異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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飲み会②

「……じゃあユリヤン様は、アバロンへの道中でハジメと知り合ったのですか」

「ああ。

 あの時のコイツったら見ものでな。

 町娘2人に話しかけられて、何にも答えられずに固まってやがった。

 俺が間に入らなきゃまともに会話もできないし、シャイな田舎者丸出しって感じだったぜ」

「ハジメにそんな時が。それは見てみたかったな」

「その方がまだ可愛げがあるわね。

 今では余計な口を叩いてばかりの、残念な人になってしまったわ」

「待て待て、そもそも馬車でお前が話しかけてこなければ、そんなことにはならずに済んだんだよ

 それとエミリー。あっさり人を残念認定するのはやめてもらえる?

 傷つくからね?」

 

 ユリヤンが正体をバラしてしばらく場が混乱していたが、少しずつ収束に向かいつつある。

 

 エミリーとクリスは、ユリヤンにタメ口はきけなかった。

 試しに呼び捨てにさせてみたら、罪悪感で潰されそうな表情になったので、さすがに無理強いはしなかった。

 平気で呼び捨てにしてる俺は、どうやらとても非常識な人間らしい。

 まぁ、こちらの世界の常識には疎い自信がある。

 本当はダメなんだろうが、まぁユリヤンが許してるのでオーケーだろう。

 

 ただ、クリスはエミリーに対しては、親しげに話している。

 歳も下だし、グレンデル領の領民という訳でもないので、抵抗が少なかっただろうか。

 エミリーにとっても、それは新鮮だったようだ。

 いつものツンケンした態度はどこへやら、嬉しそうにクリスと会話している。

 しかし俺に対しては相変わらず、言葉の端々に針が仕込まれている。

 理不尽な。

 

「ユリヤン様は、もうすぐ前線へ行ってしまわれるのですね」

 

 クリスが言った。

 

「ああ。王族の務めってやつだな。貧乏くじとも言うが」

「ご武運をお祈りします」

「ありがとう。

 ただ、こちらから攻める流れにならなければ、そんなに心配はいらないんだけどな」

「魔族は、近年は全く攻めてきていないという話でしたね」

「ああ。だから俺の仕事は、面倒な会議に参加するだけだ。

 あとの時間は適当に、女でも口説いて過ごすさ」

 

 ユリヤンは持っていたグラスの酒を飲み干し、おかわりを頼んだ。

 

 その隙に、エミリーが話を挟む。

 

「クリスは、どうやってハジメと知り合ったの?

 確かハジメは、魔物に襲われてたところを救われたとか言ってたけど」

「ああ。

 森で狩りをしていたら、たまたまグレイウルフに襲われているハジメを見つけてな。

 腹を食い破られてて、ギリギリの状況だった。

 間一髪で、襲ってたやつを倒せたから良かったが」

 

 クリスは酔っ払ったのか、顔がほんのりと赤い。

 

「あの時は、ホントに助かったよ。

 ただ実は俺、最初はクリスのことを疑ってたんだよな。

 こんな聖人みたいな人間がいるわけない、って思ってさ。

 でも初めてクリスの目を見たとき、瞳があんまり綺麗だったもんだから。

 疑う気持ちが失せた」

「綺麗? そ、そうか?

 自分では分からないが」

 

 クリスが少しどぎまぎしている。

 

「ホントに綺麗な瞳の色よね。宝石みたい」

「確かにな。美しい」

「――あ、あんまり見ないでください」

 

 エミリーとユリヤンにも褒められ、クリスは照れて黙ってしまった。

 エミリーが話を繋げる。

 

「……そんなに危なかったの。

 やっぱり冒険者って、危険がつきものなのね。

 助かって良かったわね、ハジメ」

「ホントだな。

 あの時は死ぬかと思った」

「……たしか、死ぬ目に遭うと性欲が強まるって聞いたことがあるな。

 ハジメ、どうだった?

 現れたクリスの美貌に、興奮したんじゃないか?」

 

 なっ。

 

「……ば、馬鹿かお前は。

 た、助けられておいてそんなもん、するわけないだろ」

 

 思いきりどもってしまった。

 

「……へぇー」

 

 エミリーが乾いた声と共に、冷たい視線を送ってきた。

 くそ。なんか文句あんのか。

 

 いやな空気の中。

 クリスだけは俺の言葉を信じてくれたのか、事もなげに話し始めた。

 

「でもその後ハジメも、私の事情に付き合ってくれたんだ。

 今度はハジメが命懸けで私を助けてくれてな。

 ハジメの情の深さに救われた。

 もしもハジメがいなかったら、こんなに晴れやかな気持ちには一生なれなかったろうと思う」

 

 クリスはグラスを口元へ運び、ひと口飲んだ。

 

「はぁー……ハジメがそんなことをね。

 会わないうちにハジメも色々やってんだな」

 

 ユリヤンが感心したように呟いた。

 

「あれから、ハジメといると気分が高揚するんだ。

 些細なことでもワクワクする。

 ただの作業だった狩りも、ハジメと一緒だと楽しくてな。

 友情とは、素晴らしいものだな」

 

 上気した顔で話すクリス。

 まぁ、長いことぼっちだったもんな、クリスは。

 

「へぇー、そうか。

 よかったなぁ、ハジメ」

 

 ユリヤンが手に持ったグラスを振りながら言った。

 何やら見透かしたような表情で、見てると少しイラッとくる。

 なんだろうかこの感情は。

 

「エミリーは、ハジメとはどうやって知り合ったんだ?」

 

 今度はクリスが質問した。

 

「私は、同級生だったから別に。

 いつも通ってた教室に、ハジメが転入してきたのよ」

 

 エミリーが答える。

 澄ました声だが、目が少し泳いでいた。

 

「嘘つけコラ。

 お前が適当に放った中級魔術が、俺の身体に穴を開けそうになったのがきっかけだろーが」

「うるさいわね。

 適当じゃないわ。

 ちゃんと放った中級魔術よ」

「どっちでも変わらんわ」

 

 エミリーは憮然とした表情だ。

 よくそんな顔ができるな。

 

 ……いや。

 とはいえ、エミリーには世話になった。

 この会があるのも、エミリーのおかげともいえる。

 一応フォローをいれとくか。

 

「まぁ、その詫びに勉強を教えてもらって、そのおかげで今日、進級祝いなんてできてるんだけどな」

「そうよ。感謝しなさい。

 ハジメのスライム脳じゃ、半年で進級なんてできなかったんだから」

「スライム脳ってなんやねん」

 

 そのとき、ハハッと笑い声が響いた。

 ユリヤンだ。

 

「仲いいんだな、2人とも」

 

 ユリヤンは愉快そうに笑っている。

 それを見たエミリーの顔が真っ赤になった。

 

「ち、違います!

 ただ長く一緒に勉強してるだけです!」

 

 その様子を見て、ユリヤンはさらにおかしそうに笑う。

 

「そうか。

 まぁ、俺はなんでもいいんだが。

 くくくっ。

 ハジメは大変だな」

 

 エミリーは、大変なのは私の方です、と言いたげな顔で俺を睨んでいる。

 俺を睨んでもしょうがあるまいて。

 

「ハジメ、なかなか楽しそうで、うらやましいぞ」

「代わってやってもいいけど?」

「遠慮しとく。恨まれそうだからな」

「恨まれる? 誰に?」

 

 ユリヤンは答えず、ただ酒を飲んでいた。

 

 

 その後も宴会は続いた。

 

 クリスはエミリーと、俺に次いで2人目となる友情を結び、楽しそうに狩りの話をしていた。

 一方の性格がどうであれ、美女2人が仲睦まじく話している様は、目の保養になるな。

 

 ユリヤンも楽しそうだ。

 何を考えてるかはよく分からないが、終始笑っていた。

 こいつの壮行会でもあるからな。

 楽しんでくれているようでよかった。

 

 そして、俺も楽しかった。

 こんなに楽しい酒は、生まれて初めてだ。

 

 ……こいつらとパーティーを組んで冒険者でもしたら最高だろうな。

 ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。

 

 魔術師2人と、剣士2人。

 クリスは捌くのが得意だし、ユリヤンは攻撃がうまそうだ。

 俺が大雑把に魔術を使って、足りないところをエミリーに補ってもらう。

 結構いいパーティーになるんじゃないだろうか。

 

 エミリーに毒を吐かれながら、クリスに癒され、ユリヤンと馬鹿な話で盛り上がり、何かを目指して旅をする。

 きっと楽しいだろう。

 

 ……なんてな。

 まぁ、無理だと分かっている。

 ユリヤンは前線に行ってしまうし、エミリーは実家に戻るのだろう。

 クリスもいつまでもこのままという訳にはいくまい。

 そのうち騎士か何かになって、冒険者は卒業してしまう。

 俺だって、図書館で何も得られなければ、また手がかりを探しに別の国へと旅に出るかもしれない。

 

 こんな空想ができるのも、今だけだ。

 だが今だけは、そんな空想に浸ることが、楽しかった。

 

 

 

 クリスが酔い潰れて寝てしまい、エミリーが酔っ払ってクリスの頭をべしべしと叩き、ユリヤンがそれを止め、それでもクリスが起きなかったところで。

 会はお開きにした。

 

 エミリー、クリスと別れた後、ユリヤンと少し話をした。

 

「生きてりゃまた会えるだろ。またな。ハジメ」

 

 最後にそう言って、ユリヤンは去っていった。

 

 ヤツと言葉を交わすのはこれが最後かもしれない。

 そう思うと無性に寂しくなって、去りゆくユリヤンの背中をずっと見ていた。

 やがて、ユリヤンの姿は見えなくなった。

 

 寂寥感が押し寄せてくる。

 だが、そんな感情に捉われていてもしょうがない。

 

 俺には俺の目的がある。

 

 また明日から、がんばって生きていこう。


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