ブルーアーカイブ ~先生は「ブラックライダー」~ 作:クラウディ
調子がいいので二話目
「……い。……先生、起きてください」
鋭く響く声が頭にこだまする……。
誰かを呼ぶ声が聞こえる……。
先生……誰のことだ……?
……とりあえず、俺のことじゃないからまだ寝るか……。
「"カケル"先生!」
「うわっちょ!」
うとうとしていた意識が、耳元で叫ばれた名前によって一気に覚醒する。
えっ!?俺のこと呼んでたの!?
あまりに突然なことで、座っていた椅子から転げ落ち、盛大に腰を打ってしまう。
そんな俺――「カケル」は、割と固い床に打ち付けられた腰をさすりながら、声の大本の方向に顔を向けた。
そこには……美女がいた。
濡れ羽色のさらりとした長髪を持ち、眼鏡をかけた青い瞳の美女。
汚れの無い白い制服とキリッとした目は、非常に厳格な性格だと考えられる。
そんな美女に思わず見とれるが、すぐさま自身の状況を確認することにした。
服……いつものライダースジャケットに、何度も使い古し、くたびれたのか柔らかくなったジーパン。
首元……愛車に乗る用のライダーゴーグルが下げられている。相変わらず古傷が目立つな……。
掌……いつものように指ぬきグローブをはめている。これは万が一のために外せない。
ポケットの中……小さいチューイングガム(エナドリ味)が数個。とりあえず一つ口の中に放り込んだ。
頭……よくヘルメットをかぶっているにもかかわらずピンと立つハネッ毛。そして頭脳はいつもと変わらずフルスロットルで働いている。
愛車……ここの下に停めてあるのを感じる。地下駐車場……いや、窓の景色からしてここはビルの中だから普通に地上にあるな。……盗まれないよな?
よし、大体いつも通りだな。一先ずは異常がないことにほっと胸をなでおろす。
そんな俺を見かねたのか、長髪の美女が声をかけてきた。
「その……大丈夫でしょうか先生?」
「ん? んー……その先生ってのが俺が寝ぼけてるせいで何だか分からねぇけど……」
「……少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されているとは……」
「あー、それは謝っておくよ。えーっと……」
「"リン"です。"
「へー……学園都市キヴォトスの幹部……幹部? 幹部ゥ!?」
ホワッ!? 幹部!? マジですかい!?
え!? 俺そんな人の前で爆睡かました挙句、椅子から転げ落ちて、勝手にガム食い始めてたの!?
しかもこの人、この若さで幹部!? ヤベェ!? 俺だいぶ不敬なことした!
「え、あの、そのぉ……」
「大丈夫です。先生はあくまで我々が招いた存在。かしこまる必要はないですよ」
「あ、はい。すいません……」
な、なんでか分からんけど許された……。
と、とりあえずは彼女……リン……リンちゃん? 俺より若いからリンちゃんでいいか……から話を聞こう。
「大丈夫ですか先生? 一先ずは情報を整理しましょう」
「あ、あぁ、お願いします……?」
「……疑問形なのは分かります。私達も、まだ先生が来た経緯を詳しくは知りませんから」
「え? そっちも?」
「はい……」
うへぇ……あまり有益な情報ももらえそうにないなぁ……。
「こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください。……どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります」
「俺に……やってもらいたいこと……?」
……駄目だ……ますます分からん……。
そう思って首をひねっていると、リンちゃんから何やら含みのある事を聞かされた。
「……この学園都市の命運をかけた大事なこと……ということにしておきましょう?」
「…………?」
この学園都市の命運……?
ちらっと窓から見える限りでは相当栄えているここの命運とは……?
何やら壮大すぎる話を聞かされて実感がわかない……。
とりあえずは、先を行くリンちゃんについていくことにした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「『キヴォトス』へようこそ。先生」
BGM代わりの駆動音を響かせながら、エレベーターが上がっていく。
全面ガラス張りのエレベーターからは、非常に発展したキヴォトスの全貌……いや、一部が見える。
まさか、
お、あそこ砂塵が舞ってる。ここ砂漠もあるのか? もはや学園都市じゃなくて一個の国だろここ……。
他には、先ほどのように目を凝らさなくても天まで届く光の柱も見える。それも複数個。
……ここ、別世界じゃねぇよな……。
キヴォトス……って名前はおぼろげに聞いたことがあるような気もするけど……分からん……フルスロットルな俺の頭の中には見当たらない……。
そんな俺の様子を察したのか、リンちゃんが捕捉してくれた。
「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働くところでもあります」
「ほーん……具体的には? 俺、事務員とか清掃員くらいしかできねぇけど……」
「まさか、先生にはもっと特別なことをしてもらいます」
「……ねぇリンちゃん。それって俺に向いてるの? 大丈夫? 俺、力仕事しかできねぇけど。書類仕事とか壊滅的なんだけど……」
「フフッ、そこは私達も協力します。だから安心してください」
……大丈夫かなぁ……俺、先生って言われてるけど、絶対清掃員とか事務員の方が向いてるって。
「それに……あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですから」
「連邦……生徒会長……?」
なんだその凄まじい称号は。
俺そんなお偉いさんから選ばれたの? 大丈夫? その人俺のこと見誤ってない?
……不安は残るが、まぁ、なるようになれだ。
「……それは後でゆっくり説明することにしましょう。着きました」
「おう」
そんな話をしていると目的の階層に到着したようだ。
エレベーターから出ると
その喧騒の大本では少女たちが何やら話している。
「こんなところに女の子……?」そう思っていると、全員がこちら側に近づいてきた。
「ちょっと待って! 代行! 見つけた、待ってたわよ! 連邦生徒会長を呼んできて! ……うん? 隣の大人の方は?」
一人は真面目そうな雰囲気を纏う少女。
黒い制服を纏い、その上にジャンパーをかけている。
そんな少女の頭上には機械的な天使の輪のようなものが浮いている(よく見ればリンちゃんにもあった。なんでだ?)。
「首席行政官、お待ちしておりました」
もう一人は黒い長髪だが、白い制服のリンちゃんと比べるといささか冷徹さを感じさせる赤い瞳と黒い制服の少女。
服装および体つきがなんかこう、ヤバイとしか言いようがないが、とりあえずこれは置いておこう。
そしてリンちゃんと前述の少女とは形が違うものの、こちらも頭上には天使の輪のようなものが浮いている(流行りのファッションか?)。
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
さらに一人は腕に「風紀」と書かれた赤い腕章を付け、豊かなベージュ(で合ってるのか?)色の髪をツインテールにし、メガネをかけている少女。
こちらの頭上にも天使の輪が浮いており、もう付けることが義務なのかとすら思えてきてしまう。
「あぁ……面倒な人達に捕まってしまいましたね……」
そんな彼女達に囲まれながら、リンちゃんは……心底面倒そうな顔でボソッと呟いていた。いや聞こえてますよー。
「こんにちは、各学園からここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています」
「聞こえてるわよ!」
(ナイス突っ込みだ真面目少女!)
「……今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」
「無視するな! って、そこまで分かってるなら何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ! 数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ! この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
良いツッコミをした少女に称賛を送りながらも、この状況を読み解いてみる。
おそらく、今までの流れからして連邦生徒会はこの学園都市を纏める「権限」を持ったトップ的な存在だろう。
んで、最近は問題が多発していて、それを治めるためにこの子達は連邦生徒会長に直談判しに来た……ってところか? 行動力があるねぇ……。
「連邦矯正局で停学中の生徒達について、一部が脱出したという情報もありました」
…………ん?
「スケバンのような不良達が、登校中の生徒達を襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」
…………そこの少女も初めて会ったけど、あの……。
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
…………前言撤回。ここ普通じゃなかったわ。なんだよ戦車とかヘリコプターの不法流通って。2000%増加とか、スラム街の方がマシレベルだぞ!
……俺、ここで普通の教師できるかな……。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐ会わせて!」
……! そうだ落ち着け! まだ望みを捨てるな! リンちゃんは命運とは言っても学業的な先生とは言ってない! その連邦生徒会長が姿を見せないというなら、連邦生徒会長を探すくらいの仕事をする程度ならまだ希望は――!
「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
「……え!?」
「……!!」
「やはりあの噂は……」
(よっしゃ! 人探しだ! これで勝つる!)
リンちゃんに事情を説明された全員が驚く中で、俺は内心ガッツポーズをしていた。
人探しなら今まで何度もやってきたし、なんなら得意分野だ!
そして、こんな世紀末な都市を纏めてる人がいないということは確かに命運を分けることになる!
くぅー! カケル先生の次回作にご期待くださ――!
「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……『先程』まで、そのような方法は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」
「はい」
ほうほう。なんとか権限を手に入れようと頑張ってたのか……ん? 『先程まで』……?
……なんか、嫌な予感が……。
「この先生こそが、
「!?」
「!」
「この方が?」
「え? 俺ぇ?(デスヨネー!?)」
思わず間抜けな返事になってしまったが、内心では大焦りだ。
権限の話を出してきたってことはつまり、俺に代わりをさせようとしているということ!
嫌な予感当たったよ! 俺そういう系苦手なんですけど!?
「ちょっと待って。そういえばこの先生はいったいどなた? どうしてここにいるの?」
「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」
「はい。こちらのカケル先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」
チョチョチョ! マッテクラサイヨオヤッサン! チョ,ソリャナイレショ!?
ダメだ! 焦ると心の中でも滑舌がひどくなる! こんなに焦ったの過去に数回しかねぇぞ!
「行方不明になった連邦生徒会長が指名……? ますますこんがらがってきたじゃないの……」
こんがらがってるのは俺の頭もです!
だが、この空気じゃ逃げられそうにもない! ってか、逃げたらこの学園都市がヤバイ! 俺の責任で国レベルの場所が世紀末ヒャッハー!とか冗談じゃないわよう!(唐突なオカマ)
ふー……落ち着け……落ち着け……落ち着くんだ俺……素数を数えて落ち着くんだ……素数とは1とその数でしか割れない孤独な数字……私に勇気を与えてくれる……1、2、3、5、7、11、13、17、19……落ち着けねぇ!
ヤバイよヤバイよ! と、とりあえずはみんなに挨拶を……!
「や、やぁ↑! ぼ、僕の名前はカケル! ごくごく普通の正義のヒーローさ!」
DA☆違う! 焦りすぎどもりすぎ意味不明すぎのスリーアウトチェンジじゃねぇか! もっとこう、普通な自己紹介ができないのか俺は!
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……」
あぁ……絶対引いてるよぉ……俺やベーやつだよぉ……死にたいぃ……簡単に死ねないぃ……なら土に埋まりたいぃ……。
「い、いや、挨拶なんてどうでもよくて……!」
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」
「誰がうるさいって!? わ、私は"
「あ、うん、分かった。よろしく、ユウカちゃん」
童貞みたいな反応をしながら、真面目な少女――「早瀬ユウカ」ちゃんの名前を覚えつつ、リンちゃんの話を聞く。
「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」
「ある部活?」
「はい」
思わず聞き返してしまう。連邦生徒会長の代わり的なことをやれといわれるのかと思っていたが、どうやら違うようだ。
リンちゃんは話を続ける。
「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒達を、制限なく加入させることも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です」
えー、それってつまり俺は、この一個の国レベルのキヴォトスの『全学園』の『全生徒』を加入『させる』ことが可能で、『どんな場所』でも『制限無し』に『戦闘を行える』という部署というか部活の担当として呼ばれたってこと?
…………ふー……落ち着け……落ち着け……落ち着くんだ俺……素数を数えて落ちtけるわけねぇだろうが!
なんちゅうヤバイところのヤバイ部活に明らかに適正があってない俺を置くんだよ!
スリーアウトチェンジでこっちの番だよ! 逃げていいですか?(ガチ)
「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……」
ほんとそれだよ。そして俺に任せるなって! 連邦生徒会長連れてこい! 行方不明でしたね! チクショウ!
「シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に「とある物」を持ち込んでいます。先生を、そこにお連れしなければなりません」
30kmって、なにげに遠いなシャーレ……。
まぁ、
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」
そう思ってたら、リンちゃんがモモカちゃんって子にヘリを頼むらしい。
愛車も持っていってくれるといいなぁ……(現実逃避)
『シャーレの部室? ……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?』
「大騒ぎ……?」
……何やら不穏な言葉が……。
『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』
「……うん?」
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良達を先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』
あら^~(白目)
『それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?』
「…………」
せんせー! リンちゃんがキレそうになってまーす!(小並感)
『まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!』
ブツッ! ツーツーツー……完全に切ったねモモカちゃん……。
「…………」
あぁ、リンちゃんが大爆発しそうになってる……。逃げなきゃ(使命感)
「と、とりあえず、深呼吸しよリンちゃん」
「……だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大した事ではありません」
あれは少々なのかな? ボブは訝しんだ。
そんなリンちゃんはメガネをかけ直しながら、ユウカちゃん達をジーッと見る。
「……?」
「な、何? どうして私達を見つめてるの?」
ジーッと見つめるリンちゃんに居心地の悪いような目で見るユウカちゃん達を尻目に、リンちゃんはにっこりと笑って言った。
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
「……えっ?」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」
そんな言葉を残して足早に去っていくリンちゃん。
「ちょ、ちょっと待って!? ど、どこに行くのよ!?」
そんなリンちゃんを追いかけるユウカちゃん。
「……やるしかないようですね」
「はぁ……結局はこれですか……」
黒髪の少女とベージュの子も、そんな二人を追いかけていく。
「大丈夫ですか? 先生?」
残った白髪の子だけが心配してくれた。今は君の存在だけが救いだよ……名も知らぬ白髪の子……。
そんな彼女に俺はこう言った。
「とりあえず、愛車持ってきて良い?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…………」
――ドルルンッ! ドルルンッ!
そんな彼らのいる建物の駐車場で、黒塗りの怪物が今か今かと唸りをあげていた。
なんでか続きました。
正直今回の話は書いてて一番楽しかったです。
もし続くとしたら次の更新は土曜日かな?
それでは~