異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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廃墟

 朝日と共に目が覚めた。

 

 水平線から日が出てくるのを、初めて見た。

 初日の出って、こんな感じだろうか。

 

 ザザーンザザーンという潮騒が変わらず聞こえている。

 また豆を挽いて、カシ―を淹れる。

 ……いい気分だ。

 

 昨夜、星を見ながら今後のことについて考えたが。

 結局、結論はそれまでと変わらなかった。

 方針に変更なし。

 

 とりあえず海は満喫したので、村に帰ることにした。

 

 

―――――

 

 

 来た道を間違えないように、川沿いを登る。

 行きと同様に2日かけて森を歩き。

 木々のカーテンを抜けると、草原が一面に広がった。

 

 ……しかし。

 そこはなぜか、行きと別の場所だった。

 行きに覚えたものとは、似ても似つかない景色が広がっている。

 どうやら、道を間違えたらしい。

 おそらく、離合する川の分岐を、ぼんやりして読み違えたのだろう。

 

 しょうがない。

 また川を下って、合流する地点を探そう。

 別に急ぐわけでもない。

 そう思って、また森へと入ろうとした時。

 

 ――その場所に、見覚えがある気がした。

 

「……なんだ?」

 

 こんな所に、来たことはない。

 どこかで見た似たような景色をダブらせているのだろうか?

 

「……いや」

 

 違う。

 絶対、見たことがある。

 川のそばの木々の形が、強烈な既視感をもたらしている。

 その感覚を追って少し歩くと、道に出た。

 レンガを敷き詰められた、舗装された道。

 初めてこの世界に来た日、必死で歩いていたあの道。

 

「……なるほど、そういうことか」

 

 ここは俺が転移して、初めて水を飲んだ、あの川だ。

 

 なんて懐かしい。

 ここで飲んだ水の旨さは、今でも鮮明に思い出せる。

 あの時はまだ、この世界を夢だと思っていた。

 今でも、否定できたわけじゃないが。

 

「……となると、この道を辿ればサンドラ村に戻れるわけか」

 

 そして。

 逆方向に進むと、俺が初めてこの世界に来た場所である、廃墟があるはずだ。

 

 ……そういえば。

 以前疑問に思ったことがあった。

 

 このレンガ道は、相当なコストをかけて作られたものだ。

 これだけの距離の舗装された道を作るのは、さぞ大変だったことだろう。

 だというのに。

 クレタの街からこのレンガ道を通って行けるのが、サンドラ村しかないのだ。

 乗り合い馬車も通してもらえない村に、そこまでの価値がある訳がない。

 しかも正確には、サンドラ村にも行けない。

 村に行くためには、あの獣道を通らねばならないからだ。

 

 だとしたらこのレンガの道は、何のためにあるのか。

 あの廃墟の奥に、街があるのだろうか?

 しかし、何度もあのレンガ道を通ってクレタの街へと行ったが、そちらから来たという人は見たことがない。

 

「……ちょっと、寄り道してみるか」

 

 せっかくの機会だ。

 一度行ってみて、道の先を見てみるのもいいかもしれない。

 あの時と違い、食料や水に困ることはないのだ。

 

 俺は、村の逆方向へと、歩き始めた。

 

 

 ―――――

 

 

 そのまま歩くこと、7時間ほど。

 もう日が暮れようとしていた時、ようやくあの廃墟が見えてきた。

 暗くなってきたのでそれ以上の移動はやめて、野営を行った。

 

 

 翌朝。

 2時間ほど歩いて、俺は廃墟へとたどり着いた。

 とはいえ、ここはゴールではない。

 知りたいのはこの道の先に、何があるのかだ。

 そのまま、歩き続けてみる。

 

 すると。

 道は、そこで途切れていた。

 舗装されたレンガ道は。

 廃墟の中へと進むように折れ曲がったきり、途絶えてしまったのだ。

 

 これはどういうことだろうか。

 つまり、大変な労力をかけて作られたであろう、このレンガ道は。

 さびれた廃墟とクレタの街を繋ぐためにあったのだ。

 

 なんのために、そんなものを作ったのか。

 ……と考えれば、なんてことはない。

 答えは明白だ。

 

 この廃墟だって、昔から廃墟だったわけではないのだ。

 栄えていた都市との交流のために道を作ったが。

 その都市が戦争か何かで滅びてしまった、ということだろう。

 栄枯盛衰。

 夏草や、ってやつだ。

 

 しょうもない結果に終わったが。

 とりあえず、この道の先を見るという、当初の目的は果たした。

 もう帰ってもいいのだが、せっかくここまで来たのだ。

 俺が初めてこの世界に来た場所を、見てみるのもいい気がしてきた。

 

 瓦礫しかなかったはずだが、あの時は混乱していた。

 何か、転移にかかわる手がかりがあったりするかもしれない。

 

 そう考え、その場所に向かってみることにした。

 かなりおぼろ気な記憶だが、迷いながらもなんとかたどり着くことができた。

 かなり時間はかかったが。

 

 たどり着いたのは、まさにあの日、目覚めた場所。

 もう7年ほど前のことだというのに、あの時のままの景色だった。

 

 さて。

 7年前、孤児院で眠ったら、俺は気付けばこの場所にいた。

 その原因を探るべくこの世界を旅してみたが、結局それは、空振りに終わった。

 

 ……それならば。

 俺が転移した場所の調査を行うというのは、至極まっとうに思えてきた。

 帰り道を間違えてよかった。

 何か、手がかりはないだろうか。

 

 パッと見た限りでは、何もない。

 ただの瓦礫の山だ。

 ところどころ苔むして、虫が這ったりしているだけだ。

 

 とりあえず、辺りを手当たり次第に探してみる。

 何かないだろうか。

 土埃や苔を払って、瓦礫の表面を見てみる。

 

 それから2時間ほど。

 辺りの瓦礫をあさったが、特に何も手がかりはなかった。

 

 ……ダメか。

 何もわからない。

 

 いや、せっかくここまできたのだ。

 できることは全部やってみよう。

 もしかしたら瓦礫の中に、何かあるかもしれない。

 

「ストーンバレット!」

 

 俺が寝ていたと思われる瓦礫を、魔術で破壊してみた。

 手荒いが、ほかに方法も浮かばない。

 

 瓦礫は音を立てて砕けた。

 土魔術で破片を持ち上げ、断面を見てみる。

 特に何もなかった。

 

「……ダメか」

 

 結局、何も手がかりは得られなかった。

 まぁ、行き当たりばったりにやってきただけだから、もともと期待していたわけではない。

 こんなことで見つかるなら、今までの苦労は何だったんだというところだ。

 

 帰ろうかな、と思ったところで、ふと目に入った。

 砕いた瓦礫の奥。

 瓦礫を砕いたことで、新たに見えるようになった部分。

 

 ただの地面に見えるが、微かに。

 蓋のようなものが見える。

 なんだあれは。

 

 土魔術で周囲の瓦礫を取り除き、その場所を調べる。

 土と苔で覆われているが、鉄製の扉があった。

 土魔術でそれをこじ開ける。

 その下には。

 

「……階段?」

 

 階段があった。

 地下へと続いている。

 しかし、数段下から先は、瓦礫で崩落してしまっていた。

 

「地下室か何かだったのか?」

 

 状況を整理しよう。

 俺が転移した場所の真下に。

 鉄製の扉で隠された、地下室があった。

 ……これは偶然だろうか。

 

 ここを調べれば。

 もしかしたら、何か手がかりがあったりしないか?

 

「……ふぅー」

 

 ……落ち着こう。

 空振りの可能性は十分にある。

 地下室なんて、別に珍しくもない。

 まだ、浮足立つには早い。

 焦らず、慎重に進めよう。 

 

 それから、俺は瓦礫を取り除く作業を行った。

 地下室の壁や床を、可能な限り保存しつつ、瓦礫を取り除いていく。

 手で運べるものは手で。

 重くて持てないものは、魔術で慎重に。

 

 数時間かけて。

 俺は、全ての瓦礫を取り除いた。

 

 そしてついに。

 地下室の全容が明らかになった。

 

 それほど広くはない。

 畳10畳分くらいのスペースだ。

 天井もあったのかもしれないが、恐らく瓦礫として撤去してしまった。

 

 さて。

 一番奥のところに。

 一段高く作られた部分がある。

 

 そこには、不思議な幾何学模様が描かれていた。

 崩落による損傷で、多くの部分は失われてしまっているが。

 明らかに、誰かが描いた模様だ。

 円を枠組みとしたデザインに、文字や図形が書き込まれたもの。

 

 ――これを言葉にするとしたら。

 「魔法陣」が、もっともしっくりくるだろう。

 

 ……興奮を抑えられない。

 これは明らかに、転移魔術の手がかりではないだろうか?

 

 俺は、自分の胸にあるアザを見た。

 この模様は、それに酷似している。

 細かい部分は違うが、同じルールに従って描かれている気がする。

 

 しかし、どういうことだろうか。

 このアザは、俺が物心ついた時からあったのだ。

 俺はずっと、以前の世界で育ってきた。

 それなのに、転移した先のこの世界に、このアザと似た模様の魔法陣が存在する。

 奇妙な話ではないか。

 

 ……まぁいい。

 考察はあとでたっぷり行うことにして。

 今は、もう少しこの部屋を調べよう。

 

 隅から隅まで。

 見落としがないように。

 土や埃を払いながら、俺はひたすらに調査を続けた。

 

 何時間経過しただろうか。

 日が沈みかけ。

 夜が近づいた、その時。

 

 魔法陣の奥の壁に、奇妙な部分を見つけた。

 壁の中でそこだけ独立した石でできていて。

 手で押すと、押しただけ陥没していく。

 

「なんだ、これは?」

 

 悩んだが、押し切ってしまうことにした。

 右手の平で、その部分を押していく。

 壁が手首を過ぎ、肘を過ぎ、肩に届きそうなところで。

 一番奥に、到達した。

 

 何かが起こるかと思いきや、特に何も起こらなかった。

 しかし、辺りを見回すと。

 すぐそばの足元に、さっきまではなかった石のでっぱりが出現していた。

 試しにでっぱりを押してみると、壁の穴がもとに戻った。

 ……なんだこれ?

 

 もう一度壁を押し。

 出現した石を、良く調べてみることにした。

 よく見ると、その石には直線状の切断面がある。

 

 つまり、蓋があった。

 その蓋を開けると、そこには――――。

 

 一冊の、本が置かれていた。

 

 

 

 


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