プログレッシブのノリで攻略するアインクラッド第十層 (旧題:2023-01 アインクラッド第十層にて)   作:ki-sou777

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第一話

浮遊城アインクラッド 第十層について

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 アインクラッド第十層は、茅場晶彦の殺意が手に取るように感じられる階層だった。街の雰囲気こそ和風ファンタジーといった様子で、風情ある日本屋敷が立ち並んでいるが、一度フィールドに出ると、小型Mobすら帯刀しており、フェイントを織り交ぜたソードスキルを放ってくる。攻撃をまともに受ければ、高レア防具でも一、二割は持ってかれてしまうため、相手の使用ソードスキルの見極めが非常に見極めが重要である。また、コンビで戦う場合には、見極めを間違えた際にフォロー役が敵のスキル使用後の硬直を狙ってノックバックを取る、という連携が求められる。

 

 レベル28の直剣使いであるキリトこと俺は、隣で剣を構えるレベル27の細剣使いのアスナに一瞬目を配り、臨戦態勢を取っていることを確認すると、十層小型Mobである《オロチ・ザ・フットソルジャー》に向けて思い切りダッシュした。手に持つ直剣を煌めかせ、ソードスキルを発動させず、横薙ぎで一閃。それに気づいた敵が、手に持つ刀で俺の一振りをガードする。直後に敵の刀が赤く輝き、ソードスキルが発動する。それを真上から刀を振り下ろす刀系単発ソードスキル《断雲》だと読んだ俺は、即座に剣を下から振り上げ、キャンセルを狙おうとする。だが。

 

「スイッチ!!」

 

 《断雲》にしては、わずかに刀の振り下ろし速度が遅い。発動したのは、一層ボス戦でも見切りを失敗した《幻月》だった。それに寸前で気づいた俺は、ダメージ覚悟で相棒に向けて叫んだ。ソードスキルを受けてしまうのは確定しているが、その後に即座にノックバックを取らなければ、追撃をもらいかねない。しかし、常ならば相棒が割って入るタイミングになっても、未だに赤い影の姿は見えない。

 敵の刀が下から迫り、攻撃を受ける。HPバーが減り、体の一部が赤いテクスチャで覆われる。幻月の技後硬直は短く、再び敵の刀が光り始める。急いで態勢をガードに切り替えたところで、横から細剣による刺突が敵を穿った。

 

「・・・ごめんなさい。」

 

 アスナ自身も、スイッチのタイミングが一拍遅れたことに気づいているのだろう。であれば、俺から何かを言う必要もない。気にしなくていいと目で伝え、即座にノックバックした敵に向けて、《レイジスパイク》による一突きを放つ。敵Mobが青白いポリゴンに変わった。

 

 この十層フィールド《夜藤の河原》は、文字通り藤の花が至る所に生えており、夜になれば柔らかな月の光に照らされた草原が旅人を迎え入れる。一息ついた俺は、絶景を眺めながら、暫定パートナーであるアスナに話しかけた。

 

「・・・アスナ、今日はここまでにしよう。そろそろ街に戻って、一度休息した方がいい。」

 

そう呼びかけるが、彼女は目線を合わせず、横に首を振った。

 

「大丈夫。次はタイミングを逃さないわ」

 

 だが、俺はそれが強がりであることを知っている。彼女の不調、もっと言えば、俺たちが揃って不調である以上、無理は禁物だった。

 

「ダメだ。調子の悪い時に無理をするより、日を改めて狩った方が効率がいい。俺もまだ1割くらいの確率で敵のスキルの読み間違えをするしな。一回戻って、敵のソードスキルの整理をしないか」

 

 そう俺が諭すと、アスナは一度目を瞑った後、こくりと頷いた。

 俺たちは、常より半歩分多く距離を空けて、黙祷をするかのように、粛々と歩き出した。

 降り注ぐ月の光。未紫(うらむらさき)の藤の海。

 

 その藤花が、一瞬、オニキスの瞳を持つダークエルフの騎士の姿と重なった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日、どこに泊まろうか」

 

 俺たちに再び会話が生まれたのは、城下町に戻ってからのことだった。十層の拠点である「千蛇城下町」に攻略組が到達したのは三日前。ただ、その後、俺たち二人はひたすらフィールドで狩りをして、寝る時もインスタンスマップの安全地帯で寝袋を使っていたので、この街で宿泊をするのは初めてとなる。ここは、現実世界では京都にあるような和風の日本家屋が並び立っており、ベータ時代でも非常に評判が良い拠点の一つだった。

 

「とにかくお風呂があるところ・・・って言っても、どこでもありそうね。人がいない静かなところってあるのかしら」

 

 いつもより二十%ほど感情のないアスナの言葉に、なるほど、と頷き、頭の中でかつての記憶を頼りに検索をかける。この辺の宿は日本を参考にしてるだけあって、浴衣っぽいルームウェアがあったはずなのだ。だが、隣にいるパートナーは、それを他人に見られたくはないだろう。俺もそう思う。

 

「大路に面してる宿は、部屋数もあってサービスも良かったはずなんだが、多分その辺はALSとDKBが占拠するだろうし・・・。そうなると、こっちの方かなぁ」

 

 と言いつつ、大路の脇道へとアスナを誘導する。特に今日に関しては、できれば彼女が喜びそうな宿に連れて行ってあげたい。

 

「ベータ時代でも十層で宿に泊まったことはなかったんだけど、見ての通りこんな場所だから最後の方は街だけでも見たいっていう観光客も多くて、みんな宿に対して批評してたんだよなぁ」

「まあ確かに、見た目は完全に観光地だものね。嵐山とか祇園四条あたりを参考にしてるような気がするわ」

 

 そんな彼女の言葉に、アスナさん京都住みなんです?と思わず聞きたくなったが、マナー違反なのですぐにその疑問を自分の内に沈めた。

 

 

 

 

 

 そうしてやってきたのは、小さめな旅館が立ち並ぶ小路だった。路面には石畳が敷き詰められ、道の両側には町屋が並んでおり、橙色の街灯が夜道を照らし出す。

「わぁ・・・」

 隣でアスナが息を呑んだ音が聞こえた。テンションが上がった隣の相棒を見て、四ヶ月前この辺を探索していた自分を内心で思わず褒めた。

「石塀小路みたいね」

 石塀小路がなんだか俺はわからなかったため、代わりにベータ時代の話をした。

「この辺も、ベータの時は観光客で賑わってたんだけどな、宿自体は大路のところより高くて、 最前線で攻略してた連中以外は中々泊まれなかったみたいなんだ」

「・・・あなたは泊まったの?」

「まさか。攻略漬けだったよ」

アスナは軽く笑って「でしょうね」と答えた。

 

「まぁ、だから、俺も入ったことはないんだけど、この辺は多分穴場なはずだ。実際どんなもんかは、出たとこ勝負なんだけどな」

「ううん。素敵なところだわ。連れてきてくれてありがとう。キリト君」

 

 彼女はこちらを振り返りながら、まっすぐに感謝を伝えてくれた。アスナが偶に投げるストレートな感情のボールをどう受け取っていいか、いまだに分からない時があるが、とにもかくにも少し気恥ずかしかったので、それを隠しながらやや大袈裟に返答する。

 

「いえいえ、我がパートナー様のためならどこへでも連れてきますよ」

「・・・それは、今日の宿は奢りってことでいいのかしら?」

「あ、いや、それはちょっと、懐の問題的なものがなくもなかったりですね・・・」

 と、やや情けない声を出してしまうと。

「冗談よ。さ、宿探しましょ」

 彼女はくすくすと笑いながらあっさりそう言って、小路を先導し始めた。結局やり込められてしまうのは毎回俺なんだよなぁと思わなくもなかったが、少しだけ元気が出た彼女を見て、ほっとするような、安心するような気色が俺の心を占めた。

 

 

 

 

 俺たちが選んだ宿は、前庭に馬酔木の花が咲いている宿だった。宿の名はそのまま『馬酔木旅籠』。この小路の中でも特に奥まったところにあり、一見さんではたどり着くことすら中々に難しいと思われる。家屋は日本料亭のような風情のある見た目をしており、未だ中学生である俺にとっては昔行った家族旅行以来の旅館ということもあって、僅かばかり興奮を覚えていた。

 とはいえ、旅館というシステム上の問題もあり、ツーベットルームの部屋、と言うのが存在していなかった。六層以降、基本的に同じ部屋に泊まるようにしている俺とアスナだが、緊急の事態を除き、基本的に寝室だけは分けるようにしている。ただ、それも今まで欧米のホテルを模した宿に泊まっていたため出来ていたことであり、今回その手段は使えない。部屋を分けるか隣にいるアスナに尋ねたところ、

「一緒でいいわ。どうせ布団敷くのだし、最悪襖で部屋を分ければいいわよ」

 という、ややあっさり目の返答を貰ったので、部屋を襖で分けられるやや大きめの部屋を一部屋、借りることにしたのだった。

 

 浴衣を着たNPCの女将さんに案内された部屋は、これまた和風感が満載であり、幽玄さが垣間見える部屋だった。思わず「おぉ」という声が漏れる。部屋は一階だったのだが、十五畳はあるかと思われる畳のスペースの他、水墨画が掛軸に飾ってあったり、旅館にありがちな座卓が置いてある。日本茶もタダで入れていいそうだ。

 

 そんな風に部屋の査定を脳内で行なっていると、

「・・・わぁ」

 と、アスナが感嘆のため息をついた音が聞こえた。何かと思って庭の方に目を向けると・・・

「豪勢だなぁ」

 俺も思わず呟く。これまた馬酔木が咲いている日本庭園を模した庭のど真ん中に、湯煙が漂っている。ご丁寧にちゃんと檜風呂のようだ。

 

「ここ、部屋ごとに露天風呂ついてるのか」

「アインクラッドでこんなちゃんとした旅館があるとは思わなかったわ」

「確かに。今までホテル形式だったしな」

 どうやらアスナも、表情を見る限り疲れ果てつつも満足そうである。ここしばらく野営地で寝袋暮らしだったため、ようやく一息つけることに俺も少しばかり安堵した。

 

 結局、俺の方は部屋が気になって色々探索してしまい、使わないトイレが用意されていたりとか、押し入れの奥に宝箱を発見したりと、それなりの発見をした。女将さんからは、「武家地の方にも、妹が同じ名前で旅館を経営しているので、よかったら寄ってやって下さい」と言われたので、武家地の方で宿泊する機会があれば、絶対そこ泊まろうと密かに決意する。その後座卓に並んでようやく腰を落ち着けると、部屋の暖かさからか、すぐにぼんやりとした眠気を感じた。

「とにかく、今日はゆっくり寝よう。ここしばらく狩りをしっぱなしだったから、ちょっと体と脳を休ませないとな」

 そう言って、押し入れから枕と毛布を取り出す。返答がないなと思ってアスナの方を見ると、既にダウン寸前だったようで。

「・・・ぅん」という小さい返答の後、すぐに浅い呼吸の音が聞こえてきた。

 

(風邪引くぞ・・・SAOじゃ引かないか)

 

 そう思いながら、アスナの体に毛布をかける。それだけではどうにも据わりが悪そうだったので、「ちょっと失礼・・・」と呟き、彼女の背中を少しだけ持ち上げ、頭に枕を敷いた。

 

(・・・そうだよな。疲れたよな。)

 

 少しばかり眉尻を下げつつ、相棒であるアスナの顔を見ていた。今日の寝顔が、昨日や一昨日に比べ、幾分か和らいでいることに安心する。四日前の大きな喪失と、生気のない彼女の表情を見て、俺は彼女の心のケアに腐心しようと決めた。俺がどの程度アスナの支えになれているかはさっぱり分からない。けれど、それでも。今は誰かが側にいるべきで、その役割は今は俺しかできないと思ったからこそ、彼女の隣に立ち続けてきたのだ。自惚れかもしれないが。

 少し前、七層あたりでアルゴはアスナのことを<プログレッサー>と評した。日本語の意味は「前進する人」だろうか。ゲームクリアを進むべき方向だとすれば、確かにアスナはそこに向かって一直線に進んでいる。そして、あまりに一直線すぎる。

 

(少し頑張りすぎだよ、アスナ)

 

 そんなことを考えていると、俺の方も本格的に眠気が襲ってきた。アスナに必死こいて着いていった俺もだいぶ頑張りすぎてたなぁと思い、栗色の髪の毛をぼんやり眺めながら、今はただ本能に身を委ねることにした。

 

 

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