異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。 作:nyaooooooon
皆で騒いだあの飲み会から約3ヶ月。
基本的には、変わらない日々を送っている。
平日は勉強、休日は狩りの毎日だ。
しかしいくつかの変化があった。
1つ目は、たまにエミリーが狩りに参加するようになったこと。
エミリーはクリスをとても好きになったようで、勉強のときによく話題にあがるようになった。
それならばと俺が狩りに誘ってみたところ、二つ返事で参加を希望したのだ。
しかしエミリーは魔術がうまいが、冒険者としての経験はない。
高いプライドが危険を招きやしないかと注意していた。
が、杞憂に終わった。
彼女は、自分の専門外の分野については謙虚なのだ。
知らないことを知ったふりもしないし、見栄を張って余計な行動もしたりもしない。
俺の行き届かない所を堅実に補ってくれて、必要な時には大魔術まで使用可能。
ハイスペックな彼女のおかげで、俺達はC級を卒業し、B級の冒険者パーティーとなった。
俺を罵倒してくることだけが、タマに傷だが。
はからずも、飲み会の時の俺の空想が一部叶った形となった。
狩りの中でエミリーとクリスが話しているのを見ると、つい頬が緩んでしまう。
形は違えどぼっち同士、いい友達に巡り合えて良かった。
自分のことは棚に上げて、そんなことを考えていた。
2つ目に、クリスの実家にお呼ばれしたこと。
クリスの伯母さんはとてもいい人で、あれこれと世話を焼きながらもてなしてくれた。
クリスにキマイラを倒したことを聞いて、伯母さんはすぐに俺を招こうとしていたらしい。
しかし俺が学校に入学して間もなかったため、クリスが気を使って遠慮してくれていたのだという。
夕食をご馳走になりながら、クリスの伯母夫妻、従兄弟たちと談笑した。
皆、本当にいい人達だった。
最後に丁寧に礼を言われ、クリスを宜しくお願いします、と頭を下げられた。
これは、親族公認の仲ということか。
クリスも、これからも宜しく頼む、と言ってきた。
つまり俺は、ただの友人から、家族公認の友人になった。
そして3つ目。
これがもっとも重要な部分だ。
これまで中級魔術の習得を目指してがんばってきたが、なんだかもうすぐできそうな気がするのだ。
4年生になって授業がガラリと変わり、大部分がサンドラ村でやってたようなイメージの訓練になった。
とはいえ果実での訓練などはせず、最初から魔術のイメージ作りだ。
実技の時間が増え、発動しても危なくないように、広場に移動して授業をしている。
先生が発動して見せるのを参考に、自分達でもやってみるというものだ。
先生は生徒の様子を見ながら、足りないところを指導してくれる。
無詠唱で初級魔術を行えるようになってから、なんだか頭の中に魔力が通る道筋のようなものが認識できるようになった。
どうやらこれが術式らしい。
どこがどうなって魔術が発動しているのか、なんとなくわかる。
それをより強いものに変化させることで、中級魔術が発動できるのだという。
授業中、クラスメイトが詠唱しているが、今のところできた者はいない。
エミリーはできるはずだが、彼女は授業中に本を読んでいて、一切魔術を使用する気がないようだ。
それはまるで、体育の時間に読書をするかようなボイコットっぷりだ。
しかし先生から注意されることもない。
授業の邪魔さえしなければ、どうぞご自由に、という感じだ。
その代わり、習得できなくても責任は持ちません、というスタンスらしい。
まぁ、エミリーが暇そうにしてるから好都合だ。
「……なぁ、何かアドバイスないか?」
木陰で本を読むエミリーに尋ねる。
「あなたのようなカメムシは、とにかく数をこなすしかないわね」
俺の比喩が格下げを重ね、ついに昆虫にまで成り下がってしまった。
ミミズとカメムシのどちらが高級なのかは、議論の余地がありそうだが。
「まぁ、そうだよな。
でも、あとちょっとな気がするんだけどなぁ」
エミリーはパタンと本を閉じて、こちらを見た。
「……あなたの場合、起こる現象の規模が大きいでしょうから、それを想定してイメージした方がいいかもしれないわね。
初級魔術なら、正しく術式が組めればイメージは後から書き変わるかもしれないけど、中級魔術はイメージの精度が重要だから」
おお、なんかまともなアドバイスが。
「まぁ、せいぜい頑張ることね。
私もカメムシの頑張りを見る気持ちで、応援してるから」
そう言うとエミリーは、また読書に戻った。
彼女がまっとうなことを言った後は、必ず罵倒が入る。
もしかしたら照れ隠しだったりするのか?
……まぁいいか。
そうか、イメージね。
確かに先生のお手本のままでイメージしていた。
俺の魔術は規模が大きくなりそうだから、それを想定して考えるべきか。
どんなもんだろう。
俺の中級魔術。
初級魔術のときは、10倍くらいの規模だった。
中級でも同じだとすると、かなりの大きさになる。
先生のお手本でも、4〜5メートルくらいの火柱ができてたからな。
まぁ、さすがに周りに被害が出るほどではないだろうが。
よし、せっかくだから、この広場の円を覆い尽くすくらいの魔術をイメージしてみるか。
どうせ発動しやしないだろう。
集中。
イメージ。
無詠唱で学んだ術式の書き換え。
正しく中級魔術を発動できるように、術式を変化させていく。
変化させた術式を維持して、魔力を通す。
いくぞ。
詠唱。
「フレイムピラー」
――その瞬間。
目の前が真っ赤に染まった。
広場の中心に、巨大な火柱が出現していた。
圧倒的な熱量。
高層ビルでも焼き尽くせそうな大きさ。
炎は円の中にギリギリ収まっているが、凄まじい熱風と熱気が押し寄せてくる。
視界は炎で覆われ、奥の景色は全く見えなくなった。
叫び声があちこちから聞こえる。
生徒達は炎から散り散りに逃げ、中には泣いてる者もいる。
阿鼻叫喚。
まるで地獄からもってきたかのような光景だ。
この世のものとは思えない。
やばい。
またやってしまったのか。
今度は確信がある。
これは俺のせいだ。
「雪よ。空より舞い降り全てを凍てつかせよ。
ブリザード!」
エミリーの声がした。
彼女にしては珍しく、少し焦ったような声だ。
円内に、雪とともに強烈な冷気が降りそそぐ。
それらは炎と打ち消し合い、大量の水蒸気を生じた。
火柱の先端では、小規模な爆発のようなものが起こっている。
逃げ惑う生徒。
近くの生徒を遠ざける先生。
その様を俺は、呆然と見ていた。
これが、俺の魔術の結果か。
炎によって生じた上昇気流が冷やされたのか、雨が降ってきた。
雨は炎の勢いを弱めるのに、わずかに貢献しているようだ。
やがて少しずつ炎は小さくなり、事態は沈静化していった。
炎と雪が消えてから、先生は慌てて生徒を集め、点呼をした。
皆混乱しており集まるのに時間はかかったが、怪我人などはいないようだ。
全員いることを確認して、教室へと戻った。
移動中、話題は炎のことで持ちきりだった。
誰がやったの? とか、あれって上級魔術だよね? とかそんな声が聞こえてくる。
教室に集まった後。
クラスの全員が、先生に心当たりについて質問された。
俺とエミリーが犯人だということは、バレていないようだ。
授業を混乱させてしまったことは申し訳ないが、ここは黙秘させてもらうことにした。
逆に、もしかしたら自分かもしれない、という生徒が3人名乗り出た。
火柱の出現と同じタイミングで火魔術を使ったらしい。
その3人は職員室に呼ばれていった。
彼らに対しても申し訳なく思う。
だが、まぁ彼らが犯人にされることはあるまい。
とりあえず、俺が使ったときは皆魔術を詠唱していて、誰がやったのか分からなかったようだ。
またエミリーの時は混乱の最中だったため、逃げるのに必死でわからなかったらしい。
不幸中の幸いか。
午後の実技は中止になり、その日は解散となった。
別れの挨拶の後。
エミリーに視線を送ると、彼女は黙って図書館の方向を指さした。
……了解だ。