こちら退魔課です。どうされましたか?   作:蓮太郎

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蹴翠 雛兎様のご相談、ありがとうございます。



相談CASE8

 

―――はい、こちら退魔課です。どうかされましたか?

 

「突然、友人の幼馴染の幽霊娘が暴れ出してるんです!」

 

―――場所を教えてください

 

「『個人情報なので非公開』です!」

 

―――現在、どうなっているか教えていただけますか?

 

「今は、その、寺生まれの友人がなんとか、幼馴染の暴走を収められているそうですが…それでも、暴走は止まらず、かなり物が浮遊し暴れまくってます…!」

 

―――ポルターガイスト現象を起こしていると。それで、その後友人が霊能力を使い必死に抑えていると。

 

「た、多分そうです!」

 

―――直ちに機動隊を派遣します。暴れる原因となったきっかけはありますか?

 

「暴走する原因はわかりません……ただ、最近、受肉する魔道具、鬼神式神って感じの名前の道具を謎の男から買ったとか聞いたような?」

 

―――…………なるほど。道具による暴走と見てよろしいですね

 

「お願いです!あの子は普段みんなから慕われてる優しくて良い子なんです!」

 

―――私たちは全力を尽くします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおお!?お札ってすごいなおい!」

 

「札で何とかるのかよ!?」

 

「意外と前例があるらしいぞ!」

 

 ばったんばったん、と物が飛び交い壊れていく。

 

 この二人の目の前にいるのは半透明で、それなのに圧倒的な存在感を放つ少女。

 

 この少女は元は幽霊である。若くして亡くなったのだが何故か半透明の生物として認識されており、現在も学校に同年代と仲良く通っていた。

 

 こんな現象は奇跡としか言いようがないが、それでも彼女には一つ不満があった。

 

 それは単純に、肉体がないこと。

 

 幽霊には正確な五感はない。肌は多少の熱感と冷感を感じることが出来るが生きている人間よりも何十分の一というほど鈍くなってしまった。

 

 それは味覚もそうである。幽霊になった以上、彼女は何を食べてもロクに味がしない。

 

 同じ景色を見ていても、感じる温度や幽霊としての感覚のみで世界を見ているので同じ景色を見ているわけではない。

 

 『誰か』と同じ喜びを味わえない苦痛は、彼女の中ではとても大きかった。

 

 だから禁忌に手を出した。

 

「『ワタシ、わたし私ワタシワタシはァ』」

 

「お願いだ、正気に戻ってくれ!」

 

 幼馴染の声はむなしく、禁忌の力に吞まれた彼女には届かない。

 

 彼女の意思に反して暴走する力はとめられないのだ。

 

 だが、希望の光は消えたわけではなかった。

 

「到着ぅー!」

 

「よく頑張ったな少年!」

 

「うぼあぇ!?」

 

「馬鹿お前、前に出過ぎるなよ!」

 

 そう、退魔課機動部隊の到着である。

 

 事前に幽霊娘によるものと聞いていた分、スピリット的な攻撃(超抽象的)に対応した道具を持ち込んでいる。

 

 到着した白装束のうちの二人が幼馴染の代わりに札をばら撒き新たな結界を張る。その結界は自身を守るものではなく、彼女を封じ込めるドームとして作用した。

 

 体から、正確には体の中心に位置している禁忌の道具から発せられる力の奔流がぱたりと止まる。

 

 それでも結界の中は嵐のように力が吹き荒れる。

 

「さて、どうするか?」

 

「やっぱり腹の呪具が原因ですよね?」

 

「だろうな。取り出すのが一番だが…………」

 

「どうみても発禁のブツですよ。よく手に入れられたもんだ」

 

「よし、引っ張り出すか!」

 

 そう言って隊員が手に賭けたのは一本のロープ。それも先にかぎ爪のようなものがついているもの。

 

「ま、待ってくれ!それをどうするつもりだ!?」

 

「そりゃあ、これを…………こう!」

 

 ブンブンと勢いをつけてカウボーイが牛を捕えようとする如くロープを投げた。

 

 無論、その先についているのは金属のかぎ爪。何故か結界をすり抜け幽霊娘の腹にぶっ刺さる――!

 

「『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?』」

 

「な、何してるんだ!」

 

 呆然と見ている通報者、そして暴挙に怒る幼馴染。だが、ロープを引っ張る白装束とは別の白装束が幼馴染を取り押さえて邪魔をしない様にする。

 

「こいつはな、引っこ抜いたら解決する!だが、その代わりめちゃくちゃ痛いらしい」

 

「ほ、他の方法は」

 

「ないことはない。だが!」

 

 ロープを持った白装束がグイっと引っ張る。かぎ爪は幽霊娘の体に取り込んでいる呪具にひっかかり引っこ抜けそうになるが、呪具が意志を持つかの如く抵抗しているのが白装束の持つロープの感触でわかる。

 

「『ヤメテ、やめてやめてヤメやメテやめやヤヤyyyy』」

 

「苦しんでるところ悪いが、これはお前の罰だ」

 

 ギリギリと力づくで引っ張ろうにも思ったよりも抵抗が強く引き抜けない。

 

 だが、退魔課機動部隊は様々な状況に対応したプロである。一人で無理なら二人で、それでも無理なら三人でロープを引っ張る。

 

「どんな経緯があってそれを手に入れたかは知らない。だが、使わないという手もあったはずだ!」

 

 その言葉に幼馴染ははっとしたような顔になる。そうだ、こういうものは危ないものと教えられているはずだ。なのにどうして使ったのか?

 

「意志の弱さなんて誰にでもある、そこを突かれたんだろう」

 

「だから、これからの反省として今の痛みを覚えておけ!」

 

 幽体のはずなのにミチミチと嫌な音をしながら徐々に引き抜かれていく呪具。

 

 その間も彼女の絶叫は響き続ける。

 

 通報者はガタガタと震え、押さえつけられている幼馴染は未だに彼女へ手を伸ばしている。

 

「どっっっせぇい!」

 

「引っ張れぇ!」

 

「わ゛り゛ゃあ゛!」

 

 三人が全力で引っ張り、そして…………

 

「『あああああああああああああああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 

「抜けたぁ!」

 

「やったぞぉ!」

 

 かぎ爪に引っかかったまま引き出された呪具を見事キャッチした。

 

 それと同時に幽霊娘は力の奔流を放つのをやめてふわふわと地面に降り立つ。

 

 記憶はあったのか、身体を震わせながら膝をつき顔を伏せた。

 

「どうも、退魔課の者です。傷心中申し訳ないんだけど、お話を聞かせてくれるかな?」

 

 女性の白装束が話しかけた時、びく、と彼女は体を震わせる。

 

「非情に思うかもしれないんだけどね。これも我々も仕事なんだ」

 

 今にも駆け寄りたそうにしている幼馴染をまた抑えて白装束は言う。

 

「最近、こういう手の事案が増えてきていてね。こちらとしても少しでも手掛かりを得ておきたいんだ。それに…………」

 

 これは逮捕よりも保護に近いからね。

 

 そう言った白装束の声は…………彼らにどう聞こえたのだろうか。

 

 

 





 お札って便利だよね。かぎ爪ロープ?白装束の自作で現場では『何あれ?』みたいな雰囲気を出されてたとかなんとか

『今回の通報者』
幽霊娘の幼馴染の友達。
幼馴染が呼び出しを受けたので興味本位で突いていったら大変なことになった。
自分がいたことが足手まといになったのではないかと少し落ち込んだり。
でもとなりにもっと落ち込んでいる人がいるのでそうも言ってはいられなかった。


『幼馴染君』
幽霊娘の幼馴染。彼女が死んだことで一つ心に傷がつき、今回で二つ目の心の傷がついた。
寺生まれでもやれることの範囲を知った彼は修業に励む。もう悲劇を繰り返さないために。

『幽霊娘』
幼い頃に死亡して、気づいたら幽霊として留まっていた。このケースは異種族との交流が始まってから若く死んだ人間に見られるようになっている。
肉体がないのが悩みで怪しい人物から呪物を渡された。
使うかどうかは貴女次第と言われたが、欲望に負けて使ってしまった。
今後、厳しい監視がつくだろう。
だが、また彼女はいつか幼馴染に会えるだろう。
その日を待ちながら償いの日々を送る。


 あなたの異種族に関するご相談(ネタ提供)があれば、いつでも活動報告にどうぞお待ちしています。

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