異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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飲み会①

 次の日、学校をサボって王城を訪ねてみることにした。

 ユリヤンのやつはまだいるだろうか。

 

「すみません、ユリヤン殿下にお会いしたいんですが」

 

 門番に尋ねる。

 

「タナカ様ですね。どうぞこちらへ」

 

 うやうやしく案内してくれた。

 どうやら顔を覚えてもらえたらしい。

 

 例によってかなり歩いた後。

 ユリヤンの部屋へ到着した。

 

「殿下。ハジメ=タナカ様が参られました」

「入れ」

 

 中から声がして、俺は部屋の中へと案内された。

 

 ユリヤンはソファでくつろぎながら、本を読んでいた。

 服もガウンのようなゆったりとしたもので、パジャマのように見える。

 もしかして、朝からこの部屋を出てないんじゃないだろうか。

 奥に見える扉が寝室につながっているのだろうか?

 とにかく、なんだかヒマそうな感じだ。

 

「ハジメ、久しいな」

 

 ユリヤンが言う。

 テーブルにはワインっぽい酒が置いてあり、ユリヤンの手にはグラスがある。

 ユリヤンはそれを口元へと持っていき、ゴクリと飲んだ。

 

「……ヒマそうだな」

 

 素直な感想が口から出てきてしまった。

 

 ユリヤンはハハッと笑う。

 

「そうなんだよ。けっこう前にこっちでやる仕事は全て片付いてな。

 毎日1人で飲んだくれる日々だ。

 最初は兄や妹が付き合ってくれてたんだが。

 やつらも忙しくてな、なかなか相手をしてくれなくなっちまった。

 使用人達を誘うわけにもいかないしな」

 

 ユリヤンはまたグラスを煽り、空になったグラスに酒を注ぎ足した。

 

「まぁ、たまにはこんな過ごし方も悪くはないが、長く続くとやっぱりヒマでな。

 予定を早めようかと思ってた矢先に、お前が訪ねてきたってとこだ。

 ……今日はどうしたんだ?」

「まぁ、前回と同じだよ」

「お?

 ってことは、飲みの誘いか?」

 

 ユリヤンが身を乗り出した。

 

「ああ。

 えーとまず、お前の推薦状のおかげで無事に魔術学校に入れてな。助かったよ。

 それで進級試験に合格したから、祝いに飲もうと思って。

 せっかくなら大人数の方が楽しいから、お前もどうかと思ってな」

 

 ユリヤンは酔ってるからか、愉快そうだ。

 揶揄するように言った。

 

「じゃあ、俺はついでか。

 あと数日でアバロンを離れるこのタイミングでお前が来たから、てっきり壮行会でもやってくれるもんだと思ったのになぁ」

「いや、すまん。

 ただ、それも兼ねようと思ってはいたんだ。

 思いついた順序が後だっただけで」

「……まぁ本当は、飲めるならなんでもいいけどな。

 俺はいつでもヒマだから、時間と場所が決まったら門番にでも伝えてくれ」

「わかった。そうするよ」

 

 よし。ユリヤンはオーケー。

 あとはクリスだな。

 

 しばらく雑談をして、ユリヤンと別れた。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

「――飲み会?」

 

 ユリヤンと別れた後、クリスの家を訪ねて事情を話した。

 

「ああ、エミリーっていう同級生と、ユリヤンっていう俺の友人が来るんだけど。

 せっかくだからクリスもどうかなと思って」

 

 クリスはちょっと考えた後、答えた。

 

「私が行って迷惑でなければ、ぜひ参加させてもらいたい。

 大人数で飲むなんて、生まれて初めてだ。

 ハジメの友人なら悪い人はいないだろう。

 ……楽しみだ」

 

 よし。全員オーケー。

 

 準備は整った。

 あとは店を予約するだけだ。

 

 

 ―――――

 

 

 当日。

 

 俺は、かなり早めに店に着いた。

 さすがに俺以外のやつが先に顔を合わせたら気まずいだろうし。

 

 店はそれほど高級ではない、大衆居酒屋的な感じの店にした。

 大人数で飲むなら、こういうところの方が気兼ねなく騒げるだろう。

 騒がしくなるのかは分からないが。

 あの3人がどんな会話をするのか、想像もつかない。

 ……でも、なんだか楽しみだ。

 

 

 最初に来たのはエミリーだった。

 

「一応、私も主催の1人だしね。

 早めに来ることにしたわ」

 

 俺の対面に座りながら言った。

 彼女は今日もゴスロリ仕様だ。

 居酒屋で見ると、違和感が半端ないな。

 

「そういえばエミリー、酒飲めるのか?」

「当たり前でしょう。

 貴族は12歳でお酒を飲むようになるのよ。

 外交や舞踏会に備えてね」

「へぇ」

 

 その後少しの間、いらぬ貴族トリビアを教えられた。

 

 

 待つこと20分ほど。

 クリスが到着した。

 

「よぉ、クリス」

「ハジメ、今日は宜しく頼む」

「えーと、紹介しよう。

 こちらがエミリー。

 俺の学校の同級生だ。

 エミリー、この娘がこないだ話してたクリスだ」

 

 エミリーが立ち上がり、優雅に礼をした。

 

「エミリー=フォン=グレンデルです。

 宜しくお願いしますね」

 

 体中に鳥肌が立つ。

 こいつ、猫被ってやがる。

 

「ああ。クリスティーナ=ローレンツだ。

 宜しく……って、グレンデル?

 ……まさか、グレンデル家のご令嬢ですか?」

「ええ。

 南方のグレンデル領領主、ガドリーノ=フォン=グレンデルは私の父です」

 

 その言葉を聞いて、クリスが跪いた。

 

 えっ?

 急にどうしたの?

 

「そうとは知らず、大変失礼いたしました!

 先程の無礼な振舞い、どうかお許し下さい!」

 

 下を向いたままクリスが叫び、場がシンとなる。

 

 そういえばクリスって騎士養成学校とか出てたっけ。

 騎士といえば、貴族を敬うものだよな。

 ……しまった。

 事前にエミリーの素性を話しとくべきだった。

 

「クリスティーナさん、どうぞお顔を上げて下さい。

 お互いの身分など、この場には関係ありません。

 魔術学院の一介の生徒である我々が招き、貴方が来てくださったのですから。

 どうぞハジメ(このバカ)と同じように接してください」

 

 ハジメと書いてこのバカと発音しやがった。

 器用な。

 

「そうだ、クリス。

 気を使う必要ないぞ。

 今夜のこいつはエミリー=フォン=グレンデルじゃない。

 ただのエミリーだ。

 ちょっと優秀だけど、すごく口が悪い、ただの魔術学校の3年生。

 ……ダメか?」

「……分かりました。

 二人がそう言うなら」

 

 クリスは戸惑いつつも了承してくれた。

 俺達は生徒同士。

 上下関係などないのだ。

 エミリーは先生でもあるけど、そこは置いとく。

 

 胸をなでおろすと、視界の端にエミリーが映った。

 

「ただの、エミリー……」

 

 エミリーは俺の言葉を反芻するように呟いていた。

 何か、思うところでもあるのだろうか。

 

 

 

 そして、最後の1人がやってきた。

 

「よお、ハジメ。来たぞ」

「はるばるすまんな、ユリヤン」

 

 鷹揚に手を上げてみる。

 

「こちらのお嬢様方は?」

「ああ、紹介するよ。

 同級生のエミリーと、冒険者仲間のクリスだ。

 2人とも、俺の友人のユリヤン。

 変な目で見られたら、噛みついて構わない」

「失敬な。お前の友人に手を出したりはせん」

「冗談だよ」

 

 ユリヤンが笑いながら、残った席に着こうとした時。

 

「……ユリヤン?」

 

 エミリーが呟いた。

 

「あの、まさかとは思いますけど、ユリヤン=ウォード=アルバーナ殿下では、ないですよね……?」

 

 めちゃくちゃキョドッている。

 エミリーもこんな声をだすのか。

 

 ユリヤンが俺に視線を送ってくる。

 どうする? という感じだ。

 

 さっきと同じ問題が発生してしまった。

 うーむ。

 俺としては、ユリヤンの素性を隠すのは避けたい。

 せっかく知り合えた友人たちだ。

 隠し事はなしがいい。

 

 ちょうどさっきエミリーも、自分で言ってたしな。

 この場に身分など関係ないって。

 発言には責任を持ってもらおう。

 

 視線に頷きで答えた。

 

 ユリヤンが言う。

 

「初めまして。エミリー、クリス。

 アルバーナ第8王子、ユリヤン=ウォード=アルバーナだ。

 宜しく頼む」

 

「「………ええぇぇぇ!?」」

 


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