同衾の影が薄いよぉ
ルイン視点
かれこれ同衾生活が始まって数週間が経った。
おかげで僕は寝不足気味だ。
あれから僕は、断ることもできず、毎日エナと同衾し続けている。
そのせいで緊張し続けているので、寝ている時と寝ていない時の境目がわからないのだ。多分きちんと寝れていないのだと思う。
常に僕は彼女と行動を共にしているので、その、離れた隙に色々と発散することもできない。
ということで、地獄のような、悶々とした日々を過ごしているところに、エナがとある依頼を持ってきた。
「というわけで、いつもより少し奥に潜ってこのソボロ草ってのをとってくるってわけだ」
「……」
「おいルイン、聞いてるかぁ?」
「ぅ、あぁごめん、ちょっとぼーっとしてた」
睡眠時間がやはり足りない。いつも夕方あたりになるとすごく眠たくなるのだ。
これはどうにかしないとな……。
「大丈夫かぁ?んで、この依頼、どうする?」
「山の奥ってことは、戦うにしてもウルフだけか……」
冒険者の仕事はさまざまある。害獣として忌み嫌われる魔物の討伐、商隊の護衛、そして今回のような薬草取りのような仕事だ。
特に僕たちは実力がまだまだ足りないので、薬草取りをして下積みをしている。
「ウルフなら私たちなら余裕だろ?」
「……あぁ、多分大丈夫だと思うよ。明日はじゃあ森の奥行こうか」
「よっし、明日は遠征だな〜!」
エナが嬉しそうに体を揺らす。
彼女は僕が心配だからついて来たんだと言って聞かないけど、割と彼女も冒険が好きだ。よく僕の父さんに冒険話をねだっては、僕と一緒に聞いていた。
「じゃあ明日は大変だろうし、今日は早く寝ようぜ!」
「あ、う、うん」
寝不足が心配だなぁ……。
ベッドに潜り込み、エナと背中合わせで横になりながら考える。
ウルフは素早い。魔法を使うエナにとっては苦手な相手だろう。
だからこそ、前衛の僕が彼女を守らなければいけない。
明日への決意を胸に秘め、僕は目を閉じた。
……ね、寝れない……!
エナ視点
森の奥、ウルフたちが多数生息するはずの場所。
その森は、なぜか、異様なまでに静かだった。
「先輩から聞いてた話では、もっと野生的で騒がしい場所っぽかったのになぁ」
「何かがおかしい。警戒して進もう」
「おう。まあウルフが出ないに越したことはないけどな」
ウルフは魔法が当たりづらいから苦手だ。まあ前衛のルインがどうにかしてくれると思っているので、そこまで脅威ではないが。
まあとにかく、魔物が出ないに越したことはない。
このままさっさと目的地まで移動して、例の草を摘んで帰ろう。
その瞬間、木の影から巨大な何かが見えた。
「ッ、危ない!」
ルインに突き飛ばされたその後ろで、それが持っていた巨大なものが地面に叩きつけられる。
「う、あああっ!」
その何かの衝撃だけで、私は地面を転がり、木にぶつかって静止した。
一体、何が。
「エナ!早く逃げて!」
木に叩きつけられ、痛みに疼く体を押さえながらルインの、そして襲撃者の方を向く。
ルインも衝撃で飛ばされたようだ。こっちに走り寄ろうとしているのが見える。
緑の巨躯に、木でできたと思われる棍棒。まさか。
「お、オーク……」
こんな、初心者の街の付近にいていい魔物じゃない。
なんで。くる場所を間違えた?そんなわけがない、確認は何度も行った。
オークに私たち二人で勝てるはずがない。確実に殺される。私が、わたしがこんな依頼を持ってこなければ。
「エナ!!」
ルインの叫び声でハッとする。
「ッ、ファイアボール!」
私の一番得意な魔法、村に行商に来ていた商人の護衛の冒険者から教えてもらった魔法を放つ。狙いはオークの顔。これで倒せなくてもこれで怯めば……!
あっけなく、手で叩き落とされた。
「嘘、だろ」
オークは怯むどころか、むしろ怒ってしまったようだ。
こちらに向かってくる。
「い、やだ、やめろ、やめて」
腰が抜けた。逃げられない。
ずりずりと後退しようとして、後ろの木に頭がぶつかった。
こんなところで。まだ死にたくない。まだこの世界でやり残したことだっていっぱいあるのに。まだ、ルインと一緒に冒険したかったのに。
オークが棍棒を振りかぶる。
「あっ、いや、しにたくない、やめて、やめ、て」
「う、わぁぁぁあああっ!」
ルインが大きな声を出しながらこちらに走ってくる。
「エナから、離れろぉっ!」
ルインが持っていた剣がオークの膝の裏に突き刺さる。
「ルインっ」
「エナ、今のうちに逃げよう!」
膝の裏を攻撃されたオークは、立っていられず、膝をついた。
振りかぶった棍棒が地面に落ちる。
しかし。
「ま、待って、ルイン、腰、抜けちゃった」
「……よし、わかった」
おもむろにルインが私の頭と足に手を回す。
待て、これは、まさか。
「よし、逃げるよ!」
「うわ、ぁっ!」
私は、お姫様抱っこでルインに抱えられ、森を抜けることになった。
「はぁっ、はぁっ、ここまで逃げれば、大丈夫でしょ……!」
結局、オークはこちらを追ってくることはなく、私たちは森の外、街と森を繋ぐ道まで戻ってくることができた。
「オークがいたから、ウルフたちは怖がって出てこなかったのかな」
「あの」
「今回はイレギュラーだから、契約違約金とかは取られないと思うけど。この近くにオークが出たこと自体が問題だ。帰ったら報告しないと」
「ルイン?」
「ん、どうしたの?エナ」
「えっと、その。そろそろ下ろしてくれないかなぁって」
「え?」
途端にルインの顔が真っ赤になる。自分が今まで何をしていたのかわかったようだ。
「その、このあたりだと街の人とかも通るから、恥ずかしいといい、ますか」
「あーっ、ごめん、ごめん!下ろす!咄嗟だったからつい……」
ルインが慌てて私を下ろす。
くっそ、まじで恥ずかしい。ガキみたいな扱いだ……。
「まじでありがと、ルイン。お前がいなかったら死んでたわ」
「こっちこそごめん、もっと早く気づいてれば」
今回は油断した。
もし、ルインがいなかったら……。
「エナ、早く戻って組合にオークのこと報告しないと。他の人が襲われたら危険だ」
「お、おう、さっさ行こうぜ」
ほんとはもっと苦しめたかったけど断念しました
別のところでやれたらいいな