異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。   作:nyaooooooon

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魔導書

<ハジメ視点>

 

 村に帰ると、ニーナとシータが出迎えてくれた。

 2人とも、帰りの遅い俺を心配してくれていた。

 村で捜索隊を出すように要請するか、悩んでくれていたらしい。

 

 帰りが遅くなったことについて謝った後。

 俺は自分の過去が分かったことについて報告した。

 俺は1000年前に滅亡した国の末裔だと。

 別の世界からやってきたのと同じくらいにぶっ飛んだ話だが、2人はすんなりと信じてくれた。

 実はこの二人、俺の正体とか、あんまり気にしてないのかもしれない。

 

「なんだかハジメ、すごくすっきりした顔してる」

 

 とは、ニーナの言である。

 

 自分でもなんだか、気分が冴えてるのを自覚している。

 まぁ、それも自然なことかもしれない。

 この世界に来てからずっと、心の片隅にあった悩みが消えたのだ。

 心のリソースを、全て目の前のことに使えるようになった感覚。

 楽しい時に、心の底から笑える。

 それがこんなにも、爽快なことだとは。

 

 もう俺は、眠るときに不安になることはない。

 俺が突然地球に戻ることは、起こりえない。

 俺はこの世界で生まれ、この世界で生きていく。

 そう確信できることが、本当にうれしい。

 

 村に戻ってからは。

 俺はひたすらに本を読み、魔術の訓練をした。

 本というのは、廃墟で発見したあの本だ。

 

 本には、様々な魔術について詳しく書かれていた。

 結界魔術や、転移魔術、聖級四大魔術など。

 いずれも現在では失われた技術(ロストテクノロジー)となっている、すさまじい魔術ばかりだ。

 あまりすごいので、敬意を表してこの本を魔導書と呼ぶことにした。

 

 せっかく手に入れたので、この本に載っている魔術は全てマスターしたいと思った。

 それが、これを残してくれた両親に対する、けじめのような気もした。

 

 本の内容は非常に分かりやすい。

 ヴィルガイアの血筋のなせる業なのか、これまで読んだどんな教本よりもすんなりと頭に入ってくる。

 この分なら、目的の達成はそう遠くなさそうに思えた。

 

 

 ―――――

 

 

「……ふう」

 

 勉強に区切りをつけ、一息つく。

 夕食を終えて勉強を始めたが、気づけば深夜になっていた。

 

「俺、こんなに集中力あったっけ」

 

 アバロンでエミリーに尻を叩かれていた時よりも、かなり集中して学習できている気がする。

 自分に自信を持てたことによる副産物かもしれない。

 

 以前は、自分が明日にでも消えてしまうのでは、という不安が常に存在した。

 そのせいで、勉強したって全部無駄になるんじゃないか、という思いを捨てきれていなかった気がする。

 勉強に100%集中できてはいなかった。

 

 それが今は、目の前のことに完全に没頭できる。

 それにもともと、俺には魔術の才能があったのかもしれない。

 自惚れかもしれないが。

 両親の魔術は、ヴィルガイアでも群を抜いていたらしいからな。

 

「カシーでも飲もうかな」

 

 もうひと頑張り。

 夜明け前まで勉強しよう。

 そう思って立ち上がると、ドアを叩く音がした。

 

「はい?」

 

 ドアを開けると、ニーナが立っていた。

 カシーを入れたカップを2つ、お盆に乗せている。

 

「ごめんね、邪魔しちゃって。

 ちょっと息抜きしないかなって」

 

 ニーナは少しはにかみながら言った。

 

「おお、ありがとう。

 ちょうど飲みたかったところだ」

 

 ニーナからカップを1つ受け取り、口をつける。

 うむ。味は可もなく不可もなし。

 俺が淹れるのとどっこいどっこいだな。

 一番うまいのは、やはりシータだ。

 

「ずっと本を読んでるみたいだけど、それ何の本なの?」

 

 ニーナはベッドに腰掛けながら言う。

 

「ふふ、聞いて驚け。

 これは1000年前に滅びた王国に伝わる、伝説の魔導書だ」

「へー、すごいねぇ」

 

 全然驚かれなかった。

 触ってもいい? とニーナが聞くので、本を渡してやる。

 

「でも1000年も前のものなのに、フツーに読めるんだね」

「ああ、なんか劣化防止の魔術がかかってるらしい」

「そんなのあるんだ」

 

 ニーナはパラパラと、適当にページをめくっている。

 

「分かるか?」

「……全然分かんないなぁ。

 ハジメ、本当にこれを理解できてるの?」

「ああ。

 少しずつだけど、じっくり読めば分かる」

「ほー。さすがだねー」

 

 ニーナははいっ、と本を返してきた。

 俺はそれを受け取り、カシ―をすする。

 

「……で、どうしたんだ?

 こんな夜中に」

 

 わざわざ俺の部屋を訪ねるくらいだ。

 何か用事があるのではなかろうか。

 そう思って尋ねると、ニーナは少しうつむいて言った。

 

「……ハジメ、ちょっと変わったよね。

 なんだか、前より明るくなった」

 

 ニーナはもじもじと、両手の指を絡ませている。

 

「ああ、俺もそんな気がする。

 過去がわかってから、なんだか調子がいいんだ」

「だよね。

 昔は……っていうかこないだ帰って来てからもだけど。

 もっと自信なさげだったもん。

 私がすごいすごいって言っても、謙遜ばっかり返ってくる感じで」

 

 確かにそうだった。

 何かにつけて、あまり自信を持てなかったからな。

 

「それが、海に行って帰って来てから、なんだか雰囲気が変わっちゃって。

 ……血のつながった家族のことが分かったから、なんだよね?」

「ああ、そうだ」

 

 ふーむ。

 いまいちニーナの言いたいことが読めないな。

 昔の俺の方が好きだったとか、そんな感じだろうか。

 

「私ね、ハジメの過去が分かったって聞いて。

 すごく嬉しかったんだ。

 ずっと悩んでたの、知ってるから。

 ハジメの悩みが解決したのは、すごくうれしい」

 

 ニーナは視線を床に彷徨わせながら言う。

 

「ハジメがなんだか明るいのも、すごくいいと思う。

 ただね、ハジメがすごく変わったから。

 なんだか怖くなっちゃって……」

「怖いって、何が?」

 

 その質問に、しばらくの沈黙が流れた。

 ニーナはシーツを握りしめ、俺の足元あたりを見ている。

 そういえば、持ってきたカシ―に口もつけてないな。

 意を決して、ニーナが口を開く。

 

「……ハジメが私たちのことなんか忘れて、どこか遠くに行っちゃうんじゃないかって」

 

 ぽつりと。

 呟くように、ニーナは言った。

 

「ハジメが実は昔の国の人で、血のつながった家族がいて。

 それが分かったのは、とってもうれしいの。

 ようやく、ハジメの欠片が埋まったんだなって。

 すごくうれしい。

 ……でもね。

 私だって、ハジメの家族でいたいの。

 図々しいかもしれないけど、ハジメとつながっていたい。

 だからお願い。

 私とお母さんのこと、忘れたりしないで」

 

 ニーナの視線は、俺の顔へと移った。

 目が合う。

 本気で心配している表情だ。

 その顔に俺は思わず――。

 

「ぶっ」

「?」

「ぶぁはっはっはははっ!

 何言ってんだよニーナ!

 ははぁっははっ、はっ、は、腹痛ぇ」

 

 笑い転げた。

 

「な、何よ!

 真剣な話をしてるのに!」

 

 ニーナが顔を真っ赤にしている。

 しかしこれはこいつが悪いだろう。

 

「そりゃ血のつながった家族が誰なのか分かったけど。

 1000年も前の話なんだぞ。

 そりゃ大切に思うよ。

 思うけどさ。

 どっちが大切って言われたら、俺は迷わずお前とシータを選ぶよ」

 

 そう言うと、ニーナはあからさまにホッとした表情になった。

 

「杞憂にもほどがある。

 むしろ俺のことを忘れたりしたら許さんからな。

 お前の結婚式には、死んでも行くから覚悟しとけよ」

「ふふっ。そっか……うん。

 まぁハジメならそう答えてくれるだろうなーって、思ってはいたんだけどね」

 

 ニーナは笑顔になり、ようやくカシ―に口をつけた。

 

「そういえば、飲めるようになったんだな」

 

 昔は苦くてダメだったはずなのに。

 

「そうよ。

 私もね、少しは成長してるんだから」

「そうか」

 

 それは少し、感慨深いものがあるな。

 その後しばらく雑談を交わし、ニーナは部屋に戻っていった。

 

 

 一人になった部屋で天井を見上げる。

 

 ……うん。

 ニーナに言った言葉に嘘はない。

 どちらかと問われれば、間違いなく彼女達の方が大切だ。

 それは間違いない。

 

 ただ。

 それとは別のところで。

 俺の中に、これまでは存在しなかった感情が芽生えていた。

 

 

 

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