異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。 作:nyaooooooon
ニーナと街に出かけてから、3か月が経過した。
魔術の勉強はいまひとつ進展を見せない。
が、ニーナと一緒だからか、辞めたいとは思わない。
あの後、次の日から一緒に勉強することにした。
俺の部屋にニーナの椅子を持ってきて、二人で勉強する。
疑問に思ったことは、互いにぶつけ合う。
街で買った本も、家に置いていた本も、内容はあまり変わらなかった。
しかしどちらの本も、俺からすると疑問に思うところが多い。
「……なぁ、ニーナ。
火、水、土、風がこの世界を構成する4大元素って書いてあるけどさ。
じゃあこの世界はそれで作られてるってことか?
なんかさ、いまいちピンと来ないんだよな」
「私もよく分かんないけど。
でもたまに、なんとなく感じるときはあるよ。
服を作ってるときなんかに、その服に風を感じたり。
食事のとき、料理から水のイメージが浮かんだり」
「……ふーむ」
俺の中で元素と言えば、教科書に載ってるすいへーりーべーのアレだ。
だから、火だの水だのが物質を作っていると言われても全くピンとこない。
そんなわけあるか、と思ってしまう。
ただ、ニーナは感じることがあるという。
空想のようにも聞こえるが、割とはっきり感じているようだ。
「ニーナ。火ってなんで起こるんだ?」
「え、それは、火打ち石が火の元素を多く含んでるからでしょ。
私、火打ち石にはすごく火を感じるもん。」
こんな感じである。
俺は全く感じない。
もしかすると以前の世界の知識が、魔術の習得を邪魔しているのかもしれない。
やっかいなものだ。
以前の知識を一度放棄して、こちらの世界の知識を信じてみることにするか。
―――――
さてさて、そんなことをしている間に。
気づけばこちらに来て1年が経っていた。
しかしこちらの世界は、気候の移り変わりがない。
おそらく地軸がほとんど傾いていないのだろう。
花なんかも、年がら年中咲いては散りを繰り返している。
なんだか味気ないが、そんなものらしい。
ちなみにどうやって時の移り変わりを感じるかと言えば、星座の動きだ。
明かりが少ないため、夜空を見れば常に満天の星空だ。
その中で、あの星がまた見えたからそろそろ1年か、なんて感じたりするのだ。
ロマンチック……と、言えなくもないだろう。
そして。
なんともうすぐ、ニーナの誕生日なのだ。
シータと話しているのを聞いてしまった。
毎年お母さんと2人だけど、今年はハジメも祝ってくれる。うれしい。
……なんて思っているはずだ。きっと。
よしよし。
素敵な誕生日プレゼントを用意してやろう。
ちなみにシータの誕生日はとっくに過ぎてしまった。
ニーナとふたりで花を贈ったところ、シータはとても喜んでくれた。
その後なぜか、泣き出してしまった。
それを見たニーナがぎょっとしていた。
シータが泣くところなんて見たことがないそうだ。
涙の理由は、教えてくれなかった。
ついでに俺の誕生日も聞かれたが、分からないと答えた。
まぁ、以前の世界の誕生日に転移したから、日付を割り出そうとすれば可能だろう。
しかし俺はもう、あの世界のことは忘れたい。
こちらの世界で生きていくと決めたのだ。
そもそもその誕生日も、俺が橋の下で見つかった日付というだけだしな。
……とにかく、ニーナの誕生日だ。
仕事休みに、クレタの街で買い物といこう。
―――――
さて、毎度お決まりクレタの街。
バスも電車も走ってねえ、オラの村から徒歩2時間ほど。
雑貨屋を巡って、目ぼしいものを探す。
何がいいだろう。
こないだドレスを買っていたから、シータの作った服以外も着るということは判明した。
あのドレスに合う靴なんかどうだろう。
青に映える白のハイヒールなんかプレゼントしたら、いいんじゃないか?
……おっとこれは、早くも正解にたどり着いてしまったかもしれない。
さっそく靴屋に走ったが、誤算があった。
靴にはサイズというものがあるのだ。
ニーナの足を見る機会は多いが、サイズとなると分からない。
プレゼントしたものの、サイズが合わずに履けませんというのは、最もありがちでダサいパターンだ。
そのうえ、返品するのも片道2時間かかるのだ。やめよう。
靴は断念し、サイズの関係ない装飾品を考える。
妥当な線だと、ネックレスか、ピアスあたりか。
ただニーナはピアスなんてつけたことがなさそうな、きれいな耳をしている。
誕生日プレゼントのために耳に穴を開けさせられるのは、さすがに嫌だろう。
となると、ネックレスで決まりだ。
この世界の装飾品も、なかなか味わいがあって美しいものが多い。
もちろん、宝石の加工技術なんかはもとの世界に及びはしない。
しかし素材の味を生かすハンドメイド的なものの魅力は、以前の世界を上回っている気がする。
きっといいものが見つかるはずだ。
そう考えて、アクセサリーショップにやってきた。
ショーウィンドウから覗く、煌びやかな装飾品たち。
ここならきっと、俺の眼鏡にかなうものもあるに違いない。
ただ、俺は人生で一度も、女性にプレゼントなど贈ったことなどない。
男の趣味と女の趣味は違うと言うし……。
凝ったデザインは服に合わせづらいらしいし……。
かといってシンプルなのも面白みがないかもしれないし……。
うん。ここは店員さんに聞くのが、ベストというものだろう。
なんだか、今日の俺は冴えてるな。
「あのー、すみません」
「はい、なんでしょうか?」
美人の女性店員さんが、にこやかに対応してくれた。
少しだけ、目の下のクマが気になるが。
「年下の女の子にネックレスを贈ろうと思うんですけど、どんなのがいいでしょうか?」
バチンと。
頬をはたかれた。
「え?」
俺は何が起こったか分からず、目の前の店員を見つめる。
他の可能性を探したが、ありえるものがない。
どう考えても、この人にビンタを食らったとしか思えない。
「甘ったれんじゃないわよっ!」
「え?」
はたかれた頬が、じんわりと痛み出す中。
目の前の店員が叫ぶ。
「自分で贈りたいって思ったんでしょうが!
あなたが一番、その子のことを考えてるんでしょうが!
なら、あなたが選びなさいよ!
もっと彼女を、大切にしなさいよっ!!」
涙を浮かべながら、なおも店員は叫ぶ。
俺は頬の痛みより、その言葉に、衝撃を受けた。
確かに……確かにその通りだ。
俺はプレゼントの体裁ばかりを考えて。
当のニーナのことを考えてなかったんじゃないか?
男が女にプレゼントするものといえばコレ、と。
既成の観念にとらわれて、本質を見失っていないか?
そう、俺はニーナを喜ばせるためにプレゼントを贈るのだ。
贈ったプレゼントに自己満足するためじゃないはずだ。
……ちゃんと考えろ。
ニーナが最も喜ぶものって何だ?
関わる時間は多かったはずだ。
必ずその中に答えはある。
浮かんだのは、3か月前の帰り道。
ニーナとふたりで道を歩いた3時間。
話した話題は何だった?
――そうだ! 食べ物だ!
ニーナはいつも、美味しそうに食べる。
どんなときも、食事をしているニーナは幸せそうだ。
俺は確信した。
これこそが正解だと。
俺はニーナの誕生日プレゼントに、料理を振舞おう。
まるで涅槃に至ったかのような心境だ。
店員さんのビンタのおかげで、ここに至れた。
礼を言わねばなるまい。
「ありがとう、店員さ――」
「ちょっ、ちょっとあんた!
なにやってるの!」
俺の言葉を遮り、女の人が割り込んできた。
胸に「店長」と書かれた名札をつけている。
どうやらこの店の店長らしい。
「無神経な男に、愛の鞭を与えたんです」
「お客様でしょうが!
フラれてつらいのは知ってるけど、そんなことしちゃダメでしょ!
クビにするわよ!」
店長はその店員を一通り叱った後。
俺と目が合うと、深々とお辞儀をした。
「お客様!
大変申し訳ありませんでした!
店の商品を割り引かせていただきますので、どうかご容赦を!
この者には、しかるべき処分を行いますので」
処分、という言葉が出た瞬間。
気丈に振舞っていた店員の目が、わずかに泳いだ。
やはり彼女も、クビは怖いのか。
「――待ってください!」
「は、はい」
店長は、おびえるように俺を見つめる。
クレームをつけられると思っているのだろう。
「その店員さんは、俺に大切なことを思い出させてくれました。
商品の割引はいりません。
なので、その店員さんに、処分を与えないでください」
俺は、毅然とした態度で言う。
「え……。
よろしいのですか?」
店長は、目の前の事態に戸惑っていた。
頭のおかしい店員を叱ろうとしたら、その客も頭のおかしいやつだった。
そんな、のっぺらぼうに化かされたヒトみたいな表情だ。
「ええ。
よろしくお願いします。
それでは……」
「――待って!」
立ち去ろうとしたところで、後ろから声が聞こえた。
振り返ると店員さんが、右の拳を俺に向かって突き出していた。
「あんた、彼女のこと、大切にするのよ!」
「ええ、ありがとうございました」
俺は彼女と拳を合わせ、その店を後にした。