覚えなくてもいいキャラが二人出てきます。
エナ視点
例のオーク事件の日から一日たった。
流石に、今日一日はお休みにしようということで、街の中央にある大きな商会に行ってくると出かけて行ったルインを見送った私は、ベッドに横になっていた。
……ルイン、結構がっちりしてたな。
「う、うぅぅぅうぅうぅぅぅう!!!!!」
呻きながらベッドを転がる。
朝からずっとこんな調子だ。
ちょっとした意識の隙間に、昨日の出来事が入り込んで心を乱される。
しかも寝起きにすごく恥ずかしいことを口走った覚えもある。
ーーー「離したくない……」
「ぬぅぅううううおおおおおおぉおぉ!!」
またもやベッドを転がる。隣は既に出かけているので、迷惑にはならないはずだ。
「うぅ、くそっ……」
胸の辺りがぞわぞわして変な気分になる。
奇声をあげてその辺りを走り回りたくなってくる。
「はあ、私も出かけるか……」
特に行く当てもない。
でも、この部屋でずっと呻いて転がり続けるよりは、外に出て新鮮な空気を吸った方がいい。
ルイン視点
赤面したまま動かなくなったかと思えば、話してる途中で急に目を泳がせてベッドに倒れ込んで動かなくなるエナとどう接すればいいかわからなくなった僕は、買い物に行くという口実で街に逃げてきた。
まあ、昨日の出来事が相当恥ずかしかったんだろう。
彼女は元から僕を引っ張る方だったし、ああやって弱いところを僕に見せたことなんてほとんどない。
……それに、エナと一緒にいると、彼女の柔らかい体の感覚を思い出して僕も挙動不審になりそうだ。
街の中心の噴水。
この街で有名な待ち合わせスポットで、様々な人々が集まる。
「ねぇそこのお嬢さん、俺とお茶しない?」
「え、あの、友達を待ってて」
……そんな噴水に、見知った顔を見つけた。
「えーいいじゃん、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからさ!」
「こ、困ります!あ、友達きたので」
「おっ、友達もかわいいね、せっかくだし二人一緒に」
見ていられない、しょうがなく介入することを決める。
「いい加減しつこいよ、ザック」
ナンパ師……僕のこの街に来てからの友人である彼の頭にチョップを叩き込んだ。
「痛ってぇ!何すんだよルイン!あ、さてはお前もお茶したいんだな?」
「しないよ。ごめんなさい、こいつが絡んじゃって」
僕がザックを引き剥がし、二人の女性は足早に去っていった。
「お堅いやつだなぁ。冒険者なんだからもっと自由に振る舞えばいいのに」
「君が自由すぎるんだよ、ザック」
「へぇへぇごめんなさい。ま、お前にはエナちゃんがいるもんな〜〜」
「な、エナは別にそういうのじゃ」
「なんだよ、いっつもあんなにべったりなのに、今日は別行動か?」
ザックは、男女関係に関しては妙に鋭いところがある。
あんなナンパばっかしてるくせに、いい感じになって付き合った女性もたくさんいるらしい。本当に不思議だ……。
「あ、わかった!さてはエナちゃんとなんかあったな?痴話喧嘩かぁ?」
「ち、違う、別にそういうのでは」
「そういうのじゃない、ってことは、なんか有ったんだな?」
「ぐぬ……」
本当に、そういうところだけ勘が鋭い……!
「まーまーこの俺に相談してみろって、エナちゃんとしっかりいい感じになれる方法、教えてやるからさ」
「う、ぬ……」
まあ、どちらにしろ女性経験0の僕よりも、ザックの方が女性の機敏に聡いのは確かだろう。
相談、してみるか……。
「実は……」
「……と、いうわけなんだけど」
「……」
あ、あれ?!ザックが黙りこくってしまった。何か問題があっただろうか。
「一応聞くけどよ」
「うん」
「本当に付き合って、ねぇんだよな?
「多分向こうは僕にそんな気ないだろうし」
ザックがすごく呆れたような顔をしている。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」
あッ、ため息ついた!
「その状況で付き合ってないとか、まじで二人ともおかしいだろ……」
「え、えぇ……」
ザックが意を決したような表情になる。
「ルイン。エナちゃんのこと好きか?」
「そ、そりゃ、まぁ」
急にストレートに聞いてこないでよ、恥ずかしい……。
「エナちゃんと付き合いたいか?」
「う、うん……」
「……よし、今からお前にデートの仕方を教えてやる」
「はぁ?!」
こいつは一体何を言い出すんだ?!
「エナちゃんを誘ってデートしろ、そして彼女の心を掴み取れ」
「な、そんな簡単に行くわけ」
「いーや行くね。俺の見立てじゃあ、エナちゃんもお前のこと大好きだぜ」
「え……?」
「お前らに足りないのはきっかけだ。さっさとムードを作ってベッドインすれば……ってそれは毎日やってんのか。まあつまりだ、後一押しお前がすれば、きっとどうにかなるぜ」
ザックは至って真面目そうだ。
……話を聞いてみる価値くらいは、あるかもしれない。
「お、聞く気になったみたいだな。まずは何から話すべきか……」
エナ視点
街を適当にぶらついていると、見知った顔に話しかけられた。
「やあエナ、今日はルインと一緒じゃないの?」
出会い頭にいま一番聞きたくない名前を投げてきやがった……。
「姐さん、私がいっつもルインと一緒にいるみたいな言い方やめてください」
姐さん……私のこの街に来てからの魔法の師で、冒険者のクルーニアさんだ。
結構ランクの高い冒険者で、私も色々お世話になっている、超すごい人だ。
「ねぇねぇ、ルインとどこまで行った?もう一緒に寝るくらいはした?」
「い、一緒に、寝る、とか……」
今朝の光景がフラッシュバックして、顔に熱が集まる。
「え、まじ?もうそこまで行っちゃった?!」
「い、行ってません!そもそもルインとはそういう関係じゃないです!」
「じゃあさっきの赤面はなんなのさ。ほらほら、お姉さんに教えてみなさいな」
……人生経験豊富そうな姐さんなら、このよくわからない胸のぞわぞわについて、何か答えを持ってるのだろうか。
相談、してみようかな。
「じ、実は……」
「と、というわけでして……」
「え、何、ピュアすぎない?」
「……ん?」
姐さんが、とんでもなく困惑している。
「ちょ、ちょっと待って、初恋とかまだなの?」
「はつ、こい?まだですけど……。そもそも恋だの愛だの、よくわかんなくて」
この体に転生してから、恋というものを患ったことはない。
というか、精神が男なのに肉体が女だから、恋愛だなんだにあまりついていけないというのもある。
「あのね、落ち着いて聞いて、エナ。あなたの言うその胸のぞわぞわ、それが恋よ」
「……え、えぇぇぇえぇ?!」
そんなわけないだろう、相手はルインだぞ?!
「少なくとも、世間一般的に見てそれは恋と定義される感情よ。まさかずーっとじれじれしてるのになんでくっつかないんだろうと思ってたら、まさかエナがピュアすぎたなんて……」
もし姐さんの言うことが本当なら。
私はルインのことが、好き、と言うことで。
「い、いや、もしそうだったとしても、ルインが私のこと好きだとは限らないじゃないですか」
「側から見ててわかるくらいルインはあなたのこと大好きよ」
「んなっ……」
顔が熱い。
そんなわけがないだろうと否定する自分と、もしかしたらそうなのかもしれないという自分がせめぎ合っている。
る、ルインが、私のことが、好き?
「ふへ、ふへへ」
「うわ、青春オーラ。眩しくて浄化される……」
「はっ!違いますよ、今のは別にそういうのじゃなくて」
違う、私は男だぞ!ルインが好きとか、そんなわけないじゃないか!
「ルインもヘタレよねぇ……同衾するくらいなら襲っちゃえばいいのに。というか話聞くだけだとあなた誘ってるようにしか聞こえないわよ」
「ち、違いますから!!」
「……しょーがないわねぇ。ちょっと待ってなさい」
姐さんが近くの宿屋に入り、そしてすぐ戻ってくる。手には何か袋のような物が握られている。
「これは、私が子供の頃に来ていた可愛い服よ。あなた、見た感じ可愛らしい服とか持ってなさそうだしあげるわ」
「え、いりませんよそんなの!」
「この服着て、ルインを悩殺なさいな。そしてさっさと付き合ってしまいなさい」
袋を押し付けると姐さんはどこかに消えてしまった。嵐のような人だ。
袋の中を見ると、ちょっぴり露出多めの、私の趣味にはあまり合わない可愛らしい服が入っている。サイズはちょうどいいくらいのようだ。
「一体、私にどうしろと……?」
部屋に戻ると、ルインが一足先に帰っていたようだった。
「え、エナ、おかえり」
「お、おう、ルイン、ただいま」
くそ、姐さんが変なこと言うから意識してしまってルインの顔が見れない。
「よ、よし、勇気を出すんだ、僕。エナを誘うんだ」
なにかルインがぶつぶつ呟いている。
「どうした?ルイン」
「エナ!」
「は、はい!」
ルインが、急に真剣な顔でこっちを見る。
なんだその一世一代の、告白、みたいな。
ま、まさか。
「明日僕と一緒に、遊びに行きませんか!」
「ぅ……う?うん」
「よ、よしっ!」
別に、それくらいならいいが……び、びっくりした。まさか告白されるのかと……。
……ん?
姐さん曰く、ルインは私のことが好きらしい。
つ、つまりこれは。
で、デートという、やつなのでは?
気づいた途端、心臓がドキドキと鼓動する。
姐さん曰く恋らしいその感情に、気づいてしまった。
わ、私は、とんでもないことを、了承してしまったのでは……。
次回、デート編。
五話で終わると言ったな?あれは嘘だ。