彼女は出生に秘密がある《ドドドチート個性持ちのレイドボスがA組で上方姉面をする話》   作:狐ヶ崎

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第七話「誰も彼も言うことを聞かない」

 

「なんなんだよ……ショック吸収も碌な効果がないまま脳無がやられてる……吸収もできない速度で肉を抉りとるとかさ……こんなの聞いてないぜ『先生』……!」

「随分と高評価をしてくれているようで嬉しいよ。弔くん、だったかな。君の言うその『先生』とやらに、わたしも少しだけ心当たりがあってね。あんまり君をここで殺したくはないんだ。君を殺してしまって、あとで怒られるのは嫌だからね」

 

 まだ塞がらない穴の空いた身体で咆哮し、無謀な攻撃を仕掛けてくる脳無に目を向け、続けざまにその体躯に向けて複数の小さな高重力場を作り上げる。

 それはたちまち極小のブラックホールとなり、定められた範囲を抉りとるようにして、脳無の身体を穿ち貫いた。肩を、腕を、胴体を、脚を。慣れるには回数を重ねるのがいちばんだ。

 

 弔くんとやらは、さも苛立たしげに己の首筋を掻きながら、私にじっとりとした視線を投げた。

 

「……へえ?じゃあ、おまえは俺の敵じゃないってことか?」

「そうだな……君が今回の襲撃で殺すつもりなのがオールマイトだけって言うのなら、わたしは干渉をしないでいよう。この脳無とかいうのは随分と穴だらけにしちゃったけど、こっちもイレイザーヘッドを傷だらけにされているから、痛み分けってことで」

 

 ずるずると再生を続ける穴だらけ脳無くんを最後に蹴り飛ばし、私は笑う。

 新しい武器も手に入ったことだし、死柄木弔くんの襲撃は私にとってプラスだったと言っていいだろう。しかも、手持ちの個性を発展させた形としての攻撃手段だ。素晴らしい成果と言える。

 

「ふうん。でも当のオールマイトがいないんじゃあ仕方ないな……それとさ、イレイザーヘッドだけじゃなくて、13号も傷だらけになってるかもって言ったら……なあ、どうする?」

 

 低い声でそう言い、嘲笑うみたく首を傾げてみせる弔くん。

 しかし、それに返事をしたのは私ではなく、その隣でずっと黙って控えていた黒い靄のヴィランだった。

 

「──申し訳ありません、死柄木弔。その件ですが……13号は戦闘不能には出来たものの、一名、生徒に逃げられました」

「…………。はあ?」

 

 電光のような仄暗い殺意が、指の隙間から覗くその昏い瞳を横切る。

 死柄木弔は執拗に首を掻きむしりながら、長く溜息を吐いた。

 

「黒霧、おまえ……おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ。すぐにヒーローたちが押し寄せる……クソ、今回はゲームオーバーだ」

 

 仕方ない。帰ろっか。

 

 不自然なほど静かに、死柄木弔は呟いた。

 私は肩をすくめてみせる。

 元より殺すつもりのない相手だ。帰るというのなら、それを止めることだってするはずもない。

 

「けど、その前に」

 

 ゆらり、死柄木弔がゆっくりと首を動かす。

 彼が澱んだ双眸で捉えた、その先にいるのは──未だ隠れながらこちらを覗いている、緑谷くんたちだ。

 

 手首に顔を掴まれている彼は、おもむろに自らの手を上げる。

 ゆる、と視線を動かして己の手のひらを見つめ、再び緑谷くんたちに目を戻して、そして。

 

 彼は、何の予告もなく、飛びかかるようにして地を蹴った。

 

「平和の象徴としての矜恃を、へし折って帰ろう!」

「──いいや、それは許せない。言ったでしょう。オールマイトだけって言うのなら、って」

 

 掴むように手を伸ばし、獣のような速度で緑谷くんたちに接近する死柄木弔のその手のひらを、追いつくと同時に返す蹴りで跳ね上げる。

 血走った目で舌打ちをする弔の五指がぐわっと開かれて、立ちはだかる私を標的に定めた。

 

「邪魔するなよ」

「それはわたしの台詞だな」

 

 殺さないというのも面倒だ。

 『重力操作』で遠くへ吹き飛ばすつもりで弔の方を睨みつければ、刹那、何かが眼前に迫ってくるところだった。

 何だ。手のひらだ。違う。手を模した、ただの模型。

 

 凄まじい勢いで飛んできた手首を瞬時に視認、弾き飛ばす。

 私の視線を遮るために、身体中に着いていた手を投擲したのだろう。

 子どもっぽくて感情制御もなっていないような男なのに、存外頭が回る。

 

 再び『重力操作』を発動しようとしたところで、弔が低い姿勢から伸び上がるようにして手を突き出してきた。

 顔を狙うそれを避けながら、考える。

 

 彼の個性は何だったかな。これだけ私に触ろうとしてくるのだから、恐らく発動条件は手のひらに関わるもの。

 相澤先生が戦っていたときは、多分彼に触られると同時に出血していた。

 ただ、即死するようなものではない。

 

 そこまで考えたところで、ズッと私の右足が唐突に地面に沈み込んだ。

 咄嗟に目をやれば、黒霧と呼ばれた男の個性である黒い靄が足に絡みつくようにして動いている。

 

 拘束か。なかなか考える。

 

 有無を言わさず片足を引きずり込まれ、さすがに体勢を崩した私の頬に、伸びてくる弔の五指が一瞬触れた。

 瞬間、違和感。ピシ、と頬に罅が入ったのだ。

 

「なるほどね」

 

 呟き、『超再生』を頬に集中させる。

 罅割れが止まり、ゆっくりと巻き戻すようにして癒えてゆく実感。……五指で触れたものを罅割れさせて壊す個性だろうか。治してみた感じでは超再生でカバー可能、しかし、どうにも違和感がある。

 

 治りきった気がしないのだ。というより、ずっと頬に超再生が働いている感覚がある。

 恐らく超再生の個性をオフにすれば、再び頬が罅割れ始めるだろう。

 

「面倒だな!」

 

 違和感の残る頬に指をかけ、私は一気に肉を引き剥がした。

 筋繊維と頬骨が外気に触れて冷たさを知り、次の瞬間には再生した肉が再びギュルッと盛り上がって元の形を取り戻す。つるりとした肌が戻ってくれば、もう違和感はない。どうやら触れられた箇所を切り離せばいいらしい。

 いいらしい、というか、切り離さない限り罅割れが伝播し続けるのだろう。なんとまあ凶悪な個性である。

 

 最初に戦ったのが相澤先生で良かった。これがもし相手をしたのが生徒とかだったら、きっとなすすべもなく塵屑となっていただろう。

 

 そして、死柄木弔の個性と同じくらい面倒くさいのが、黒霧とかいうヴィランのこのワープゲートである。先程から私の片足を半分ほど呑み込んだまま、まるで固定されてしまったかのように動かない。

 引き抜こうとしても引き抜けないのはシンプルに億劫だ。『超再生』のある私からしてみれば、例えばこのままゲートを閉じて丸ごと切断とかしてくれた方が有難いのだけれども。

 

「まったく。君も完全に押し潰したと思ってたけど、生きてたの」

「……服は肉体ではありませんので」

「あは。そりゃそうだ」

 

 離れたところにいる本体に個性を飛ばそうとするも、隙のない勢いで襲い来る弔の手のひらを対処するのに忙しくてそれどころではない。

 

 仕方なく、飲み込まれた方の片足から勢いよく爆風を生み出した。吹き荒れる爆風が靄の中をめちゃくちゃに荒らし、それが響いたのだろう、黒霧の顔を歪ませる。

 最後の仕上げに右足を内側から爆発させて血と骨を撒き散らした私は、ずるりと断ち切れた右足を引き抜き、そのまま『重力操作』で浮遊した。

 

「チート個性かよ。何なんだ」

 

 腿の辺りからブチブチになった脚も、ぐっと力を入れれば新しいものが瞬間的に生えてくる。

 死柄木弔の恨みがましい舌打ちを聞きながら、私は苦笑した。

 

「まあ、個性(これ)ばかりはね。否定できないな」

「ああそう……。じゃあ、これはどうだ?」

 

 飛び退って距離を取った死柄木弔が、「脳無!」と叫んだ。

 ぬっと現れた黒い巨体は、先程盛大に穴をあけたというのに、もう完治して傷ひとつ見当たらない。

 

 身構えるが、そこまで不安視はしていなかった。

 無視できないのは弔の手のひらによる攻撃だけだ。たとえ脳無が弔と連携して襲ってきたとしても、充分に対処が可能である。むしろ近づいてくれた方が壊しやすい。

 

 しかし、続いて弔が叫んだ命令は、私の予想をひっくり返すものだった。

 

「子どもを殺せ!」

 

 死柄木弔の指示に雄叫びを上げる脳無と同時に、弔が私の方へと再び突っ込んでくる。襲い来る手のひらを躱し、また躱し、そのラッシュに顔を顰める私に向けて、弔は嫌な笑い方をした。

 

「見てたぜ、さっきも子どもを庇ってたよなあ……? おまえさ、仲間を殺されたくないんだろ」

「賢しいな。そうだよ、彼らの個性は優秀で、何人かは換えがきかないからね!」

「あ?……ハハ、ハハハ!随分と冷たい言い方だなあ……仲間のことを個性でしか見てねえのかよ」

 

 緑谷くんたちの方へ突進していく脳無が目の端を過ぎる。

 どうにかして視線を向けようと思うものの、脳と身体の処理が追いつかない。重力操作の個性はその要求される緻密さゆえに随分と頭を使うのだ。このままでは脳無が緑谷くんたちのところまで到達してしまう。それはいけない。

 

 仕方がないな。

 ふっと頭のスイッチを切り替える。

 

 顔面を狙って伸びてくる死柄木弔の片手を掴み取り、睫毛を鋭く上げた私は勢いよく足を地に叩きつけた。

 

 弔の片手に触れた私の右手がボロボロと崩れ出すのと同時に、私たちの立つ地面が僅かに振動し始める。

 迷いなく反対側の手で鋭く薙ぎ、崩壊しつつある自らの右腕を肘のところですっぱりと()()

 その鋭利な傷口から血が飛んだところで、地面から凄まじい勢いで黒色の蔓のようなものが伸び上がった。

 

 地面から突き出した黒蔓は私の個性のひとつである。

 黒々とした影のような蔓は空中で獰猛に枝分かれし、しなったその先端が対象である死柄木弔を多方向から狙い打つ。目を走らせ、舌打ちした弔が個性で数本を塵にするが、しかし数を増した蔓になすすべもなく絡みつかれ、結果としてその動きを止めざるを得なくなった。

 

 弔が蔓にしっかりと拘束され、身動きが取れなくなったのを確認すると、私は身をひるがえす。

 

 

 しかし、その頃には、脳無は既に緑谷くんの元へと辿り着いていた。

 

 

 まずい。殺される。

 そう思った瞬間、背中に蛙吹ちゃんと尾白くんを庇うようにして跳ね上がった緑谷くんが、ぐっと地を踏みしめる。

 

 深く落とされた腰、固く握りしめられて引かれた拳、光さえ思わせるほどに強い意志を秘めた瞳──雷電のごとく全身に走る、圧倒的な力の煌めき。

 

 そして、彼は突進してくる黒色の巨体へと、個性をひらめかせて振りかぶった拳を存分な勢いで叩きつけた。

 

「スマッ……シュ……!」

 

 拳と胴のぶつかる重い音が空気を震わせて鳴り響く。

 まさに神速の一撃だった。鋭さと速さの乗った拳は脳無の腹に激突し、その巨躯を震わせる。

 風圧に巻かれ、ぶわっと土煙が舞い上がった。

 

 しかし、その土煙が晴れてみれば、緑谷くんの打ち付けた拳は脳無の腹に激突した格好のまま、脳無は依然として無傷の体躯を保持している。

 感情のない眼球がぐるりと動き、脳無は緑谷くんの腕を掴み上げた。

 

 その時である。

 

 派手な轟音とともに入口扉が吹っ飛んだ。

 ゴッと吹き抜けてゆく風と、土煙を纏って階段の上に見える人影。その立派な姿かたちは。

 

 

「もう大丈夫。私が──来た」

 

 

 オールマイト!

 誰かが、そう希望の叫びを上げた。

 

 

 

 目の前を風圧が駆け抜ける。ヴィランたちに一撃を入れて卒倒させつつ、勢いを止めずに駆け抜けたオールマイトが脳無に凄まじい拳を叩き込むのを視認して、私は弔を縛っていた黒蔓の個性を、再生した手を軽く振りつつ解除した。

 

「死柄木弔くん。二度目はないよ」

「チッ。分かってるよ。元から狙いはオールマイト……それなら手出しはしないんだろ」

 

 消失した拘束に、首を鳴らす弔が鬱陶しそうにそう言った。

 

 分かっているのなら文句はない。

 念のため脳無くらいは壊しておこうと思ったが、既にオールマイトが続けて突撃を仕掛けていくところだった。

 まあ別に割り込むほどでもないし、そもそも干渉しないと明言してしまっているから傍観でいいだろう。というかオールマイト、もう緑谷くんたちを回収して向こうに置いてきたのか。

 

「緑谷くん」

「わっ……死柄木さん!」

 

 とんっと彼の傍に飛べば、手に汗を握るような顔でオールマイトを見つめていた緑谷くんが驚いた顔で振り返った。

 その声につられたのか、蛙吹ちゃんと尾白くんもこっちを見るものだから、再度、全員に怪我がないか確認しておく。大丈夫そうだ。

 

「とりあえず今は避難しよう。どうしてこっちに来たのとか、言いたいことは沢山あるけど、それも全部後だ」

 

 言いつつ視線を天井に向け、ずっと浮遊していた相澤先生を引き寄せる。

 ぐったりとした痩身を両腕でキャッチすれば、どうやら辛うじて意識が戻っていたみたいで、先生は薄らと目を開けた。

 

「……おまえ……」

「喋らない方がいい。声もガサガサだし、多分鼻だって折れてるよ」

「あとで……説教……」

 

 それだけ言って、相澤先生は目を閉じた。

 多分限界だったんだろう。両腕は折れてるし、顔面だって血だらけだ。何とかしてあげたいのは山々だけど、生憎他人の怪我を何とかできる手段は持ち合わせていない。

 

 うーん、超再生以外にも必要かな。回復個性。

 

 浮かせた相澤先生を緩やかに出口の方に向かわせつつ、もう一度三人を促した。

 私の声に小さく頷いた尾白くんと蛙吹ちゃんは出口に向かおうとしてくれたのに、しかし緑谷くんだけは一歩も動かず、戦うオールマイトを食い入るようにして見つめている。

 

 その大きな目に過ぎるのは、心配や不安を超えた何か……焦燥。いっそ青ざめたような顔で、脳無に拳を叩きつけるオールマイトの一挙手一投足を見据えている。

 その唇が、声もなく動いた。──ぼくだけが。

 

「死柄木さん」

 

 そして、緑谷くんは何かを決意したような顔をして、私をばっと振り返った。

 視線が交差する。

 

「みんなをお願い……!」

 

 緑谷くんの足に、強く力が込められる。必死な顔をしているのは分かっていた。だから、彼が何をするのかも。

 

 彼の、踏み切りは一瞬。

 

「オールマイトッ!」

 

 緑谷くんは出口とは反対方向、オールマイトの戦っている方へと駆け出した。ああもう、と唇の端から思わず苛立ちが零れ出る。

 

「まったく。人の話を聞かない子ばっかりだな!」

 

 これ以上余計なことをする子どもが出ないようにと、有無を言わさず蛙吹ちゃんと尾白くんを『重力操作』で拾い上げる。

 ケロ、と蛙吹ちゃんが小さく悲鳴を上げた。

 構わず宙を滑るように移動、出入口付近へと彼らを運ぶ。

 

 吹き飛んだドアの近くに、麗日ちゃんたちが涙に濡れた顔で座り込んでいた。その隣に蛙吹ちゃんたちを下ろしつつ、その場にいる人数を数える。

 ああ、やっぱり足りない。誰も死んでいないといいが。

 

「死柄木さん!」

「那由多ちゃん!梅雨ちゃん、尾白くんも……!無事でよかった!」

 

 ぽろ、と涙が麗日ちゃんの目尻から零れ落ちた。

 その奥、泣きながらしゃがみこむ芦戸ちゃんの目線の先には、倒れ伏した13号がいる。背中部分が大きく損傷して血だらけだ。

 意識はある。立とうとしている。それでも、傷が酷くて動けないようだ。

 恐らくやったのは黒霧だろう。戦闘不能にしたと言っていた。

 

 傍に行き、芦戸ちゃんに並ぶようにして13号の元へ屈み込む。

 

「動いてはいけない。君はよく戦った。大丈夫、生徒はわたしが守ると約束しよう」

「だ……めだ……君も、生……徒……」

 

 弱々しくも制止しようとする13号に、私は微笑んだ。

 教師の鑑だ。

 

「平気だよ。オールマイトもいるし、君が心配するようなことは何もない。そもそもわたしは強いんだ。誰よりもね」

 

 彼女の隣に相澤先生を寝かせ、私は再び立ち上がる。

 広場の方を振り返ると、ちょうど盛大に爆炎が上がって爆豪くんが黒霧を押さえつけたところだった。

 

 黒霧を見下ろす爆豪くんが勝ち気そうに笑う。それと同時に一気に氷が冷え広がり、オールマイトを押さえつけている脳無の半分ほどを凍らせた。

 

 オールマイトが緩んだ脳無の拘束を振り払って逃れ飛ぶ。

 黒霧と脳無が無力化されて、オールマイトは未だ健在。

 背中に生徒たちを庇っているとはいえ、もうこうなれば死柄木弔には分が悪いだろう。

 

 だらりと腕を垂らした猫背の痩躯。

 身体中を掴む手首だけが異様な風体を醸し出している。

 その首が、ゆるりと巡って。

 

「脳無」

 

 その指が、黒霧を捕らえている爆豪くんを指した。

 二度目はないって言ったのに、懲りない男だ。

 

 パン、と音高く両手を打ち合わせた。

 ゆっくりと広げた手と手の隙間、そこにできた空間から覗き見える死柄木弔に向けて、私は短く息を吹き込んだ。

 

 次の瞬間、弔の全身からパッと血が飛び散る。

 まるで見えない鋭い刃物に、一瞬のうちに全身の薄皮を撫で斬りにされたみたいな血の飛び方だった。

 

 間を置かず、そこらに転がっている掌大の瓦礫の欠片を手早く引き寄せた。パシッと受け止め、それを強く握りしめる。

 

 広場では、咆哮した脳無が凍って砕けた右半身をのたくるように再生させている。

 やがて再生の終わったそれが爆豪くんに視線を据え、即座に地を踏み切ったのを見て、私は握った瓦礫の欠片を一息ののちに投擲した。

 

「加速──快点(行け)

 

 ギュオ、と空中で加速する瓦礫に、『重力操作』による補助も加えれば、それは弾丸よりも凄まじい速さとなって脳無の方へと飛来する。

 残像を残して軌道とした瓦礫の凶弾は、たしかに狙い違わず、脳無の肩を打ち貫いた。

 

 筋肉が弾け、肉が潰れ、骨が砕けて、脳無は上体を大きく崩す。

 衝撃に耐えきれず瓦礫は四散し、その尖った破片を脳無の肉体内部に撒き散らした。貫通とまではいかなかったものの、超再生を有する相手には特別効果的な結果だ。

 

 そして、その隙を見逃すオールマイトではなかった。

 

 彼の瞳がギラリと光る。

 筋骨隆々の肉体がさらに隆起し、オールマイトは巨拳を握る。

 まるで気迫が衝撃となって周囲を揺らすかのようだった。膨らんだ威圧感が空気を震わせ、その威容を知らしめる。

 

 強く、さらに強く。

 

 平和の象徴──ナンバーワン・ヒーローが、陥没するほど重く、地を踏みしめた。

 そして、引き絞られた脚力は、彼が凄まじく地を蹴りきるのと同時に、拳ただ一点へと集中する。

 

 打ち出された拳は、脳無の拳と衝突する。

 それは一気に土煙を巻き起こし、その鋭い刹那に、オールマイトの拳が再び振りかぶられるのが見えた。

 

 乱打、乱打、乱打!

 

 正面から打ち込まれる拳の殴打。

 その一発一発が衝撃波となって荒れ狂う暴風を巻き起こす。正義という強い光を宿したオールマイトの瞳が、相対する脳無を睨み据える。振りかぶられる拳が唸りを上げた。

 空気を軋ませ、音さえも置き去りにして重ねられる拳突は、身を削りながら放たれる全力の、熱く燃え続ける光である。

 

「ヴィランよ、こんな言葉を知っているか」

 

 唇の端から血を撒き散らしながら、オールマイトが強く笑う。

 少しずつ、脳無の体躯が押されていく。

 彼が続けて叫ぶ言葉は、最高峰の学び舎にて連綿と受け継がれてきた輝きを指し示した。

 

さらに、向こうへ(プルス・ウルトラ)──!!」

 

 

 

 

 

 敵連合による雄英高校襲撃事件は、雄英側の死者ゼロ、負傷者四名という結果で幕を閉じた。

 

 相澤先生と13号は傷の深さから救急搬送されることとなり、詳しい事情聴取は教師陣の意識が戻ってから順次行われることとなった。

 最後の最後で足を折ったらしい緑谷くんはリカバリーガール管轄下で治療されることとなり、保健室送りになったと聞く。オールマイトも同じだった。

 

 翌日は臨時休校となり、自宅待機が命じられた。

 ニュースでは連日、雄英高校襲撃事件について報じられたが、どの局も繰り返し侵入と逃亡について述べるばかりで、それ以上の詳しい概要について報じる局はどこにもなかった。

 

 

 そう、私が殺したヴィランたちを報じる記事さえも。

 




 USJ編、完!
 次回、事情聴取!……の前に幕間があります。
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