プログレッシブのノリで攻略するアインクラッド第十層 (旧題:2023-01 アインクラッド第十層にて) 作:ki-sou777
結果的に、俺とアスナはフィールドボス攻略会議をサボることになった。なぜなら、深夜のミッションに向けて、無理矢理にでも仮眠をとった方がいいという判断を下したからだ。時刻は夜の三時。すっかり人通りのなくなった夜道を進み、大通りから武家地に、武家地から上社本宮へ向けて進んでいく。
現在、俺・アスナ・クライン・お初さんの四人は《白蛇大社》の書庫に向けてスニーキングミッションを実行中だ。アルゴとは一度別れ、攻略会議の方に出席してもらった。予定通り、今朝9時にはフィールドボスと再戦する流れらしい。
大社への道中、見張りが何人かいたが、こちらは風林火山のメンバーが、それぞれ物音を立てたり軽いトラブルを起こしたりして、目を盗んでくれた。こう言う時には、ギルドって強いなぁと思い知らされてしまう。俺とアスナの二人だけなら確実に《隠蔽》を使いながら匍匐前進するしか無い。
結果、無事に大社の中まで誰にも見つからず到着した。こちらの神社も、下社本宮に負けず劣らずの大きさだ。だが、夜の境内には誰もいないため、寂静とした雰囲気を漂わせている。
お初さんの話によれば、書庫は、大社の本殿から少し離れた宝物殿の、地下にあると言う。入るためには、一度社務所の方から鍵を取りに行かねばならないのだが、そこはお初さんの勝手知ったる庭だったため、割とあっさりと入手できた。
宝物殿に入る際にも、改めて周囲を見回し、人影もカーソルもないことを確認する。音を立てずに鍵を開けて、地下に入る。そこは、地下特有のひんやりとした空気に、紙の匂いが混じり合っている空間だった。見れば、蔵書は中々の数があり、ここから目的の物を探し出そうとすると、それなりに時間がかかるだろうことは予測できた。宝物庫の地下からここまで、他に道はないので、万が一誰か入ってきた場合は、隠れるか強引に倒すしかない。と思っていると、俺と同じようにあたりを確認しているアスナがお初さんに質問をした。
「・・・お初さん、ここって人がよく出入りするの?」
「私も入ったことはないのですが、父も兄もここに足を運ぶことは少ないはずです。知る限りでは、祭事前などに、文献の確認をする時に使ってるくらいで・・・そもそもここを使うことを許されているのは、父や兄含め、本当に一部の人たちだけなので」
「・・・もしかしたら急いだ方がいいかもね。この本の乱雑具合、最近誰かがよく使ってる様な気がするわ」
そう言われて、俺もあたりを見回した。確かに、本棚に収まりきってない本がその辺にほっぽり出されていたり、本棚にきちんと本を入れきっていなかったりと、使用した形跡が見れる。
「・・・わかりました。急ぎましょう。皆さん、協力お願いします」
そこから先は、ひたすら力技だった。探すべき本は、藤の蔦の使い方について書かれている文献、あるいは歴史書だ。できれば、この地方そのものの歴史について併せて書かれているとなお良い。
アインクラッドの本は、きちんとデザインされている物を除き、基本的にパブリックドメインでできている。この十層においては、古今和歌集や万葉集と言った日本古来の文献が、そのままコピーされていた。俺やアスナ、クラインは現実世界出身なので、そうしたものを避けていけばいいだけなのだが、お初さんはこの辺どう捉えているのだろうか。アインクラッドのAI的はこの程度でロジックエラーは起こさないということは分かっているので、俺の中の好奇心からお初さんに尋ねてみることにした。
「・・・ここ、なんでこんな和歌が多いんだ?」
「昔から、ここの人たちの娯楽の一つなんです。もっとも、大地切断の際に天空に切り離されてから永いですから、その間に言語や文字も変わってしまって、蔵書の大半は今となってはほとんど読めなくなってしまったんですけどね」
お初さんは淀みなく答えた。やはり和風世界だけあって、そうしたものにも理解があるらしい。街中の人に和歌を歌ってもらうお願いとか聞いてもらえるんだろうか。あんまりやる気はないけど、などと、本筋とは離れた思考を勝手に働かせていると、クラインの方から声が上がった。
「お、これじゃねぇか?」
そう言って、クラインはお初さんに本を渡した。本、と言うより、巻物と言った方が正しいだろう。お初さんはそれを広げて目を通す。俺とアスナも気になって逆側から頭をくっつけるようにして眺めてみる。内容は日本語で書かれているため、俺たちも普通に読むことができた。
「・・・確かにこれですね」
それは、確かに《千蛇平原》の歴史書だった。
多少古文チックな文言だったため、そこを頭の中で変換していく。大まかな話の流れは、以下のように記載されていた。
千古の昔より、《千蛇平原》は、洪水が多い土地だった。蛇を川として見立てており、白蛇信仰もその頃から存在していた。ある時、他所からやってきた侍が国を納めるようになるが、侍は白蛇信仰を否定することはなかった。侍は大名へと立場を変え、民のことを考える、良き統治者であったという。そんな大名は、度重なる洪水に頭を悩ませた結果、人々に協力を求め、大規模な治水工事を行ない、川の形を変えてしまった。
結果的に、安定して米が取れるようになったが、白蛇様は水神であり川の象徴。自身の体の形を変えられたことに怒りを覚えたらしい。治水工事を推進した大名を、モンスターに変えて、永遠に働く自分の配下にしようとした。大名と配下の将軍はそれに争ったが、白蛇様はその身を藤の蔦へと変えた。刀に向けて、藤の蔦を掲げれば、たちどころに持っている鉄製の武具が腐り出したと言う。武具がなくなった大名たちは、それでもなお抗う。三日三晩に渡る激戦の結果、大名は白蛇様の体の一部を引きちぎり、強引に自分の力にした。その後、大名は城に籠り、今日に至るまで、白蛇様の力をずっと抑えてきたと言う。大名がいなくなれば、力を取り戻した白蛇様が、再び洪水を起こし、川の形を変えてしまうだろう。
「・・・な」
「これは・・・」
本日何度目の驚愕だろうか。お初さんも明らかに驚愕し、そして憔悴している様にも見える。文献には、明らかに、知られている歴史とは異なる事実が書かれていた。というか、これが真実だとしたら、状況は全くの逆だ。今この地で信仰されている白蛇様こそが、全ての元凶であり、大名を倒してしまうと、この地が洪水によって沈んでしまう可能性が浮上してくる。頭の中を様々な可能性がスパークのように駆け巡るが、それをかき消したのはアスナの言葉だった。
「・・・とりあえず、一度ここを出ましょう。長居はしない方がいいわ」
その言葉に三人揃って頷いて、宝物庫を出た、その時。
ヒュっと風を切る音を立てて、刺股が風を切る音が聞こえた。俺たちは、宝物庫の扉の前で、刺股を持った十人以上の男たちに、囲まれてしまっていた。
「・・・マジか」
と呟く俺。
「すまん。聞き耳でもわからんかったぜ」
とクライン。無理もない。地下に入って来られたらともかく、地上の足音まで聞けるようになるためには、まだ熟練度も足りないだろう。アスナは、油断なくあたりを見回している。いつでもやれる、というアイコンタクを送ってきていた。逃げようにも、後ろには宝物庫しかないため、既に状況は袋小路。だが、ここは圏内だ。いきなり俺たちのHPバーが0になることはない。
「こんな夜更けにコソ泥とは、勘弁してほしいものだな」
その場の空気ごと平伏させるかのような、男性の声が境内に響く。刺股を持つ男たちをかき分けて現れたのは、和風装束に身を包んだ、厳格なそうな壮年男性だった。彼は、俺とアスナとクラインを一瞥した後、お初さんに目をやった。
「・・・初か」
「・・・父様」
なるほど、この人がお初さんの父親である「源蔵」さんか。厳格だとは聞いていたが、その表現に相違はなかった。ヨフィリス子爵の時も感じた様な、確かな圧を感じる。
「泥棒は全員牢に入れろ。初、お前はこっちにこい」
「・・・嫌です父様。蔵書に書かれていることは真実なのですか?!これは一体どういうことなのですか!」
「黙れ。お前は知らなくて良いことだ。」
そう一瞥すると、彼は衛兵に合図を送り、あっという間に俺らの武装を解除されてしまった。
「・・・キリの字、これ、まずいんじゃねぇか」
「多分、すぐにどうこう、って言うのはないはずだ。ここは圏内だしな。アスナも、ここは一度流れに身を任せよう」
そういうと、アスナは素直に頷いて、力を入れていた体を解いた。尚、俺とアスナが牢に入れられるのは七層に続き二回目であるため、この程度のことではそこまで動じなくなってしまった。なんと悲しい経験値だろう。どちらかと言えば、心配なのは俺たちではなく、お初さんだった。彼女が源蔵に手首を掴まれ、そのまま神社の奥の方に連れて行かれてしまうのを俺たちは黙って見てることしかできなかった。未だパーティ解除はされていないため彼女の満タンのHPは確認できるが、あの厳格な父に何を言われるかと思うと、少しばかり気が暗くなった。
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牢の扉が閉まる音は、静かに響くことを知っている。何故なら、七層で一度聞いたことがあるからだ。俺たちが閉じ込められた牢屋は、《白蛇大社》ではなく、そこから少し歩いた武家地にある牢屋だった。おそらく、昔から悪人を閉じ込めるために使ってきたのだろう。牢屋は木製で、七層同様、格子を松明で炭化させる手が使える。つまり、いつでも脱出できることを意味していた。フロアマップを見る限り、奪われた武器の保管庫は割と近いため、武器の回収もそこまで問題はない。風林火山のメンバーにも、クラインから捕まったことを報告してもらっていた。
「なんか・・・お前ら落ち着いてんな」
クラインが俺たちを訝しんだ。
「まあな。俺たち、これで牢屋に入るの2回目だし」
「武勇伝みたいに言わないでよ」
と突っ込むアスナ。まあ、不名誉な事実であるのは変わりないわけだが。
「まあまあ、現実じゃ入る機会ないんだし、こっちで思いっきり入っとこうぜ」
「嫌に決まってるでしょ!」
アスナには思い切り否定される。だが、常ならば一緒に飛んでくる右ストレートは届かない。何故なら、アスナとは実は入っている牢が異なっているためだ。すぐ隣の牢なのだが、格子が一枚挟まった隣の牢だった。手首程度の大きさなら格子より小さく、触れ合えはするのだが、クライン含めて最悪ここで寝泊まりすることを考えると、牢が分かれている方が好都合だろう。
チラリとあたりを見回し、俺たち以外に閉じ込められている人がいないことを確認した後、俺は口を開いた。
「さて、じゃあ動く前に、もっかい話の整理をしよう」
アスナもクラインも、その言葉に頷く。
「しっかしよぉ、まさか白蛇様が全ての元凶だとぁなぁ」
と言うクライン。そう、先ほどの文献の話が事実なら、一つ厄介な問題が浮上してくる。
「フロアボス・・・大名が白蛇様の力を抑えてて、白蛇様を倒すと、この階層に洪水が起きるかもしれない、ってところよね・・・」
「そうだな・・・。『白蛇様を放っておいたまま大名を倒す』っていう条件だな。」
「でも逆に、源蔵さんの方の意志は大分見えやすくなったわ」
と、アスナは言った。
「というと?」
「だって、ALSとDKBに禁足地にいるモンスターを倒せ、って言ってたってことは、白蛇様を倒させようとした・・・ってことでしょ?それって、この地に洪水を引き起こす元凶を倒させようとしてたってことだと思うから、多分、源蔵さん自身もこの地に住む人のことを考えてるんだと思うわ」
「なるほどなぁ。なら、ひとまずあのイカついおっさんも、敵じゃねぇって言っていいのか?」
関心したように言うクラインにアスナが返答する。
「敵か味方か、で言うとわからないです。ただ、あくまでこの地域の人を第一優先に考えている人、という捉え方ができるというだけの話で・・・。源蔵さんの案の通り、白蛇様を倒しに行った後で、大名を倒しに行く分には、そんなに問題ないんじゃないかしら・・・。まあ、この十層、千蛇平原の人たちにとってみれば大名は白蛇様を抑えている英雄と言ってもいいわけだから、反感を買う可能性はあるかもしれませんが・・・。ただ、リンドさんとキバオウさんに、「大名の弱点を教える」って言い方で禁足地の情報を出しているのだから、今のところそこに表立って反対をしているようには見えないんですよね」
と、アスナがそこまで一息で言って、状況整理を進めた。
「まぁ俺たち攻略集団的には、白蛇様も倒して、フロアボスの大名も倒せばいい、ってことだから、状況としては分かりやすいな。問題は・・・」
言葉を引き継いだのはクラインだった。
「お初さんに聞かねぇとなぁ。俺ぁお初さんが心配でよぅ」
「・・・あの親父さん、めっちゃ怖そうだったからな」
「俺だったら拳骨振るわれてそうだぜ・・・」
「同意。ただ、今もHPバーが減っている様子はないし、安全上の問題はないはずだ。ここは圏内だし。問題は、白蛇様を倒してしまっていいのかってことだよな」
「・・・ここの人たちの神様だろ?そんな奴倒しに行くのは、俺はどうにもこう、心が痛むというか、そもそも倒せんのかってこともあるだろうし・・・。お初さんだってそのことを知らないような感じだったじゃねえか。今まで信じてた神様が急に悪い奴、なんて言われても、そう簡単に受け入れられねぇと思うんだよな。」
と心配するクライン。が、その重みは俺も感じている。なんせ、この土地に深く根付いている神様だ。果たして旅人である俺たちが、勝手に倒しに行っていいのかどうか、判断しかねる。また、神と名がつくくらいだから、破茶滅茶に強い可能性だって否定できない。RPGでは敗北しなければ先に進めないイベントなどはよくあるが、運悪く死亡前提のイベントに突っ込んで、そのままHP全損しました、と言うのは洒落になっていない。まあ最も、茅場晶彦がその手のクエストをヒントなく出すことも、恐らくないのだろうが。
「いっそのこと、白蛇様に交渉とか出来ねぇか?神様なんだろ?洪水起こさないで下さいってお願いできたりしねぇかな」
と言うクライン。その案は、俺も頭の中にちょっとあったので、荒唐無稽というわけでもない。
「・・・うーん。仮にモンスターだとしたら、話せる確率は限りなく低いだろうけど、可能性として全く無いわけではない、かなぁ。NPCがその場でモンスターに変化する、くらいはこのゲーム普通にありそうだし・・・」
そう言いながら、俺は今まで敵対したエルフたちを思い浮かべていた。が、こればっかりは直接会いに行く必要があるため、今のところ結論が出る話ではない。
「そういえば」
と言葉を切ったのは今度はアスナだった。
「クラインさん、藤の蔦の使い方、プロパティウィンドウで何か変化がありました?」
「「あっ」」
その指摘に、俺とクラインは同時に声を上げた。そういえば、藤の蔦についても、文献に記載があったはずだ。というか、最初はそれが目的で書庫の蔵書を確認しようという話で、俺もクラインも大急ぎでウィンドウを開いた。クラインは、藤の蔦のプロパティを。俺は、今のクエスト状況のプロパティを確認するために。
「クエストの方は、『武家屋敷に行き、蔵書を確認せよ』のクエはクリアされてるな。新しく出たのは・・・『真実を見極めよ』。それ以外は何も書いてない」
と、一旦情報を声に出して共有する。一方、クラインも確認を終えたのか、プロパティの内容を口にした。
「《左巻きの藤の蔦》の方なんだが、一応、更新があったぜ。『白蛇に認められた者であれば、藤の蔦は神力を正しく発揮するであろう』ってな。肝心の使い方は結局書いてねぇじゃねぇか」
言いながら、クラインはため息をついて言った。
「何だよこのクエストはよぉ。茅場の野郎はそんなに俺らに頭使わせてぇのか」
そうぼやくクラインの気持ちもわからないではないが、個人的に言わせてもらえれば、エルフクエストよりはマシ、という印象だ。あっちは複数の階層に謎が跨る上に、エルフの歴史、PK集団まで考えなければいけなかった分、脳の負担が大きかった。ただ、今回のクエストもそうだが、今まで俺が遊んできたゲームよりは、よほど頭を使わせる要素が大きいと感じる。それは、クエストに仕掛けられた謎だけではなく、階層ごとに生きているNPCたちの交流や人間性をきちんと考える必要があるからだ。逆にいえば、そうした要素をきちんと拾い上げていけば、全く解けないクエスト、というのは現状存在していない。
だが、果たしてSAOは、茅場は、どうやってクエストを「クエスト」たらしめているのだろうか。もし本当に、このSAOにいるNPCたちが、ベータテストを通じてプレイヤーのリアルな感情を学習したとして。到底信じ難くもあるが、人と変わらぬ感情をAIが学習したとすれば。逆に、プレイヤーが全く解けないようなクエストも出てくるのではないのだろうか。例えば、殺人事件が起きて、クエストが『真犯人を突き止めろ』という内容だとして、真犯人は自殺しており、
証拠もなく、真犯人の姿形さえ覚えていない、というような。だが、今までのSAOでは、あるいは俺の考える茅場晶彦像では、そういうクエストは作っていないはずだ。何故なら、それはフェアではないから。そう。クエストを「フェア」であるように作るためには、相当な制約が必要なはずなのだ。あるいは、フェアである謎だけを、自動でクエストに認定する機能でもあるのだろうか?だが、NPCに感情がある状況で、状況が流動的に動いていくクエストのフェア性を担保するのは、相当に複雑なプログラムを使っているはずだ。あるいは、フェア性を担保する数値ーーー例えば、特定の地域に出てはいけない。特定のLv以上の数値になってはいけない、などーーーだけは最初から決められていて、その制約はNPCは破れないようにできている、ならばあり得るだろうか。だが、それは本当に破ることができないものなのか?もしAIが感情を学習しているのであれば。例えば、恋人を殺した憎い仇を撃つために、自らを鍛え上げ、指定されたLvを超えてしまう、というような自体にはならないのだろうか。もし、AIたちが、プログラムで規定された制約を、自力で解除してしまえるようであれば、それは、本物のーーーーーーーーーー
「・・・キリト君?」
「ひゃい?!」
隣の牢から飛んできたアスナの言葉によって、思考は中断された。あまりにも急だったためか、とんでもない奇声がセットで付いてきてしまった。
「・・・どうしたのよ。なんか頭がトんでいたように見えたのだけど」
心配されるくらい思考が他所に逸れていたようだ。話の途中だったはずで、思わず本題と関係なく動いた思考を謝罪した。
「ごめん。ちょっとラグってたみたいだ。えっと、今、新しい情報が二つ出てきたんだったよな。とりあえず解決できそうなところから考えようぜ」
そう言って、俺は我がパーティの頭脳担当のアスナ嬢に目を向けた。
「・・・クエストのこと考えてたんじゃなかったのね。ええと、まずは《左巻きの藤の蔦》についてかしら。こっちは、プロパティの情報以外に、蔵書で分かったことあったわよね?」
「文献の文章だな。『白蛇様はその身を藤の蔦へと変えた。刀に向けて、藤の蔦を掲げれば、たちどころに持っている鉄製の武具が腐り出したと言う。』ってやつ。」
「そうよ。一応、使い方が書いてある、と言えなくもないわ」
「本当に掲げるだけでいいのかぁ?」
と、実際に藤の蔦を出してみるクライン。そこに俺も一つ乗っかることにした。
「ちょっと試してみようぜ」
そう言って、実体化させたのは、店売りの安めの剣だった。そこに向けて、クラインが実際に《左向きの藤の蔦》を掲げてみる。だが、何も変化はない。
「やっぱダメか」
「こいつはどうだ?」
クラインも別の剣を実体化させて藤の蔦を掲げてみる。その後もしばらく、態勢を変えたり、代わりに俺が持ってみたり、色んな角度から検証してみるが、変化はない。気づいたら二人してストレージの中身をあっちゃこっちゃに実体化させまくった結果、牢屋の中が狭くなってしまった。散らばってるアイテムを収納しようとするも、見た目の似てる剣がどちらのものかで揉めたりする俺とクラインを、アスナは「何してるのこの人たち」という極めて冷ややかな目で見ていた。
「・・・いやでも検証は大事だし」
「ひとつ検証したらすぐストレージに戻しなさい!」
ごもっともですアスナ様。
一通り検証を終え、話を戻したのはクラインだった。
「まぁ、『白蛇に認められた者であれば、藤の蔦は神力を正しく発揮するであろう』ってあるからなぁ。白蛇に認められた者じゃないとダメなんじゃねぇか?誰だっつぅ話だがよ」
「あり得るとすれば、それこそお初さん、なのかもな。小さい白蛇に選ばれたと言えなくもないし」
クラインと話しながら考察を進める。そこに異を唱えたのはアスナだった。
「・・・私は、クラインさんは「白蛇に認められた者」の資格があると思うわ。もしかしたら、キリト君も」
「「え」」
そんなアスナの言葉に、思わず俺とクラインの声が重なった。
「ほら、今日の昼、ここに来るまでの道中で、お初さんと話した内容、覚えてる?」
「えーと、どれのことだっけ・・・」
アスナに言われ、記憶を引っ張り出そうとするが、今日も今日とていろんなことが起きていたので、咄嗟には出てこなかった。
「白蛇様は嘘を見抜く。心の清い人でないと、力を貸してくれない、ってやつよ」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたな」
そう言えば、確か、クラインが褒められてニヤけていたやつだったと思い出した。
「あの時、お初さんは『クラインさんの言葉に嘘を感じなかった』って言ってたでしょう?」
「あ、ああ。でもあれ、お初さんの感想だよな?」
と俺が言うと、アスナが若干言いにくそうにしながらも、口を開いた。
「・・・あれ、判断してるの、あの子の白蛇さんなのよ」
「「へ?」」
「だから、あの子の白蛇さん、私たちの言葉の真偽を見抜けるの」
「・・・マジで?」
「マジよ」
「どうやって・・・?」
「ごめん、そこまでは私も聞いてない」
「あ、いや、技術的にってことなんだけど・・・。ナーヴギアは一体何で判定してるんだ・・・?まさか、脳波とかなのか?確かに、脳に電気信号を送り込めるなら、読み取ることも不可能じゃないとは思うけど・・・」
かつて六層で、瞑想の修行中、ブーフルームに心の中を覗かれたのではないか、という疑念があったが、もしやあれはナーヴギアを通して擬似的に読心を行なっていたのではないか?と今更になって思う。
「技術的な話は、一旦後回しにしましょう。少なくとも、私は一度あの小さな白蛇さんに嘘、というか懸念を見破られたから、お初さんが適当なことを言ってる、ってことはないと思うわ」
「・・・ちなみに、アスナさん、いつそんなことを?」
「今朝のガールズトーク」
「・・・マジか」
いつの間に、と思うが、アスナはアスナで自分の知らないところから情報を仕入れてきたりする。やはりコミュ力が違うというのか。ゲームでもコミュ力が大事なのか。いやでもやっぱガールズトークこえぇよ、てかアスナが見破られた懸念って一体何なんだと思考があっちこっちに行きつつも、本題ではない話題は一度脇に置いておく。一方、クラインの方は俺よりもダメージが大きかったらしく、その場で四つん這いになってうずくまっていた。
「俺が飲み会でちょっと盛って話した内容とか、全部バレてるんじゃねぇだろうな・・・?」
「えっと、多分・・・」
と、大分情けない姿を晒しているクラインだったが、アスナからフォローが入った。
「ああその、このクエストを受けられた時点で、クラインさんは「白蛇様に認められた」ってことなんじゃないかって思ったんです。多分、クラインさんが本心からお初さんのことを心配したから、このクエストを受けられたんじゃないかって。」
「あれでも、クライン、確かこのクエスト受けるのDKBのレアアイテム目的だって言ってなかったか?」
「・・・いやぁその、困ってる女性を助けるため、だなんて素直に言えるかよぉ」
「マジか」
どうやら、あれは照れ隠しだったらしい。中々損な性格してるなと思いつつ、俺はクラインがNPCを素直に助けようとしてくれたことが、何故だか嬉しかった。一方、アスナの言葉に少し引っ掛かりを覚える。
「というかアスナ、『このクエストを受けられた』ってどういうことだ?なんか受けられない人もいるかのような言い方だけど・・・」
「ほら、キリト君、このクエストを受ける時、クエストマークの出るタイミング、ちょっとおかしくなかったかしら?」
「へ?」
アスナに言われ、クエスト受注当時のことを思い出す。昨日の昼頃だったはずだが、もう一週間は前のことのように感じた。だが、確かに、変な挙動をしていたような・・・。
「そう言えば、挨拶をして、一通り情報を確認してから【!】マークが浮かんだよな。あの時、確かに俺もタイミングがおかしいんじゃないかって思ったんだが・・・そうか!あれ、白蛇の判定が入ってたのか!」
俺の口から思わずエクスクラメーションマークが出てしまうほどの声量を出してしまった。気になっていたパズルが思わぬところでハマった気分で、妙に達成感があった。アスナに「静かにしなさい」と言うジェスチャーを向けられる。
「えっと、だから、そうだよ。アスナ的には、もしかしたら藤の蔦はもう使えるって思ってるってことだよな?」
「え、ええ。だから、さっきキリト君とクラインさんが試して何も起きなかったのは、資格を満たしていないからじゃなくて、単純に相手がいないからじゃないかしら。もしその蔦の効果がが刀の弱体化だとして、今後百層までずっと使える、と言うのはちょっと考えにくいじゃない?」
アスナに言われ、俺はゲーム的な思考を取り戻す。俺としたことが、なんでそれに気付かなかったのか。確かに、この《左巻きの藤の蔦》は、ゲームクリアまで半永久的に使えるのであれば、半ばチートもいいところなアイテムだ。それこそフェアではない。恐らくこの階層の敵、それこそフィールドボスやフロアボス限定のアイテムだと考える方がよほどSAOらしい。
「もしそれが本当なら、俺たちは既に大名の弱点を手に入れた、ってことになるのか」
「あの小さな白蛇が白蛇様だったら、だけどね。できれば検証はしておきたいわ。可能であれば、それこそ今朝のフィールドボス相手に一度試すくらいはしておきたい」
「フィールドボスに効くのか?」
と、クラインから質問が飛んだが、アスナはそれにテキパキと返答していく。
「おそらくですが、効くと考えてます。ここのフィールドボスは、《ザ・サムライジェネラル》って言うんですけど、日本語だと「将軍」ですから・・・」
そう言ったアスナの言葉にクラインも納得しながら返答した。
「そういえば、藤の蔦は大名と配下の将軍に効いたって書いてあったすね。確かにこれも効くかもしれねぇな・・・。でも、どっちにしろここを出ないと始まらねぇぜ・・・」
とクライン。だが、脱出に移る前に、もう一つ議題が残っている。
「今後のクエストについても話しておこうぜ」
忘れないうちに、と思い俺も急いで話に上げた。
「今私も見たけど、確かにこっちは『真実を見極めよ』としか書いてないわね」
と、アスナとクラインも自分のクエストログで記載内容を確かめていた。とはいえ、こっちは現状本物のノーヒントだ。だからこそ、思考を一つ前に進める。
「今分かってることを先に挙げった方がいいかもな」
「賛成」と、アスナから返答。クラインも頷き、情報を整理していく。
先ほど、俺たちが文献から手に入れた情報は、「白蛇様が洪水の元凶。大名が白蛇様の力を抑えていて、大名を倒すと白蛇様がまた洪水を起こす。」というものだった。
また、前提条件として、「フロアボスの大名は倒さなければならない。」というものもある。
となると、疑問の一つは、「白蛇様は本当に倒さなければいけない存在なのか」という点になるだろうか。白蛇様に関する疑問で言うと、もう一つ。「《左巻きの藤の蔦》の説明文に記載されている《白蛇に認められた者》の《白蛇》は、お初さんと一緒にいた小さい白蛇さんで良いのか。また、俺やクラインは認められた者の判定が降りるのか。」ということも検証しなければならない。
上記を整理して見えてくるのはーーー
「やっぱり、禁足地に行くべきなんだろうな・・・」
「そうね。残ってる疑問は、大名じゃなくて白蛇様に関する情報が多い気がするもの」
結局、残る疑問はその大半が「白蛇様」に関するものである以上、禁足地に赴いて、実態を確認しない以上何も結論が出ない。これが、「真実を見極めろ」と言うことなのだろうか。自信はあまりないが、残っている情報を整理していくと、自然と禁足地に収束していく気がした。
「なぁ、一個疑問なんだけどよぉ・・・」
そこに、クラインが追加で一つの疑問を呈した。
「なんで白蛇様が洪水起こす側なのに、大社の人たちは白蛇様を祀ってんだ?大名が白蛇様の力を抑えてるってことは、大名の方を祭神にでも何でもしとけばいいじゃねぇかよぅ」
それは尤もな疑問であるが、同時に、現実世界の事象を一つ当てはめてクラインに答えを返す。
「これは、あくまで俺の推測なんだが・・・。文献にも、元々白蛇様に対する信仰が大名が来る前からあったって言ってただろ?多分、水神として、洪水を起こすこともあったり、逆に水を恵む神様みたいに見られてたんじゃないかな」
「神様だったら、いい面だけ信仰するもんじゃねぇのか?キリスト教とかそんなイメージなんだが」
「うーん、あくまで現代日本の神様をベースにするとしたらなんだけど、日本の神様って大体いい面も悪い面もどっちも持ってるんだよな。荒魂と和魂、みたいな言い方するんだけど。さっきの文献にも、白蛇様って水神とは書かれてたけど、悪神とは書かれてなかっただろ?だから、多分白蛇様とこの土地の人たちは昔からうまく付き合ってたんじゃないかと思うんだよな。逆に、大名が来てパワーバランスが崩れた・・・この場合は治水工事だけど、それで水神への信仰の必要性が薄れたことに危機感を感じたこの白蛇大社の人たちが、大名を悪く書いた、みたいなことも言えるんじゃないかなーと」
「・・・詳しいなキリの字」
一息にしゃべると、クラインから関心した様な目を向けられた。だが、これは俺がこれまでの人生でどれだけゲームに費やしてきたかを表してもいるので、得意げになっておけばいいのかどうなのかわからず、アスナの時と同じ回答をしておいた。
「あぁいや、ゲームやってるとこういう知識ばっかりついてくからな・・・」
「とりあえずここまでの話を整理すると、大まかな方針は二つだな」
と、気を取り直しながら言った。
「一つは、藤の蔦が実際に使えるか確かめるために、今朝のフィールドボス戦には参加したい。無理だったらフロアボス戦でぶっつけ本番になる可能性がある。もう一つは、禁足地に赴いて、白蛇様がどういう存在かをこの目で見ること。できれば、お初さんと彼女の白蛇さんも一緒に来てもらうこと、が望ましいかな」
とりあえず、色々な情報を整理して行動方針を決定できたのは大きいと感じる。状況が流動的な中では、闇雲に動くべきではない、ということはここ三ヶ月のアインクラッド生活で学んでいるところだった。
「ALSとDKBの連中はついさっきここを出てフィールドボスを倒しに向かったらしいぞ。アルゴから連絡があった」
この時点で、時刻は午前七時を回っている。九時からフィールドボス攻略ということを考えると、俺たちもそろそろここを脱出しなければ追いつけなくなるだろう。ちなみに、リンドとキバオウは、お初さん捜索クエストが途中で消えてしまった(見つかってしまったため)から禁足地の情報が手に入らない、と嘆いていたそうだが、アルゴから「キリトとアスナが別口でフロアボスの情報を集めてもらってる。ボスの弱点がわかるかもしれないが、現状確証は持てない。分かり次第共有する」と伝えてもらっている。「またあいつらか・・・!!」と言われてそうだが、それは今回もスルーするしかない。
「問題点は、禁足地がどこだかわからないことね。」
アスナが俺の説明に補足をする。
「源蔵さんは知っているの間違いないんだと思うんだけどなぁ」
「流石に、今のままだと教えてくれないでしょうね・・・」
「となると、もう一回書庫に行く必要があるのか?それらしいものはなかった気がするんだが・・・」
そんな風に俺とアスナが会話をしているとーーー
「・・・おい、誰か来るぞ」
聞き耳スキルが発動したらしいクラインが割って入った。その言葉に、一度言葉を止める俺たち。しばらくして、確かに草履が石畳の上を歩いているかのような音がして、この薄暗い牢屋に誰かがやってきた。
「ーーー禁足地の場所を知りたいのかい?」
想像より数倍優しい声色を発したのは、男のNPCだった。身長180cmくらいはあるだろうか。髪は背中まで伸びており、長いからか簡単に紐で結っている。そしてイケメンだ。服装から、おそらく神職についていることは簡単にわかった。だが、この十層で、今まで彼を見たことはない。
「俺、イケメン、嫌い」
と、なぜかカタコトになるクラインを他所に、俺は尋ねる。
「・・・あんたは、誰だ?」
その問いに答えたのは、男ではなく、女性の声だった。
「ーーー私の、兄です」
「お初さん!?」
その男の後ろからひょっこりと現れたのは、お初さんだった。時間にすればわずか二、三時間前に別れたばかりだが、もう随分長く会っていなかったような気もしてくる。
「お、お初さん!無事か!あの頑固親父になんか言われなかったか!?」
大声を上げていたのはクラインだ。クラインも大分お初さんを気にかけているように見える。
「は、はい。父には、お前は何もするなと言われてそのまま謹慎扱いになったのですが、いてもたってもいられず兄に相談して、目を盗んで一緒に来ちゃいました」
来ちゃいましたか。お初さん、見た目の印象よりよほど無茶をするタイプだなと、ここ数日の接触だけで感じ取った俺だった。少し、アスナに似ているところがあるかもしれない。
そして、お初さんの兄が口を開いた。
「改めて自己紹介させてもらうよ。僕は、初の兄の草之助と言います」
なんかモデルでもやってそうなイケメンやなーと思いながら、俺たちは互いに自己紹介をした。クラインの目つきが悪くなっているが、あまり気にしないこととする。
「それで、その、どうして禁足地のことを?」
と言う俺の質問に、草之助は答えた。
「いやなに、君たちが禁足地について話していたのが少しだけ聞こえたからね」
その声は、どこかこの世のものではない雰囲気、というか、魔力を感じさせる声だった。本当にNPCなのか?と思いプレイヤーカーソルを見るも、お初さんと同じく黄色である。
「君たちは、初と一緒に蔵書でここの記録を見たと聞いたよ」
「あ、その、勝手に入ってしまってすみませんでした・・・」
「ははっ。最初からその気だったのだろう?であれば、謝る必要はないよ。むしろ、僕の方も協力者を探していたからね」
「協力者」と、草之助は言った。その言葉に、俺はめざとく反応した。
「それは、白蛇様を倒しに行け、ということでしょうか」
「ああいや、僕は父さんほど強硬派じゃないよ、うん。ただ、僕も今の《千蛇平原》に起きている事態は治めたいと思ってるんだ。」
その言葉には、人を妙に安心させるような不思議な声色が篭っていた。思わず、警戒心が削がれる。だがーーー
「君たちは、書庫の文献を読んでどう思った?」
次に発せられた言葉には、明確にプレッシャーを感じた。圏内にいるにも関わらず、下手に答えては、こちらの身が危ないのでは、と思わされる。しばらくの間無言で、どう答えていいのか迷っていると、隣からクラインが大声で啖呵を切った。
「何も分からねぇよ!白蛇様に会わねぇと状況把握すら出来やしねぇ!そのためには禁足地だろうがどこだろうが行ってやらぁ!!だからこっから出しやがれ!!」
馬鹿、ストレート過ぎだろ!という突っ込みをする間もなく、クラインは言い切った。この後の展開どうなるか予想つかないぞ!と思っていると、存外、クラインの言葉が効いたのか、草之助が微笑しつつ、俺たちに協力を仰いできた。
「・・・うん、初の言う通り、素直な人だね、クライン君は。いいよ。禁足地の場所を教えよう。」
「えっ」
マジすか。あれでいいんすか。YesともNoとも言ってないクラインの返答のどの辺に草之助が納得いったのか、全く納得できなかったので、俺から横槍を入れる。
「待ってください。・・・草之助さんは、どう考えているんですか?」
彼は、優しげな瞳をこちらに移した。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。まず、僕からお礼を言わなければいけないしね」
「お礼?」
「初を無事に帰してくれて、ありがとう」
草之助は、そう言って、深々と頭を下げた。思わず俺は面を食らってしまった。彼が浮かべていたのは、確かに兄の顔だったからだ。その顔を見て、彼への信頼度を上げると同時に、わずかに顔をしかめた。一瞬、現実世界の直葉の顔が、頭をよぎった。
「それから、僕の考えだけど、僕は、白蛇様と話して解決できる問題なら、それが一番望ましいと思っているよ。僕も、直に会ったことはないからね。父さんはいきなり討伐隊を組もうとしているけど、それは性急すぎだと思う。僕は、この目で真実を確かめたいんだ」
彼は、そこまで一息で言い切った。なるほど、先ほどのクラインのセリフに彼が共感したのは、白蛇様に会って確かめる、という行動方針が一致しているからだろう。であれば、俺としてはこのまま彼の協力の元禁足地に赴くのはやぶさかではない。だが、俺の心にはもう一つ、引っ掛かっていることがある。これは、ゲームクリアを目的とするのであれば、聞く必要はないことなのだが、それでも、今この世界に生きる「剣士キリト」としては、聞いておかねばならないことだと思った。
「草之助さん。もし、白蛇様と対話できず、源蔵さんの案である白蛇様の討伐をしない時は、どうするおつもりですか・・・?俺たち旅人は、最終的には白蛇様ではなく、大名を倒して天柱の塔の上を登らなくてはいけない。最悪の場合、白蛇様は健在のまま、大名だけ討伐することも、考えなくてはいけないかもしれません」
「キリト君。そう露悪的になる必要はないよ。この問題は、元々《千蛇平原》に住む人たちの問題だ。君たちが責任を感じる必要はない。最悪再び洪水が起こった時には、もう一度治水工事をすればいい」
端的に、彼は彼の考えを述べる。だが、かつて治水工事を行った大名がどうなったかは、文献に記載してあり、神社の後継である彼がそれを知らぬはずがない。つまり、彼の発言の意図は。
「・・・草之助さん、あなたは、自分が大名のようにモンスターになってもいいと考えているんですか?」
「うん、そう思っているよ」
と、彼はあくまで自然に言った。
そして、お初さんは俯いて、顔を顰めた。
「・・・兄さん」
「それ以外選択肢がないからね。それに、白蛇大社の男は、昔から白蛇様の生贄としての側面もあったんだ。人柱になる覚悟なら、とうの昔にできてる」
草之助は、そう言い切った。彼の人間らしくない魔力のこもった声は、もしかして、既にそうした覚悟を持った人間だからではないだろうか、とふと頭によぎる。だが、お初さんの表情を見ると、どうしても、彼にその選択をさせたくはない、と思ってしまった。
「そういう訳で、僕は君たちに協力したい。一緒に禁足地に行って、白蛇様に会ってくれないか」
「・・・分かった。よろしく頼む」
こうして、俺たちは白蛇大社の跡取りである草之助を、仲間に引き入れた。