今回は全部エナ視点です。
デート───ルインがそういったわけではないが実質そう───とに行くことになったとはいえ、今日は特にすることもないので、就寝する運びになった。
なったのだが……。
「お、おやすみ、エナ」
「う、うん、おやすみ、ルイン」
いつも通り、ルインと背中合わせになってベッドに入る。
いつも通り、いつも通りのはずなのに……。
ぴったりとくっついた背中から、ルインの体温を感じる。
ルインに抱きしめられたことを思い出して、胸がドキドキする。
姐さんがいう恋が、この感情のことなら。
ルインが相手なら、悪くない、かも。なんて。
……違うだろ!正気に戻れ!
ルインは友達!それ以上でもそれ以下でもない!
姐さんも変なこと言わないで欲しい。
変に意識してしまうじゃないか。
だから、この胸のドキドキは、恥ずかしさからくるものだ。
いつもこうしてたんだから、今更恥ずかしくなんてないだろ。
恥ずかしくないんだから、さっさと、収まってくれ……!
翌朝。
結局深く眠れなかった頭を無理やり叩き起こし、出かける準備をする。
ルイン曰く、「お互い準備があるだろうから、集合時間を決めて噴水で落ち合おう」ということらしい。
……同じ部屋なんだから一緒に出発すればいいのに。変なやつだ。
しかし、今回に関しては好都合だ。
昨日姐さんから受け取ったこの、私の趣味に合わないこの可愛い服。
これを着て行って、ルインがどんな反応するか見てやろうと思う。
昨日の夜はあんなにドキドキさせられたんだ。仕返してやる。
ということで、着てみた。
部屋に備えられた姿見で自分の姿を見る。
……思ったより、様になってるな。
ひらひらした服は苦手だと思っていたんだが、これなら割とありかもしれない。
普段からほとんど着ないスカートや、ちょっと露出が多い感じの服は少し恥ずかしいが、これもルインを驚かせるためだ。
ま、まあルインは私のこと好きらしいし?これみたら可愛すぎて卒倒するかもしれんな。
……ふへへ。
……。
ち、違うぞ!別に私はあいつに可愛いって思って欲しいとかそういうわけじゃなくて……!!
噴水の前についた。もうすでにルインはついているようだ。
「ごめんルイン、待たせちゃった?」
「あ、エナ、僕も今きたとこ、だ、よ……」
ルインが私をみて動かなくなる。
「あ、あの、その服は……」
「これぇ?昨日姐さんからもらったんだよ?どう?似合う?」
「えーっと、その……とっても似合ってる、と、思うよ」
お!ルインが顔を真っ赤にして、視線を泳がせながら、しっかりこっちをチラチラみている。
すごく恥ずかしそうだ。
ふふ、これで昨日のドキドキ分はチャラにしてやる。
……やばい、顔がニヤつく。
これは、仕返しできたから嬉しくて笑みが溢れてるだけだ。
それ以外の意味はない。
ないったらないぞ!
「ふ、ふへへ、ふへへへへ。そ、そんで、今日はどこ行くんだ?」
「あぁ、えっと、友達に、最近流行りの演劇のチケットをもらったんだ。だから観に行こうかなーってさ」
「ほー、演劇。ちょっと興味あるな」
「本当?!よかった……始まるまで少し時間があるから、ちょっと出店見て回りながら行こうよ」
「いいね!そうと決まれば早速行こう!」
「うん……ありがとうザック、君のおかげでいい感じのスタートだ」
結論から言うと、ルインが持ってきたチケットの演劇は、めちゃくちゃ恋愛ものだった。
とある町娘が、貴族の男と恋に落ち、身分の差を乗り越えて一緒になるまでの物語。
その物語の内容自体は涙あり、胸熱ありで、とっても面白い、面白いのだが……。
『あぁ!貴方と二人きりで踊れるとは、なんて素敵なんでしょう!』
『僕も君とともに踊れるなんて、夢にも思わなかった!』
物語はラストシーン、ついに困難を乗り越え、結ばれた二人が共に踊るシーン。
物語の流れとしては、ハッピーエンドに向かう大事なシーンなのだろうが。
これをルインと一緒に見るとか、拷問か……?
別に言葉を交わすわけではなく、横にいるだけなのに、ルインと一緒にこの映画を見ているという事実が、すごく、恥ずかしいというかなんというか。
隣を盗み見る。
ルインは熱心に演劇を見つめている。すっかりハマってしまっているようだ。
意識してるの、私だけか……?
そんなことを考えていると、ついに舞台上の演者が顔を近づけて。
……わ、わわ。
キス、してる?
頭に疑問が浮かぶ。
もし、ルインと、キスすることになったら。
男同士だ。そうはわかっている、わかっているはずなのに。
思わず唇に手をあてる。
……なんで、嫌じゃないって、思ったんだ?
それどころか、むしろ……。
「いやぁ、面白かったね!初めて見たけど、ハマっちゃうかもなぁ」
「う、うん」
「……エナ?」
演劇は終わり、あたりは暗くなり始めていた。
頭の中がぐるぐると回る。
演劇みたいなロマンチックな関係じゃないが、きっとルインと、そういう関係になれたら楽しいんだろうな、とか。
今さっきからそんなことばかり考えてしまう。
なぜか、もうその答えはわかっている。
でも、言葉にしたら、もう後戻り出来なさそうで。
「エナ?」
「ぇ、あ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「大丈夫?エナ、疲れた?それなら……」
「大丈夫。次は?」
「あぁ、ちょっと早いけど、友達からいいお店を教えてもらったから、そこで食事にしようかなって。オークの件でお金はまだあるしね」
「いいね、肉食べたい」
普段はあまり飲まないが、今日は飲みたい気分だ。
この感情と、そしてルインと向き合うには、シラフじゃ難しい。
ルインから連れられてやってきた、私たちには少しばかり似合わないおしゃれなお店を出て、デートは終わった。
……と言っても、帰ってくる宿は一緒だから、そこまで違いはない、けど。
お酒は効果覿面だった。
私の頭の中のぐちゃぐちゃを、全部取っ払ってくれる。
ルインも酔っているようで、少し顔が赤い。
お酒が入って、ルインのことをまともに見れるようになった。
これなら、今日は大丈夫だ。
部屋に戻ってきた私は、ベッドに腰掛ける。
ルインも隣に来る。
まだ寝るには時間が早い。
とりあえず、今日感じた疑問をぶつけてみる。
「なぁルイン、今日のプラン、お前の考えたのじゃないだろ」
「うぐ。そう、だけど。なんでわかったの?」
「ルインが選ぶにはおしゃれすぎるし気が利きすぎる。友達からもらったとか教えてもらったとかにしても、ちょっと違うな」
「そ、そっか……」
「でも、楽しかったよ。出店も演劇も」
「……うん」
演劇と自分たちを重ねた。服を褒められた。怖いところを慰められた。ピンチから助けられた。
一体私は、ルインのことを一体どこから、特別に感じてたのだろうか。
いや、本当はずっと前から、なのかもしれない。
きっとお酒が抜けたら、私はまた自分の気持ちを誤魔化すだろう。
だから、今のうちに。
「でも、最後のお店はムードがありすぎたな。ちょっと堅苦しかった」
「そ、れは、ごめん」
「恋人同士とかは、あのお店でムードを作ってから、一緒の宿屋に帰るんだろうな」
「う、うん」
「……ルインも、ほんとはわかってたんだろ?そういうお店だって」
「ちが、別にそういうわけじゃ」
「ルインなら、いいよ」
「……へ?」
ルインが間抜けな声を出す。
ヘタレなところも、優しいところも、すぐ謝るところも、全部全部、愛おしくてたまらない、そんな気分になってくる。
「今日、デートだと思って、おめかししたんだけどなー」
「……」
「ルイン」
「……っ」
ルインが私の腕を掴んでベッドに押し倒してくる。
「どう、した?」
心臓がドキドキする。
これから起こることに、期待してしまう。
「本当に、いいの?」
「何回も言わせんなよ」
「上手に、出来ないかも」
「そんなのお互い様だろ」
「やっぱり、ヘタレて手出せない?」
「……ッ、エナ!」
煽ると、目の色を変える。
もう限界みたいだ。
「ルインの好きに、していいよ」
今夜は、眠れそうにない。