ミアハ・ファミリアの”完璧”   作:ナハトAB

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ナァーザちゃんの可愛い所をたくさん書くぞーと思ったら、何故か暗くなってしまった……


ナァーザ-①

 

―――【ミアハ・ファミリア】には、私の他に一人……ヴァディムという男がいる。

 

ヴァディムは、オラリオでトップレベルと言っても過言ではない第一級冒険者であり……彼がファミリアにいるおかげで、何とか家計を立て直しつつあった。

 

「……うん」

 

調合した薬の出来具合を確認し、出来具合が良いことに少し微笑んだ。

 

ヴァディムが持ってきてくれた材料を使って、薬を調合する。そんな日々を私は送っていた。彼のおかげで、お店の収入も徐々に増えてきて、今のところ順調であった。

 

出来上がった薬を、商品として出すために空いた木箱の中に並べておく。もしヴァディムがここにいたならばきっと位置がズレているだのなんだの言うのだろう、なんて思いながら並べる。

 

「……あ」

 

そこで、不意に右手―――義手となっている右手が目に入る。ようやく気にしないようにする余裕が出来てきたこの頃だが、最初の頃はひどかったものだと我ながらそう思った。

 

今でも、鮮明と思い出せる―――あの忌々しい記憶が。

 

私は、かつてヴァディムと同じようにダンジョンに潜ってファミリアの家計を支えていた。だが、そこでモンスターの群れに遭ってしまい……私は、一生治らない傷を負ってしまった。

 

自分の身体が、炎に焼かれている光景。自分の皮膚が、モンスターに食われている光景。激痛を通り過ぎて、逆に痛みを感じられなくなってきたあの感覚は、今でも忘れられない。ああ、死ぬってこういうことなんだ……と悟ったのも。

 

『―――ナァーザッ!!』

 

そんな私に、手を差し伸べる昔のヴァディムの姿が、声が鮮明に浮かぶ。

 

『死ぬな……死ぬなッ、ナァーザ……ッ!!』

 

今に死んでもおかしくはない私に、懸命に語り掛けてくれて。

 

……昔のヴァディムは、無口な方だった。ファミリア内で会ってもたまに話をする程度でしかなかった。

 

だけど、あの日―――ヴァディムの顔は、初めて見た顔だったのだけは覚えていた。

 

ミアハ様と、ヴァディムが私を懸命に看病してくれたおかげで、私は生き延びられた。だけど、モンスターに食われて、炎に焼かれて、骨ごと無くなっていた私の右腕は、元に戻らなかった。

 

それを見かねたミアハ様が、【ディアンケヒト・ファミリア】から、莫大な借金を負わされた末に購入した銀の腕(アガートラム)を、私に付けてくれた。幸いなことにその銀の腕(アガートラム)は、私の右腕に馴染みつつあり、完全じゃないとはいえ、日常生活に困らないぐらいにまで右腕を動かせるようになった。

 

だけど、良い事はそうそう続かなかった。莫大な借金を負わされたミアハ様を見限って徐々に団員達が抜けていき……最後に、ヴァディムと私だけしかいなくなった。

 

そして、この出来事があってから―――ヴァディムは、変わった。

 

無口な人だったのが、徐々におちゃらけるような人になっていって。

 

それと裏腹に、ただひたすらにダンジョンに潜っていくようになって。

 

その頃、Lv.2だったヴァディムは……今や

Lv.8の第一級冒険者となった。

 

―――ヴァディムが、私をダンジョンから救い出してくれたおかげで、今の私がいる。

 

―――ミアハ様が、借金を覚悟して、私に銀の腕(アガートラム)を付けてくれたおかげで、今の私がいる。

 

そんな二人に、私は今でも感謝の念を忘れずに、心に秘めている。

 

「……」

 

薬が入った木箱を整理し終え、ひとまず小休憩に入る。

 

あの出来事から、長い時間が過ぎていって。ようやく心に少し余裕が持てるようになってきたこの頃……私はこんなことを考えていた。

 

―――ヴァディムとミアハ様と、対等な立場に立てているのだろうか……と。

 

ミアハ様が、銀の腕(アガートラム)を付けてくれなかったら、私の右腕はない。

 

ヴァディムが、ダンジョンから救ってくれなかったら、私はここにいない。

 

何から何まで、助けてもらってばかりだ。それに、ファミリアにおける収入源の大部分はヴァディムであった。お店の収入も入っているが、それでも大部分はヴァディムに依存している。

 

それに、私が薬を調合する材料だって、ヴァディムが、ダンジョンに行って取ってきてくれなかったら……きっと満足のいく薬を作ることは出来なかっただろう。

 

―――私も、二人を助けたい。二人と対等な立場にいたい。

 

もしかすると、二人は私と対等でいてくれているのかもしれない。私の気にしすぎなのかもしれない。だけど、このまま二人に甘えて過ごしていていいのだろうかと、もう一人の私がそう言っているような気がしてたまらない。

 

あんな事があったんだから仕方ない? もう二度とダンジョンに潜れないから仕方ない?

 

―――そんなものは分かっている。

 

これは、私のワガママだ。自分が嫌だから、自分がそうしたいだけでしかない。

 

――二人に口で対等だと言ってもらえれば、満足するのかもしれない。

 

だけど、それでは私の根本的な問題はなくならない。私が、過去としっかり向き合わない限りは。

 

「……ッ」

 

ダンジョンのことを考えると、身体の制御が狂ってしまうように震え始める。特に、もう神経は通っていないはずの右腕に、今にもモンスターに食われているような感覚がする。こうして考えているだけでも、頭がどうにかなってしまいそうになる。

 

それほどに、あの日の出来事は……私の心に根深く張り付いてしまったのだ。

 

根深く張り付いてしまった、これを何とかしない限りは、私は今ここから前に進めない。

 

前を向いて生きていこう。後ろ向きなままでいたら、人生を台無しにしてしまうから、前を向きなよ。前へ。前へ……言葉だけで、前を向いていけたらどんなに楽だろうか。

 

実際、私自身ダンジョンの近くを通るだけで具合が悪くなるほどに深刻なものだというのに、前を向けなんて言葉だけで立ち直れたら、今までの私はどうなるのか。

 

「―――ナァーザ?」

「あ……ミアハ様」

 

ミアハ様の声を聞いて、我に返る。いつの間にか、ミアハ様は調合に使うこの場所に来ていたようだ。

 

このままだと、どんどん思考が深くなっていって気が滅入りそうになったと思うと、ミアハ様が来てくれて助かったとも言える……ナァーザは、少しスッと心が軽くなったような気がした。

 

「……どうしたのだ?」

「うん……少し、前のことを考えていた」

「前のこと、か」

 

私がそう答えると、ミアハ様は何やら深刻そうな表情をして口をとじる。

 

私に関する過去の事は、彼も知っているが故のことだろうと分かった。

 

「……ヴァディムは、凄いと思う」

「――ああ、私もそう思うよ。何せ第一級冒険者なのだからな」

 

いきなり脈絡のない話をしたというのは私でも分かっていた。だけど、ミアハ様はそれを疑問に思うことせず、話を繋いでくれた。

 

「うん……本当に、ヴァディムは凄い」

 

凄い、の一言では到底語ることはできないであろうヴァディム。

 

―――同じファミリアであるというのもあり、"物理的"な距離という意味では、ナァーザにとってヴァディムは近いのだろう。

 

「……遠いなぁ」

 

だが、"心"の距離という意味ではヴァディムの背中がとてつもなく遠くにあるように感じた。

 

第一級冒険者と言える実力を持っているヴァディムと、第三級冒険者でしかない自分。果たして、これは釣り合いが取れているといえるのだろうか。

 

「……ヴァディム」

 

無意識に、彼の名を呼ぶ。

 

……わざわざレベルで、彼の隣に立たなくとも他に方法はあるのかもしれない。

 

だけど、もし彼と同じ実力を持つ異性がいたら? それを考えたらキリがない。

 

私から見ても、異性としての魅力を持ち合わせている第一級冒険者が何人かいるのだ。

 

彼のそばに立っているのが、私ではないとしたら?

 

そう考えると、胸が痛くなる。

 

彼を想うと、身体が火照ってくる。妙に高揚してくる。意識しなければ気付かぬ、渋い想いが湧き上がってくる。

 

―――前に進まないと、今までと同じく平坦な日常を送っていく事になる。

 

平坦な日常が悪いというのでは無い。平坦な日常でも、幸せを感じられる。

 

だけど、それではいけないのではないだろうか。誰かに与えられた幸せを噛み締める時間は、もうとっくに終わったのではないだろうか。

 

ようやく心の余裕を取り戻しつつある“今”だからこそ、今までの自分とは違う、一皮剥けた自分になるまたとない機会ではないだろうか。

 

―――本当の敵は、自分自身。

 

遠い昔の頃、どこかで聞いたであろうその言葉を今更ながら思い出した。

 

「ミアハ様」

「ん……どうした、ナァーザよ」

 

明日の自分は、明後日の自分は、ずっと先の自分は、もっと自分に誇りを持っていられる自分になるために。

 

少しずつでもいい──昨日の自分より、一歩踏み入れて。明日の自分はもう一歩踏み入れて。

 

「私、頑張ってみる」

 

そうすれば──きっと今より前を向いていけるから。

 

小さくとも確かに“成長”しようとしている……そんなナァーザが、そこにはいたのだった。

 

 

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