異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。 作:nyaooooooon
次の日、学校をサボって王城を訪ねてみることにした。
ユリヤンのやつはまだいるだろうか。
「すみません、ユリヤン殿下にお会いしたいんですが」
門番に尋ねる。
「タナカ様ですね。どうぞこちらへ」
うやうやしく案内してくれた。
どうやら顔を覚えてもらえたらしい。
例によってかなり歩いた後。
ユリヤンの部屋へ到着した。
「殿下。ハジメ=タナカ様が参られました」
「入れ」
中から声がして、俺は部屋の中へと案内された。
ユリヤンはソファでくつろぎながら、本を読んでいた。
服もガウンのようなゆったりとしたもので、パジャマのように見える。
もしかして、朝からこの部屋を出てないんじゃないだろうか。
奥に見える扉が寝室につながっているのだろうか?
とにかく、なんだかヒマそうな感じだ。
「ハジメ、久しいな」
ユリヤンが言う。
テーブルにはワインっぽい酒が置いてあり、ユリヤンの手にはグラスがある。
ユリヤンはそれを口元へと持っていき、ゴクリと飲んだ。
「……ヒマそうだな」
素直な感想が口から出てきてしまった。
ユリヤンはハハッと笑う。
「そうなんだよ。けっこう前にこっちでやる仕事は全て片付いてな。
毎日1人で飲んだくれる日々だ。
最初は兄や妹が付き合ってくれてたんだが。
やつらも忙しくてな、なかなか相手をしてくれなくなっちまった。
使用人達を誘うわけにもいかないしな」
ユリヤンはまたグラスを煽り、空になったグラスに酒を注ぎ足した。
「まぁ、たまにはこんな過ごし方も悪くはないが、長く続くとやっぱりヒマでな。
予定を早めようかと思ってた矢先に、お前が訪ねてきたってとこだ。
……今日はどうしたんだ?」
「まぁ、前回と同じだよ」
「お?
ってことは、飲みの誘いか?」
ユリヤンが身を乗り出した。
「ああ。
えーとまず、お前の推薦状のおかげで無事に魔術学校に入れてな。助かったよ。
それで進級試験に合格したから、祝いに飲もうと思って。
せっかくなら大人数の方が楽しいから、お前もどうかと思ってな」
ユリヤンは酔ってるからか、愉快そうだ。
揶揄するように言った。
「じゃあ、俺はついでか。
あと数日でアバロンを離れるこのタイミングでお前が来たから、てっきり壮行会でもやってくれるもんだと思ったのになぁ」
「いや、すまん。
ただ、それも兼ねようと思ってはいたんだ。
思いついた順序が後だっただけで」
「……まぁ本当は、飲めるならなんでもいいけどな。
俺はいつでもヒマだから、時間と場所が決まったら門番にでも伝えてくれ」
「わかった。そうするよ」
よし。ユリヤンはオーケー。
あとはクリスだな。
しばらく雑談をして、ユリヤンと別れた。
―――――
「――飲み会?」
ユリヤンと別れた後、クリスの家を訪ねて事情を話した。
「ああ、エミリーっていう同級生と、ユリヤンっていう俺の友人が来るんだけど。
せっかくだからクリスもどうかなと思って」
クリスはちょっと考えた後、答えた。
「私が行って迷惑でなければ、ぜひ参加させてもらいたい。
大人数で飲むなんて、生まれて初めてだ。
ハジメの友人なら悪い人はいないだろう。
……楽しみだ」
よし。全員オーケー。
準備は整った。
あとは店を予約するだけだ。
―――――
当日。
俺は、かなり早めに店に着いた。
さすがに俺以外のやつが先に顔を合わせたら気まずいだろうし。
店はそれほど高級ではない、大衆居酒屋的な感じの店にした。
大人数で飲むなら、こういうところの方が気兼ねなく騒げるだろう。
騒がしくなるのかは分からないが。
あの3人がどんな会話をするのか、想像もつかない。
……でも、なんだか楽しみだ。
最初に来たのはエミリーだった。
「一応、私も主催の1人だしね。
早めに来ることにしたわ」
俺の対面に座りながら言った。
彼女は今日もゴスロリ仕様だ。
居酒屋で見ると、違和感が半端ないな。
「そういえばエミリー、酒飲めるのか?」
「当たり前でしょう。
貴族は12歳でお酒を飲むようになるのよ。
外交や舞踏会に備えてね」
「へぇ」
その後少しの間、いらぬ貴族トリビアを教えられた。
待つこと20分ほど。
クリスが到着した。
「よぉ、クリス」
「ハジメ、今日は宜しく頼む」
「えーと、紹介しよう。
こちらがエミリー。
俺の学校の同級生だ。
エミリー、この娘がこないだ話してたクリスだ」
エミリーが立ち上がり、優雅に礼をした。
「エミリー=フォン=グレンデルです。
宜しくお願いしますね」
体中に鳥肌が立つ。
こいつ、猫被ってやがる。
「ああ。クリスティーナ=ローレンツだ。
宜しく……って、グレンデル?
……まさか、グレンデル家のご令嬢ですか?」
「ええ。
南方のグレンデル領領主、ガドリーノ=フォン=グレンデルは私の父です」
その言葉を聞いて、クリスが跪いた。
えっ?
急にどうしたの?
「そうとは知らず、大変失礼いたしました!
先程の無礼な振舞い、どうかお許し下さい!」
下を向いたままクリスが叫び、場がシンとなる。
そういえばクリスって騎士養成学校とか出てたっけ。
騎士といえば、貴族を敬うものだよな。
……しまった。
事前にエミリーの素性を話しとくべきだった。
「クリスティーナさん、どうぞお顔を上げて下さい。
お互いの身分など、この場には関係ありません。
魔術学院の一介の生徒である我々が招き、貴方が来てくださったのですから。
どうぞ
ハジメと書いてこのバカと発音しやがった。
器用な。
「そうだ、クリス。
気を使う必要ないぞ。
今夜のこいつはエミリー=フォン=グレンデルじゃない。
ただのエミリーだ。
ちょっと優秀だけど、すごく口が悪い、ただの魔術学校の3年生。
……ダメか?」
「……分かりました。
二人がそう言うなら」
クリスは戸惑いつつも了承してくれた。
俺達は生徒同士。
上下関係などないのだ。
エミリーは先生でもあるけど、そこは置いとく。
胸をなでおろすと、視界の端にエミリーが映った。
「ただの、エミリー……」
エミリーは俺の言葉を反芻するように呟いていた。
何か、思うところでもあるのだろうか。
そして、最後の1人がやってきた。
「よお、ハジメ。来たぞ」
「はるばるすまんな、ユリヤン」
鷹揚に手を上げてみる。
「こちらのお嬢様方は?」
「ああ、紹介するよ。
同級生のエミリーと、冒険者仲間のクリスだ。
2人とも、俺の友人のユリヤン。
変な目で見られたら、噛みついて構わない」
「失敬な。お前の友人に手を出したりはせん」
「冗談だよ」
ユリヤンが笑いながら、残った席に着こうとした時。
「……ユリヤン?」
エミリーが呟いた。
「あの、まさかとは思いますけど、ユリヤン=ウォード=アルバーナ殿下では、ないですよね……?」
めちゃくちゃキョドッている。
エミリーもこんな声をだすのか。
ユリヤンが俺に視線を送ってくる。
どうする? という感じだ。
さっきと同じ問題が発生してしまった。
うーむ。
俺としては、ユリヤンの素性を隠すのは避けたい。
せっかく知り合えた友人たちだ。
隠し事はなしがいい。
ちょうどさっきエミリーも、自分で言ってたしな。
この場に身分など関係ないって。
発言には責任を持ってもらおう。
視線に頷きで答えた。
ユリヤンが言う。
「初めまして。エミリー、クリス。
アルバーナ第8王子、ユリヤン=ウォード=アルバーナだ。
宜しく頼む」
「「………ええぇぇぇ!?」」