異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。 作:nyaooooooon
さて、ニーナの誕生日プレゼントは、料理を振る舞うことにする。
その方針は決まったものの。
具体的な方法についてはノープランだ。
ニーナの好物といえばなんだろう。
大抵のものは美味しそうに食べてるが。
中でもひときわ幸せそうだったものといえば……。
……あれだな。
一角ウサギのグリルだ。
ニーナときたら自分の分を早々に食べ終わって、俺の分まで物欲しそうな眼で見てたからな。
あれはめちゃくちゃうまそうに食べていた。
よし。
あれを作ろう。
といっても、レシピが分からない。
一度食べただけで作れるような、天才的な舌は持ち合わせていない。
ならば、作った人に聞くしかあるまい。
ということで。
いつもの料理店にやって来た。
昼下がりで、客も少なくなってきた時間帯だ。
俺はひとまず席に座り、料理を注文する。
今日のランチメニューは、魚介のアクリナソースパスタだ。
俺がこの世界にやってきた時、空腹を救ってくれたあの実が、アクリナというらしい。
この辺りではよく採れるらしく、村の果樹園にも見かける。
トマトとリンゴの合いの子みたいな味の実だ。
パスタが運ばれてくる。
……美味い。
トマトと酸味とリンゴの甘さが、パスタに絶妙にマッチしている。
そのソースがうまく魚介類の生臭さを消しており、全体の調和が見事に保たれた逸品だ。
食後の飲み物も頼むことにする。
いろいろあるが、食後の飲み物の定番といえば、やっぱりこれだ。
「カシー、ください。ホットで」
「かしこまりました」
カシー。
これはほぼコーヒーだ。
もう少し南の、暖かい国で栽培される豆を引いて作るらしい。
香りも味も、ほぼコーヒーである。
牛乳を入れて提供されることもある。
眠気を覚ます効果もある。
ほぼコーヒーである。
それならコーヒーと呼べばいいじゃないかと思うかもしれないが、ここはあえて、カシーと呼ばせていただく。
カシーを飲んで一息つく。
周りを見ると、かなり客は少なくなった。
そろそろか。
厨房の入り口まで歩き、シェフに会いたいことを伝えた。
ウエイトレスはすこし戸惑った様子だったが、少しお金を渡すと、頷いて奥に引っ込んでいった。
待つこと数分。
中から出てきたのは、熊のような大男だった。
髭が雑草のように顔から生え。
太い眉毛を眉間に寄せて。
鋭い目で、こちらを睨みつけている。
「何の用だ。坊主」
ドスの利いた声とは、このような声を言うのだろう。
聞いただけで、背筋にぞくりと震えがくる。
まさかいつもの料理店に、こんな怪物が潜んでいたとは。
あまつさえ、その怪物が作った料理を口にしており、それがあんなにも美味しいとは。
信じられない。
こんなにも恐ろしくて、料理がうまい人間がいるなんて。
俺は恐ろしさのあまり、ここから全速力で立ち去りたくなった。
―――ダメだ。
ここでビビッてどうする。
ニーナに美味しい料理を作ってやりたいんだろう?
それともこの程度の障害で諦めてしまうような思いなのか?
……否! そんなものではない!
意を決して、俺は怪物に話しかけた!
「あ、あの、ここの料理がとても美味しくて。
その、料理のレシピを教えていただけたらなー、なんて、思ったりなんかして……」
「あんだと!?」
ひっ!
男が大きな声を出した。
マジで怖い。
「レシピなんざ教えるわけねぇだろうが。寝言は寝て言え。このガキ」
「タ、タダでとは言いません!
僕の有り金を全てお渡ししますから!
銀貨2枚程度はあると思います!」
「ああん? 金で買おうってか。ずいぶん必死じゃねえか。
何に使うんだ?
まさか店を出そうってんじゃあるめぇ」
「……妹の誕生日に、料理を作ってあげたいんです。
ここの料理がとても好きだから」
とっさに、ニーナを妹と紹介してしまった。
いかん、居候の身だというのに図々しいな。
まぁしかし妹と言った方が印象よさそうだし、とりあえず考えないことにしよう。
「……ちなみに、どれが好きなんだ」
「3か月前に食べた、一角ウサギのグリルが」
「美味かったか?」
「はい、とても美味しかったです。
妹は自分の分じゃ足りなくて、僕のものにまで手を出そうとしたりして」
「そうか」
怪物はそのまま顎に手を当てて、黙ってしまった。
なんか案外、いい人なのかもしれない。
粗野だけど心意気はまっすぐ、って感じで。
怪物が俺の顔をじっと見てくる。
毛むくじゃらの恐ろしい顔だったが、なんとか眼をそらさずに耐えた。
「いいだろう。
俺が凄んで逃げなかったガキは初めてだ。
その度胸と妹に免じて教えてやる。来い」
……え、いいの。
十中八九ダメだと思った。
逆転ホームランだ。
その後。
怪物は綺麗な字でレシピを書き、渡してくれた。
何か質問は。と言われ、10以上の質問をしたが、全て丁寧に答えてくれた。
注文が来たらそちらの料理が最優先だったため、時間はかなりかかったが。
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後で、ウエイトレスさんが教えてくれた話によると。
店主は、お客が食べている顔をこっそり見るのが趣味なんだそうだ。
美味しそうに食べてる姿を見るのが好きなのだという。
ただ、風体で怖がられるから、こっそり見ているらしい。
特にお気に入りだったのは、月に一度必ず来る、金髪の女の子。
食べる様がとても幸せそうで、その子が来た日は店主も上機嫌だったらしい。
最近その子の同伴者が、女性から男の子に変わった、という話も厨房で少し話題になったという。
つまり俺がニーナに料理をプレゼントできるのも、ニーナのおかげということらしい。
なんとも締まらない話だ。
……いや待て。
店主は、度胸と妹に免じて、と言ったはずだ。
だから、俺の度胸のおかげも半分はある。と、思っておこう。
逃げずに立ち向かったからこそ、この結末があるのだ。うむうむ。
店主は料理に必要な調味料や、付け合わせのスープのダシなどを持たせてくれた。
ただ、ウサギはどうしようもない。
この世界では冷凍保存などできないから、料理直前まで新鮮である必要がある。
つまり、獲ってくるしかないということだ。
店主は、ウサギの獲り方から解体方法まで教えてくれた。
あのランチも、店の裏の解体場で捌いて出していたらしい。
ふつう料理人はそんなことしないだろ。
すごいなこの人。
イメージぴったりではあるが。
帰りがけにお金を払おうとしたら、断られた。
「子どもから金なんか取らん」だそうだ。
食べた料理とカシーの代金は取られた。当たり前か。
店主に深々と頭を下げ、お礼を言って別れた。
まぁ、考えうる最高の結果だ。
もっと試行錯誤して料理に挑むことになると思っていた。
まさかこんなにトントン拍子に事が運ぶとは。
お金もかからなかったし。
このレシピと材料があれば、成功は約束されたようなものだろう。
時間がギリギリになったので、走って帰った。
村に着くころにはすっかり暗くなってしまった。
明日から、空いた時間でウサギ狩りだ。