ドンブルーアーカイブ   作:鰻の蒲焼

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そのさん

 

 

 

 

 そして、任務当日。

 

 

 昼下がりを迎えたミレニアムのキャンパス内に停まっている、C&Cのロゴが入ったトラック。生徒達にとっては公然の秘密も同然なその車両の前に、個性の煮凝りのような連中が揃っていた。

 一人がスーツで四人がメイド服である。

 これで目立たないと思う方がおかしいだろう。だが連中は注目など素知らぬ顔で立っている。無遠慮な視線をぶつけられることに慣れているか、もしくはぶつけられたところで何も感じないのか──どちらにせよマトモでない思考回路をしていることは間違いない。

 そのなかの、一人。

「またミレニアムに来てる……」だとか「ゲーム開発部の次はメイド部と癒着……?」だとか「あの『冷酷な算術使い』の懐刀って噂は本当だったんだ……」だとか、虚実が複雑怪奇に入り混ざったささやきを受けてもなお揺るがずにいる男──桃井タロウは、腕を傲然と組みながら目の前にいるメイド達の顔を順繰りに見回した。

 

「全員揃っているな? まずは点呼だ」

「ゼロワン、準備かんりょーっ」

「ゼロツー、いつでもいける」

「ゼロスリー、手筈は整っています」

「…………」

 

 タロウからの命令にゼロワンこと一之瀬アスナは散歩を目前にした犬のごとく飛び跳ね、ゼロツーこと角楯カリンは鷹のように鋭い顔つきを作って頷き、ゼロスリーこと室笠アカネは日が反射して光っている眼鏡を押し上げた。

 そしてダブルオー──美甘ネルは、なにも言わない。

 ただ横を向いて、この状況に納得がいっていないことを主張するかのように黙っている。全員に見つめられても一向に応えようとしないその姿は、聳え立つ岩山のようである。

 

「ネル先輩」

「……」

「リーダー」

「……」

「部長!」

「……」

「──美甘ネル」

 

 痺れを切らしたらしいタロウが、誰の呼びかけにも答えないネルの前に立ちふさがった。

 タロウは少女の突き刺してくるような瞳に一ミリも眉を動かさず、鉄のように冷えた表情を貫いたまま告げた。

 

「アンタの点呼が無ければ、おれ達は任務を開始できない」

「……で?」

「点呼をしろ」

「あたしが嫌いなことを教えてやろうか? ──偉そうに命令されるこったよ」

「二度も言わせるな──点呼を、しろ」

「勝手に、してろ!」

 

 二人の決して交わり合うことのない意志が、牙を剥いて噛み合おうとした瞬間だった。

 場が荒れる気配を察したアカネはすかさずタロウのスーツの裾をつい、と控えめに引っ張ると、近付けた男の形のいい耳にこそこそと何事かを吹き込んだ。

 

「……」

 

 アカネの進言を聞き終えたタロウは、改まるように咳払いをひとつする。そして、訝しげに自分を見てくるネルに向けて、どこかに躊躇いを感じさせるような口調で言った。

 

「……アンタはこのミレニアムで最も強いと、ユウカから聞いた」

「急になんだよ」

「いいから聞け。ヤツの言うことならば、嘘ではない。そしてこの任務が荒事になるにしろならないにしろ、アンタの出番は必ずやってくる。なにせ、キヴォトスの治安はすこぶる悪いからな」

 

 タロウの言葉はどこまでも真っすぐだ。それがわからないほど、ネルはバカではない。

 だからこそ。

 どれだけ強かったとしても、つまらない意地を張ってしまう自分は、まだまだ子供なのだということがわかってしまって──ネルはどうしようもなく嫌だった。

 

「おれもアンタの強さは知っている──点呼を……したら、どうだ?」

「──」

 

 最後の言葉は、ほんの少しだけ心許なげだった。

 そう感じたのは、目の前の男の弱みを見つけたいという反抗心から生み出された幻のせいなのだろうか。

 ありとあらゆる煩悶を飲み込み、ネルはそっぽを向いたまま、ギリギリ聞こえるような微かな音量で、ぽつりと呟いた。

 

「──ダブルオー、やってやるよ」

 

 一瞬の沈黙。

 そして、

 

「ネル先輩、おめでとうございます!」

「お、おめでとう……で良いの? これって」

「おめでとう」

「おめでとーっ!!」

 

 ぱちぱちぱち、と周りから暖かな拍手が降り注いだ。その見当違いな祝福を一身に受けて、ネルは感慨深そうに目を瞑り、ふっと笑いながらこう思った。

 帰りてぇ。

 

 

 ◯

 

 

 当然帰れるわけもなく、アスナに押されるがままにされたネルは、C&C専用であるがゆえに大量の『掃除道具』が搭載されたコンテナへと入り込んだ。

 運転席のタロウはC&Cの面々が揃っていることを確認すると、滑らかなハンドル捌きとともにトラックを出発させた。助手席にはナビ役としてアカネが座っている。

 トラックは緩やかな動きで広場を抜けると、ミレニアムの自治区へと入っていく。

 キヴォトスに現存している学園のなかで、トリニティやゲヘナすら抜き去って最も科学技術が進んでいるというミレニアムの街並みは、驚くほど未来的である。

 仕事で初めて宅配をしに来たときは、随分とその技術力に驚いたものだが──今ではすっかり慣れ切ってしまった。

 その証拠として、プロセッサーから吐き出される廃熱を利用することで一種の無重力状態を車輪の下に作り出している、いわゆる空を飛ぶ車が隣の車線を走っていても、見向きする気すら起きない。タロウにとっては、車が空を飛ぼうが銃火器を持ち歩くのが常識になっていようが、宅配便という仕事を全うさえできれば良かった。どこにいっても変わらないその頑強きわまりない性根は、成程七神リンが忌々しむだけのことはある。

 そんなタロウのつれない横顔に、アカネは笑顔を湛えたまま話しかけた。

 

「ミレニアムには──いえ、キヴォトスには慣れましたか?」

「それなりには。だが、まだまだ驚くことは多い」

「例えば、どんな?」

 

 後ろから声をかけてきたカリンをバックミラーで確認しつつ、タロウは答えた。

 ただし、その目はカリンではなく、彼女の頭上に腰を下ろしているヘイローに向けられている。

 

「アンタ達の頭の上に浮かんでいるその輪っかだ。おれの世界に、そんなモノは無かった」

「タロウもヘイロー欲しいの? ならエンジニア部につけてもらおーよっ」

「アホか。ヘイローを作れるわけねぇだろ」

 

 ネルがそう吐き捨てると、アスナは頬をむっと膨らませながら、

 

「作るんじゃなくて、つけてもらうのっ」

「つけてもらうって、どうやってだよ」

 

 そんなの決まってるじゃん、とアスナはこともなげに言った。

 

「頑張って!」

「……」

 

 これ以上コイツと会話するのは時間の無駄だ──という顔をして、ネルは銃の整備に戻った。だがアスナの勢いは止まらなかった。普段は作戦を説明するために使われているホワイトボードに、デフォルメしたタロウのイラストを描いてみせると、頭の上に様々な形のヘイローを浮かべていく。

 

「タロウにはどんな形が似合うかな。桃? サングラス? それともまさかのちょんまげ?」

「アスナ先輩、やけに絵が上手いね……」

「意外に多才なんですよね。この眉毛なんてソックリ……でも、表情に険が足りませんね」

「そうかなあ? なんとなくタロウはこういう子犬みたいな顔が似合うと思ったんだけど」 

 

 ホワイトボードの上のタロウを前にあーでもないこーでもないと議論を交わしていたメイド達であったが、不意にアスナが走らせていたペンを止めたことで、会話は止まった。

 

「──そういえばさ。タロウの住んでた場所ってどんなところだったの?」

「おれの?」

「うん。ご主人様からは外のことあんまり聞けないし。キヴォトスの外がどうなっているのか、すっごく気になってるんだよねー」

「……おれの住んでいた場所には──」

 

 アスナが投げかけた質問は、他の三人も実は密かに気になっていたことである。

 耳を澄ませるために口を閉じた四人を前にして、タロウはちょっと考え込んでから、

 

「度を超えた忍者ごっこで勝負を仕掛けてくる輩。面白い話をするよう初対面で強要してくる富豪。赤の他人を息子呼びしてくる母親。指定した時間通りに来たにも関わらず怒る住人──そんなヤツらがいた。

 そういうヤツらが暮らす場所が、おれの過ごした世界だ」

 

 先に断っておくと、王苦市の治安の悪さは東京都内でもズバ抜けている。

 それも当たり前の話である。強盗、詐欺、車上荒らし、ひったくりは当然として、その他にも釘を打ちつけたラケットでいきなり勝負を申し込んで相手を再起不能に追い込んだり、いくら喋るとはいえ犬に石を遠慮なく投げつけたり、挙げ句の果てには構って欲しかったり勉強に集中できなかったりするだけで怪物になったりと、スラムもビックリして腰を抜かしかねない程の民度の低さを誇っているのだから。

 つまり、どんな風に間違ったとしても一般的な場所として紹介できるわけがない。筈なのだが、タロウは王苦市以外で生活したことはなく、ネル達もキヴォトスの外の事情について詳しくなかった。

 その結果として、

 

「……危険度はともかく、治安はあまりキヴォトスと変わらなそうですね」

「えー! なんかつまんなーい」

「でも、それなら私達でもなんとかやっていけそうだ。リーダーもそう思わない?」

「いや……なんかおかしくねぇか? こう、上手く言えねぇが、キヴォトスとはもっと別の意味でヤバそうな感じが……」

「アンタが予想している通り問題は多いが──良いところだ。縁があれば一度来てみると良い。きっと気に入るだろう」

 

 ミレニアムの道路を走るトラックのなかに、キヴォトスの外に対して壮絶な偏見を深めた四人組が誕生したのだが、それはどうでもいいことなので置いておく。

 

 

 

 そんなくだらない会話を交わしているうちに、一行を乗せたトラックはやがて一棟のビルの前に辿り着いた。

 シャーレオフィスビル程では無いにしろ、ミレニアムの建築物ということもあってか、軒高百数メートルは間違いなく超えている超高層ビルである。

 既に日は暮れ始めており、そのせいでビルの巨躯は鮮やかな夕焼け色に染まりつつあった。ガラスに反射することで辺りに光を撒き散らしている陽に目を細めつつ、ネルは首を限界まで逸らしても見通せない最上階を見上げた。

 今回のオークションは、このビルの最上階で行われる手筈になっている。

 スカジャンのポケットに突っ込んであった参加証代わりのIDカードを取り出し、ネルは矯めつ眇めつしてみた。

 指先をくすぐる感触は、やり過ぎなほどしっかりしている。こういう小道具に関してネルは完全な門外漢だったが、それでもそうそうお目にはかかれないような、高い素材が使われていることぐらいはわかった。

 

「……わざわざこんなモンまで用意するたぁ、よっぽど羽振りが良いらしいな。主催者サマはよ」

「通常の物品ではなく、オーパーツが取引されるオークションですからね。準備は徹底しておきたいと思うのも、無理はないでしょう」

 

 アカネがもっともらしい理由を持ち出してきたが、ネルはどうにも納得ができなかった。

 

「なんかシックリ来ねぇんだよな……カッコつけてえだけじゃねぇのか?」

「ふふ。そんな、ネル先輩じゃないんですから」

「喧嘩売ってんだな? 売ってんだよな?」

「時間が惜しい。さっさと行くぞ」

「了解した」

「おっけー! ほらほら、アカネも部長も早くいこーよ」

 

 タロウはギロチンのように会話を切り落とすと、すたすたとビルの入り口に向かって歩き出した。その後ろをカリン、アスナ、ネル、アカネという順番で続いていく。

 エントランスに入った五人は、タロウ、ネル、アカネとカリン、アスナという二手に分かれてから、受付にオークションの参加者であることを伝える。するとIDカードの提出を求められ、それと引き換えにパドルが渡された。

 ちなみにタロウ達の番号は「124」で、カリン達の番号は「455」である。

 受付を終えた五人は、流れるようにエレベーターホールへと案内された。たっぷりとした空間が取られているホールには誰の姿も無い。おそらく大半は既に会場に入っているのだろう。上階へ向かうボタンを押すと、扉は重たい音をたててあっという間に開いた。

 全員が乗り込んだことを確認したタロウは、最上階の数字を記しているボタンを押す。

 頭上の表示パネルに階数が灯り、扉が閉まろうとした──

 次の瞬間だった。

 誰かが、開くボタンを押した。

 タロウではない。そしてネルでも、アスナでも、カリンでも、アカネでもなかった。今にも閉じかけていた扉の外──見えなくなったホールにいる誰かが押したのだと、全員が即座に判断した。

 扉の外に立っていたのは、ファー付きのコートを羽織った少女だった。

 普段から丁寧に扱われているのだろう。皺の少ない真っ白な学生服に対抗するかのように、全身で様々な赤を着飾っている。滑らかに流れる撫子色の髪に、胸元に鎮座する薄紅梅のリボン。後頭部で静かに輝く一斤染のヘイローと、桜色の装飾が施されてあるセミオート式狙撃銃。

 そして耳の横に生えた角は、少女が立派なゲヘナの生徒である証拠だ。

 そんなゲヘナ丸出しの少女は、長く伸びた髪を手でさっと払うと、妖艶な形に唇を曲げる。いかにもな仕草にふとタロウは嘘臭さを感じ取り、微妙に眉を上げる。少女はそのことに気付かず、余裕を感じさせるような声色を作って、

 

「──相乗り、宜しいかしら?」

 

 その手には、タロウ達と同じようなパドルを携えられている。

 

 

 〇

 

 

 見知らぬ相手と居合わせたエレベーターほど気まずいものはない。

 鬼方カヨコはパーカーのポケットに手を突っ込みながら、そんなことを思った。エレベーターとは、移動手段であり密室でもある。そして密室とは、人と人との距離が最も接近する空間である。それが親しい相手でも見知らぬ赤の他人でも、問答無用でそばに近寄らせる。

 普段使っている、ほんの数秒で目的地に着くようなショッピングモール用のエレベーターならまだ良い。携帯をいじるか、イヤホンで音楽を聴いていればあっという間だからだ。

 だが、今回のエレベーターが目指すのは数十階も先であり、そのくせに速度は欠伸が出るほど緩やかであることが、カヨコに久々の気まずさを感じさせる原因になっていた。

 それでも、まだ乗っているのが自分達──便利屋68のいつものメンツだけなら耐えられた。けれど今回は奇妙な道連れがいた。四人のメイドと、一人の男だった。だから別のエレベーターに乗れば良かったのにと、カヨコはアルの浮かれた背中を睨んだ。

 

「──」

 

 面白みもなにもない天井に置いていた目を、バレないように男へと向ける。

 身長は目測でおよそ180センチ後半ほど。だがそれ以上の高さだと感じるのは、鉄棒を刺しこんだようにしっかり伸びた背筋のせいだろう。

 真ん中で大きく分けられた茶髪は癖が強そうな髪質をしている。閉まった扉をじっと見据えて動かない瞳は、融通の利かなさそうな光を奥に宿していた。

 そして、最大の特徴はやはり、ヘイローが見当たらないことか。

 勿論、キヴォトスの住人の誰も彼もにヘイローが備わっているわけではないことは知っている。

 しかし、自分達と似通った見た目をしていながらヘイローを持ち合わせていない存在は──カヨコの知る限り、たった一人しかいない筈だった。

 筈だと、思っていた。

 

 ──この人も、先生と同じように、キヴォトスの外から来たのかな。

 

 だとすれば、昔の先生を知っているかも──ふと湧いて出た思考を、あわてて沈みこませた。それを知ってどうするというのか。

 そもそも、男が先生と同じ場所から来たとは限らない。だから、誰も知らない先生の情報を手に入れて、少しでもリードしておきたいという不埒な考えは即刻、頭のなかから排除すべきだ。

 そんなことを考えていたからだろう。

 

「──なにをジロジロ見ている」

 

 言葉を吐きだす術を知らないように黙っていた男が吐き出した言葉に、カヨコはらしくもなく身体をびくりと震わせた。

 それが自分に向けられたものではないと、遅れて気付いたのは、くすくすと楽しげに肩を揺らすムツキの姿が目に入ったからだ。

 男はそれが気に入らないらしく、声に威圧がいや増した。

 

「そんなに面白いか?」

「うん。面白いよ! ムツキちゃんが保証してあげるっ。だからほら、もっと自信持って!」

「生憎だが自信は足りている。それよりも、アンタ。人の顔を見て笑うとは、礼儀がなっていないな」

「──今のは、つまんないなぁ。そんな風に我慢しちゃって苦しくならないの? ここはキヴォトスなんだから、もっと派手にパーッって弾けちゃってもいいんだよ? おにーさん」

「おれは常におれとして振る舞っている。アンタに言われるまでもなくな」

「あ! それ面白い!」

「……」

 

 それなりに長い付き合いだから、カヨコは浅黄ムツキが男をじわじわと気に入りつつあることをすぐに察知した。相変わらずどこに琴線があるのかわからない。

 

「あんたも大概センスがねぇな──コイツの何処が面白いんだか」

 

 心なしか男の方に近寄っていっているムツキに、小馬鹿にしたような声が投げ掛けられた。メイドのなかで一番小さく目つきが鋭い、スカジャンを羽織った少女からだった。

 ムツキは挑発を受け取ると、上等だと言わんばかりに目を円弧の形に歪めてみせた。

 

「くふふ。逆でしょ? 私にセンスが無いんじゃなくて、おチビさんにセンスが無いんだよ」

「誰がチビだっ! つーか、てめぇも大概ちっこいだろーが!! おい、桃井! 言ってやれ!」

「へーぇ。おにーさんはどう思う?」

「美甘ネルは146cm、アンタは144cm──アンタの方が小さいが、伸びしろはアンタに分がある」

「やたっ。おにーさんわかってるっ」

「てめぇに頼ったあたしが馬鹿だったよ!!」

 

 さっきまでの気まずい沈黙が嘘のように騒がしさが増したエレベーターのなかに、ちんと目的の階に到着したことを知らせるチャイムが響き渡った。

 見ると、今の今まで大人しくしていた、便利屋68の社長──陸八魔アルがボタンを押していた。

 

「──個人でコネクションを作るのは構わないけど、距離感を間違えちゃダメよ? ムツキ。私達便利屋は、あくまでもビジネスで成り立つ仕事なんだから」

「便利屋、なの? あなた達」

 

 言葉の響きがついつい気になって問いかけたカリンに、アルはどこか満足げな雰囲気を漂わせて頷く。

 

「そう。金さえ貰えればなんだってする──ゲヘナの便利屋68とは私達のことよ。あなた達はきっとミレニアムの生徒よね? ここで会ったのもなにかの縁。なにか依頼があれば、どうぞご随意に」

「でも、あなた達の事務所がどこにあるのかなんて知らないよ?」

 

 アスナの当然の疑問に、アルはニヒルに笑って答えた。

 

「──生徒の一人でも捕まえて、聞いてみると良いわ。

 ゲヘナで最もアウトローなのは誰か、ね」

 

 ばさっ、とコートをはためかせながら、アルはエレベーターの外に出た。その後ろに便利屋68の平社員──伊草ハルカを影のように付き従わせて。

 スマートに立ち去ろうとした少女の背中に、頭の後ろで腕を組んだムツキは何気ない口調で言った。

 

「アルちゃん」

「なに? というか、社長と呼びなさい社長と」

「降りる階間違えてるよ」

「え!? あっ、本当だ。いや! じゃなくてちょっと待ってまっ」

 

 がちゃん。

 うぃーん。

 そして、エレベーターのなかに気まずい沈黙がまた満ちる。

 なぜか自分に目線が集中する気配を感じて、カヨコは思った。

 帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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