ミアハ・ファミリアの”完璧”   作:ナハトAB

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【鍛冶場】

 

「……外にいるのって【完璧(パーフェクト)】だよな?」

「あの人、なんでウチの前でうろうろしてんの……?」

 

ある日、【ヘファイストス・ファミリア】の拠点であり鍛冶場とも言える"バルカの工房"にて。主に新人である団員達を中心にざわめきが広がっていた。

 

その鍛冶場で、鍛錬している団員達の意識が外で何やら奇怪な行動を取る【完璧(パーフェクト)】こと、ヴァディム・ペルフェットに囚われてイマイチ集中できないでいた。

 

「……」

 

そんな団員達を見ていたヘファイストスからすると、"集中できていない"と激励を飛ばしてやりたくなるが、あいにくヴァディムの行動があまりにも奇抜なそれなため、激励を飛ばすべきか迷うのは無理もない。

 

現に、意識を囚われて集中できない様子が見られる団員たちは、ファミリアに入ってまだ日が経っていない新人。以前からファミリアに所属している先輩とも言える団員は、一瞬ヴァディムに目がいっただけで、集中が乱れているといった様子はない。

 

―――ああ、あの人が来たのか。

 

それぐらいの感想しか浮かばない。確かに彼らも最初は集中を乱されまくりであった。だが、人というのはいつか慣れる生き物。新人を除く団員達は、なるべくヴァディムに意識を割らないようにする技術を身に付けているのだ。

 

「……ハァ」

 

集中の妨げになっているヴァディムに深いため息を吐くヘファイストス。彼に害意が無いのは分かっている。彼の性格の故に、しょうがないことも分かっている。だが、いくら古参の団員に影響がなくとも、新人達に影響を及ぼすようであれば、何か一言言ってやらないと気が済まない。

 

「……椿、お願いね」

「承知した、主神様」

 

新人達の事は、一旦団長である椿に任せることにして。ヘファイストスはそう言い残す。

 

ヴァディムの奇怪な行動に関しては、古参である団員――椿も同じく分かっている為、彼女は苦笑いを浮かべながら承諾した。

 

「……」

 

ヘファイストスは、そのまま外に出て何かを口ずさみながらウロウロしているヴァディムの姿をしっかり捉えて。

 

「ハァ……ヴァディム」

 

今日で二回目のため息を吐いたヘファイストスは、彼の名前を呼ぶ。何度も付き合いがあるヘファイストスにとっては、もはや引くを越えて呆れていた。

 

「ん、ヘファイストス様」

 

ヘファイストスに呼ばれ、彼女の方に顔を向けるヴァディム。その奇怪な行動は続けながらだが。

 

「待ってくれ、あと少しでキリよい数字になる――」

「用があるなら、早く入ってくれない?」

 

彼が言うには、キリの良い歩数で中に入りたいから鍛冶場の前でウロウロしているとの事。

 

彼をよく知っている者から言うと、呆れる程度でしかないのだが……彼をよく知らない者から見ると、軽く恐怖を抱かせるほどの行動である。

 

これが駆け出しの冒険者であれば、ただの"変人"だと笑いの的にされるだろう。

 

だが、彼はこの都市で随一でもあるLv.8だ。

 

束でかかっても、到底勝てないであろう実力者。彼が本気になればファミリアの一つは壊滅させるほどの事ができる力を持っているからこそ、ヴァディムの奇怪な行動を笑うことができる者はいないのだ。

 

「私の眷族()達が引いてるから、せめてスムーズに来れるよう歩数を調整しなさい……」

 

歩数を調整とは何ぞや。自分でも何を言っているのか分からないのは、ヘファイストスも分かっている。このような話をするのは、ヴァディム以外にいないだろう。そういう意味では、特別な客とも言える。決していい意味ではないが。

 

「―――次からはそうするよう努力してみる」

 

その場で足踏みをしながら、サムズアップをするヴァディム。努力するのであれば、せめて普通に来てほしい――と思うヘファイストス。これほど、言葉の意味が軽く聞こえる一句はないだろう。彼とは昔から付き合いがあるが、彼が普通に鍛冶場に来ることなんてほとんどないのだから。

 

逆に普通に来たとしたら、何か悪いことが起きるのではと疑うレべルである。

 

「ハァ……」

 

三回目のため息を吐いたヘファイストスは、思わず頭をかく。未だに足踏みをしているヴァディムを見て、何とも言えなくなるのはいつものことであるが故に。

 

 

 

 

「―――で、要件は何かしら」

 

丁度よい歩数に達したらしく……やっと鍛冶場に入り要件を聞くことにする。

 

ヴァディムは、オラリオでも注目を集めている人物であり知名度も高い。そのため、彼が奇怪な行動をやめても尚、新人達の集中がなかなか戻らないのはしょうがなかった。

 

そんな新人達に、喝を飛ばす椿の声がする。その喝にハッとした新人達は鍛錬に励み直す。そんな眷属達の様子を一瞥したヘファイストスは、ひとまず安堵の息を吐く。

 

「剣の修理をお願いしたいんだが……」

 

そう口にしながら、ヴァディムは剣を取り出して木のテーブル上に置く。それを目にしたヘファイストスはあぁ、なるほど。と納得したような疲れたような表情を見せる。

 

「―――これで9回目よ。9回目。この言葉の意味を理解しているのかしら?」

「ああ……理解しているが、それがどうしたんだ?」

「同じ武器を9回も修理を頼みに来る人は、貴方以外にいないわよ」

 

武器に限らず、物は使い続ければいつか壊れるものだ。それがどんなに出来が良い武器でも例外ではない。

 

そもそもの話、第一級冒険者であれば不壊属性(デュランダル)が付いた武器を使うのが多い。だが、彼はLv.1の頃からただ一つの片手剣を使い続けている。

 

鍛冶師としては、ひとつの武器を大切にしてくれているのは嬉しい。だが、修理を施す回数が増えれば増えるほど、それに比例して武器の耐久度も下がっていく。

 

ダンジョンに潜っている途中で武器が壊れるという事態が起これば、命の危機に晒される可能性が非常に高くなる。そう考えると、9回も同じ武器を修理に出そうとするヴァディムのそれは、もはや執着とも言えるのではないか……と思ったヘファイストスは苦言をこぼす。

 

「……まさか、貴方」

 

そこで、一つの結論が思いついたヘファイストスは口の両端が引き攣りながら口を開く。

 

「修理回数がキリよい数字になるまで――とか言わないわよね?」

……おぉ

 

ヘファイストスのそれが、正解だと言わんばかりに感嘆めいた声を上げるヴァディム。

 

――この子はッッ……

 

そんなヴァディムに、うんざりしかけるのは言うまでもなかった。まさか、彼の異常にこだわる性格が武器にまで及ぶなんて誰が考えられようか。

 

だが、ヘファイストスとしては武器を買い替えたらどうか、と言う気はあまりない。修理が9回目だとしても、その動機が不純に近いものだとしても彼が武器を大切にしているのに変わりはないから。

 

Lv.1の冒険者が買える武器の耐久度というのは、上のLv帯の武器と比較すると低くなりがちだ。だというのに、Lv.8になっても尚、その武器を使い続けている。高レベルの彼ならば、深層のモンスターと戦う機会なんていくらでもあるだろう。

 

深層のモンスター相手に、ヴァディムの持つ剣ではあまり心もとないと言える。だが、そんな相手に修理された剣で済んでいるというのが異常だ。

 

もちろん修理にはお金がかかる。だが、今持つ武器のひとつランクを上げた武器を買うよりかは安く済む。

 

8回の修理にかかる金額と、不壊属性(デュランダル)が付いた武器の金額。

 

どちらが高いかというと、圧倒的に不壊属性(デュランダル)が付いた武器だ。彼のように8回の修理で済む金額で深層のモンスターと戦えるのであれば、それでこそ金策に乏しいファミリアから修理の依頼が多くなるだろう。

 

だが、実際はそうではない。1回壊れた武器を修理する理由としては、形だけでも整えて飾りたいからという理由が多い。よほど貧困なファミリアであれば、1回修理して使うという事はある。

 

彼のように8回も武器を修理して、尚モンスター相手に戦えるという事自体がおかしい。

 

8回も修理を施された武器の耐久度は、壊滅的に低いはずであるのに、だ。

 

それも、Lv.1の頃から長らくの間ほぼ毎日使ってきているであろうモノを。

 

ようするに……彼、ヴァディムは武器の使い方が非常に上手いのだろう。下手すれば一回斬るだけでも著しく耐久度が損なわれる武器であっても、損なわない使い方ができる。

 

8回も修理を頼まれた剣を、目にしたヘファイストスから見てもヴァディムの使い方が非常に優れたモノであるということは分かる。

 

だからこそ、買い替えた方が良い……とは言わなかった。むしろ言ったところで聞き入れてくれるのを期待するのも何だかなぁという訳である。

 

それに、彼はこの剣を含めていつも二本を帯刀している。もう一本の方は、ダンジョンに潜っている時に、使っている剣にガタが来たら、切り替えるといったやり方をしているらしい。

 

不純な動機だが、キリのよい数字……10回目の修理になったら、また違った方法で彼はやってくるのだろう――そう思って。

 

「何度も言うけれど……修理を重ねた武器を使う事は、推奨しないわ。でも、それを改める気はないでしょう?」

「ああ、ない。もし不測の事態があれば、片方の剣で対応するさ」

「……」

 

―――そういう問題じゃないわよ。

 

心の中で、そう毒付いたヘファイストスであった。

 

「……念のためにそちらの剣も見せて頂戴」

 

ヘファイストスに言われた通り、予備として帯刀しているもう一本の剣を差し出すヴァディム。

 

―――うん、問題ないわね。

 

耐久度は問題ない……というか、綺麗すぎる気もするが。そこには言及しないことにするヘファイストスは、綺麗な方の剣をヴァディムに返す。

 

その後、いつもの事ながらそれなりの流れを踏んでから。

 

「―――……じゃあ、この日に取りに来てくれれば渡すわ」

「分かった、よろしくお願いします」

 

修理を受け入れた後、ヴァディムはそのまま一礼をしてから鍛冶場から出ていった。鍛冶場から一歩出たと同時に、何かを口ずさみ始めたのは……聞かないことにした。

 

―――まったく、もう。なぜこうも非常識的な現象を起こすのかしら、彼は……

 

修理にと出された剣を見つめてそう思うヘファイストス。

 

8回も修理された剣と考えると、もはや修理が不可能なほどに壊れているという印象を受けるのだが……彼の剣はそうではない。

 

鍛冶師の目から見ると、修理できる程度の損傷で済んでいるのだ。それも毎回。

 

修理しても武器としての役割を果たせないのであれば、鍛冶師として責任を持って進言できる。だが、彼が持ってくる剣は、修理すれば再び武器としての役割を取り戻せるのだから……鍛冶師として、今回含めて9回も修理を引き受けるのみであった。

 

そのため、ヴァディムの剣に関しては、ファミリアの間で怪奇現象として扱われていたり扱われていなかったりするのだった。

 

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