正直ここが一番書きたかったまである。
エナ視点
オークから命からがら逃げ出した私たちは、街に戻り組合に報告をした。
その手続きがまた大変で、受付嬢に連絡したら事がどんどん大きくなって組合長を呼ばれ、そしてその人がよその街の組合に連絡をとるとかでその場所で何時間も待たされることになった。
食事を満足に摂る暇もなく、全ての手続きが終わった頃にはもう深夜になっていた。
「まじで疲れた……。こんなんならオークとかシカトしときゃよかったかなぁ」
「まあまあ、契約違約金どころか逆に依頼の不備でこっちがお金もらえたし、まあ良かったんじゃない?」
「そりゃあそうなんだけどよぉ……」
どうやらオークに関しては、のちに大きな討伐隊が組まれて森の制圧を行うことになったらしい。
まあそこからは、凄腕の冒険者の皆様の頑張りだ。私たちには関係ない。
「もー、さっさ飯食って寝ようぜ!」
「うん、何食べたい?」
「肉!肉食いたい!」
「ふー、食った食った」
食事を終え、いつもの二人の部屋に戻ってきた。
なんだか今日はすっごい濃い1日だった気がする。
ベッドに座る。疲労困憊だ。もう一歩も動けない。
「にしても、今日はまじで死ぬかと思ったなぁ。オークって、話には聞いてたけどあんなにデカかったんだな」
「うん、なんとか逃げれてよかったよ」
「……そうだな」
「……エナ?」
あの時の、迫ってくるオークと振り上げられた棍棒が思い出される。
今まで、前世も含めて感じたことのないほどの死の恐怖だった。
ルインが横にいたし、外だったし、色々忙しくて我慢してたが、もうそろそろ限界かもしれない。
「ちょ、ちょっとエナ?!なんで泣いてんの?!」
「な、泣いてねぇし!」
「大丈夫?!やっぱりオークにどこかやられてたの?!」
「ち、ちげぇよ!大丈夫だって、すぐ、おさまるから」
部屋に戻ってきたことで張り詰めていた気持ちが切れ、一気に恐怖が涙になって溢れ出す。
あの時、もしルインが助けてくれなかったら。もしルインが間に合わなかったら。
……もし、ルインが死んでいたら。
私のせいで、私が依頼を持ってきたせいで、遠征だなんて張り切ったせいで、オークなんかと遭遇することになった。
そうではないと頭のどこかで理解はできている。けど、それとこれとは話が別だ。
……くっそ、涙が止まらない。さっきまで耐えれてたんだから、さっさと収まってくれ。
「う、ぐっ、ぐすっ」
「あ、わ、えーっと、ど、どうしよう」
「だい、じょうぶだって。ちょっと、緊張してただけ、だから」
「うーん、と、えー……あ、そ、そうだ」
突然、ルインがこっちに近づいてきた。
そして……。
「だ、大丈夫、大丈夫だから……」
「……ッ?!!?!?!」
なんだ、これ。
今、私はどうなってる?
全身に伝わる、こいつの体温。頭の辺りを、遠慮がちに何かが触れている。
ま。
まさか。
抱きしめられてる?あやされてるのか?ルインに?
「大丈夫、大丈夫。オークはもういないし、僕も君も五体満足でここにいるよ。もう怖がることはないからね」
……ずるいぞ。
そういうことされると。
甘えたくなっちゃうだろ。
私の方が、精神的にはずっと大人のはずなのに。
立派な男だったはずなのに。
「う、うぅぅぅぅうぅぅぅ!」
ルインの胸板に頭をぐりぐりと押し付ける。泣いている顔を見られたくない。
不安が、恐怖が、ルインの体温でほぐされていく。
「こわかった、こわかったよぉっ」
「え、エナ……」
遠慮がちに頭を撫でてくる手も、細いように見えて意外としっかりしている体も、全てが私を安心させる。
しばらく、私は、小さな子供のように泣きじゃくった。
ルイン視点
こ、こまったなぁ。
胸の中には、泣き疲れて寝てしまったエナがいる。
……まさか、エナがこんなことになるとは。
正直、最初からおかしいなとは思っていた。
オークに襲われている最中はあんなに怖がってたくせに、逃げ出してきてからはすっかりけろっとしている。
まあエナはしっかりしてるし、そういうものなのかと思っていたけど。
部屋に戻って、急に泣き出したエナを見て、最初はどうしたらいいのかわからなかった。
でも、小さいころ、悪夢を見たときに母さんが僕を抱きしめて安心させてくれたのを思い出して、半分パニックになりながら実行に移してみた。
正気になった今なら、僕はなんてことをしているんだって感じだけど。
実際にエナは、僕の腕の中で一通り泣いた後、疲れていたのだろう、すぐに寝てしまった。
しかし、そうなると一番困るのは。
「え、エナ〜?離してくれないと、困るんだけど……?」
すー、すー、と穏やかな寝息が聞こえる。どうやら起きる気配はなさそうだ。
彼女の手はがっちりと僕の腰にホールドされ、離れる様子がない。
……ぼ、僕はどうすればいいんだ。
とはいえ、このまま抱きつかれた状態でベッドの上に座っているわけにはいかない。
……よ、よし。別にいつものことじゃないか。
背中合わせにピッタリ引っ付いて寝てるんだ、今更前同士でピッタリも変わんないはずだ。
意を決して、彼女と一緒にベッドに横になる。
夜の静けさの中。
彼女に回した腕の様々な場所に、僕とは違う女の子の柔らかさが伝わる。
そして、僕のお腹に密着している彼女の、その、控えめながら柔らかい……それの感触も、感じてしまう。
明日朝起きてから、エナにしっかり怒られよう。
……いや、先に寝てしまって起きなかったのはエナだ。僕が怒られる道理はないのでは?
悶々とそんなことを考えていたはずが、気づいたら腕の中の体温に思考を溶かされ、気づいたら深いーーー久しぶりのーーー眠りに落ちていた。
エナ視点
ぼんやりとしたまどろみの中、意識がふんわりと浮上する。
……なんか、腕の中あったかいな。なにかに、しがみついてる?
生物のような、何かの暖かさを感じる。おちつく。
もっとその暖かさを感じたくて、強く抱きしめる。
「あ、あの、エナ?起きたの?」
ルインの声がする。
あぁ起きた、起きたとも。
でももう少し寝かせてくれ。この暖かいものを手放したくない。
「起きたなら、その、手を離してくれないかなって」
なんで、お前に言われて手を離さないといけないんだ。
これは、私のものだぞ。お前にはやらん。
「やだ〜……離したくない……もう少しだけ……」
「っ、エナ、寝ぼけてる?早く離してくれないと、流石に腕が限界なんだけど……」
……腕?
なんでこれとお前の腕に関係があるんだ?
……まて、私は、今、何を抱きしめてる?
意識が急速に浮上する。まどろみから強制的に引きずり出される。
それに押し当てていた顔を、ゆっくりと上に向ける。
ルインと、目が合った。
「お、おはよう、エナ」
ま、まさか。昨日、あのまま、寝落ちして。
抱きしめ合ったまんま、こいつと寝たってことか?
顔に熱が集まる。多分ルインから見ても、私の顔は真っ赤になっているだろう。
言葉が見つからず、口をぱくぱくさせる。
「あ、あの、とりあえず離してくれる?腕が、そろそろ痺れて限界で……」
「あ、ぅ、うん」
私は、ベッドから飛びのいた。
……ちょっと、名残惜しい……とか、全然思ってないからな!!
俺はこーいうのが読みたいんだ!!!ウオオオ!!