マルゼンスキーはなぜブルマを履かなかったのか   作:青山ドライブ

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『ジャパンにはゴーストがいるらしい』

 

始まりは幼少期に聞かされたとりとめのない噂話でした。

親日家の両親の影響で私が日本に興味があることを知った競争ウマ娘が語ったお話です。

各国に日本から遠征して来たウマ娘が口を揃えて出す名前があるのだが、レースの記録は無く、URAの選手名簿にも載っていない。果てはコネを使ってローカルシリーズも含めたトレセン生の名簿を総洗いしても見つからなかったとか。

幼かった私は、その姿の見えない存在は妖怪かもしれないと神妙な顔で答え、競争ウマ娘のお姉さんに「HAHAHA ! ヨウカイ? ジャパニーズニンジャの一種か!?」と笑われてしまいました。

真面目に答えたつもりなのに、小馬鹿にされたような対応が少々不満だったのが記憶に残っています。

今にして思えば、的外れな自分の発言とお姉さんの間違った日本文化への理解に釈然としませんけれど。

 

この時の話を思い出すことは暫くありませんでした。

プライマリースクールを卒業後、日本へ渡り、トレセン学園に入学し、かけがえのない友を得て、トレーナーさんと契約し、そして――

 

――運命と出会うまで。

 

あの日、友人達より一足早くメイクデビューを控えた私は、調整の休養日を利用して、茶道の道具を求めに行きつけの店へ向かっていました。

それは処暑の日差しを避けながら歩道を歩く私と前方からやって来た紅いスポーツカーがすれ違っただけの刹那の邂逅です。

おそらく互いに顔すら見ていなかったでしょう。

それでもその瞬間に魂で理解しました。

 

私はこの人を倒すために生まれてきたのだと。

 

ええ、マルゼンスキーの名は存じていました。あくまで情報として。

日本に生まれながら制度に阻まれレースに出ることが出来ない不遇の天才。

境遇に流される事を知らず、着実に目減りし続ける肉体の性能を脇目に入学を見送り、ダービーの為だけに未だ抗い続ける稀代の傑物であると。

正に不撓不屈の精神と美しくも力強い走りは、人々を魅了して止まず、私も憧れと畏敬の念を禁じ得ない方でした。

ですがあの日の出会いは全てを塗り替えてしまいました。

ただ純粋に倒すべき相手であると。

私の走る理由、生きる理由、生まれた理由。

これが私に宿るウマソウルに込められた願いなら、きっとこの時初めて私はウマ娘として覚醒したのでしょう。

 

そこからはご存じの通りです。メイクデビューを取りやめて、只管に鍛錬を続けて今に至ります。

皆には多くの心配と迷惑をかけてしまいました。

既に本格化は始まっていたのに、訪れるかも分からない機会の為にデビュー直前になって差し止めるなんて、客観的に見て明らかに正気ではない。トレーナーさんもよく認めてくれたと思います。

共にレースで競い合う事を誓い合った友人達も裏切ってしまいました。特にスペちゃんとエルには役割を押し付ける様な形になってしまいましたしね。

ですが、幸いなことに本格化のピークを維持した状態のまま、この時を迎えることが出来ました。

死力を尽くします。

 

 

――月間トゥインクル:インタビュー『グラスワンダー』――

 

 

 

 

 

私には許せない物があります。

あの人からレースを奪い続けたURAを。

そして、私に走る準備が出来るまで、怪物を檻に閉じ込めてくれた事に感謝してしまった己自身です。

でもそのような事は些末な事。

私は、あの人を倒せれば良いんです。

それだけで良いんです。

その為だけに、私は今生きてこの場に立っています。

 

 

 

 

 

標的はただ一人、幻のダービーウマ娘。

幻が現に変わる前に紅い怪物を殺せるか。

東京優駿、マル外の出走枠は二つ。

怪物は一人じゃない。

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