治安が終わってる世界に転生した話。   作:はない人

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何を書いてもエイプリルフールのアレを超える話を作れる気がしないです。


第七話 幸福派

「え…何これ?」

 

「新しい通信機です!」

 

そう言ってツバキは手に持っていた虫…虫?を机に置いた。

 

「通信機、これが?」

 

 

「はい、大改造してこっちから操縦できるようにしました。強度もかなり上がってます。それに電波空間固定通信装置を入れているので滅多なことじゃ通信は切れませんよ。」

 

「え、ちょっ、空間固定ってそれ特異点…」

 

「全財産の8割使いましたけどそんなのどうでもいいです、ビリオンさんの魂を記録することのほうが何億倍も重要です!」

 

「えぇ……」

 

彼女はあまり都市らしくない珍しい少女だと思っていたがそんなことはなかった。ちゃんとイカれている、結構やばい方に。

 

 

 

 

 

午前11時、事務所に人が訪れた。セブン協会の制服を着た少年だ。

 

協会から直接フィクサーが来るなんて…何かやらかしたかと思っていると少年が口を開いた。

 

「ビリオンさんですね?私セブン三課所属のドユンといいます。セブン協会から貴方へ依頼があります。」

 

「…なるほど、奥で話しましょう。ツバキ、この方へお茶を。」

 

「はーい。」

 

 

ドユンさんは一口茶を飲み、話し始めた。

 

「改めて言いますがビリオンさん、あなたに受けてほしい依頼があります。幸福派、そこにスパイとして潜入してもらいたい。幸福派は知っていますか?」

 

幸福派、名前だけは知っているがどんなことを行っているかはわからない。まぁ協会に依頼されるものなんて碌でもないものに決まっている。

 

「名前だけは。」

 

「まずはそこからですね。幸福派、二年前から9・10区を中心に活動しています。彼らは路地裏の住人から幸福を抽出しそれを他の組織に売りつけるということをしています。」

 

幸福を抽出する?折れた翼の技術か?

 

「そして先週、11区で幸福派が活動を始めていることがわかりました。協会会議を行い、規模が拡大する前に潰すという結論に至りました。そこで人数や現在の状況、幸福を抽出する方法を調べることになったというわけです。」

 

「報酬は?」

 

「400万アン、そしてセブン協会の戦闘技術の一部を提きょ…」

 

「受けます。」

 

「は…はぁ、わかりました。それでは三日後に行ってもらいます、細かいことは報告書を見て下さい。」

 

食い気味に答えたせいで少し引かれてしまったがそれほど今回の報酬は価値があるのだ。依頼料がかなり高いのもあるがそれよりも戦闘技術を教えてもらえるということが大きい。

セブン協会は他の協会と違い規模が大きいわけでも有名な工房の武器を大量に持っているわけでもないがその差を埋められるだけの戦闘技術を持っている。それを教えて貰えるというのは今まで身体能力でのゴリ押しばかりしてきた自分にはとても有難い。

 

 

 

三日後、幸福派のアジトへ向かった。免許を剥奪された5級フィクサーという設定で潜入するため服をボロボロのものにして顔も一時的に整形している。刀にもしようとしたがツバキがそれだけは絶対に許さないと大暴れしたため刀だけはそのままだ。

 

巣の近くのビル群、そのうちの一つが幸福派のアジトだ。入り口にはヨレヨレのスーツを着た目つきの悪い男が立っている。おそらく見張りだろう、迷わず話しかけた。

 

「そこのおっさん、ちょっといいか?」

 

「あ?誰だお前?」

 

「幸福派だろ、俺も入りたいんだが。」

 

「……中入れ。」

 

手招きをして男はビルの中へ入っていった。俺も続いて中に入る。

 

ビルの中は至って普通の内装だ、そこら事務所と何ら変わりはない。床にある血痕と濃い血の匂いを除けばだが。

 

フィクサーに警備されていない建物の住民を襲って拠点にする、組織がよくやる手段の一つだ。こういうことをするから組織は苦手だ。

 

エレベーターで4階まで上がる、そこから右に行くと他とは少し違う雰囲気の部屋に通された。

 

中には男が二人いた。片方は俺よりも一回り大きく顔に大きな切り傷がある、もう片方はソファーに座り高そうな巻きたばこを吸っている、おそらくこいつがボスだろう。

 

「ボス、うちに入りたいやつだってよ。」

 

ボスと呼ばれた男はタバコの火を消し俺をじっくりと見てきた。

 

「君、名前は?」

 

「ラグール。」

 

予め決めていた偽名を名乗る。

 

「前は何やってたの?」

 

「フィクサーだ、契約違反で免許は剥奪されたけどな。」

 

そう言うと部屋の雰囲気が重くなり俺を見る視線も鋭くなった。まぁ元フィクサーは警戒されるよな。

 

「…ふーん、それは頼もしい。君、部屋に案内してやって。」

 

「了解しました。」

 

さっきの男に2階の部屋に案内されここで暮らせと言われた。

 

ドアを閉め防音装置を起動させ、ツバキと会話をする。

 

「ひとまず入ることはできたな。」

 

『3人くらい監視ついてますよ。』

 

「それは仕方ない。で全部で何人くらいここにいた?」

 

『30人くらいです、でもまだまだ空き部屋もあったしこれからドンドン増えていくでしょうね。』

 

「多いなー」

 

暫くは監視がずっとつくしエレベーターはカードを使わなければ動かないタイプだったのでまともに調査をすることは難しいだろう。ツバキがいなければだが。

 

「頼んだぞ。」

 

『任せてください!』

 

ツバキがそう言うとバッジがパキパキと音を立てて変形していく。10秒ほどすると蜂のようなものになった。

 

『役立つ時がすぐに来ましたね!』

 

「俺いるか?ってなるけどな。」

 

ツバキが魔改造したバッチには録画機能や飛行機能も備わっている。情報収集にこれほど便利なものはなかなか存在しないだろう。その代わりこの状態のときは滅茶苦茶電気を消費するし俺から半径一キロほどまでしか動けないが。

 

『では行ってきます!』

 

そう言うと扉の隙間から蜂は飛んでいった。

 

 

 

一時間後、蜂が戻ってきた。

 

 

 

「どうだった?」

 

『大体わかったんですけど一部屋だけ入れなかった部屋があったんですよねー。』

 

「どこ?」

 

『4階のボスの部屋の更に奥です。あそこだけ警備が二人いた上にJ社のロックが掛けられてて。』

 

J社のロック?指の組織でもない幸福派がそうまでして守りたいものは一つしか思い浮かばない。おそらく他人から幸福を抽出する何かがあるのだろう。

ツバキが情報集めてきたらすぐにトンズラすればいいと思っていたがそう簡単にはいかないようだ。

 

妖精を使って開けてみるか?いや、バレずに行動することは難しいしそもそも開けれない可能性だってある、すぐに行動するメリットはない。

 

「待つしかねぇか…」

 

次の日、午前は雑用を、午後は見張りを行った。夕方ボスが数人連れて何処かへ行っていた。監視されていたので追うことはできなかった。

 

次の日も雑用と見張りをした。

 

その次の日もそのまた次の日も同じことをやらされあっという間に一週間がたった。

 

今日もまた雑用と見張りか…、と思いながら準備をしていると突然扉が開けられた。扉を開けてきた男は楽しそうな表情で口を開いた。

 

「新入りついてこい、収穫を見してやる。」

 

「収穫?なんですかそれ。」

 

「説明するより見たほうが早い。面白いもんが見れるぜ!」

 

「…わかりました、すぐに行きます。」

 

収穫が何なのか分からないが探るチャンスだ、大急ぎで準備を終わらせ跡後をついていく。

 

古びた看板、そこら中に転がった空き缶、そして時々聞こえる悲鳴、ここはk社の裏路地の中でも特に危険な場所の一つだ。草なんて一本も生えてなさそうなここで収穫とやらを行うらしい。

 

アパートの階段を登り203号室と書かれた部屋に入る。中では先に来ていた組員二人とボスがこの部屋の住民らしき人物と話している。

 

「そんな…子供が成長するまで守ってくれるって言っていたじゃないですか!いきなりやってきて子供を貰っていくなんて無茶苦茶だ!」

 

「はい、ですから子供の幸福が成長するまで守ってあげたじゃないですか。」

 

「何をわけの分からないことを…」

 

ザシュッ

 

その人物は言葉を言い切る前に頭を切り飛ばされた。胴体が倒れ、首の断面から血が吹き出た。

 

「全く、そっちが勝手に勘違いしただけだっていうのに。失礼ですねボス。」

 

「そうだね、でも見てみろ子供の方はかなり良い。裏路地で生まれたとは思えないくらい多くの幸福を持っている、いい意味で親には似なかったようだね。」

 

そう言うとボスはポケットからフラスコのような物を取り出した。

 

「見とけ、あれが収穫だ。」

 

組員の一人に耳打ちされる。さっきの会話などからして幸福を抽出することを収獲と言うのだろう。バッチの録画機能をこっそりオンにする。

 

床で気絶していた子供の頭にフラスコの先が刺さった、だが不思議なことに一滴も血は流れない。フラスコがさらに深く刺さっていく。フラスコが全体の半分ほど刺さったところで変化が起こった。フラスコに黄金の液体が流れ始めたのだ。液体は少しずつフラスコに溜まっていく。あれが幸福だろう、脳から直接吸い出しているということか?

 

15分ほどすると液体は流れなくなった。フラスコが抜かれると子供は急に黒ずんでいき最後は石像のようなものになった。

 

「よし、これは砕いて捨てておいて。」

 

「はい、お前も手伝え。」

 

「…わかりました。」

 

子供だったものをハンマーで砕き窓から投げ捨てる。俺も生き残るために子供を殺したことがあるためそんな資格はないがそれでも腹は立つ。

 

帰りは俺もツバキも何も喋らず帰った。

 

午前4時半、裏路地の夜が終わったばかりだ。この時間は見張りの数人を除いて全員まだ寝ている。幸福の抽出方法もわかった今ここにいる必要はない。

 

『情報送って協会が来るまで待機するってことはだめなんですかね?』

 

昨日盗んだエレベーターのカードを取り出しているとツバキがそう疑問を口にする。

 

「ウサギチームが来るらしいからそんなことしたら俺も殺される。」

 

『R社雇うなんて本気ですね。』

 

 

荷物をまとめ、音を立てないように忍び足で歩く。事前に防音機を仕込んでいたエレベーターに乗って降りる。

 

一階にいるのは見張りの二人のみ、そしてどちらも俺より弱いので気絶させることは簡単だ。

 

「ん?どうし…グハッ!」

 

「何し…グエッ!」

 

鞘を脳天に叩き込み気絶させる。2時間はこのままだろう。

 

ビルから出たところで足に力を込め一気に走り抜ける。あとはバスに乗って事務所に帰るだけだ。このスピードで行けば2分でつく。

 

『追われてますよ!』

 

そう言われ振り返ると槍が飛んできた。即座に切り落とす。

 

「今ので殺したはずだったんだけどな。」

 

俺に槍を投げてきた人物、それはボスの部屋にいた大男だった。

 

「…いつからつけてた?」

 

「部屋を出たときからだ。新しく来たやつは一ヶ月ほど俺が監視することになってる。」

 

俺はともかくツバキが気づけなかったとは、コイツかなり強い。

 

「それなのに一人で来たのか。」

 

「お前なんざ俺一人で十分なんだよ!」

 

男の拳と刀がぶつかり火花が散る。弾丸のような拳が頭めがけて突き出される。頭を傾けて回避し同時に男の頭に膝蹴りを入れる。男は少しふらついたがダメージはなさそうだ。体勢を立て直している隙に距離をとる。

 

「ツバキ。」

 

『2分でできます、後右腕は義腕なので気をつけて。』

 

「はいよ。」

 

またも腕が突き出される。刀で弾き反対の手で腹を殴り男を吹き飛ばす、が男が直前に俺の服を握っていたので俺も吹き飛んでしまう。そのまま投げ飛ばされビルの壁に叩きつけられる。立ち上がると目の前には拳があった。しゃがんでギリギリで回避し刀を振るうが空を切った。

 

少しでも弱らせておきたかったが仕方ない。解析できるまで守りに徹しよう。

 

「ツバキ、盾!」

 

『了解!』

 

拳がぶつかる瞬間、刀が盾へと変形し拳を弾き返した。これで2分もたせる。

拳がぶつかるたび凄まじい音が鳴るが盾には傷一つついていない。何度も繰り返していると相手に一瞬隙が生まれた。すかさず盾で殴りもう一度吹き飛ばす。

 

「種も仕掛けもあるってな。」

 

男がそういった次の瞬間鳩尾に何かがめり込んだ。内臓に衝撃が届き口から大量に血が出る。そしてお返しとばかりに蹴り返された。

 

「オエッその拳外れるのかよッ!」

 

鳩尾に飛んできたのは男の手だった。所詮ロケットパンチというやつだ。

 

「やってるやつが少ないからな、大体引っかかってくれる。」

 

より殺気の籠もった一撃が放たれる。防ぐことはできたが威力を殺しきれず後ずさる。次々と攻撃が繰り出されさらに後ずさる。このままでは壁に追い込まれてしまう。

咄嗟に盾を投げ盾ごと殴る。これで距離は取れたが依然不利だ。逃げようとしてもあのレベルだと普通に追いつかれる。

 

『解析は終わりましたけど…当てれますか?』

 

「考えはある、とりあえず刀に戻してくれ。」

 

『気をつけてくださいね。』

 

義腕での攻撃はモロに喰らえば余裕で死ねる。相手もそれがわかっているので義腕でばかり攻撃をしてくる。義腕には魂が入っていないため当てても意味はない。

 

刀を振るう

 

しゃがんで避けられる

 

刀を振るう

 

義腕でガードされる

 

刀を振るう

 

上に飛んで避けられる

 

刀を振るう

 

後ろへ回避される、今だ!

 

「伸ばせ!」

 

そう言うと刀身が1mほど伸びた。男との距離も1mほど。これで当てても皮膚を少し傷つける程度にしかならない、だがそれで十分だ。

 

男の体に触れる直前、鍔のスイッチを押し刀を青くする。刀身が男の皮膚を傷つけたと同時、男の体がガラスのようにひび割れ、青く輝き、そして砕けた。

 

「終わった…オエッ、内臓は洒落にならんぞ…」

 

『バスがあと一分で来ます。辛いでしょうけど急いだほうがいいかもしれません。』

 

「マジでぇ?!」

 

翌日、幸福派はウサギチームとセブン三課によって潰された。あのフラスコはk社が買い取ったらしい。その後k社は新しい薬を作り出した。今までとは違う多幸感を得ることができて大人気らしい。

 

人の苦痛という餌を食い翼は成長していく。それが都市の生態系だ。何年経っても変わることはないだろう。

銀の弾丸の外伝とか見たい?

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