ドンブルーアーカイブ   作:鰻の蒲焼

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そのろく

 

 

 

 

 

 

 

「──アバターチェンジ!」

 

 ──『ドン! モモタロウ~ッ! 

    ヨッ! 日本一ぃっ!!』

 

 ドンブラスターの引鉄が引かれ、強い光を放つアバタロウスキンが、虚空に現れる。

 そして、タロウは地上数百メートルの高さを落下していきながら、追尾するように落ちてきたアバタロウスキンを受け取り──瞬時にドンモモタロウへと変身した。

 

「神輿は省略だ──さァ、行くぜ!!」

 

 硝子の絶壁を滑降していたドンモモタロウは大音声で叫ぶや否や、ビルごと蹴倒さんばかりの勢いで一歩を踏みこみ、

 加速。

 ザングラソードを背中に背負い、まっ赤なまっ赤な桃太郎が、重力に身を任せながら高速で空を落ちていく。それは間違っても、どんぶらこで済まされるような速度ではない。装甲の外では、勢い任せに食い破られていく空気の層の悲鳴が、耳障りなぐらい木霊していた。

 速過ぎてむしろ止まって見える景色のなかで、荒々しく動き出したのは、ドンモモタロウより先に飛び降りていた美甘ネルである。

 押し寄せる逆風に前髪とスカジャンを存分にはためかせながら、ネルは抗うように吠えた。

 

「──喰らいやがれッ!!」

 

 そして、黄金の龍の文様が刻まれた二丁のサブマシンガン──ツイン・ドラゴンを構えて、銃弾を一気呵成に解き放つ。

 空気抵抗すら殴り倒す勢いを持つ銃弾の群れが向かう先には、ムササビのように身体を広げて、ビルの壁面ギリギリを滑空している異形──手裏剣鬼の姿がある。

 視認できる筈が無いそれを、手裏剣鬼はまるで背中に目でも付いているかの如くすばやく察知する。

 くるり、と器用に方向転換。そして手裏剣鬼は、片手に握ったカサニンジャーシュリケンをビルのガラスに突き刺した。

 

「大火炎のォ、術!」

 

 瞬間、ビルのなかから幾つもの巨大な火柱が立ち昇った。

 手裏剣鬼の姿を覆い隠した火炎の墓標は、降り注ぐ銃弾を喰らい尽くすと、分厚い壁となってネル達の到来を待ち受ける形を取る。

 しかし、ネルは既に敵がどれだけデタラメな存在であるかよく知っている。紅蓮に視界が染まるなかで、アカネから受け取った手榴弾を取り出し、口でピンを抜いたそれを並び立つ火柱の一列に投げ放った。

 閃光と火炎を伴った新たな衝撃が奔る。

 吹き上げる熱風に細めた視線の先には、狙い通りぽっかりと胴体に穴が空いた火炎があった。ネルは足元で流れゆく壁を蹴って、穴の中心を通り過ぎてゆく。その直後に、火炎は再生を果たした。

 

「関係あるかァ!」

 

 致死とはいかずとも、人間である以上は致命的な威力を兼ね備えてあるそれを、ドンモモタロウは防御も取らず無防備に突き抜けていく。

 身に纏わりつく火炎はあっという間に風のなかに消えた。勢い余って地面にブチ当たることなど、最初から考えていないような速度だった。

 先行していた自身の隣まで瞬く間に並んできたドンモモタロウを見て、ネルの口から思わず素直な言葉が零れた。

 

「──サーカス団にでも入ってみろよ。全部見に行ってやるから」

「なかなか悪くない考えだ。だが、今はそれよりも優先すべきことが、あるッ!」

 

 返答と同時に、ドンモモタロウは自らの顔面を──サングラスにあたる部分を手で擦った。

 その瞬間、マスクのなかのタロウの視界に、たった今自分がいる場所とは別次元に座する虹色の世界が映り込む。

 その世界にのみ存在する、あちこちに浮かんだマンホールに向かって、ドンモモタロウは自らが背負っていたザングラソードをおもむろに投げ放った。

 ネルは思わず叫ぶ。

 

「なにやってんだ!?」

「黙って見ていろ!」

 

 あらぬ方向へ飛んでゆくかと、その場にいるドンモモタロウを除いた誰もがそう考えた。

 だが、忘れるなかれ。

 ドンモモタロウは常識を凌駕し、条理を転覆させ、あらゆる運命を笑い飛ばす。

 不可視のマンホールにぶつかったザングラソードは、本来辿るべきだった運命を捻じ曲げて、方向を転換し、転換し、転換し──強い七色の残光を帯びて、手裏剣鬼の背中を深く斬りつけた。

 

「ご──ォ!?」

「どーやったかは知らねぇが──ナイスだ桃井!!」

「ドンモモタロウと呼べっ!!」

 

 想定外の斬撃に隙を突かれた手裏剣鬼は、バランスを崩してしまい、高速でビルに叩きつけられた。先程までの華麗な飛行っぷりが嘘のように転がっていく敵を追い詰める為に、ドンモモタロウとネルはさらに滑り落ちる勢いを増していく。

 どうにか姿勢を立て直した手裏剣鬼の目に最初に映ったのは──頭の部分が少しだけ赤い、白く小さな膝だった。

 

「オラァ!!」

「ぶっ!!」

 

 美甘ネルの膝である。

 半ば跳躍するように、手裏剣鬼の元へ駆け下りてきたネルの膝に込められた威力は、尋常のものではなく、手裏剣鬼の顔面は一瞬だけ凹んだ。

 そのまま団子状に絡み合いながら、ネルと手裏剣鬼は地上に向かって落ちていく。

 この距離、この間合い──自分が最も得意とする戦場に相手を引き摺り込んだことを知り、ネルは獰猛に笑ってみせた。

 自身のこめかみに目掛けて、凶器が繰り出される。より早く、ネルは片方の銃床でカサニンジャーシュリケンを持つ腕の関節を打ち抜いた。痺れに耐え切れず武器を取り落としてしまった手裏剣鬼に、一片の容赦なくネルは追撃を掛けることを決めた。

 小さく、舌なめずり。

 

「お楽しみの時間だ──」

 

 そしてネルはツイン・ドラゴンを二丁とも頭上に放ると、手裏剣鬼に対して拳打の雨を降らせ始めた。右ストレート、左フック、ショートアッパー、右のスマッシュ──執拗なまでに銃を使わなかったのは、未だに手裏剣鬼が携えている絵画への被害を考えたからである。

 それでも、美甘ネルの握り締められた拳は、一撃一撃が必殺の威力を持つ。

 無数の乱打が重なるなかで、全身の筋肉が淀みなく繋がったことで再現された一発が、手裏剣鬼の顎を不意に掠めた。

 

「──」

 

 手裏剣鬼の意識は、爆弾の導火線に点いた火花よりも早く終わろうとしている。それを握り締めた拳の先に感じ取ると、ネルは関節を極めて絵画を奪い取ろうと動いた。

 ぞわり、と不可視の感覚が総毛立つ。

 腰を浮かし、腕を交差させたときには、もう遅かった。

 

「竜、巻の術ゥッ!!」

「う、オ──!」

 

 呂律が怪し気な言葉と共に、手裏剣鬼の広げられた両手から渦巻きが解き放たれる。

 その威力は、気絶間際に発動したものとは思えないほど凄まじいものだった。ガラスは木っ端微塵に砕け割れ、コンクリートにはヒビが入り、その下で眠っている鉄骨さえも激しく上下左右に揺さぶった。

 それを至近距離で受けたネルの身体は、言うに及ばず──これまでに駆け下りてきた道を、そのまま逆戻りしているような軌道で吹き飛んでいく。

 堪えることなど出来やしかった。殺傷能力の無いだけの小型爆弾を、至近距離でまともに喰らったようなものだった。

 体重が軽く、小柄なことも影響したのだろう。そのままビルの頂上さえ超してしまうのではないかと思わず考えてしまうような速度で遠ざかるネルの腕を、エンヤライドンに乗ったドンモモタロウが片手に掴んだ。

 

「ッ!!」

 

 ネルはすかさず掴み返すと、ドンモモタロウの腕を支えにして、エンヤライドンの後部座席に収まる。瞬間、エンヤライドンは加速しながら、ビルの壁面を疾走し始めた。

 正面ではなく、背中を見ているからか。

 ネルは素直に感謝の言葉を吐きだすことが出来た。

 

「……悪ィ。助かった」

「流石のアンタも、どうやら手こずっているようだな」

「なんで、てめぇが、得意げなんだよっ」

 

 どこか誇るような声色に、ネルはドンモモタロウの背中を小突いた。

 言っていることは決して間違ってはいない。単純な力比べでは打ち勝っているが、多彩な技のせいで決定打に欠けるというのが、今の正確な戦況である。

 そういえば、とネルは気が付いた。

 

「……今の言い方、アレと戦ったことがあんのか?」

「ある。ヤツとは一度きりだが──ヤツと縁がある相手とは、何度もな」

「その時はどうやって勝ったんだよ」

「その時は──」

 

 ドンモモタロウは少し考えてから答えた。

 

「──目に塩が入って苦しんでいるところを、お供たちと仕留めた」

「わかった、もういい。時間の無駄だ」

 

 聞いたあたしが馬鹿だったと、改めて銃を構えようとしたネルの手が、ぴたっと止まった。

 今の発言は、一聴したところ単なる頓珍漢なものにしか聞こえない。

 だが、塩が目に入って苦しんでいるという部分に、ネルは強い引っ掛かりを覚えた。

 目に塩が入って苦しむのは当たり前だ。どうなったらそんな状況に陥るのかはサッパリわからないが、自分でさえも避けることはできないだろう。

 重要なのは、異形と化した後で塩を目に喰らったということである。

 つまり──

 

「……変身した後でも、中身に影響が及ぶってのか?」

「だろうな。それを知って──アンタはどうする?」

 

 タロウの問い掛けに、ネルが深みに入り込ませていた思考を引っ張り上げて答えようとした。

 次の、瞬間。

 

「ぶちょーーーーーーーーーーーーーっ!! タローーーーーーーーーーーーーウっ!!」

 

 ガラスというガラスが丸ごと失われた最上階から、ひょっこりと顔を覗かせた一之瀬アスナの叫び声が響き渡った。

 

「全員そっち行っちゃったーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

「はあ!?」

 

 ドンモモタロウとネルは、つられるように頭上を見上げる。

 その、まだ空に近い場所にいたのは──部屋のなかに残っている筈の、四体の手裏剣鬼であった。

 絵画を持った本体の危機を察知して追いかけて来たのだと気付いた刹那、並びながら降下してきている手裏剣鬼達は、八枚のカサニンジャーシュリケンを一斉に投げ放ってきた。

 二人の考えは、即座に一致した。

 

「──背中は任せとけッ!!」

「──振り落とされても拾わんぞっ!!」

 

 言葉と言葉をぶつけ合いながら、反対向きに座り直したネルはツイン・ドラゴンの銃口を八つの手裏剣に定め、ドンモモタロウはエンヤライドンのギアを一気に上げる。

 瞬間、一応の体裁を保っていた夜のミレニアムの景色が、流れるように溶けだした。

 ありとあらゆる角度から切り刻もうと、重力を無視して飛んでくるカサニンジャーシュリケンを、ドンモモタロウが駆るエンヤライドンはまるで、なだらかな平地を駆けているような調子で的確に避けていく。

 それでも、どうしても避けきれない軌道に沿って来る手裏剣を迎撃するのが、美甘ネルの放つ銃弾の役割であった。

 鉄と鉄が弾け合う音を奏でながら、乱雑にばら撒かれたようにしか見えない弾丸が、手裏剣を次々と無力化していく。

 その狙いは、激しく動き回るエンヤライドンに乗っているとは思えないほど正確無比であり、美甘ネルという少女の腕前が群を抜いていることを、如実に表している。

 撃ち落されたいくつものカサニンジャーシュリケンが、遥か彼方に見える地面に向かって落ちていく光景を見ながら、それでもドンモモタロウの仮面の下に浮かんだ感情は、珍しく焦燥の色であった。

 絵画を持った手裏剣鬼が、あと数十秒後には地面に到達する距離まで迫っていたからだ。

 

 ──街に逃せば、厄介だな。

 

 タロウは、元の世界で戦った際の手裏剣鬼を思い浮かべる。あの時は、自分が標的になっていた。今回は違う。おそらく相手は戦うことよりも、絵画を抱えて逃げることを優先する筈だ。

 捕らえる自信はある。しかし、慣れない街中で逃げに徹した相手を追い詰めるまでに、絵画を被害に及ばせられずにいられるか──

 

「まさか、似合わねーツラしてんじゃねぇだろうな。桃井」

「──」

 

 そんな風に考え事をしているタロウの耳に、ふとネルの言葉が滑り込んできた。

 肩越しに振り向くと、すべてのカサニンジャーシュリケンを迎撃し終えたネルが、なにかを確かめるような眼差しで見つめてきていた。

 マスク越しにタロウの視線を確かめたネルの唇が、不敵な形を作る。

 

「てめぇと組んだヤツらを、一体誰だと思ってやがる? 

 ──C&Cの底力、見せてやるよ」

 

 そう宣言すると、ネルはスカジャンの襟元に付けた通信機に向かって、声を張り上げた。

 

「ゼロスリーッ!」

『──承知しました、ダブルオー』

 

 ネルの指示を受けたゼロスリー──室笠アカネは、オークショニアが放置した端末を使って、ハッキングを始めた。

 その行く先は──手裏剣鬼と化したオークショニアの電子回路である。

 インターネットへの接続の不正遮断と、視界に向けての偽造情報の発信。それらを行いながら、同時にヒトツ鬼と化したことにより複雑に捻じ曲がった回路のあちこちに、雑な出来の論理爆弾をばら撒いた。

 論理爆弾とは、特定の行動を引き金として発動するマルウェア──悪意を持ったソフトウェアであり、アカネが今回の論理爆弾に仕込んだ引き金は、『ハッキングを受けたことに対して相手が反応/処置を見せた瞬間』であった。

 例えば、いきなり頭蓋骨を切り取られて、脳味噌をスプーンで抉り取られる。

 そんなことをされて、果たして反応を見せずにいられるものはいるだろうか?

 探せばいるのかもしれない。だが、オークショニアは異形と化していても一般人だった。自分の電子回路がハッキングを仕掛けられていると知り、即座に脳に仕込んでおいた迎撃壁を立ち上げた。反応速度は凄まじいのひと言に尽きる。オークショニアがどれだけ用意周到な人物なのか、それがよく見て取れる速さであった。

 そして、その慎重さゆえに、アカネが仕込んだ論理爆弾はつつがなく爆発した。

 

「──!?!!!!!??????!!!!!?」

 

 作りが簡素であるために、完成度は低い。だから、システムそのものがダウンするまでには至らなかった。

 だが──その完成度の低さが、逆にオークショニアの電子回路を滅茶苦茶に叩き壊した。

 ザングラソードを背中にぶつけられた時とは比にならない混乱と共に、手裏剣鬼は壁面に叩きつけられた。追いかけてきていた四人の手裏剣鬼達は、本体の混乱の余波をあますことなく受け取ったのか、バランスを崩しながら次々と姿を消していく。

 

「ハッ! ざまァ────ねぇなッ!!」

 

 ネルは大声で嘲笑いながら、ドンモモタロウの肩から銃口を突き出し、連続で射出。

 迫った弾丸につるべ打ちにされた手裏剣鬼は、くるくると回りながら、後生大事に抱えていた絵画をようやく手放した。それを見たドンモモタロウは、ハンドルを強く握り締めて、エンヤライドンを加速させた。

 女を描いた絵画が、あっという間に近づいてくる。

 それを見たネルの唇が綻び、掴もうとして手が伸びる。

 それを見た手裏剣鬼の目が、比喩抜きに輝いた。

 

「上級シュリケン忍法──」

 

 耐え難い頭痛を堪えながら、残った最後のカサニンジャーシュリケンを掲げる。

 そして、

 

「────砲煙弾雨の、術ッ!!」

 

 煮えたぎるような業火を纏った無数の岩石が、絵画もろともネル達を粉砕せんと発射された。

 

 

 〇

 

 

「ンだと──!」

 

 その景色には、流石のネルも度肝を抜かれた。火炎の柱や手から生み出される竜巻もそこそこ驚いたが、この攻撃は次元が違っている。

 おそらく銃弾を何十発と撃ち込んでも、あの隕石は破壊できないだろう。

 アカネが持っている大量の爆弾ならば、まだ望みはあるだろうが──この距離まで来てしまった以上、隕石を受け取る方がよっぽど早いに違いない。

 文字通り、最後の足掻きというわけだ。

 絵画を回収できているなら、話は単純で、このバイクでさっさと避ければいい。幸い隕石との距離はそれなりに──とは言っても数秒で踏破されるだろうが──あるから、出来ないことではない。

 だが、絵画は隕石とネル達のちょうど狭間にある。

 ネルの戦闘思考は、退却を提案した。

 ネルの矜持は、退却はあり得ないと断言した。

 真っ向から相反する考えが頭のなかでぶつかったことで、一瞬だけ硬直したネルを動かしたのは──ドンモモタロウから押し付けられたドンブラスターの硬い感触だった。

 

 ──『パァーリィタァーイム!

    ドン、モモタロウォ~ッ!!』

 

 渡すついでに天面スイッチを押されたドンブラスターから、軽快な音楽が鳴り響き始める。ネルからすれば、なにがなにやらわからない。しかし、この奇怪極まりない銃がドンモモタロウにとっての生命線であることはよく知っていた。

 困惑するネルをよそに、ドンモモタロウは淡々と説明を続けた。

 

「もう一度音声が出るまで、スクラッチを回し続けろ。そうすれば撃てる」

「待て、桃井! てめぇ、なに考えてやがるっ?」

「簡単な話だ。おれがアンタの腕を見込んだまでのこと──わかったか? リーダー」

「──」

 

 初めてドンモモタロウは、美甘ネルのことを『リーダー』と呼んだ。

 そこに込められた意味を、察せないネルではなかった。

 

 ──上等だ。

 

 返事のかわりに、無言でスクラッチを回し始める。それを見たドンモモタロウは頷くと、エンヤライドンの座席を足で挟んで、その場で仁王立ちしてみせた。

 

「今から、面白ぇものを見せてやる──」

 

 そしてエンヤライドンを踏み台に、ドンモモタロウは隕石に向かって勢いよく駆け出した。

 最初に辿り着いた絵画を掴み、渾身の膂力をもって、ここではない虚空へと投げ棄てる。

 残る標的は、数多もの隕石──要するに、相手にとって不足無し。

 ザングラソードのトリガーが、力強く引かれる。

 

 ──『秘技!』

 

 同時にギアディスクが回され、ザングラソードの刀身が極光を灯す。

 やがて、

 

 ──『キアイ!

      イサイ!

        イアイ斬!!』

 

「────喰らえッ!!」

 

 津波のように巨大な斬撃が刀身から生み出され、すべての隕石を瞬く間に飲み込んだ。

 中空に膨大な光と莫大な衝撃波が生じ、拡散し、辺りを舐め尽くした。砕け散ったガラスが霧雨のように降り注ぐなかで、手裏剣鬼は爆風に全身を叩かれながらも、もう一度隕石を生み出そうと、力を振り絞る。

 そして、立ち込める白い噴煙の奥でチカチカと星のように瞬く『それ』を目にした。

 ドンブラスターを両手で構えて言葉を紡ぐネルと──

 

「──狂瀾怒桃ォ」

 

 一気に集約したことで虹色の輝きを宿した、おおきなおおきなキビ弾丸────!

 

「ブラストパーティー───!!」

 

 そうして撃たれた弾丸は、苦し紛れに放たれた隕石を一秒で破壊し、手裏剣鬼の身体を深く貫いた。

 身体中に電流を走らせる手裏剣鬼のすぐ傍を、ネルはエンヤライドンと共に走り抜ける。そのままビルから跳ね飛び、車輪で地面を削りながらブレーキをかけた。

 煙を上げる轍を見下ろしながら、ネルはエンヤライドンから降りる。その隣に、先に着地していたらしいドンモモタロウがやってきた。

 視線も言葉も交わさず、二人で空を見上げる。

 やがて、脳人レイヤーのマンホールに弾かれて落ちてきた絵画を受け取った瞬間に、手裏剣鬼は悲鳴とともに、爆散した。

 轟音が辺りを支配し、ミレニアムに満ちていた夜が、ほんの一瞬だけ切り裂かれる。 

 

「──なあ、点数は?」

「悪くない。三十二点だ」

「……その点数は、悪くないとは言わねぇんじゃねーの」

 

 疲れた風に肩を落とすネルと腕を組んでいるタロウの周囲に、きらきらと火花が降り注いだ。きらきら、きらきらと──雪のようにも見えるそれは、

 

 

 文句のつけようがない、大勝利の雨だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で二章終わりです
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