純魔、生命力と持久力は10(仮題) 作:ゆさき
謁見後、文字が重なり過ぎてまともに読めないステータスにセレッソが目をしょぼしょぼさせている間に、話しは淡々と進んでいく。
伝説の武器は、それぞれ反発する性質があるらしく、勇者だけで固まって行動すると成長が阻害されのだそうだ。
その為、仲間はあちらで逸材を集めておくとの事。まあ、世界滅亡の危機なら、既に兵力など集めていたのかもしれない。
それはそうと、セレッソは今からでも一人、この世界での先生を探しに飛び出したかった。遺灰に頼る事はあっても、基本的に仲間を欲して居ない。同行者も……今は欲しいと思えない。
ついでに自分と行動を共にして、死んでない人、居たかな? と若干の不安がよぎった。
命運を掛けた人選を行うのにも、時間が居るのだろう。今日はもう日も落ち始めているので休む事を進められた。
来客室へ案内されて早々、ベッドに座り込み、黙々と己の手の中の武器を眺め、先程視界にはえて来た『使い方』だとか『ヘルプ』にでも目を通しているのだろう。
セレッソは男三名を眺めた後に、端っこがいい、と陣取った久しぶりの柔らかい寝具の上で自身の装備を元に戻すのに取り掛かる。
「ンみ゛っ」
急に短剣を握った腕を叩き落とされたような衝撃を受け、その勢いのままに輝石のクリスが少し跳ねて落ちる。余程熱中しているのか三人は気付かないようだ。
大変尊敬、というか最早崇拝している師匠から貰った物、ついでによそ様の引き出物。細かな装飾は無事かと手を伸ばす、その視界を遮る様に一文が浮き上がる。
『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました』
なんだそれは。事前に何も伝えられてない、と文面を睨みつける。
『勇者は自分の所持する伝説武器以外を戦闘に使うことは出来ない』
どこぞにそれらしき文面はあるかと、『ヘルプ』に視線を走らせた結果がそれだ。
輝石頭の中で、はぁ? と更に顔を歪める。
誰だ、そんな理不尽な勝手を言って居るのは。そんな思いでいっぱいだ。今は非戦闘状態なのに、装備することも不可能だなんて、余りに貧弱魔術師に厳しい。
半ば祈る気持ちで左手にルーサットの輝石杖を握る。特に反応はない。試しに右手に持つ。再び弾かれるが、今度は警戒していたため、無様な鳴き声を上げずに済む。
だが残念な事に、右手は使いどころの無い盾に占領されたようだ。
じぃいっと、盾を睨みつけ、セレッソは思案する。これ、身体変えたらなんとかならんかな、と。
今は思うだけだ。次のあてがないのだから保留とし、次は『指切り』を取り出してみる。刃ではあるが、武器として使えない為か、幻だからか右手に握っても弾かれる事はない。
ついでに使用も出来ない。これで帰る事も出来ないらしい。
純血騎士褒章……は、やめておく。また緊急避難所にすると、怒られそうだ。
試しに聖印も出してみるが、これも持てる。武器だと思われてないのだろうか。次にツール鞄の中の小刀を出してみる。様々な物の作成や、野営中に死んだ生き物とかを料理するのに使って物。
うん。平気だ。とこくりとひとり頷く。この小さな刃物でも、不意打ちなら人でも殺す事も出来るはずなのに。ちらりと一番近いベッドに腰掛けた錬を見る。腰掛け、少々俯き気味に空中を注視している。目が左右に動いて居るから、まだ説明を読み込んでいる様だ。
いけるかな……?
凶器として使おうと試みても、特段変化はない。おかしな話だ。筋力がある輩なんかは、その辺の適当な器物でだって生物を殺せるのに。
そこからあれやこれやと検証に励む。この盾の武器の判定が今一分からない。小刀がありなら、これは純然たる道具と説得すれば、いけるのでは?
「なあ、これってゲームみたいだな」
誰かがそんな事を言う。
「っていうかゲームじゃね? 俺は知ってるぞ、こんな感じのゲーム」
セレッソも『ゲーム』という言葉は理解するが、他世界に呼びつけられた現状のどこに、決まったルール内で環境または対人との相互作用を楽しむ娯楽要素があるのだろうか、と小首を傾げる。
なかなか白熱しだす三人を観察するも、知らない単語が多いので、薄ぼんやりと耳を傾けつつ仕舞えない盾への説得を続ける。
「これは医療器具これは医療器これは具医療器具……」
中心部の宝石を至近距離で真っすぐ見詰め、左手に握った慈悲の短剣を突きつけながら根気よく教えていく。心なしか、小刻みに震えている気がしないでもない。
「まてまて、情報を整理しよう。あーセレッソ?」
「え、うん?」
教育の甲斐あって、慈悲の短剣は武器ではないと盾が認識し、右手に同居させる事に成功した所で白熱していた元康に名前を呼ばれる。
顔を上げれば、錬と樹もこちらを注視していた。
「一応聞くけど、VRMMOって言って分かるか?」
「分からない。なんです、それ」
知っているという答えは期待して居なかったらしく、だよな、とひとつ頷き樹にも同じ問いを投げる。彼は知っていた様で、是と答えた。
何だか未知の分野の気配を察知し、それは何だと、もちろん表情は見えないが興味を抱いた視線向けるが、少し待てと手で制されてしまう。
また彼らが『ゲーム』の話をしているのを横目に、仕方ないと肩を竦めながら、魔術師の腕巻きから魔術剣士の手袋に装備を変える。
声を掛けらて、先程元康が皮膚が焼変色した手を訝し気に見ていたのを思い出したのだ。あまり気分のいいものでは無かっただろうかとの配慮だ。
セレッソの疑問が保留してるまに、青少年達はそれぞれ別の『日本』からやって来たようだとの結論を導き出したようだ。
ひとつの答えを得た様子だが、セレッソは先程の興味は横に置き、もう一つ、直接的な問題について尋ねる事にする。
「……ボクも聞いていいです? 皆ってひょっとして葦の国の人ですか? 名前の音がなんとなく……」
「葦……葦原中国の事なら、まあ、そうだな」
葦原中国、日本神話における地上の国、日本国の異称だ。ちょっとした雑学、教養。或いは思春期に患う病の方向性によっては得るこになる知識だ。
どちらの要因かは不明だが『葦の国』を『日本国の異称』と認識した錬の肯定に、セレッソは座った姿勢のまま大仰に身を引く。
「えっ、じゃあ君ら侍? こわ……」
血生臭い狂気を孕む類の者たちだ。文化が隔絶さた土地の者というのは、奇異な蛮族として目に映る。
「現代日本に侍は存在しない」
すん、と虚を突かれた表情の錬が諭すように言うが、奇妙な恰好の自称魔術師はじりじりとベッドの上を移動し距離を取る。
「ついでに忍者も居ませんからね」
未だに日本にはサムライとニンジャが居て、着物を着た女性は皆ゲイシャだと誤解している遠い国の人間に、残酷な真実を告げるような申し訳なさそうな口調での注釈も入る。
「嘘だ! 侍言ってた。故郷で不死の忍者を見たって言ってた!」
「それ完全に騙されてるぞ」
ぷるぷる、ボク悪い魔術師じゃないよ、とばかりに壁際まで後退しぎゅっと杖を握りしめながらも、忍者の存在まで信じてるセレッソに、噴き出そうになる笑いを堪えながら教えてやる。
ただ、その様子に何となく人間味を感じる。
石像を被って居れば、血の通った皮膚も、意思の見える目も伺えない。召喚された異世界を救うなんてシチュエーションにも反応は薄い。それでどことなく、ゲームの……別のファンタジー世界のNPCかなにかなのではないかと考えて居た。不遇な盾なのだから、『誰か』の配慮で自分達とは違う中身のない、設定だけの存在が据えられている、そんな思考があった事に、今気づいた。
この段になって、ようやく珍妙な恰好の自称魔術師にも、中身があるのだと認識した。
ちなみにセレッソは葦の国の連中に関わりたくないと思った。でも、今の所、蛮族感はないので、アズール砲で部屋ごとぶっ飛ばすのは取りやめた。
セレッソ
言葉が日本出身者向けに訳されている。それを抜きにしてもだいぶ緩く喋っている。