異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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今後の方針②

 長老に話を聞いてから、10日ほど。

 俺達はエルフの里でゆっくりと時を過ごした。

 

 長老から手がかりを得られなかった時はショックだったが、少しずつメンタルは落ち着いてきた。

 まぁ、もともと期待は薄かったわけだから、落ち込む方が筋が通っていないわけだが。

 とりあえず、ダメだったという事実に対して、受容することができた。

 

 とはいえ、今後の方針は何一つとして立っていない状態だ。

 やっぱり、諸国を巡る流浪の旅を行うしかないのだろうか。

 それをやるとなると、もはやあと何十年かかるか分からない。

 そして具体的な目標がない状況というのは、さすがに心にくるものがある。

 今までなら、アバロンに行くことだったり、C級魔術師になることだったり、エルフの里にたどり着くことだったり、目標というものを見つけられた。

 しかし今度という今度は、それを見失ってしまった。

 

 何をしたらいいのか。

 道筋が見えない。

 

 そんな時は、散歩をするのがいいという。

 歴史上の偉人はみんな、散歩を好んだらしい。

 それに倣って、俺も散歩を日課にすることにした。

 エルフの里の街並みを眺めながら歩くのは、割と楽しかった。

 

 特に、エルフの子どもを見るのが楽しい。

 男の子も女の子もかわいすぎて、いつまでも見ていられる。

 一度、不審者として通報されそうになったので、最近は少し控えているが。

 

 俺がそんな風にモラトリアムをぼんやり過ごしている間。

 他の二人はどうしていたのかというと。

 

 エミリーはカヤレツキのもとに足繁く通い、魔術を教わっていた。

 エルフの魔術はやはりすごいらしい。

 俺は見たことがないが。

 治癒魔術と結界魔術については、世界で最高の技術だという。

 夕食の時にエミリーが興奮しながら話すのを、俺とクリスは内心辟易しながら聞いている。

 いや、クリスがどう思ってるかは知らんけど。

 

 結界というものはすさまじく、この里が暖かいのも、結界に囲まれているおかげなのだそうだ。

 外からは森にしか見えない上に、正しい手順を踏まないと中へは侵入できないのだという。

 すごいもんだ。

 しかし俺には、それを一から学ぼうという気持ちはない。

 上級の4大元素魔術もできてないのに、新しいものに手を出してもいいことはないだろう。

 エミリーの魔術オタクっぷりには、頭が下がるばかりだ。

 

 クリスは何をしているかというと。

 エミリーとは逆に、エルフの子ども達に剣を教えている。

 日に日に習う人数は増えて、もはやちょっとした教室のような有り様だ。

 中には大人のエルフも数人混じって、皆でクリスの指導のもと、剣を振っている。

 

 ニートのような生活を謳歌している身からすると、彼女達の行動は身につまされる。

 

 そろそろ、俺も何か建設的なことをしなければならないだろうか。

 ……いや、しなくていいかな。

 うん、しなくていいな。

 ……次の一手を思いつくまでは、このモラトリアムを満喫していよう。

 

 

 ―――――

 

 

 そんな怠惰な日々を過ごしていたある日。

 カヤレツキが、数人のエルフを連れて訪問してきた。

 それぞれのエルフが大きな荷を持っていて、ドサドサと床にそれを降ろしていく。

 

「君達が来た翌日には回収してたんだけどさ、いろいろ立て込んでたから遅くなっちゃった。ごめんね」

 

 何のことやらと思ってそれらを見ると、俺達の持ってきた装備品だった。

 

 よく忘れずに回収してくれていたものだ。

 少なくとも俺は、すっかり忘れていた。

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 カヤレツキともそれなりに仲良くなった。

 敬語はいらないと言われたので、最近はタメ口だ。

 

「まぁハジメの装備は、もう使い物にならないと思うけどね。

 もしも嫌なことを思い出させちゃったらゴメンよ」

 

 そう言われて、俺のものらしき荷を見る。

 

「確かにこれは、もうダメだなぁ」

 

 包みの中には、腹の部分が砕かれた鎧、切断された杖や、真っ二つになったローブが出てきた。

 

「やられた時のこと、思い出しちゃった?」

 

 カヤレツキが少し申し訳なさそうに聞く。

 

「いや全然。普通に覚えてるしな。

 見ても特段、どうってことはないよ」

 

 素直な感想を述べると、カヤレツキは少しホッとした様子だった。

 

「エミリーの魔術の調子はどうだい?」

 

 気遣い半分、興味半分で話題を振ってみた。

 

「とても筋がいいよ。

 彼女は理解力がとても高いね。

 そして何より、魔術に対する真摯な姿勢が素晴らしい。

 あれならすぐに、基礎は会得しちゃうんじゃないかな」

 

 カヤレツキは楽しそうに言った。

 

 エミリーに魔術を教えるのか。

 あいつが生徒になるなんて、俺が教師なら考えたくもないな。

 ミスを指摘されて、すぐ罵倒を浴びせてきそうだ。

 魔術学院の記憶が思い出される。

 

「……エミリーに教える時は、あいつのことをカメムシって呼んでやってくれ」

 

 ふと、復讐心がわいた。

 

「何それ? どういうこと?」

「あいつは厳しく罵られながら勉強した方が、より早く魔術を習得できると信じているんだ」

「そうなの?」

「ああ、間違いない。保証する。

 それがあいつのためなんだ。

 だからそう呼んでやってくれ。

 もしくはミミズ、ネズミなんかでもいい」

 

 力説する俺に対して、しかしカヤレツキは半信半疑な様子だった。

 

「うーん。

 じゃあハジメがそう言ってたって前置きをしてから、やってみることにするよ」

 

 俺は発言を撤回した。

 

 

 ―――――

 

 

 カヤレツキ達が帰った後。

 ぼんやりと彼が持ってきてくれたものを眺めていた。

 

 杖とローブ。

 それらはどちらも、サンドラ村の家族がくれたものだ。

 この世界に来て初めて得た、大切な2人の家族。

 今頃何をしているだろうか。

 せっかくの贈り物をダメにしてしまって、怒るだろうか。

 

 ニーナの膨れた顔が浮かんだ。

 せっかくがんばって織ったのに、と怒っている。

 しかしその顔は、俺が出て行った16歳の時のニーナのままだ。

 今ではもっと大人になっているのだろうか。

 食いしん坊な性格は、どうせ変わっていないだろうが。

 

 シータも元気でやっているだろうか。

 彼女に貰った杖のおかげで、今日まで生きてこられた。

 真っ二つにされた時も、切断された杖の片方に魔力が集まったのを覚えている。

 あれがなかったら、失敗していたかもしれない。

 

 なんだか、無性に彼女達に会いたくなった。

 転移魔術を見つけるという目的に沿ってはいないが、人生にはそういうことも必要ではないだろうか。

 村を出てからずっと、目的のためだけに行動してきたのだ。

 ちょっとだけ、休んでもいいんじゃなかろうか。

 

 そう考えると、なんだか懐かしさが溢れてくる。

 

 ……よし。決めた。

 一度、サンドラ村に顔を出してみよう。

 


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