プログレッシブのノリで攻略するアインクラッド第十層 (旧題:2023-01 アインクラッド第十層にて) 作:ki-sou777
ボス戦の二時間後。まだ午前と午後の境目の時間あたり。パーティ一行は現在、禁足地と呼ばれる森林地帯を歩いていた。
「なんか白神山地っぽいわね」
「それって、あの青森のやつ?」
すっかり調子が戻ったアスナと、いつも通りの会話をする。
ボス戦後、アスナを連れてクラインたちの元に戻り、再度作戦会議を開いた。クラインによって藤の花の効果が実証されたことで、ボス戦にクラインも同行することが決定。そのため、この十層は風林火山と行動を最後まで共にすることが半ば確定した。一方、俺の方は源蔵の部下相手になんとか逃げ切って帰ってきたので、このままやすやすと武家地の方に戻れないのではという懸念を話す。すると、草之助の方から、元々話に上がっていた禁足地に向かい、白蛇様の真実を確かめないか、と提案を受けたため、それを採用することとなった。幸い、禁足地はフィールドボス戦が行われた関所の裏手側の山に近かったため、休息を挟むことなくそのまま向かうことにし、今に至るという状況だ。
ちなみに、アルゴによれば、ALSとDKBはそのまま千蛇城にアタックをかけるらしい。だが、ベータ時代ではあるが、恐ろしく広い城だった。攻略には少なく見積もっても三日程度はかかるのではないかと考えている。
山道をまっすぐ歩いていく。決して重苦しい雰囲気ではないが、警戒は最大限だった。ここ禁足地には、今までいなかった《クチナ・エリートアサシン》というヘビ忍者ーーー俺もベータ時に大変苦労させられたーーーのモンスターがおり、確率で《隠蔽》を使いながら接近してくるという非常に厄介なモンスターだ。索敵スキルを最大限広げているが、ポップするMobの隠蔽の数値はランダムらしく、十体に二体程度は俺の索敵をすり抜けてくる。クラインの聞き耳とセットで警戒をしているため、奇襲が致命になることはないが、それでも気が休まらない道程だ。幸いなことに、攻撃力自体はそこまでないというのと、俺とアスナに関してはレベル差である程度ゴリ押しが効いたので、多少の攻撃をもらいつつも強引に敵を撃破していった。
「さて、そろそろだと思います」
草之助がそう俺たちに警告をした。俺たちもダンジョンの最奥に来た雰囲気を感じ取る。今俺たちがいるエリアは、山奥でありながら、多くの藤の花が山のように咲いているような場所だった。藤が白蛇の力だとしたら、事態の元凶はもう近いのだろう。改めてみんなに状況確認を取る。
「・・・まず、基本路線は、洪水を起こさないように説得すること。そして次に、仮に戦闘になりそうな場合は、即座に全員退避すること。過去の神話が本当なら、白蛇様は単独で洪水を起こす相手だ。もしかしたらフルレイド必要な相手かもしれない。だから、不味くなったらすぐ引き返そう」
その言葉に、全員が頷き、そして白蛇様がいると思われる藤の花の山に覆われた洞窟に突入した。あたりは暗く、隠蔽と聞き耳を最大限発揮する。だが、しばらく経っても、モンスターの現れる気配はなかった。
そうして、メンバー全員でまっすぐ洞窟の最奥を目指す。その時、俺の視界に、何か白い巨体が一瞬目に入った。即座に手を上げて全員に警戒をさせる。そして、岩の影からゆっくりと頭だけ出し、その巨体全体を視界に入れたーーー
「・・・な」
その時の俺の脳内は、驚愕一色だった。確かに、白蛇様は居た。居たのだ。岩山の隙間から差し込む陽の光に当てられ、その白い鱗は輝いている。家すら大きく超える全長100mはあるかもしれない巨体、厚い鱗、その容貌から見て、こいつが白蛇様で間違いない。
問題は、その体に、百を超える刀が刺さっていたことだった。至るところから液体が流れ出た跡がある。その血液は、もう既にすっかり固まってしまっていた。それもそうだろう。こんなもの本当に流れていたら、それはもうR-18間違いなしだ。結果的に、その場に居たのは、否、その場にあったのは、死んだ白蛇様のオブジェクトであったということだ。だが、たとえそれがデータによる唯のオブジェクトだとしても、俺は畏怖を感じざるを得なかった。
俺がその場から動かないのを心配したのか、他の面々も奥から出てきて、そして同じように表情を驚愕に染めた。
「・・・白蛇、様」
お初さんと草之助さんに関しては、その場で立ったまましばらく動かなくなってしまった。それも当然だろう。彼らにとっては生まれた時からずっと信仰してきた神様だったのだから。いかに白蛇様を討伐する決意でこの場にいようと、この光景を見て驚くなという方が無理がある。
俺たちの間で時が止まったかのようなその時、お初さんの袖に隠れていた白蛇が、亡骸に擦り寄って、頭を優しく擦り付けた。それはまるで、子供が親に甘えを求めるような、弱々しい仕草だった。
「あ・・・」
それに気づいたお初さんは、優しく小さな白蛇を撫でた。白蛇はこの神様の本当の子供なのか、あるいは同族なだけなのか、その本当のところはわからない。だが、悲しんでいることだけは、確かに全員に伝わった。俺たちは、誰もその場から動くことはなく、その光景を見つめていた。
「・・・お初さん、草之助さん」
俺は、暫く立ってから、二人に声をかけた。本当は一度休息を取るべきなのだろうが、今後の動き方を確認せねばならない。
「・・・キリトさん」
「その、一度、状況を確認しよう。このたくさんの刀、大名たちがやった、ってことでいいのかな」
「・・・恐らく、そうだと思います。この千蛇平原で、白蛇様に恨みを持っているものは大名しかおりませんので」
草之助はそう言った。洪水を起こすと言われていた白蛇様がこうなってしまってるということは、状況的には非常にわかりやすい。攻略集団的には、フロアボスである大名たちを倒せばいいだけだからだ。だがこの十層にいる人々にとっては、そうではない。だから、俺はその事実を素直に喜べなくなっていた。
「なんだこの刀?」
その時、クラインから声が上がった。声の出どころは、白蛇様の尾の方からだった。そちらの方に移動してみると、尾に一本刀が刺さっている。だが、その刀は、他の刀と異なり、錆びておらず、白銀の煌めきを放っていた。
「・・・クライン、プロパティ確認できないか」
「え?・・・マジか、こいつやべぇ刀じゃねえか!!」
と、思わず絶叫しているクライン。プロパティを横から覗き込む。
「どれどれ。強化限界・・・+20。+20!?」
その刀の名称は、《名刀モミジ》。それは、後の75層でのクラインの主武装、《名刀カラクレナイ》の二段階ほど前身となる刀だった。クラインはそれを引き抜く。掲げられた剣が、陽の光に反射し輝いた。なるほど八岐大蛇の尾からは天叢雲剣が出てきてたなと現実世界の神話と照合する。
「・・・これ、俺が使っていいのか?」
クラインは俺とお初さんの方を見て言った。
「いいんじゃないか。このクエに最初に辿り着いたの、クラインだろ」
「私も、いいと思います。この刀は、大名を倒す者に与えられるべきだと思いますので・・・」
また、同じく刀を見た草之助は驚いており、なんでも十層における伝説の刀の一つで、悪を断つ剣として知られているらしい。そんな諸々を聞いたクラインは、「じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ。どうあれ、白蛇様の無念は晴らさねぇとな」と笑って言った。その言葉で、この場の全員の意思統一が、図らずとも行われていった。
しかし、今回の十層のフロアボスは恐るべき存在だ。これほど大きな体を持つ白蛇様ですら倒されてしまっているのだから。まさか実際に大名が倒しにきた訳ではあるまい、と理性では思いつつも、アインクラッドのことだ。ゲーム開始前に本当にそんなやりとりがなされていてもおかしくはない。
一方、この後の動きも考えなくてはならない。白蛇様の現状を見て確認する、という方針だったが、さすがにこの結末は予想外が過ぎた。主に大社の人たちになんて説明すべきかは俺も決められないため、一つテーマに挙げる。
「・・・今後のことだけど、どうする?」
「・・・父には、正直に言いましょう。今回のことを踏まえて、今後の大社の在り方を考え直さねばなりません」
そう言ったのは草之助だった。そして、お初さんも口を開く。
「私は、白蛇様の真実を、皆に伝えるべきだと思います。そのためにも、まずは父と話をしないと」
二人はそれぞれの考えで、今回の一件の決着の付け方を考えている。ひとまず俺も安心だと思っていると、草之助がこちらを向いて言った。
「クラインさん、キリトさん、皆さん。ここまで、本当にありがとうございました。ここを出た後は、みなさんは城まで向かって頂いて大丈夫です。正直、巻き込みすぎたと思っているのですが、ここから先は、ひたすら身内で話し合うだけですので・・・」
それは、草之助からしたら、一つのけじめであり謝罪であったのだろう。クエストログの方も、見れば全てクリアされており、これから先のクエストや報酬がないことも明らかだった。だが、それで降りられるほど、自分が薄情にはなりたくなかった。そう思って口を開こうとしたのだが、呆気なくクラインに先を越されてしまった。
「何言ってんだ!ここまで来たら最後まで付き合うぜぇ!なあお前ら!」
おぉ!という野武士たちの声が洞窟に響いた。なんだかんだ、最後まで気のいいやつらだなぁと思いながら、俺とアスナも同じように声を上げた。