純魔、生命力と持久力は10(仮題)   作:ゆさき

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両手に指紋石の盾持った人がとても怖かったので、勢いで書いてしまいました。
私はゲーム下手の脳筋なので、変態(誉め言葉)の脳筋は途轍もなく怖かったです。


サイン残した覚えはない

 

 生まれは狭間の地の外。二本指の教えを伝える教会で育ち、そして密使として狭間の地へ辿り着いた。祝福の導きを得て、その褪せ人はいっそう信仰を篤くした。

 

 のは一瞬の事で、紆余曲折様々な出会いを得てあっと言う間に信仰をぶん投げごりごりの魔術師になっていた。

 多分、おそらく、きっと、エルデの王になる事は脳の片隅に幽かに残っているかもしれないが、今現在の目標は専ら敬愛する魔術の師と輝石魔術の源流を復興させることである。

 

 それでもまだ、祝福は見えているので、二本指的にもまだオーケーな筈だ。

 だから、その褪せ人は今日も今日とて『源流復興を手伝う』という目的へ一直線。

 

「……だめだ。久しぶりに服着たけど、重い……体がとても重い……。レナラさんこんにちは。お邪魔してます……」

 

 へろへろと姿勢悪くレアルカリア大書庫へやって来た褪せ人。重いのはその頭部の魔女の輝石頭のせいだろうが取る気はない。頭装備取る前にまず服を脱ぐ。

 

「お師匠さま、ただいま戻りました! ボク、最近どんな些細なものでも一から見直してみようと思って、あっちこっちの魔術師塔にお邪魔して、走り書きの紙切れまで、全部に目を通してきました。今度は学院の物全てですかね」

 

 ふふ、と笑いつつ比喩ではなく山の様に積まれた本を見上げる。

 

「それから、試しにあの塊を解いてみたんですけど、あはは、難しかったです。何度か練習すれば、イケるかも知れないですけど……ボクの知っている所のでは足りなくて……。解く練習の為に作ってみようかな、とも思ったんですが……はぁ……師匠、ボクに手伝って欲しいって言ったじゃないですか。なんで、なんで……う゛ーーーーーっ!」

 

 途中まで一人で元気に語るが途中から異音を発しつつ顔を覆い、床を転げまわる。

 

「王になったらボク、師匠に沢山お話できると思ったんだ。……ああああああ゛あ゛っ゛! 魔術極めようとしてもっ! ボクは師匠の弟子でいたいんだ……王に成れなくたって、ただ弟子として傍に置いてくれるって言ったのに、」

 

 床に大の字になり、鮮魚のようにじたばたしつつ暴れていた褪せ人がごろりと転がった拍子に、うず高く積まれた本の山に衝突し、その山頂から装丁のがっちりした本が雪崩落ちる。

 

「んぎっ!」

 

 全てを魔術の威力にぶん投げてる、くそ貧弱褪せ人とて、幾ら何でも落下してくる本如きで死ぬ訳はない。

 ただ普通に次々と腹部に落下した本の背表紙により、再び異音が零れただけだ。

 

 

 

 

 骨の保護の無い腹部を不意打ち的にどつかれた反射に、輝石頭の中でぎゅっと目を閉じ、開く。

 

「……うん?」

  

 一瞬目を閉じた間に、世界が変わって居た。

 おかしなことだ、と仰臥したまま褪せ人は首を傾げる。『よそ』に召喚されるには、まずこちらにその意思があるのが前提な筈なのだが……。

 それに自身が寝そべる背の下に画かれてる紋様は、これまでに触れた事のない類のものだ。根源からなにから、全く違う魔術かもしれない。

 褪せ人はとてもわくわくしてきた。

 ちょっと動かした視線の先には、意匠は当然異なるものの、同業者だと感じるローブ姿の連中がいる。この理論が根本から異なる魔術に関わる奴らかと考えると、一層わくわくが強まった。

 

 なにせ、師匠を始め、彼に薫陶を授けてくれた者位しか、正気の魔術師達が居なかったのだ。学院史上最悪の災厄だの言われた魔女や悪趣味な教授やら、傍から見て正気かは考慮しないものとする。

 

 それがこれだけノータイムで敵対する事のない連中がいる。いろいろできそうで期待で胸が膨らむ。先程まで一人、進展しない事態にうじうじと転げ回っていたのだから尚更だ。

 今は全く関係なさそうな物でも、新たな知識は何でも欲しい。何が役に立つかは分からない。

 

 そう。まあ、まだ自身の認諾なしに召喚されたのはいいのだが、勝手に装備が変わって居るのが解せない。

 脳の端で、同じく勝手に召喚されたらしい、年若い男三人の存在を認識しつつも、やはり自身に起こった変化の方が気になってしまう。

 

 確かに昔は、直剣と中盾握って居たが、そんなもんは過去の話。最近は左手に杖、右手に短剣の類を握って居る事が多い。だと言うのに、その短剣が消失し、見知らぬ盾が勝手に装備されている。

 左手の杖もない。

 

「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」

 

「ねえ、その辺りにボクの短剣落ちてません? 引き出物短剣」

 

 はい? と疑問の音を漏らす男どもを無視し、自分の疑問を口にする。 

 

 褪せ人以外の人物達の間に、座りの悪い空気が流れる。

 年若い男三人は、無視していた訳ではないが、こう、なんと言うか、見ちゃいけない類の人かと思い石像の頭部を被った、珍妙な人物を半ば無意識に視界の外にやっていた。

 日本という国で親御さんに、大変真っ当な教育を受けて居たのだろう。ワンチャン、魔法陣を構成する一部、オブジェかもしれないと祈っていた変質者がさも普通に話しだして、ちょっと引いた。

 

「ごめん。ちゃんとあった。しまった覚え無いのにな……どうぞ、続けてください。それで、用件が済んだらちょっとボクとお互いの世界の魔術について語りませんか? 舌を噛み、語り明かしませんじゃ? 明かし語りましょう? ねえ、いかがです? 当人の認諾なく召喚するのは面白いですね、ここに居るボクって本人なのか」

 

「あ、はい、あの、実はこの世界は今、存亡の危機に立たされているのです。勇者様方、どうかお力をお貸しください」

 

 獲物を射程に収め、にじり寄って来る輝石頭の言葉を遮り、目を逸らし、その他の三人へ縋る様に身を乗り出したローブ姿の男達は、大いに引いていた。世界の危機もそうだが、目前の鬼気迫る勢いで尋ねて来る女性の頭部を模った石像頭が怖い。

 這いつくばる勢いで頭を下げた自分達の顔を覗き込む中腰でにじり寄って来るのが、更に気持ち悪い。

 

「嫌だな」

 

「そうですね」

 

「元の世界に帰れるんだよな? 話はそれからだ」

 

 だが懇願の形は報われず、ばっさりと跳ねのけられてしまう。

 ついでに気持ちの悪い存在は、唐突にクールダウンしたのか、すくりと背を伸ばし、軽く首を傾げ考え込むように指先を輪郭に添えている。

 

「そういえばボクの居たとこも世界の理がばっきぼきに砕けて大変な事に成ってるんだった。まあ次は一つにしてみる予定だったし、いっか」

 

 もそもそと何事かを呟く褪せ人の言葉はスルーされた。他三人が頑な態度で畳み掛けているので仕方がない。彼自身、特に返答は求めていなかった。

 

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