異世界行ったら最強の魔術師だった。でも本当は……。 作:nyaooooooon
エミリーとクリスが村の端に住むようになってから、10日ほどが過ぎた。
村の雰囲気も少しずつ落ち着きを取り戻している。
彼女らの家を訪ねて玉砕する男は後を絶たないが。
ちなみに家は俺が土魔術で作ったものだ。
枠組みと壁を最初に作り、窓ガラスや扉などはクレタの街で仕入れてきた。
ややちぐはぐな外観だが。
まぁ即席にしては悪くないだろう。
エミリーは、俺が渡した魔導書を読んで過ごしているようだ。
クリスは退屈だったのか、森で狩りをしていることが多い。
よく大量の獲物を村の人達に分けている。
たまにエミリーと一緒に狩りにいくこともあるようだ。
―――――
「ハジメ、モテモテなんだねぇ。
どっちが本命なのかなぁ?」
テーブルでカシ―を飲んでいると、ニーナが話しかけてきた。
ニヤニヤした笑みが顔に張り付いている。
「うるさい。ニーナには関係ないだろ」
「えー、関係あるよ。
だってもしかしたら、お義姉さんになるかもしれないんでしょ?」
「ほっといてくれ」
「あー、またそんなこと言って。
ほら、自分の考えって案外分からないかもよ?
かわいい妹に相談してみたら?」
「うるさいな、もう」
なんでコイツが、事情を正確に把握しているのか。
それは、クリスとエミリーが話したからだ。
この家から移るときに、二人があらましを全て、ニーナとシータにも話した。
俺はそんな必要はないと反対したが、二人は譲らなかった。
俺の家族に事情を説明するのは当然だと。
適当な言葉でごまかしたりしたくないとのことだ。
しかしそのせいでここ最近、俺はずっとニーナにからかわれている。
どうやら、ジャック君との関係をつついていた恨みを晴らしているらしい。
身から出たサビというやつだ。
くそう。
「まぁ二人ともいい人だし、すごい美人さんだもんねー。
そりゃ悩むよねー。
私だったら選べないなー」
ニーナが軽口をたたきながら、対面の椅子に座る。
その手にはカップがあったので、ポットからカシ―を注いでやった。
「……俺だって選べねーっての」
ぼそりと呟く。
なんでこんなことになったのだろうか。
まぁ、先延ばしにしていた問題で、いつかは決めなければいけないことだったが。
ある側面から見れば、俺は世界最高の幸せ者に思える。
あんな美女二人から言い寄られ、選ぶ権利があるというのだから。
しかし別の側面を見ると、とてつもなく不幸な人間だ。
あの二人のどちらかを、切り捨てなければいけないのだから。
俺がどちらかを選べば、その瞬間に今の関係は崩れる。
元のままのパーティでいられはしないだろう。
三人の旅は、本当に楽しかった。
正直、俺はそのままの関係でいたかった。
恐らく、二人もいくらかはそう思っていただろう。
関係が崩れることも分かっていたはずだ。
しかし、それでも踏み出した。
停滞に身を置くことを、よしとしなかった。
そんな二人の思い。
正面から答えなければならないだろう。
自分がどちらの方が好きなのか。
だが正直なところ、俺は恋愛感情というものがよく分からない。
二人のことを魅力的だとは思うが、それは仲間としてという側面が強いように思う。
もしかしたら、どちらにも恋愛感情など抱いていないという可能性もある。
恋愛対象として、好きか否か。
そんなことを考えるには、経験値が少なすぎる気がする。
なにせついこの前まで、頭の片隅にもなかった命題だ。
どうしたものか……。
「ハジメ、顔がすごいことになってるよ?」
「……うるさい」
とりあえず、カシ―をもう一口すすった。
―――――
その日の午後。
エミリーが家に訪ねてきた。
「おう、どうした?」
エミリーはいつものゴスロリ姿だ。
村ではめちゃくちゃ浮いてるが、本人はまるで気にしていないらしい。
「あの、ハジメ。
私と街に出かけない?」
エミリーが言った。
用意したセリフを、そのまま言葉にしたような感じだ。
「別にいいけど、どうしたんだ?
何か買いたいものでもあるのか?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
「?
なら何で街に?」
俺の質問に、エミリーは言葉を詰まらせる。
少し間をおいて深呼吸した後、真っ赤な顔で言った。
「……昨日の夜、クリスと話し合ったの。
このままだと、ハジメはどっちも選ばないかもしれないと思って。
それでその、ひとりずつハジメとデ、デートしてみるのはどうかなってことになって……」
視線をさまよわせ、もじもじしながらエミリーは続ける。
「3日後の朝に門の前で待ち合わせ。……どう?」
「……了解した」
返事を聞くとすぐに回れ右して、小走りでエミリーは帰っていった。
その後ろ姿を見ながら思う。
……俺の性格は、どうやらかなり深く読まれているらしい。
このまま一人で考えるだけで、一か月を過ごした場合。
確かに、どちらも選ばなかった可能性はある気がする。
その前に、先手を打たれた。
もしかしたら彼女達は、俺以上に俺自身について把握しているのかもしれない。
―――――
3日後。
ベルの音がして、ニーナに煽られながら玄関に向かう。
「お、おはようハジメ。
……今日はいい天気ね」
そこには、普段よりもめかしこんだエミリーが立っていた。
ほんのり化粧をして、真っ白な頬に赤みがさしている。
ゴスロリ服は普段の暗めの単色ではなく、淡いパステルカラーに。
耳にはシルバーのイヤリング。
ツインテールの髪留めも、かわいいリボンになっていた。
「…………」
「何よ……ど、どこか変かしら?」
正直、見入ってしまった。
まるで絵画から出てきたかのような。
現実味が薄れるほどの美しさだった。
「い、いや、なんでもない。
えーと、服、似合ってると思うぞ」
「ホ、ホント?
クリスに見立ててもらったの。
私はもう少し地味なのにしようと思ってたんだけど」
「多分、今着てるやつの方がいいと思う」
「……よかった。
ハ、ハジメも、似合ってるわよ」
俺も一応、普段よりは洒落た服を着ている。
こちらに帰って来てから、シータが作ってくれたものだ。
このエミリーと並んで歩いたら、どうあがいても不釣り合いになりそうだが。
服ではなく、それ以外の差で。
「じゃ、じゃあ、行くわよ」
「お、おう」
動揺が冷めない中、ぎくしゃくと歩き始めた。
ふと振り返ると、玄関の隙間からニーナがニヤニヤした目で見ていた。
……お前はとっとと、服作りの仕事でもせんかい。