ドンブルーアーカイブ   作:鰻の蒲焼

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そのろく

 

 

 

 

 

 

 水でもかけてやればいい、とはタロウの言葉である。

 だが、流石に寝起きにそれは酷だろうということで、頬を二、三度軽く叩いて起こすことにした。

 ぺちぺち、と小気味いい音が響いて、先程まで獣電鬼だった少女は、目をつぶりながら眉をひそめる。そして半開きになっていた唇をもごもごと動かして、

 

「あ、あと五分……」

「ふざけてないで起きろ」

「あっ」

 

 先生が止める間もなく伸ばされたタロウの指は、デコピンの体勢となって少女の額を容赦なく弾いた。

 実に綺麗な音が鳴った。

 

「あいッ──っ、てえ……なにすんだよっ」

 

 真っ赤に染まったデコをさすりながら、少女は不満混じりに飛び起きた。せっかく良い気持ちで眠れてたのによ──そんな声が聞こえてきそうな表情のまま、ぼやけた目をこすって狼藉者を確認しようとする。

 そして、面白いぐらいに止まった。

 口元に手をやりながらデコを心配そうに見つめてくる先生を挟み込むようにして、二人の男女──桃井タロウと尾刃カンナが凄まじい目でこちらを見下ろしていたからだった。

 本人達はいたって普通の顔をしているつもりだったが、はたから見るとお前を絶対に極刑にしてやるとでも言いたげな視線である。

 

「──よし」

 

 結果、少女は何も見なかったことにしようと、二度寝することを選んだ。

 二発目のデコピンが炸裂した。

 

「ッ! ~~~~──ッ……!」

「寝るな。起きろ。話すべきことをさっさと話せ」

「無駄に威圧するのはやめてください。……以前から常々思っていましたが、あなたの態度は少々上から過ぎるきらいがありますね」

「意味がわからない。おれは自分がすべきことをしているだけだ」

「それは私達公安局の仕事です。一配達員のあなたに、そんな権限はありません」

「普段はそうかもしれないが、今はシャーレの協力者だ。アンタにあれこれと指図される覚えはない」

「──あなたは、いつも、あぁ言えばこう言う……!」

「まぁまぁまぁまぁ! 二人とも落ち着いて」

 

 これ以上はマズいと判断した先生が、慌てて二人の間に割り込む。

 

「作戦が終わった直後だから、ほら、どっちも気が立ってるんだよ。ここは一端頭を冷やすべきだ。疲れてるせいで、お互いに思ってもないことを言い合って相手を傷つけるのなんて、嫌だろう? 私は嫌だな、二人が喧嘩してるところを見るなんて」

「……」

「……先生が、そう仰られるなら」

 

 この場における年長者のとりなしをわざわざ無視するほど愚かではなく、タロウとカンナは大人しく引き下がった。

 先生はそれを見て、ほっと安堵のため息を吐く。

 表面上ではどうにか冷静を装えていたが、内心では緊張しまくりである。なにせ二人とも威圧感が凄まじい。挟まれていると物理的に圧縮されてしまいそうだった。

 いきなり目の前で言い合いを始められて置いてけぼりを喰らっていた生徒の前に、先生は左右の空気から逃げるようにして屈みこむ。

 

「それで──きみは大丈夫?」

 

 眼鏡の奥にぽつんと寂しげに居座っていた硝子のような目が、人好きのしそうな笑顔につられて柔らかな弧を描く。

 今まで──こんな優しい目で誰かに見られたことなんて、一度たりともなかった。

 体験したことのない変な鼓動の高鳴りを覚えている少女に、先生はゆっくりとした調子で話しかけた。

 

「取りあえず、大きな怪我はしてないようでよかった。ええっと、そうだね……自分がこれまで何をしていたか、覚えている?」

「何をしていたかぁ……?」

 

 そう語りかけられて、少女は普段散らかしっぱなしにしてある頭のなかの引き出しをごそごそと漁り出した。脳内時間でおよそ十分以上かけてようやく見つけだした、ハッキリと覚えている最後の記憶と言えば──

 

「……コンビニに、強盗?」

「強盗しちゃってたかあ……」

 

 先生は思わず苦笑いを浮かべる。

 タロウが言うところのヒトツ鬼──あの訳の分からない怪物がもたらした被害は、人的なものは無いにしても極めて甚大だった。しかし、ヒトツ鬼になっていた間に少女の意識が無ければ、どうにか情状酌量の余地ありに持っていけるかもしれない──なんて思っていたのだが、それ以前にも悪事を働いていてはどうしようもなかった。

 いくらキヴォトスの治安が破綻寸前の危ういものだったとしても──だからこそ、ちゃんと悪いことは悪いと言っていかなければならないのだ。先生として、一人の大人として。

 先生はこほん、と軽く咳払いをすると、笑顔を消して少女の肩に手を置いた。

 

「きみがしたことはしちゃいけないことだった……そのことは分かるね?」

「……だったらなんだよ。偉そうに説教でもするつもりか? てめーは先生かよ」先生である。

 

 不貞腐れたように唇をとがらせる少女の横顔を見て、先生は再び笑顔を浮かべた。

 

「分かっているなら──うん。きみは大丈夫だ」

「……はあ?」

「きっと良い人になれる。頼りないかもしれないけど、私が保証するよ」

「んだよそれ……意味わかんねえ……」

 

 その言葉が単なるお為ごかしではないと気づけたのは、男の目があまりにも優しかったからだ。

 今ほどヘルメットが欲しいと──誰からも顔を隠したいと思ったことは、これまでにない。

 身体の裡から湧き上がる、妙な熱さを嚙み砕こうと歯を喰いしばりながら、先生の方を向かないようにするので精一杯な自分が、たまらなく情けなかった。泣きそうだった。泣いた。

 

「え!? あ、あれ? そんなに嫌だった?」

 

 泣くスケバンと焦る先生──まるでドラマのような光景を繰り広げている二人を遠巻きに眺めながら、タロウは隣に立つカンナに言った。

 

「だから言っただろう。ヒトツ鬼は自然発生するもの──アンタが言うように、誰か黒幕がいるわけではない」

「……欲望の過剰な暴走が招く怪物──あなたのそんな言葉を信じ切って、私にオカルト信者になれと?」

「そこまでは言っていない。だが、おれは嘘をつかないことはアンタも知っている筈だ。違うか?」

 

 カンナが不意にタロウを見ると、タロウもこちらを見つめていた。

 その、裏表のない真っ直ぐな眼を、カンナは密かに気に入っている。

 だから、というわけではないが。

 

「……今回は納得することにします。報告書には、ほんの少し工夫を加えさせていただきますが」

「工夫も何も、本当のことを書けばいい。アンタが見たままを」

「──」

 

 タロウの何気ない言葉を聞いたカンナは先程の不良を真似るように固まり、くっく、と引き攣った笑い声をあげた。そして、頭上に広がる空をひどく眩しそうに見上げる。

 

「……真実を真実として貫き通すことが出来ていれば──私はもっと、今とは違った生き方をしていましたよ」

「──どういう意味だ?」

「別に裏なんてありません。あなたが好きな、ありのままを話しているだけです」

 

 そこで会話を打ち切り、カンナは手錠をかけた不良とともに、唯一無事であった指揮官車へと戻っていった。

 帰る途中、横倒しにされた数々の警察車両の屍をちらっと見て深く長いため息を吐く背中には、年齢に似つかわしくない哀愁が漂って見えた。

 

「……大変だなぁ」

 

 ぽつりと先生は不安そうに言葉を漏らす。

 反対に、それを聞いたタロウは薄く笑って、

 

「アンタが思っているよりヤツは強い。だから無駄に心配する必要は無い」

「──信用してるんだね、彼女のこと。タロウが誰かを褒めるなんて珍しい」

「褒める?」

「違うの?」

 

 タロウは先生の台詞を、まるで異邦の国の言語でも聞いたかのような表情で受け入れて、

 

「……違うな。おれはただ、本当のことを言っただけだ」

「……照れてる?」

「照れていない」

「照れてるでしょ」

「照れていない」

 

 屈んでタロウの顔を覗きこもうとしている先生はひどく楽しそうだ。自分が揶揄われていると察してぶすくれたタロウは腕を組みつつ、器用に回って先生の悪戯っぽい視線から逃げ続けた。

 二人のそんな他愛もないやり取りは、数秒ほどで終わった。姿勢を直した先生が、改まったようにタロウの正面に立ったからだ。

 

「それで、タロウ。ひとつ頼みたいことがあるんだけど、良いかな」

「……なんだ」

「連れて行って欲しいんだ」

「どこに」

 

 タロウの問いかけに先生は無言で人差し指を立て、周囲に立ち並ぶビルの一棟の屋上を指した。

 

「……アンタ、何をするつもりだ?」

 

 うーん、と先生は唸ってから、

 

「──手伝ってくれたお礼と……ちょっとお説教、かな」

 

 そう言って笑う先生は、今までで一番先生らしくタロウには見えた。

 

 

 〇

 

 

 ここに居座る理由はもう無くなった。

 

 

 落雷のせいで所々にひび割れたような焼け跡が残っている広場と、その上をうろちょろと走り回る生徒達。無防備な姿を晒した車両の群れに、かつて異形だった少女を乗せて走るひと際大きな車──

 D.U中央通り沿いに立ち並ぶ建設物のなかでも、ひと際大きなビルの屋上。そこから見下ろせる光景をひと通り把握すると、狐坂ワカモは自らの得物を肩に担いで、追跡を開始しようと踵を返した。

 標的は指揮官車両。追う目的など──言うまでもないだろう。

 

「あの方を攫っておいて──まさか、無事に帰れるとでも?」

 

 狐面の下で噛み締められた唇が、端から赤い雫を垂らす。粘ついた雫は顎をつたって落ち、地面に褐色のシミを何点かつくった。

 いま、ワカモの脳内で再生されているのは、これまで見たことのない異形の姿と能力に不意を突かれて、まんまと先生を奪われてしまったという屈辱の記憶だ。

 それがリピートされるたびに渦を巻いて立ちのぼる、脳髄を丸ごと沸騰させるような怒りと殺意の炎が、今のワカモにはとても有り難かった。これから起こす行動の燃料になってくれるからだ。

 

 

 どんな壁が立ち塞がろうとも、

 どんな困難が降り注いでも、

 決して生かしておかない。

 ────確実に、殺す。

 

 

 絶対的な憎悪と殺意をともないながら、ワカモが動き出そうとした次の瞬間だった。

 

「そうされると、困っちゃうな」

 

 誰も存在できないはずの背後から、誰よりも聞きたかった声が響いた。

 ワカモは思わず振り返る。そこにいたのは、無愛想な配達員姿の青年──桃井タロウにおんぶをされながら、こちらをにこやかに見つめている男性──先生であった。

 もっとも、ワカモの視界にタロウは欠片も映っていない。彼女にとって先生以外の存在はすべて、塵か芥でしかないからだ。

 だからこそ、先生がそこに居るだけで、彼女は簡単に動きを止める。

 

「や。こうして顔を合わせるのは……二度目かな?」

「……………」

「覚えてない? ほら、私がキヴォトスに赴任して一番最初の日。シャーレのなかで一度会ったことがある……よね?」

「アンタが覚えていても、あちらが覚えていなければそうなるだろう」

「そうかぁ……割とインパクトある初対面のはずだったんだけどなぁ……あ、もう降ろしてもいいよ。運んでくれてありがとう」

「礼は良い。さあ、お手並み拝見といこうか」

「え゛」

「何か文句があるのか」

「いや、ほら。恥ずかしいからあんまり見て欲しくないんだけど」

「気にするな。おれのことは置物か何かとでも思っておけばいい」

「こんなに存在感ある置物ははじめてだなぁ……」

 

 二人が交わしている会話も、いまのワカモにはまったく聞こえていない。いや、まったくというのはまるきりの嘘で、本当は先生の言葉だけを綺麗に抜き取って頭のなかで反響させるという実に器用な真似を行っていることは、誰も知らない彼女だけの秘密だ。

 屋根裏で、路地裏で、或いはシャーレの誰も意識していない死角で──幾度も幾度もこっそりと堪能してきた声が、触れられそうなほど近くにある。

 意識が飛びかけていた。

 それでもどうにかまっすぐ立つことができているのは、先生に無様な姿をさらすわけにはいかないという、ひとえに乙女の意地の賜物であった。

 

「まずは、お礼を言わなくちゃね──足りなかった最後の一発を撃ってくれて、ありがとう。ワカモの助けが無かったら、きっと私達は勝てなかった」

「……なぜ」

「ん?」

「なぜ、私が撃つと、お思いになったのです?」

 

 声がみっともなく震えていないか、きちんと聞こえる声量に調整できていたかたまらなく不安だった。なにせ今日の天気は快晴で、雲一つさえ存在しない。しかも高所ということもあり、吹き付ける風は実に容赦がない。

 だというのに、先生はまるですぐそばで訊いていたように、

 

「信じていたからだよ。ワカモも、私の大事な生徒だからね。生徒を信じない先生が何処にいるんだい?」

「──」

「けど、やり過ぎは流石に良くないかな。確かに彼女は私をさらっていったけど、意識は無かったわけだから」

 

 大事な生徒。

 大事な、大事な、だいじな────

 ワカモの頭はその言葉でいっぱいだった。それ以上を受け入れようとすれば確実に破裂すること間違いナシだった。これまで抱いていた憤怒も殺意も憎悪も首根っこを引っ掴まれて外にほっぽり出され、先生の声だけがリフレインしていた。

 ゆえに。

 

「し、」

「ワカモの気持ちは嬉しいけど──え?」

「失礼致しまし」

 

 言葉がそこで途切れたのは、ワカモが屋上から飛び降りたためである。より正確に言うと、背中から落ちるように空へと自分を投げ出した。

 先生は死ぬほどビビった。

 鉄面皮を貫いていたタロウも、内心でちょっとビックリした。

 二人でパラペットに急いで駆け寄り、そろって下を覗きこむ。

 だが、飛び降りたはずの少女の姿はどこにもなく、そこには高所特有の荒涼とした空気をまとった光景が広がるのみだった。

 

「……大丈夫、だよね?」

「……恐らくな」

 

 あの狐面の少女が、たかだかビル数十階の高さから飛び降りた程度でどうにかなるとは思えなかった。

 そしてパラペットから離れた二人は無言で佇みながら、しばらく青空の下で輝きを放つキヴォトスの街並みを眺めた。

 先に口を開いたのは、タロウだった。

 

「アンタの説教、点をつけるなら……三十五点だ」

「相変わらず手厳しいね──減点はやっぱり、ワカモを責めなかったから?」

「……自分でもわかっているのなら、どうしてそうしなかった?」

 

 理解できないとでも言いたげな表情でタロウは尋ねる。先生は困ったように指で頬を掻くと、とっておきの秘密を暴露する子どものように照れ臭そうにして、

 

「あの子は──ワカモはさ。ただひたすらに、私の『休みたい』っていうなんてことない言葉を叶えようとしてくれただけだと思うんだよ。

 手下を雇って、コンビニ強盗をさせて気を引いている隙に、監視カメラのデータを抜き取って、私をシャーレから連れ去る──って手段が良いモノだとは言わないし、いつかちゃんと正面から怒らなきゃいけない。

 でも、向けられた好意そのものを無碍にすることだけは、やっちゃいけない気がするんだ。それは私が先生だからじゃなくて、子どもの前に立つ一人の大人として──誰かの好意を踏みにじるなんて姿勢を、見せるわけにはいかないから」

「……そういうものか」

「そういうものに、なるのかなぁ。

 まぁ、ほら。私は生徒みんなの味方だからね。ついつい甘くなるのはご愛敬ってことで」

 

 言い終えた後、お道化るように肩を上げた先生をタロウは一瞥した。

 嘘を言ってはいない。この男は、心の底からそう思っている。

 それをわかっていてなお、今でもタロウは狐坂ワカモを捕らえてヴァルキューレの矯正局に突き出すべきだと考えているし、一度先生に対して下した三十五点という点数を覆すつもりは無い。

 だが、この学園都市──キヴォトスには、生徒に最後まで寄り添おうとする大人が必要なのだということぐらいは分かる。

 三十五点は三十五点でも、誰かに必要とされる三十五点なのだ。

 それはきっと──誰からも疎まれ、嫌われてしまう百点よりも、ずっと価値があるものに違いなかった。

 

「──」

 

 誰にも分からない程一瞬だけ目を伏せて、それからタロウは言った。

 

「……おれは先生じゃない。だから、アンタの教育方針に口出しはしない。するつもりもない」

「……うん」

「だが、困ったことがあればいつでも頼れ。必ず力になってやる。おれを信じろ。縁にも色々あるが──おれとの縁は、超良縁だ!」

 

 どこからともなく扇子をとり出し、タロウはその場に立ち込めた神妙な空気を吹き飛ばすように大声で笑った。ついつい先生もつられて笑顔を浮かべる。静かだった屋上が、あっという間に騒がしさを増した。

 ひとしきり笑い終えた後、地上へ戻るために先生はふたたびタロウの背中に乗ろうとして──差し出された掌に動きを止めた。

 

「待て。アンタに渡すべきものがある。携帯を貸せ」

「ああ、良いよ。ちょっと待ってね」

 

 パスワードを解除する様子を堂々と見せた後に、はい、とあっけなく個人情報が詰まった物品を手渡す先生の姿は、チヒロ辺りが見た瞬間に卒倒しそうなほど迂闊だった。

 だが、ここにいるのは個人情報など全く気にしない先生と、顧客以外の個人情報は欠片も気にしないタロウだけである。

 何かしらの操作をつつがなく終えたタロウは、先生に携帯をぶっきらぼうに突き返した。

 先生は受け取った携帯を何となく矯めつ眇めつしてみるが、特に変わったところは見受けられない。疑問を抱いている先生に、タロウはなんてことない口調で告げた。

 

「アンタの連絡先に、ユウカの番号を入れておいた。後でかけてやるといい」

「…………色々、言いたいこととか、聞きたいことはあるんだけども。どうしてそんなことを?」

「おれが運ぶのは荷物だけじゃない。幸福も運ぶ。

 今日、アンタの荷物を受け取ったのはアイツだ。そしてアイツにとっての幸福は───」

 

 タロウはチェンジをするために取り出したドンブラスターを操作しながら、ふ、と気の抜けたような笑みを浮かべた。

 

「──どうやら、アンタとの繋がりらしい」

 

 

 〇

 

 

 先生を救出してから、数日が経った。

 

 

 キヴォトスに溢れる事件は数多く、話題性には事欠かない。だから先生がヘルメット団に拉致されたことなど、押し寄せる時間と話題の波にあっという間にかっさらわれてしまった。

 それが一番良い形だと、ユウカは思う。話題の中心になったって、良いことの一つもない。インタビューなんかよりも優先するべき仕事が、現在のシャーレには溜まりに溜まっているのだから。

 別に、あちこちに引っ張りだこにされてチヤホヤされて、満更でもなさそうにしている先生の姿が気に食わないわけでは、無い。

 インスタントではなく、きちんとした豆を使ってコーヒーを淹れていたユウカは、ふと給湯室からちょこっとだけ顔を出して、執務室を覗きこんでみる。

 そこには数日前のようにいきなり失踪したりなんかせず、積み重なった書類の山とにらめっこしている先生の姿があって、ふふと唇を曲げる。

 誰の経由かは知らないが、先生と番号──仕事用ではなく個人的な!──を交換でき、さらには事後処理に追われるおかげで無駄な出費も抑えられていて、最近のユウカは非常に上機嫌だった。それこそ、まだ山の一つも崩し終わってもないのに休憩にしましょうか──と提案したいぐらいに。

 だからこの時間帯には珍しい来客を告げるチャイムが鳴り響いても、まったく気にすることなく、スキップさえしでかしそうな程軽やかな歩調でユウカは対応しにいった。

 

「はーい。今開けまーす」

 

 扉を開けた先に立っていたのはドデカいダンボール箱を抱えた、赤い服装の配達員だった。

 ダンボール箱の表面に書かれているのは──経理を務めるユウカにとっては怨敵ともいえる、とある玩具メーカーのロゴ。

 箱を抱えた男は、笑顔のまま固まって動かないユウカを見下ろすと、何度も何度も聞いてきた──聞きたくなかった言葉を告げた。

 

 

 

「お届け物です──荷物にハンコかサインを」

「────お引き取り下さいッ!!」

 

 

 

 キヴォトスの騒がしい日常は、今もまだ続いている。

 

 

 

 

 

 









じかーいじかい


あたしは美甘ネル。
C&Cのリーダーをやってんだが今はどうでもいい。
気に入らねえのは桃井タロウだ!
なんで任務についてくる!?
なんでメイド部に入ってくる!?
納得いかねえ!
いいからとっとと説明しやがれっ!!


ドン2章「めいどいんタロウ」


という、お話!


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