ドンブルーアーカイブ   作:鰻の蒲焼

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そのご

 

 

 

 

 

 はじめに、神輿があった。

 神輿は担ぎ手と天女とともにあった。

 だが神輿は神ではない。

 いつだって、神は神輿の上にいるものだ。

 

 

 

 

 

「────わーはっはっはっ! わーーーはっはっはっ!!」

 

 金色の波と真っ赤な光がどこからともなく湧いて出てきて、世界を一瞬だけ覆った。

 やがてそのすべてが過ぎ去った後に、早瀬ユウカの目の前に立っていたのは──三人の天女と六人の担ぎ手と一人の暴太郎であった。

 

「やあやあやあ! 祭りだ祭りだぁっ!! 踊れっ、歌えっ!」

 

 天女達は紙吹雪を撒き散らしながら軽やかに舞い踊り、担ぎ手達は筋肉質な上半身をむき出しにして神輿を上下左右に揺らす。

 そして暴太郎といえば、揺れる神輿の上にある真っ赤なバイクに跨りながら、扇子を片手に呵々大笑。

 風邪でもひいたのかと思う。

 だが、これが風邪をひいて高熱にうなされながら見るような悪い夢などではなく、きちんと現実に実体を持って存在しているものであることをユウカはよく知っていた。

 そして、後頭部からギアでできたちょんまげを生やし、大きな桃とサングラスが顔の半分以上を占めているあからさまな不審者の正体が、ドンモモタロウと呼ばれることも。

 きっと、風邪でもひいていたほうが何億倍もマシだった。

 

「袖振り合うも他生の縁、躓く石も縁の端くれ! 

 ともに踊れば繋がる縁──この世は楽園!!

 悩みなんざ、ぶっ飛ばせっ!! 笑え笑え! わーはっはっはっ!!」

 

 ドンモモタロウの高笑いは、その場にいる誰の頭上にも平等に降り注ぐ。

 縛られているくせに妙に楽しげに身体を揺らしている先生にも、三夜連続で徹夜した時のような顔色をしているユウカにも、突然の神輿に固まることしかできない獣電鬼にも。

 そのあからさまな隙を、見逃すドンモモタロウではない。

 

「──さぁ、楽しもうぜ! 勝負勝負!!」

 

 大笑いしたままアクセルを全開まで回し、乗っていた大型バイク──エンヤライドンを一気に最高速まで持っていくと、そのまま神輿から飛び出して獣電鬼にぶち当たった。

 

「ぐあ、うオ───」

「呻くな! 笑え!」

「ォ、オ────ッ!!」

 

 けたたましいエグゾーストノイズを伴った特攻を不意打ち気味に受けた獣電鬼は、踏みとどまることすら許されず吹き飛ばされるように加速した。

 自身の周囲が流線型に溶け始めても、ドンモモタロウはハンドルを握り締める手を欠片も緩めない。それどころかむしろ更に強く回していき、ついにはとんでもない速度を保ちながらガラス張りの扉を破って、ビルの外へと飛び出していった。

 呻き声。

 高笑い。

 破壊音。

 ユウカにはそれが、始末書が増える音にしか聞こえない。

 

「…………」

 

 わずか数秒ですっかり変わり果てた環境に色んな意味でついていけなくなったユウカは、おぼつかない足取りで先生のそばまで行くと、手を縛っていた縄を軽々と引きちぎった。

 

「──……ふう。助かったよ。ありがとう、ユウカ」

「……いえ、大したことじゃありませんから」

「結構キツめに縛られちゃってさ、イズナに教えてもらった縄抜けが使えなかったんだ」

 

 縄の痕がついた手首をさすりながら朗らかに笑う先生の姿は、あれだけ探し求めていたものだというのに、なぜか喜ぶ気力が湧いてこない。

 考えてみれば、その理由はひどく単純だ。

 これまでに繰り広げた出来事と、これから繰り広げられるだろう出来事の事後処理に追われる自分と先生というイメージを、頭に浮かべてしまったから。

 未来の疲労に肩を落とすユウカをよそに、先生は初めてヒーローショーに連れてこられた子どものように純粋無垢な喜びの顔をして、

 

「それにしても、ねえユウカ」

「なんですか」

「相変わらずカッコいいよね、ドンモモタロウ。後でサイン貰っちゃおうかな」

 

 縛っておいたままの方が良かったかもしれない。

 

 

 ◯

 

 

 その一方、ビルの外である。

 

「──そぉらあっ!!」

 

 ヒトツ鬼諸共空を駆け飛んだドンモモタロウは、尋常ではない膂力で強引にエンヤライドンを傾けると、未だに高速で回転している後輪を獣電鬼の身体にブチ当てた。

 

「──!」

 

 激しい震動が獣電鬼の全身を打ち据える手ごたえを覚え、その次の瞬間には巨人に押し潰されたように地面へ叩きつけられるのが見えた。だが敵は流れには逆らうことなく、そのまま転がって勢いのままに体勢を立て直す。

 無論、痛みをやり過ごす暇など与えるわけがない。

 空に浮かんだ太陽を背にして、ドンモモタロウは虚空に浮くエンヤライドンを踏み台にすると、撃ち放たれた矢のように一直線に獣電鬼の元へと向かった。

 その手に握る一振りは、刀身がサングラス型となっている大太刀──ザングラソード。

 切っ先が届く領域へ突入するのには、一秒もかからなかった。

 相手の制空圏に踏み込んだ瞬間、ドンモモタロウは大上段からザングラソードを振り下ろした。刃が空気を強引に食い破った音が遅れて聞こえるのは、得物の速度が常軌を逸した証だ。

 タイミング、角度、威力──すべてに仕留められる確信が籠もった一撃だった。

 しかしドンモモタロウの手に返ってきた感触は、獣電鬼の身体を切り裂くそれではなく、重量のある物体を無理やりに押しのけたものと金属と金属が強い衝撃を伴って噛み合う鈍いものだった。

 

「──ほう」

 

 いったいどのタイミングで取り出したのか。獣電鬼の両手には、剣と棍棒をメチャクチャにかき混ぜたような武器──鬼険棒が握られていた。

 どうやら、無理に避ければ致命的な状態に陥ると判断して、得物を受け止めることを選択肢から選んだらしい。

 

「なるほど、少しはやるようだな」

 

 激しい鍔迫り合いに震える刀身の向こう側。変化の見えないマスクの下から、にやりと意地の悪い気配が見え隠れする。

 

「だが──まだまだァ!」

 

 ドンモモタロウは一呼吸して体勢を整えると、剣を押し込むのではなくあえて引いた。

 押し斬り合う為にかけていた重心が行き場を失ったことで、獣電鬼の鬼険棒は莫大な膂力を宿したまま地面へと落ちていき、コンクリートを豆腐のように容易く砕きつつ動きを止める。

 途端に剥き出しになった峰を即席の足場として、ドンモモタロウはその場で跳躍。虚空で横向きに身体を捻じり、獣電鬼のこめかみに蹴りを叩き込んだ。

 

「ガアッ!?」

「さあ、どんどん行くぜ!」

 

 完全な死角からの一撃に、たたらを踏んだ獣電鬼の意識が眩む。点滅を激しく繰り返すヘイローが、覚醒と消失を何度も繰り返している何よりの証拠だった。

 落下しながらそれを確認したドンモモタロウは、着地後にブレイクダンス染みた動きでたちまち起き上がると、右脇構えにザングラソードを引き摺りながら疾走を開始した。

 両者の距離は瞬きよりも早く縮まっていく。

 ドンモモタロウが間合いへ踏み込んだと同時に、吸い込まれるような突きが獣電鬼から放たれる。しかし平衡感覚を崩しているためか、ひどく覚束ない。受け流すのは、欠伸が出るほど簡単だった。

 ドンモモタロウは突き出された刃を下段から跳ね上げると、そのまま円の軌道を描いた。流れに沿わされた鬼険棒の切っ先が地面に埋まる。ガラ空きになった懐を狙って刺突。そのまま横薙ぎへと変化。斬撃の勢いに任せて旋転し、鋭い肘鉄を鳩尾に叩き込む。成す術もなく後退するしかない獣電鬼に、暴れ回るザングラソードは無数の斬撃を刻み込んでいく。

 右から左へ、上から下へと縦横無尽に渦巻き続ける刃の嵐の中で一矢報いようとしてか、獣電鬼の掌に歪な形のショットガン──鬼険銃が生成されかける。

 

「遅いッ!!」

 

 瞬間、ドンモモタロウは手首を返して胴を一閃。鬼険銃を弾き飛ばし、振り抜き様に片手握りへと移行。残ったもう一つは相手の腕に絡むことで回避しようとする動きを止めた。

 そうして、袈裟懸けに斬り下ろそうとするドンモモタロウは、唐突に電撃の気配を感じた。見ればドレッドヘアがうぞうぞと何事かを主張するように蠢いている。爆発まで最早一刻の猶予も無いと見た。

 だからこそ、回避するつもりは無かった。

 やってみろ、とマスクの下で呟く。挑発を受けてあっという間に憤怒に濡れた獣電鬼は、自身もダメージを負うことを厭わぬまま、衝動に任せて超至近距離で電撃を放つ。

 そのすべてを、ドンモモタロウは打ち砕く。

 

「ぬるいッ!!」

 

 一喝と共に解き放たれたザングラソードは、稲妻のことごとくを断ち切り、獣電鬼の身体を切り裂いてなお止まることを選ばなかった。

 火花が派手に撒き散らされ、獣電鬼は今度こそ明確に地に伏せた。残心を解き、武器を肩に担いでその光景を見下ろしたドンモモタロウは、ふん、とつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

「この程度か? ──0点だ。まるで話にならん」

 

 そのひと言には、相手にある敵対の意志を完膚なきまでにへし折る冷ややかさが隅々にまで宿っていた。獣電鬼の身体は、よく見ると小刻みに震えている。その源が屈辱からなのか、それとも恐怖からなのか。推察するのは無意味だった。

 ドンモモタロウが、ザングラソードのギアディスクを回したからだ。

 目的はたった一つ、欲望が暴走した末に産まれるヒトツ鬼を元の姿に──人間に戻すため。

 軽快な音声が響くとともに、剣身に鮮やかな光が宿る。

 そして無慈悲に剣を振り下ろそうとした──瞬間だった。

 

「こいつは───!?」

 

 ゴッ、という空気が焼け落ちる音がどこか遠くで聞こえたと思った瞬間、無差別ではなく指向性を持たされた極太の雷撃が、ドンモモタロウの身体を白く淡い光のなかに搔き消した。

 

 

 〇

  

 

 戦闘音が止んだタイミングを見計らって外に出たユウカと先生を出迎えたのは、落雷にも似た轟音と、世界を塗り潰さんと広がる光と、高速で自分達のすぐそばを──エントランスに繋がるドアを突き破るドンモモタロウの残影だった。

 

「な──!」

 

 ガラスが木っ端微塵に砕ける音と、受付に使われていた机が原形からかけ離れた形へと変化した音と、壁が強い衝撃を受けて修復不可能なまでに歪む音が、同時に重なった。そのせいで、咄嗟に抱き寄せてくれた先生の胸板やらなんやらと滅多に味わえない貴重な感触が、まるごと頭から吹っ飛んだ。

 自分達がビルのなかにいる間に、いったい外で何が起きたというのか。

 ユウカはタロウが吹き飛ばされてきた方向に慌てて目をやる。そこにいたのは予想していた通り、電撃を放つ謎の異形だったが──どうも、最初に見たときと姿形が変わっていた。具体的に言えば、全身の装飾が最初と比べて分厚く──豪華になっていた。

 記憶力にはそれなりに自信がある。まさかまさかの二体目か──とユウカが一人で焦っていると、

 

「──どうやら進化したようだな」

「ギャッ!!」

 

 いきなり背後から声をかけられて、ユウカは年頃の乙女にあるまじき悲鳴を上げた。そのまま流れで逆水平。キヴォトスの住人であるために、冗談ごとでは済まされない威力が篭ったそれを、ドンモモタロウは軽々と受け止めてみせる。

 

「良いパワーだ! 褒めてやろう」

「結構ですっ!! ……それよりも、あの、大丈夫ですか? 身体とか。凄い勢いで吹っ飛んできましたけど……」

「ああ。初めて喰らったが、直撃は防いだ」

「……はあ、そうですか」

 

 防御に使ったザングラソードを見ながら、タロウは事もなげに言う。色々と問い質したいことはあったが、まぁタロウだし……でユウカは無理やり納得することにした。末期であった。

 

「──元気そうで良かったよ、タロウ。さっきのは肝を冷やした」

「アンタもな、先生。拉致されていた割には、随分と顔色が良い」

「はは──……まぁ私もキヴォトスに慣れてきたってことかな」

「フッ、流石だ」

 

 変に悩んでいる自分をよそに、先生とタロウは妙に親し気に会話を交わしている。

 そういえば──とユウカは思い出す。タロウのあまりのハチャメチャ振りを前にすっかり忘れていたが、二人は同じ境遇──キヴォトスの外から来た、ヘイローを持たない存在だった。

 だから、親近感からそれなりに距離が近いことに納得はいく。いくが、それにしたってちょっと近すぎるんじゃないだろうか。モヤモヤした気持ちを抱えていると、ぱたぱたと複数の足音が近寄ってきた。ゲーム開発部の面々だ。

 

「わ! 見てくださいっ! タロウが武器を装備してモモタロウになってます!」

「うーん……ちょっとデザインが斬新過ぎるかなあ。でもサングラス型の剣ってのは使えるかも……」

「先生っ、大丈夫ですかっ? 怪我とかしてませんか?」

 

 アリスはタロウに近づいて興味深そうにペタペタとスーツを触り、モモイは顎に手をやりながら締め切り間近のゲームについて考え、ミドリは純粋に先生を心配している。ここまでまとまりに欠けているといっそ笑えて来た。

 そこに更なるカオスがやってきた。

 C&Cのロゴが入ったトラックだった。

 

「ゼロツ―。任務を遂行しに来た。先生、無事……そうだね。良かった」「わーいっ! 新鮮なご主人様だーっ!!」「アスナ先輩、いきなり飛びついてはご主人様も受け止め──……あらあら」「そのクソみたいに派手な格好は……間違いねえ。てめぇ、桃井だな……!」「銃を下ろせ。お前とやり合う理由は無い」「てめぇには無くてもあたしにはあるんだよ──先生も無事みてえだしなあ、何ならいまここで新しく作ってやろうか?」「リーダー。そんなことを言ってる場合じゃないと思う。それより任務を続行す」「ねーねー。ネル先輩、いっつもタロウに突っかかるけど、なんでなの? 良い人じゃん! ゲーム付き合ってくれるし」「心の底から気に食わねえからだよっ! 見てみろこのっ、あたしのことを生意気で喧しいチビとしか認識してねえツラをっ!」「驚いた。心を読めるのか?」「ブチ殺すぞゴラァッ!!」「タロウさん。そこは嘘でも褒めてた方が後々の面倒事が無くなったのに……」「おれは嘘がつけない。だから本当のことしか言えないし、言わない」「そーかそーかそんなに蜂の巣になりてえか──なら望み通りにしてやんよ」「なるほどわかった──そこまで売りたいなら言い値で買ってやろう!」「ううっ……やっぱりメイド怖い……」「売ってきたのはてめぇの方だろうがっ!!」「ご主人様、縛られたの?」「うん。でも、ある意味貴重な体験だったから、むしろ得した気分だよ」「ふーん。じゃあじゃあ! 今度私にも縛らせて?」「いや、それはちょっと……」「ご主人様。それなら私にお任せください。完璧な後手縛りを披露して差し上げますから」「うん。あのね、別に最初から縛られたかったわけじゃ」

 

「うるさ――――――――――――――――――――――――――――――――い!!」

 

 怒鳴らなければ、一生騒いでいたに違いない。

 ユウカの腹の底から出た制止の叫びに、全員が一斉に動きを止める。この場における頂点捕食者が誰なのか、明確になった瞬間だった。ほったらかしにされていた獣電鬼がちょうど落雷を放ったこともあってか、その場にいる全員がユウカの頭に鬼の角を幻視した。

 重い沈黙の幕が下りる。

 腕を組んだユウカは視線をひと巡りさせてから、作り物のような笑顔を浮かべて、唐突に先生へ問いかけた。

 

「──先生。いま、私達が優先するべきことは何かわかりますか?」

「え? あぁ、えっと……あの、暴れている生徒を鎮圧する、です」

「ですよね。それじゃあ、私達がやるべきことは?」

「……一刻も早く作戦を立てて行動を起こすことです」

「はい、よくできました」

 

 間違った答えを言えば正座させてやると言わんばかりの気迫に、誰もが逆らえなかった。最後に加入してきた尾刃カンナは立ち込める空気の重苦しさに驚き、公安局に配属される前の──教室で級友と肩を並べて厳しい教師に叱られた過去を不意に思い出し懐かしんだ。やってる場合ではなかった。

 

 

 〇

 

 

 先生の口から告げられた作戦はひどく単純だった。

 十の方向から電力源となっているドレッドヘアへと同時に攻撃を仕掛け、最後にドンモモタロウがトドメを刺す。問題は人数が足りないことだった。

 ゲーム開発部──モモイ、ミドリ、アリス。

 C&C──ネル、アスナ、カリン、アカネ。

 ヴァルキューレ警察学校──カンナ。

 そしてミレニアム/シャーレ──早瀬ユウカ。

 こちらの戦力は合計して九人。

 ドレッドヘアは──十本ある。

 一人が二本を攻撃すれば済む話だが、事はそう単純ではない。なにせひっきりなしに電撃は降り注ぐし、接近すれば先程の──近接戦闘では無類の強さを誇るドンモモタロウでさえ吹き飛ばした光線が襲い来る。「二度は喰らわん」とは本人の言だが、戦場では何が起きるかわからない。ましてや相手は未知の存在なのだから。

 

「まさか、アンタが撃つ訳にもいかないだろう。どうするつもりだ?」

 

 空中に浮かぶ電子的なマップを覗きこんで、タロウは先生に問いかけた。二人の周囲に生徒達の姿はなく、マップ上で赤い点となって、先生から指定された位置へと移動している。

 攪乱を命じた数人が射撃を開始したのを確認しながら、先生は穏やかに笑って答えた。

 

「足りない一発についてはアテがあるんだ。だから、タロウは気にせず一直線に突っ込んで欲しい」

「面白い! アンタの作戦に乗ってやる」

「うん。頼りにしてるよ」

「────当然だ!」

 

 ドンモモタロウは、そうして再び戦場に舞い戻った。

 四方八方から絶え間なく撃ち込まれる銃弾を焼き落としていた獣電鬼は、階段を下りてくる怨敵に気付くと、視界を埋め尽くさんばかりの電撃を降ろし始めた。

 だが、ドンモモタロウは怯むことなく歩を進めていく。電の雨の中をあっけなくすり抜けていくその絵面は避けるというよりはむしろ、稲妻自体がドンモモタロウの歩みを止めることを拒んでいるかのように思えた。

 たちまち射程距離へと踏み込むと、ドンモモタロウはザングラソードを身体の横で垂直に掲げる。

 

「良い攻撃を喰らわせてもらった礼だ──最高の祭りを見せてやるっ!!」

 

 猛々しい宣言と同時に、ドンモモタロウはギアディスクを回転させた。

 

 

 ──『ドン! ドン! ドン! ドンブラコォーッ!!』

 

 

「桃代無敵────」

 

 

 ──『モーモタロ斬! 

          モモタロ斬! 

    モーモタロ斬! 

          モモタロ斬!』

 

 

 周囲が一瞬で暗黒に包まれ、

 

「──みんな、今だ!」

 

 指示を受けた十発の銃撃が、ドレッドヘアを打ち砕き、

 

「────アバター乱舞っ!!」

 

 そして、七色の極光が攻撃を開始した。

 

 すべてが遠ざかった闇の中で、ドンモモタロウは刃を光に乗せた。攻撃の術を失った獣電鬼へと、抜く手も見せず刀身を叩きつける。その軌道は千に変して万に化け、留まることを知ろうともしない。回避も、反撃も、逃走も一切合切を許されないまま、獣電鬼の身体に無数の裂傷が刻み込まれていく。虹光が自由自在に動く度、やがて化生の身体は包み込まれるように光の檻へと封じ込められた。

 音の壁を突き抜け、光の速さで腕が振られる。

 幾百、幾千、幾万を超えて────

 

 

 ──『必殺奥義!』

 

 

 ついに辿り着いた最後の一撃は、

 

 

 ──『モモ!

      タロ!

        斬!!』

 

 

 馬鹿正直な程真っ直ぐに胴を抜いた。

 残光を帯びながら獣電鬼の背後に降り立ったドンモモタロウが、肩にザングラソードを担ぐ。

 一瞬の沈黙、身体に赤い糸状の光を纏わりつかせた獣電鬼が爆発し──

 

「──決まったな」

 

 振り返ったドンモモタロウの視線の先にいたのは、黒いヘルメットが脱げたスケバン姿の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 




次回で一章終わりです。
へただなぁ蒲焼くん…!へたっぴさ…!話の配分がへた…!
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