一部オリ設定が入っているので注意です。
──東の海 沖合──
天気は快晴、風は穏やか。敵船影一切無し。最高に長閑で平和な海に、3人の男達を乗せた木造の小船がポツンと漂っていた。
「──しっかし、この船で偉大なる航路に向かおうとしていたのかィ?そいつァ無謀ってもんじゃないのかねェ〜〜」
「正義」の二文字が刻まれたコートを羽織り、黄色のストラップスーツを着た男──『黄猿』ボルサリーノがボソッと口を開ける。
偉大なる航路はこの世のものとは思えない気象現象が山ほど起こる世界一危険な海である。そんな海に対抗できる強大な力や航海術を持たない限り、この小舟で伝説の航路を航海することはほぼ不可能である。
しかし、2人はまだその恐ろしさを知らない。
「同感だ。最初に誘われた時にはそれなりの大きさの船があるんじゃねェかって想像していたが、実際はそれ以上だったぜ。」
「はっはっは!!まぁいいじゃねぇか!!いつかその内、でっけェ〜〜海賊船で航海するからよ!!」
戦闘員2人のボヤキにルフィは笑顔で答える。その内の1人である黄猿としても、乗船する以前から表面上では船のことを気にしていたが、彼の内心では別の課題を危惧していた。
(……まァ、船のことは置いておいて、問題なのは基礎戦闘能力。二人とも素質はあるが、現段階ではまだまだヒヨっ子中のヒヨっ子。たとえ覇気を纏えたとしても今は唯のお飾り程度にしかならない。このまま偉大なる航路に進もうとも、ただわっし一人でどうこうするだけになっちまう。それはわっしの目的に反する。だからこそ、今彼らに必要なのは戦闘、特に『死闘の経験』……)
この世界では、戦闘能力を驚異的に高める方法として、死闘の経験が非常に大きな効力を発揮する。
生死を分ける戦いを通して得られるものは多い。単純な戦闘能力の向上だけでなく、新技の技術センス、戦略、精神力…ありとあらゆる面で成長を遂げることが出来る。
その中で最も重要なものは、『覇気無しでの基礎戦闘能力』である。
この世界で強者と言われている者達は、皆覇気を纏っている。しかし、彼らはただ覇気を鍛えあげたから強くなったわけではない。彼らの持つ強大な覇気には、今までの人生で得た戦闘や修羅場の経験と、そこで培った高い基礎戦闘能力が裏付けられているのである。
覇気無しでの基礎戦闘能力を高めることの重要性は、その強者達の人生の道程に秘められている。
そのため、多少の覇気を使いこなせるとしても、その意志を裏付ける覇気無しでの基礎戦闘力が低ければ、場合によっては覇気を持たない人間にさえ負けることがあり得るのだ。
つまり、多くの戦闘や修羅場を経験し覇気無しの基礎戦闘能力を高めることこそが、最も効率的に力をつけられる方法の第一歩なのである。
──もっとも、2人が死闘に打ち勝てる素質を持っているという前提だが、既に黄猿はそれを見抜いていた。
(わっしの『本当の正義』を叶える上では、世界への影響力に関係なく
そのため、黄猿は自分自身も含めて、ここからの航海は仲間と助け合いながら多くの戦いを経験していくことが一味の成長にとって大切だと考えていた。
──────
── 時を遡ること数時間前──
──シェルズタウン とある食堂──
モーガンを打倒した3人の麦わらの一味とコビーが勝利の祝杯をあげていた頃。
ふと、黄猿が自身の目的について語りだした。
「──わっしの野望は、海軍本部を世界政府から独立させ、民衆を理不尽な暴力から妨げ、寄り添った『本当の正義』を実現できる独自の組織に改革すること。今の海軍は『絶対的正義』を掲げてはいるが、実際には世界政府に都合のいい正義というのが正しい」
「しかし、わっし1人の力だけじゃあどうしようも無いからねェ〜〜、外から海軍を変えるために、お互いに協力し合える仲間が欲しかったのさ。もちろん世の中には、あー、少し違うが似たような思想を持つ勢力はいる」
「ただ、わっしはあるモノを重視していてねェ、独自に仲間を探そうと考えたのさ。その上でこの島に来て君ら2人を見た時に、初めて『海賊は悪』っていうのはどうも違ェんじゃないかと思った」
勿論この会話は、同席していたコビーに目の前で聞かれている。そして黄猿は、彼の夢が海軍将校だということを知っていた上で、『麦わらの一味』のメンバーとして海軍の闇の部分について、そして今までの自身の経緯について話をした。
「へぇー、なんか海軍って色々ややこしいんだな」
腕を伸ばし食材を口に頬張りながら、淡々とルフィは黄猿の話を聞いていた。
「時にルフィ、海賊王ってのはどんな人間だい?」
「そりゃあ、この世で一番自由な人間だ」
黄猿の言葉にルフィは口をモガモガしながら即答する。
「そう、わっしはその『自由』に目をつけたのさ。自らの目標もまた、自由を追い求めるモノだと感じたからねェ。それに旅を通して世界の実情も見てみたい」
「──その上で、モンキー・D・ルフィ、君を見た時に確信した。ルフィとなら、わっしの野望が叶うだろうとね」
「ん?どうしてルフィなんだ?」
「さァ、わっしも分からないけれど、いわゆる勘ってヤツだねェ」
「そっかぁ、勘ならしょうがねぇな。まぁ俺は海賊王になる男だからな」
なんの変哲もない食事の会話だった。しかし、"そうあるべき"かのように海軍大将であった黄猿はルフィのことを認めていたのである。その流れには第三者の意志など一切関わっていないはずにもかかわらず、まるで誰かが介入したかの様に話が進んでいた。
「──ところで、コビーといったかィ?確か君は海軍本部の将校になりたいと言っていたねェ。無理にとは言わねェが今の話を聞いて何を思ったのか、率直に聞かせてほしい」
唐突な質問に、顔を俯かせていたコビーは大きな反応を見せる。
黄猿が述べていたように、元々コビーは海軍将校志望であった。しかし、彼の内心は大いに揺れていた。
コビーにとって黄猿の登場は非常に大きな出来事だった。
自身の目標である将校の、その中で最上位の力と階級を持つ人物には、元々強烈な憧れを抱かずにはいられなかった。加えて、その姿や実力をこの目で見ることができたのだから、その想いは尚更強まっていた。
だが、その大将が、友人とはいえ海賊の仲間になった事実や、海軍の実情が自分の想像していた「悪い奴らを取っちめる」ものとは異なっているという証言は、コビーの憧れを、夢を揺らがせる条件としては充分すぎるものだった。
「ぼ、僕は・・・!!」
しかしその瞬間、コビーはある言葉を思い出していた。
『海賊王になるって俺が決めたんだから、そのために戦って死ぬんなら別にいい!!』
小さい頃からなりたいものが、現実では異なっていた。自身が将来やりたかったことが、実はできないものだった。そしてその理由は、元々組織がそういうものだったからだった。
では、夢を諦めるか?組織がそうなのだからしょうがない、どうしようもないと憧れを捨てるか?
否!!!!
コビーは拳を力いっぱい握りしめ、ゆっくりと顔を上げ、キッと真っ直ぐな目線で黄猿の目を見つめた。
「た、大将であるボルサリーノさんが言ったことなのですから、それが真実なのかもしれません」
「・・・ですが!!僕はそれでも、自ら抱いた夢は絶対に諦めません!!!も、もし、その話が本当だったとしても、僕が!僕自身が海軍を内から変えて、悪い奴らを取っちめる理想の海軍将校になってみせます!!!!」
コビーは極限まで声を振り絞り、自らの強い想いを憧れの存在にぶつけた。
しばらく言葉が無い時間が続く。
その間コビーは決して目をそらさず黄猿の目に立ち向かっていた。
数秒かあるいは数分か、コビーにとって無限に感じた時間が過ぎたとき、ゆっくりと黄猿の口が開く。
「──そうかィ。その意志や良し、君は立派な海兵になれるだろう」
「!! あ、ありがとうございます!!!!」
丁度雲から太陽が現れたのだろうか、光が筋のように伸びて部屋を照らし始めていた。
その中でコビーは、ただ深々と、強く、頭を下げ続けていた。
──────
「ボルサリーノ、なぁボルサリーノ!!」
「ん〜?」
胡座をかきながら思考の海に沈んでいた黄猿に、ルフィが横から声をかける。
「さっきのすっげェビームまた見せてくれよぉ!!ビームビーム!!」
黄猿がふとルフィの方を見ると、その目は星型になってギンギンに輝いていた。
「わっしは一戦闘員だからねェ…自分の力ってのは重要な時に発揮するまで温存しておくモンさ。おいそれと自分の刃ってのは大っぴらに晒さねェもんだよォ?」
「え〜〜!?なぁ、そんなこと言わずに頼むよぉ〜〜!!ビーム見せてくれよォ〜〜!!」
「いいよォ〜〜〜」
「いやイイのかよ!!!!」
ゾロのツッコミもつかの間、黄猿はゆっくりと立ち上がり近くにあった巨大な岩に指をさすと、一瞬光源が指先に溜まると同時に、即座に光線を発射する。
目にも止まらぬ速さでその光線は岩に到達すると
瞬間
轟という音ともに強烈な大爆発を起こし、衝撃波が辺り一面を襲った。
そして煙が消えると、先ほどまであったはずの巨大な岩が影も形も無くなっていたのだった。
「うほぉ〜〜〜!!すっげぇ〜〜〜!!!!本物のビームだぁ!!かっこいい〜〜!!!!」
突如の爆発にルフィは立ち上がって腕を伸ばし、全身で喜びの感情を表現していた。
その一方でゾロは口を開け、若干引き気味な表情で爆発を見つめていた。
「さっきも見たが……やっぱりとんでもねぇ威力してやがるな。そのー、ビームってのは一体なんなんだ?ルフィと同じ『悪魔の実』の力ってやつか?」
「──わっしは『ピカピカの実』を食べた光人間。光そのものなら、光線を撃てても何もおかしくはない」
「なんだそのデタラメな能力は……ルフィといい、悪魔の実を食ったヤツってのは随分と人間離れした力を持ってるんだな」
ゾロがそう言って頭を掻きながら毒を吐くと、黄猿は指していた指を下ろし、ゾロの近くにゆっくりと腰を落として胡坐をかく。
「おっとっとぉ〜〜必ずしもそうとは限らないよォ〜ゾロ。確かに悪魔の実を食った者はその実の名前を冠する力を手にするが、だからといって無能力者が必ず能力者よりも劣っているというわけじゃあない。」
「あん?そうなのか」
「むしろ、この世界で最上位の強さを誇る海賊団の船長が無能力者だからねェ。──まァ、どのくらいの強さになれるかはゾロの努力次第だよォ〜?」
「へぇ〜〜そんなすっげー奴がいるんだなぁ〜」
「へっ、なるほどな。まぁどんな奴が相手だろうと、あの男を超えるために剣士として強くなるだけだ」
人が力を伸ばす上で最も重要なことは、可能性、つまりその分野でトップの人間の存在を知ることである。
その事例が存在するからこそ、初めて多くの人は「自分でも成れるのではないか」「自分もこうなってみたい」と夢や野望を抱き、その高みへと挑戦していこうとするのだ。
黄猿はゾロへ語りかけている際、かつての『先生』の記憶を、そしてその指導を朧気ながら思い浮かべていた。
「まァとりあえず、今後はいくつか島を経由してから偉大なる航路に入るのが現実的な道程だねェ~~」
「んぁ?このまま偉大なる航路にいっちゃダメなのか?」
黄猿の思案したような言葉にルフィは黄猿に目線を向け少し首を傾ける。
「そうだねェ〜〜そもそも此処からリヴァース・マウンテンまでかなり距離があるんで、この船で航路に入るっつう問題以前にそれまでに備蓄が持たねェってのが正直なところだ」
「というかボルサリーノ、お前あの島までどうやって来たんだ?海軍本部の大将様が乗るようなデカい船は港に見当たらなかったが・・・」
「ん〜?ただ自分で空を飛んできただけだよォ〜」
「なッ!!・・・ハァ、コビーのやつも言っていたが、まったく大将ってのはとんでもねぇんだな。もう驚かねぇところが無いくらいだぜ」
「褒めても光しか出ないよォ〜〜」ピカー
「うぉぉぉ!!本当に体が光った!!ハハハハ!!!」
「何ギャグかましてんだテメェ!!!」
────
「あーあ、それにしても腹減ったなぁ」
「そういやルフィ、お前航海術とかは持ってるのかよ」
「いんや。ただ風任せ波任せだ」
海にだらんと腕を下ろしていたルフィの力無い発言に、ゾロの眉が少し引き締まる。
「おいおい、、、海賊王を目指すお前がそれを持ってねぇのはおかしかねぇか?」
「おかしくはねぇよ、漂流してたからな。そういうお前は賞金稼ぎで旅してたんじゃねぇのか?」
そう言われると、何かを思い出すかのようにゾロは空を見上げた。
「元々賞金稼ぎと名乗った覚えはねぇし、ある男に会うために島を出たら気づいたときには帰れなくなって、仕方ねぇから海賊を狩って生活費を稼いでいただけだ」
「なんだ、お前も迷子か」
「そういう言い方はよせよ!!」
その返答にイラつきゾロが船の縁を叩きつけるも、丁度3人の体重のバランスが良かったのか、船が大きく揺れることは無かった。
「まぁまぁ2人とも落ち着きなすッて。わっしの見る限りこの船は近くの島に向かっているから安心して良いよォ~~」
「うん?ボルサリーノ、お前航海術知ってんのか!?」
「昔、新兵だった頃に座学で学んだ程度だが、ここいらの穏やかな海域なら多少は読める程度さ。まァ、偉大なる航路に行くッってンならちゃんとした航海士を仲間にするべきだけどねェ」
「へぇ、兵士一人一人が海で生きていける知識を得ているとは、流石は海軍だな」
「褒めても光「うるせェ!!」…怖いねェ~~」
2人の小さい漫才が行われている間、ルフィは空腹に耐えるようにぼんやりと空を見上げていた。
すると、途端に太陽を遮る小さな影が見える。
「んぁ?あれなんだ?」
「ん~~?」「ありゃあ…鳥、だな」
2人がそう言うと、ルフィは条件反射するかのように右腕をゴムの力で空に伸ばす。
「おい!何する気だルフィ!」
「食おう!あの鳥!捕まえてメシにしよう!」
その決意表明が発せられたつかの間、手でつかんたのか、ロケットのような速さでルフィが鳥へと飛んでいった。
…にもかかわらず、すぐさまルフィが驚きの声をあげる。
2人が上を見続けて数秒経ったが、一向にルフィが降りてくる気配は無く、鳥は先程と変わらずに飛び続けていた。
「…おい、アイツはなんで降りてこねぇんだ?」
「恐らく、あの鳥に食われちまったねェ」
「はぁ!?」
飄々とした黄猿の返事に対して、ゾロは冷や汗と共に驚きの声を出した。
「助けてぇぇぇ!!!」
「何やってんだテメェ!!!」
ルフィの大きな叫び声が響くと同時に、鳥は海の彼方へと飛び去っていく。慌ててゾロがオールを掴み、鳥が飛んでいく方向へ急いで船を漕ぎだした。
「ボルサリーノ!お前も手伝ってくれ!」
「わっしは船長を追いかけるよォ~、ルフィなら自力で脱出できるとは思うが、万が一のこともあるし……あとは次の島で変装用に服屋を探しておきたいからねェ~」
「ふっざけんなお前ぇそれが目的だろぉ!!!!」
相も変わらず飄々とした受け答えと共に、目線を右上に上げて考えるような仕草を見せた黄猿に、ゾロはオールで船を漕ぎながら全力でツッコんだ。
「それにあの鳥が飛んでいく方向…丁度わっしらが目指している一番近くの島の方向と同じ様だ。お前さんにとってもいい基礎トレーニングになるんじゃないかィ?」
「あぁ!?…まぁ、確かにそうかもしれねぇが」
ゾロは肯定しながら黄猿から目線をそらし、鳥が飛んでいく方向に目を向けた。向けてしまった。
「じゃァ船のこと、頼んだよォ~~~」
「あ!?おいちょっと待て‼」
その隙をついたのか、黄猿が船から飛び上がり、空中へと向かっていく。
しかし、とっさのゾロのかけ声も届かず、黄猿は一瞬で空の彼方へと駆けるように飛び去って行った。
「ちっくしょぉ~~あの野郎完全に俺をパシリ扱いじゃねぇか!!…いつか必ずブった切ってやる」
例えゾロの筋力が普通の人間よりも優れているとしても、オールと風の力のみでは黄猿や鳥の速度にはとうてい追いつくことは出来ない。
黄猿が飛び去っていったその後も、ゾロは置いてきぼりにされた事に愚痴を零しながら、鬼気迫る表情でひたすらにオールを漕ぎまくっていた。
──東の海 オルガン諸島 オレンジの町──
風にたなびく白いコートともに黄猿はゆっくりと港に着陸した。
本来ならば鳥に追いつきルフィを救出する算段ではあったが、黄猿の見聞色が町の異様さを感知したため、ルフィの位置をある程度察知できる範囲で着陸するという、念には念を入れた判断をしたのであった。
(おっかしいねェ~~いくら小規模の町とはいえ、人の気配が殆ど感じ取れない・・・)
一見すると至って平凡な港町だが、昼時にも関わらず町は静けさに包まれていた。
住人の気配がしないということはいくつかの可能性が考えられる。
何らかの災害からの避難か、はたまた襲ってきた賊から逃げたのか──。
空から見ていた時、所々建物の破壊痕があったことも気になる。
一先ずすべきことは情報収集だろう。丁度近くに歩いている一般人の気配を察知した黄猿は、その人物に話しかけることにした。
「ちょっと失礼ィ、聞きたいことがあるんですけどもォ〜〜」
「どわぁ〜〜!?なんじゃ貴様、さながら急に現れおってぇ!!」
ふと後ろから気配もなく話しかけられたことで、鎧を着た白髪の老人が驚きざまに尻もちをつく。
身長差があるため、結果的に黄猿が腰を曲げ見下ろす形で話を進める。
「おっとっとォこれは悪い事をしたねェ、わっしはボルサリーノ。一体どうしてこの町はこんなに住人がいないんですゥ〜?」
「ま、まさか貴様そのコートにその格好…海兵さんか!!いや~良かった!!この町を助けに来てくれたんじゃな!!!!」
「・・・あ~まァ、今は海兵ってわけじゃないんだけどねェ~~」
誤字報告、その他感想等ありましたらモチベの向上にもなるので書いて下さると嬉しいです。