みの予定を聞きあったりしている。

 エミリーの方を見ると、すました顔で隣の席の女の子と何かを話していた。

 

 俺はというと、相変わらず海を漂うクラゲのように浮いており、話しかける相手もいない。

 半年弱経ったものの、3歳の差はいかんともし難く、クラスメイト達との距離は埋まらなかった。

 ま、しょーがないよな。

 

 

 昼休みになり、いつものように外のベンチでパンとカシーを頂いていると。 

 珍しく人に話しかけられた。

 

「ハジメ、ちょっといいかしら」

 

 エミリーだ。

 いつも昼食は取り巻きの女の子達と取ってるのに。

 どうしたんだろうか。

 そういえばこの2日間、勉強をサボってたから会話をするのは久しぶりだ。

 

「ついて来なさい」

 

 有無を言わさぬ口調だった。

 俺はパンとカシーを無理やり口に突っ込み、エミリーの後を追った。

 

 

 ―――――

 

 

 連れて行かれた先は、先日実技試験を行った広場。

 昼休みだが、まばらに人がおり、魔術の練習をしている。

 

「突然どうしたんだ?」

「……ちょっと、初級魔術を使ってみて」

 

 エミリーは俺の質問には答えず、端的に要求だけをしてきた。

 しかしその表情は真剣だったので、俺は大人しく従うことにする。

 

「いいけど。……ファイア」

 

 俺の杖の先に、掌サイズの炎が灯る。

 炎はしばらくその場で燃えた後、ふっつりと消えた。

 

「これでいいか?」

 

 エミリーを見ると、口元に手を当て何かを考えている様子だ。

 

「もう一度使ってみて」

 

 言われるがまま、詠唱する。

 

「ファイア」

 

 先程と同様に火が灯り、やがて消えた。

 

「……どうしたんだ? 何かおかしいか?」

 

 と、言ったそばから、俺は気づいた。

 ……そういえば、俺の魔術について、重要なことをエミリーに伝えていなかった。

 

 エミリーは同じポーズでしばらく黙った後。

 こちらを見て言った。

 

「ハジメ、実技試験のときに近くであなたの魔術を見て感じたのだけど。

 あなたの魔術は奇妙だわ。

 ……一体あなた、どこから魔力を持ってきているの?」

 

 そう。

 そのことだ。

 すっかり忘れていた。

 

「すまん。もっと早く伝えておくべきだった。

 魔術を覚えた時からずっとなんだけどな。

 俺は周囲の魔力を使用せずに魔術を発動してるみたいなんだ。

 理由はわからないけど、魔力を取り込もうとしても、俺の身体には入ってこないんだよ。

 あと、俺の魔術にはもう1つおかしな点がある。

 実はいつも、威力を抑えて発動してて、抑えずにやると……ってまぁ、見てもらった方が早いか。

 ファイア」

 

 唱えた瞬間、俺の前に巨大な火の玉が出現した。

 エミリーが目を見開く。

 火の玉はしばらく燃えた後、それまでの魔術と同様に消えた。

 

「……ありえない」

 

 エミリーは呆然としている。

 

「ありえないわ。

 魔術の原理の根本が破綻してる。

 ……どういうことなの?」

 

 エミリーは早口でまくしたてた。

 

「間違いなく、周囲の魔力は消費されてない。

 なのに術式は正しく、でも異常な規模で実行されてる。

 何か魔力以外のものを消費しているのかしら?

 いやそれで術式が作動するのはおかしいし。どういうこと?

 ………ちょっと、他の魔術も見せてくれる?」

 

 俺の魔術を見て、エミリーが焦っている。

 こんなエミリーは初めて見た。

 魔術の分野では、常に余裕綽々だったからな。

 

「わかった。……アイス」

 

 バカでかい氷の塊が、俺の前に出現した。

 

 

 

 その後も10回以上魔術を唱え、気づけば午後の授業が始まる時間になっていた。

 

「……分からないわ」

 

 エミリーは悔しそうに頭を振った。

 

「ハジメの魔術は、根本がおかしい。

 術式は同じだから、やってることは魔術で間違いはないはず。

 でも、大前提である、魔力を消費するという部分が、完全に欠落してる。

 魔力の保存則に真っ向から対立しているし、それだとハジメは無から有を作り出してることになる。

 世界の理に反しているわ」

「何か、原因とか分かったりするか?」

「……正直、お手上げね」

 

 そうか。

 エミリーに分からないなら、誰にも分からないだろう。

 俺が異世界から来たことが、多分何か関係してるんだろうが……。

 

「ちなみに、魔術協会の研究者だかなんだかに見せて、何か分かると思うか?」

「可能性は低いでしょうね。

 0ではないと思うけど。

 ただ、ハジメのそれは、これまでに魔術師が作り上げてきた理論を、全て覆しかねないほどの異常事態よ。

 学壇には相当な衝撃が走るでしょうね。

 そのせいで、魔術の実験に協力させられたりするかも。

 そうなると、結構な時間を取られるでしょうね。

 断ったとしても、対応は面倒よ。

 薄い可能性とその労力を天秤にかけて、ハジメがどちらを選ぶか、ってところかしら」

 

 まぁ、そうなるよな。

 俺がこの現象を今まで黙ってたのも、それが懸念にあったからだ。

 ……当たり前になって忘れてたというのもあるが。

 

 よくフィクションの世界では、そういう稀有な人間は実験動物扱いされて、人権をなくした生活を強いられたりしている。

 もちろんそれは作り話の世界だが、あり得ないとも限らない。

 おまけにそれに協力しても成果があるとは限らないのだ。

 むしろエミリーが言うには、可能性は低いという。

 

 俺が知りたいのは、俺がこちらの世界にやってきた理由であって、俺の魔術がヘンテコな理由ではない。

 おまけみたいなことに時間をかけて、目的達成が遅くなるのは避けたい。

 

 ……よし。

 このことは協会には黙っておくことに決めた。

 とにかく転移魔術に集中だ。

 

「ありがとうエミリー。

 かなり参考になった。

 やっぱり協会には頼まないことにするよ」

「……そう。いいんじゃない」

 

 なんだか授業を受けるのが面倒くさくなってきた。

 今日はサボりだ。

 試験も終わったことだしな。

 

 ……そういえば、進級祝いとかしてもいいんじゃないだろうか。

 久しぶりに酒を飲みたい気がしてきた。

 

「エミリー、学校が休みになる前に、飲まないか?

 進級祝いと、お前の最優秀賞受賞記念も兼ねて。

 今まで世話になった分、おごるからさ」

 

エミリーは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 

「……え?

 それはもしかして、デートの誘いかしら。

 ……ま、まぁ、ハジメが行きたいなら、行ってあげてもいいけど?

 つまり、ハジメは私に、気があるということね?」

「いや違うよ。普通に飲もうって話。

 ……確かに、2人きりだとアレか。

 そうだな、じゃあクリスも誘おう。

 こないだ言ってた、俺の冒険者仲間。

 それならいいだろ?」

 

 まだアバロンにいたら、ユリヤンも誘おう。

 あいつの壮行会も兼ねてしまえ。

 知り合いと大人数で飲むなんて、初めてだ。

 楽しみになってきた。

 

「……あっ、そう。

 いいんじゃないの」

 

 エミリーがそっぽむいた。

 声も微妙に不機嫌そうだ。

 なんだ突然。

 

「飲み会嫌か?」

「嫌じゃないわよ!

 後で時間と場所を教えなさい!

 それじゃ私は授業に出るから! じゃあね!」

 

 ツカツカと歩いて行ってしまった。

 何だあいつ。

 ……まぁいいか。

 

 まずはユリヤンに都合を聞いて、次がクリスだな。

 こういうのは、忙しそうな方からあたるのが鉄則だ。

 

 予定を合わせて、店を予約するとしよう。

 

 


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