「フフフーン♪」
鼻歌をしながら階段を降りる。
「機嫌良さそうですね、何か良いことでもあったんですか?」
「ん?ああ、さっきハナ協会から手紙と新しいフィクサー免許証が送られてきてな、4級に昇格だってよ。」
5級になってから一年半、結構いいペースだ。これで毎日金が足りないと悩む回数も減るだろう。
「おー良かったですね。私あんまりフィクサーのこと知らないんですけど4級ってどれくらいの地位なんですか?」
「大体協会のニ課三課レベルかな、俺はまだまだだけど。」
「ビリオンさんってフィクサーになってから確か九年目ですよね?手っ取り早く強くなる方法ってあるんですか?」
「あるにはあるけど、基本は稼いで施術を繰り返すしかないと思うぞ。」
「フィクサーって夢ないですねー。」
午前一時、ツバキの作業がひとしきり終わったところでセブン協会から送られてきた依頼文書に手をつける。
「今日は何を受けるんですか?脳スムージー店、萎びた太陽、それとも図書館?」
「全部ハズレ、金色館だ。」
「金色館って都市疾病ですよね、ビリオンさんが弱いとは言いませんけど大丈夫なんですか?」
ツバキが少し不安そうに聞いてきた。彼女が来てから都市伝説、またはそれ以下の依頼しかしてこなかったからこれは仕方ない。
「都市疾病は今までも数回やってきたし、あの時より強くなってる。考えなしに選んだわけじゃないさ。」
「わかりました、じゃあいつ行きますか?」
「今から一時間後、それまでに準備しといてくれ。」
「はーい。」
『つきましたけど…裏路地にこんな建物があったなんてビックリです。』
「こんなの建てられるんだったら余裕で巣に住めるのに、これ建てた人はかなりの変わり者だったんだろうな。」
依頼場所には壁が全て金で作られた、宝石が散りばめられた屋敷があった。依頼所を見て大体のことは把握しているが、裏路地に建ててよく今までで壊されずに残っていたものだ。
「まぁ今はそんなことどうでもいい、さっさと入ろう。」
めんどくさいことにここ以外から入ろうとすると弾かれるらしいのだ、壁も破壊できずバカ正直にここから入るしかない。
扉を開けるとすぐに近くの机に身を隠した。
「なにか見えるか?」
『すいません…ここ何か変で見えにくいです。』
「見えにくい?特異点か何かで対策されてんのかそれとも別の原因があるのか…」
これが都市疾病の依頼なのだと再確認し、さらに気を引き締め奥へ進んでいく。
内装に変わったところはない、ただ絵画や家具に埃がかぶっておりカーペットも黄ばんでいる。
『さっきから足音も聞こえませんね。』
「ここにいる何かに殺されたのかもな。」
そう話していると今までより大きな部屋についた。中は戦闘が起こった跡があり椅子の残骸などが散らばっている。しかしこの部屋以外には傷一つなく血痕なども見当たらない。
「ツバキ、解析準備。」
『はい。』
「あら、また新しい人?」
声のした方向に木片を投げすぐさま刀を抜いた。
気配を全く感じなかった、いつからいたんだ。
「いきなりひどいわね、フィクサーって皆こうなのね。」
そう言い、灰色のドレスを着た十五歳ほどの少女がこちらに近づいてきた。
『この魂の感じ、ねじれです。』
「マジかよ。」
さらに警戒を強くし刀を構えると少女はクスリと笑った。
「そんなに警戒しないで、ちょっと話を聞いてほしいだけよ。」
子供をあやすような声で言い、少女は椅子に座った。
『…どうしますか。』
「ここはおとなしく聞こう、俺が少しでもおかしくなってたら教えてくれ。」
『気をつけてくださいね。』
「ん。」
刀を収めるとそのねじれは話し始めた。
「私の両親はいつも仕事で家に居なくてね、それに過保護だからいつも外に出してくれなかったの。だからいつも寂しくて退屈だった。」
孤独、退屈、ねじれる原因でもそこそこ多くそして凶悪になる割合も高い。
「毎日友達が欲しい、楽しいことがしたい、そう思ってたら声が聞こえたの。今までに聞いたことのない、とてもきれいな女の人の声が。その人が力をくれた、私を幸せにしてくれる、皆を友達にできる力を!」
少女はだんだんと声を張り上げ体が変化していく。体が木のようなものに変わり血のような不気味な色をした糸が全身に巻き付いていく。
「この力のおかげでたくさん友達ができた、でもまだ足りない。あなたも友達になって?」
彼女がそう言い終わると大量の人形が奥の扉から流れ込んできた。
『ッッ!これ全部元は人です、全てに魂が入ってます。』
「協会に見つかってなかった期間を合わせても多すぎるだろ!」
後ろからも現れあっという間に部屋が人形でうまる。近づいてきた数体が斧のような腕を振ってきた。刀で防ぎ殴り飛ばしていくが進行は止まらない。飛ばした奴らもすぐに起き上がってくる。
「ツバキ、ハンマーだ。」
『了解です。』
刀が溶け、変形していく。3秒ほどすると再び固まりハンマーに形を変えた。
「よし、ゴメンな。」
無関係の人を殺してしまうことに気分を悪くしながら人形の頭を砕く。隙を見て人形達の間に入り込みなんとか部屋から脱出する。
「ツバキのここ以外にも人形がいないか調べてくれ。」
『わか……ま…た』
「ツバキ?」
『あれ…通……悪、い……んで…ねじれ…』
少しするとバッチがプツンと鳴り、通信が途切れた。
「う、嘘だろ?ここで切れたら洒落にならねぇぞ。」
「ここにいた、皆お願い。」
「クッソ!もう追いついたのか。」
見つかっては逃げ、見つかっては逃げを繰り返す。ツバキと通信できないので事前に人形がどこに潜んでいるのかを把握することもできない。しかも人形は砕いてもしばらくすると元通りになるなってしまうため数も減らない。
「多すぎるんだよ!」
そう叫びながら横からやってきた人形の頭を砕く。次に足で払い除け体勢を崩したところにハンマーをねじこむ。やっとの思いで正面の五体を倒したら奥からさらに十体が追加でやってくる。直撃は避けているが体中傷だらけだ。
体力は残っているがまだ解決の糸口すら見つけれていない。早めに何とかしなければ。
カラン、コロコロ
人形と戦っていると、不意にそんな音が聞こえた。足元を見るとTのマークがついた缶が転がっていた。
プシュー
缶から放出された煙が一瞬にして辺りを満たす。すると突然体の動きがゆっくりになった。どれだけ力を込めてもさっきの半分も出ない。周りを見ると人形たちの動きも鈍くなっていた。
さっきのはT社の減速煙か。
どこから、なぜ、そう困惑しているといきなり後ろに引っ張られた。そのまま引きずられていると部屋の前で止まりその中へ投げられた。
「雑にやってすまなかった、あれ以外方法がなくてな。」
床に頭をぶつけて悶えていると俺を引っ張っていた人物はそう言ってきた。
スキンヘッドの男性だ。右手には棘のついた盾が握られている。
「俺はロン、5級フィクサーだ。ここに一週間くらい閉じ込められてる。アンタは?」
「イテテ…ビリオン、4級フィクサーだ。」
「4級か、頼もしいな。早速だがこの状況を何とかできるかもしれない、俺一人じゃ無理なんだ、協力してくれねえか?」
「…詳しく話してくれ。」
「まず、あいつら全員体中に赤い糸が巻き付いてるだろ、そのうちの一本が天井に繋がってるんだ、よーく見なけりゃきずねぇほど細いけどな。それを辿っていくと二階の部屋に繋がってるんだ、扉には鍵がかけられてる。あそこにはあいつらを殺せる何かがあるはずだ。」
「同じような部屋はあったか?」
「いや、あの部屋以外赤い糸もなかったし鍵もかけられてなかった。」
「それにかけるしかないってことか。」
「そういうことだ、俺が人形を引き付ける。あんたはその間に扉を開けてくれ。」
「わかった。」
準備を終えると、ロンは早速部屋を出て大声で叫んだ。
「こっちだ人形共!」
数秒後、床が揺れものすごい量の足音が聞こえてきた。
「あっ、あなた前に逃げた人ね。ようやく友達になってくれるのね。」
「お断りだ。」
次の瞬間爆音が鳴り響いた。
「今のうちに。」
音を立てないよう急ぎ足で階段を登る。警戒しながら移動しているが人形は一体も出てこない。あそこに全ての人形が集まっているのだろうか?
階段を登りきると目の前には錠前がついた大きな扉があった。
「これは、妖精使うか。」
ポーチから妖精が込められた棒を取り出し錠前に差し込んだ。するとカチッと音が鳴り錠前が外れた。
「よし、後は…」
ハンマーでガードすると同時、赤い光が目の前に迸った。ガキィという音が鳴り後ろに押し出される。
「ここにも人形、しかも強い!」
その人形は全身が赤い糸に覆われ今までのものより一際大きい。
こんなのとまともに戦ってたらこっちがやられる。
「くそっ、これだけは使いたくなかったんだけどな。」
そう愚痴り、ポーチからグローブを取り出して手に装着した。
アラス工房のグローブ、これで加速させた一撃を叩き込めばあの人形を倒せるだろう、しかしこれは昔に騙されて買った粗悪品だ。安全装置が壊れており最悪腕が吹き飛ぶ。
「死ぬよりマシだ。」
覚悟を決めグローブのスイッチを入れ動きを加速させる。速度を保ったまま相手の胸にハンマーを叩きつけた。当たった衝撃で糸が消し飛び木の肌にハンマーがめり込む。グローブが熱を発しメキメキと骨にヒビが入った音が聞こえる。腕からくる痛みを無視しさらに力を込める。
「壊れろぉ!」
そう叫ぶと同時、人形が派手に砕け散った。グローブは焼け崩れ指が小指を除いて全て折れている。
「いってぇ、でも早く行かねえと。」
破片や糸が集まっていくのを見て急いで奥へ進んだ。
ドクンドクンドクン
「この音、心臓か?」
部屋には赤い糸が血管のように絡まっている肉塊があった。表面には青紫色の液体がにじみ出ており所々火傷のような跡がある。今まで見たものの中でも一番醜く気持ち悪い。
「これを潰せば消えるのか?」
人形が消えないどころか逆に状況を悪化させてしまうかもしれない、だが今はそんなことを心配している場合ではない。
ハンマーを握り、肉塊の中央に振り下ろした。
「この光はッ!?」
ハンマーが肉塊にめり込むと、次の瞬間肉塊が輝いた。至近距離で見てしまったせいで目が眩み、気持ち悪さに倒れる。
視力が戻り、目を開けると空き地に立っていた。
「ワープしたのか、いや違う…館が消えた、館自体がねじれだった ……?」
周りを見ても館に入る前と同じ光景だ。本当に館だけが消滅したのだ。
「おーい、大丈夫か。」
「ロン! 何が起こったかわかるか。」
「いや、急に人形が光ったと思ったらここにいたんだ。」
「アンタもか、ところでそっちはこれからどうするんだ?」
「一旦協会に報告しに行くぞ。」
「そうか、俺は事務所に戻る、悪いけど俺のことも報告してくれるか。詳しいことは後で説明しとくから。」
「おう、いいぞ。」
「ありがとう。」
話が終わり、腕の治療にいくらかかるのかを計算して少し憂鬱になりながら帰った。
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