東方Project  ―人生楽じゃなし―   作:ほりぃー

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遅くなりまして、失礼いたしました。
白狼天狗の口調は東方求聞口授準拠。

あと、二部はあと何話で終わるか……わかりません。


8話

 白髪の危険人物から逃れた文はフランを連れて、「マックロナルド」というファーストフード店に入った。それは、単純に昼食をとるためである。道化師の人形が置かれた入り口から文とフランは店内に入る。

 無論のことだが、お金を出すのは文である。一応フランも使い古されたがま口を持っているが、中にはスーパーのゲームコーナーで使うメダルしか入ってはいない。いや、正確にいうのならば、包みに入った飴玉くらいなら入っている。

 ゲームコーナーで何度もコンテニューはできるが、それ以外にフランは財力を持ってはいなかった。ゆえに文が全額負担になる。仮に後でメイドや姉の吸血鬼に請求したとしても返ってくるかは五分五分であった。

 

 そこで文はあの半分幽霊を退けた知略を駆使して、昼のご飯を考えた。安さだけならばピカイチといっていいここをチョイスしたのはそのためである。しかし、フランのことをないがしろにしたわけでは決してない。

 

 子供は基本的にわかりやすい味が好きである。だからこそ、お菓子やジュースなど甘味は子供に人気なわけではあるが。このようなファーストフード店で売られている「ハンバーガー」なども濃い味付けも相まって、子供舌には堪らない。ただし安い。

 文はそんな策略を練りながら、夏休みの子供達でごったがえす店内を歩き、カウンターまでフランを連れていく。

「いらっしゃいませー!」

 ニコッと笑って赤い白地に「M」のマークのシャツを着た店員が言う。その頭にはバイザーを被っていて、 緑の髪がちょっとだけ見える。しかし、輝くような笑顔と「山彦」のような明るい声が印象的だった。

 文はカウンターに置かれたメニューをフランに見せて、店員とは違う黒い笑顔で言う。

 

「ふふふ、どれを選んでもいいんですよー」

 

 優しくフランに言う鴉天狗だが、その言葉とは裏腹に怜悧な金勘定を脳内で行っているのだ。フランは年齢的にいえば、子供ではないのだが、精神年齢は姉と同じく子供といっていい。だからこそ安価で文句を言われにくいここに連れてきた。

 フランはその紅い眼を動かして、カウンターのメニューを見る。このようなところにはあまり来ない彼女だが、その眼は好奇心で輝いている。しかし、それが一層強くなった時に文は地獄を見ることになる。

 フランは文を振り向いて言う。

 

「ほ、本当になんでもいいのね」

「ええ、いいですよ。あっでも、アイスとかは一つまでですよ。それ以外なら、どれだけでも」

 文はフランがそこまで食べないだろうと考えて発言しつつ、それでいてスイーツからの攻撃を封殺した。だがしかし、そんなことはフランにはどうでもいいのだ。

 

「ほかなら、ど、どれだけでもいいの?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 鴉天狗は言うが、フランはその邪悪な考えに気が付かない。いや、別に気が付かなくてもよいのかもしれないのだ。彼女の願いはただ一つである。それを大きな声で言った。

 

「じゃあ。ハッピーセッツを六個!!」

「えっええ??」

 

 文は驚愕した。全く想定していなかった現象が起こり、目の前でフランは店員へ注文を済ましてしまう。ハッピーセッツは一つ一人用なので、フランは文を振り向いて、言う。

 

「アヤ。ほっとけーきとかちーずばーがーとか選べるけど、どれがいいの?」

 フランは一応文にも選択権を与える。ハッピーセッツは別に決まったメニューではない。基本のメニューにサイドメニューを付加する形なのだ。それを文に選ばせてやろうという、フランの優しさだった。地獄への道くらいは自分で選ぶべきかもしれない。

 

 最近の、ハッピーセッツのおまけは「妖怪ウォッチ」のカードである。これを完全に文は見誤った。だが、フランは見逃すような少女ではない。ハッピーセッツのおまけを見た瞬間くどいほど文に確認を取ったのはこのためなのだ。

 フランの願いはカードのコンプリートでしかない。お腹が減っているが、それは二の次である。そしておまけのカードは全六種。必然的に頼むべきセット数は六セット。計2,500円以上とはいえお得価格である。昼ごはんの値段としては多少割高ではある。

 

「ちょっ、ちょっとまってください。ど、どう考えても食べきれないですよ」

「たべるわ! それに二人いればなんとか、できる」

 フランはきらきらと期待に光る眼で言う。確かに二人で食べれば消化しきれるかもしれない。しかし、千円札が3枚ほどかかった文はなおも食い下がろうとするが、そこにフランへの援軍が現れた。

 

「ハッピーセッツ六個ですね! アリガトーございまーす!!」

 

 緑の髪の店員がすばやく注文を確定させる。文ははっと店員を見る。よくよく見ると、この店員どこかで見たことがある気がする。その店員はフランを見て、にっこり笑った。

 

 

 

 大量のポテトの山を文は一本一本口に運んでいく。黙々と無表情で「豪華な昼食」を食べているのだ。そしてフランはその前で、6枚のカードを手にもってにやにやしている。実は、カードをもらえるとは言っても指定でもらえるわけはない。つまりランダムなのだが、フランはたとえ所謂「ダブった」としても、うふふと笑う。

 それでもフランは子供らしくカードをポケットに無造作に入れると、チーズバーガーにかぶりつく。血を吸う吸血鬼の牙がケチャップで赤く染まり、肉を食いちぎる。

 そんな形で、はむはむとたべるフランを文は見ている。小銭で重くなった財布が懐にあるが、フランに請求したところでスーパーのメダルコーナーで遊ぶためのメダルしか出ては来ないだろう。文はそう諦めて、六本あるジュースの一つを飲む。コーヒーなどという、苦いものはない。

 

「それはそうと、手がかりは見つかりませんでしたね」

 

 ひとりごちるように文は言う。妖夢の場所でしたのは、あの半人半霊の少女がまず間違いなく、鴉天狗を叩き斬ろうとしていることへの事実確認だけだった。文は妖夢の行動が理解できずに、首をふる。なぜ自分に切りかかってくるのだろうか、意味が分からない。

 フランはそんな文を見ながら、もぐもぐと口の中の物を咀嚼してから、ごくりと飲み込んだ。食べ終わるまで話さないのは、姉の躾けの為か、貴族としての嗜みかはわからない。しかし、全てを飲み込んだ彼女は言う。

 

「そんなことはないわ。ありばいを聞き込みで確認したから! それに証拠も掴んだわ」

「アリバイ? それに証拠?」

 

 文はふむと考える。彼女があそこへ行ったのは落としてものがないか探しているだけで、いるかどうかもわからない犯人捜しではない。強いて言うならば、文自身が犯人なのかもしれない。

 それでもフランは「アリバイ」を確認したという。謎の行動だが、文は面白そうなので、聞くことにした。

 

「なるほど。聞き込み調査をされたのですね。そして、その首尾は?」

「あの白髪は……犯人かもしれないわ」

「そ、そうなんですか!? 魂魄さんがUSBを盗んだ犯人――」

「そう。あいつが殺人犯の可能性が高いわ」

「えっ!?……そ、そんな重大なことが。そ、それこそスクープなんですが??」

 フランは文の驚く、顔を見てからふふんと鼻を鳴らす。そして食事中でも脱がないトレンチコートの内ポケットから、一冊の冊子を取り出して見せた。そこには「斬るノート」

 と書かれている。

 文はそのノートを開いてみる。

 

 ――斬るべきもの

 ① 作詞をした者

 ② 作曲をした者

 ③ 鴉天狗(最重要)

 ④ 衣装担当の者

 

 

 そのノートには恨みつらみが書かれている。たまに涙の跡のようなものが合ったりするが、文はノートの面白そうな箇所をデジカメで写してから、フランに聞く。たしかにこれは殺人犯としての証拠になるかもしれない。誰も殺してなくても、妖夢は殺人犯である証拠が出てきた。

 

「こ、これをどこで?」

 

 フランは、にやりと笑って。話を始めた。少し得意げである。

 

 

 

 

 

 

 ――天狗と半分幽霊の死闘が繰り広げられているころ、フランは緊張していた。

 

 フランは麦わら帽子を深くかぶって、壁に背を付け、ごくりと息をのむ。実は彼女は「トイレ」と言って部屋を出た事自体がとある目的を持ってのことだった。その目的はただ一つ、聞き込みである。

 探偵としての基本はよく現場を見て、よく関係者の話を聞くことである。そしてそれは、容疑者に感づかれてはならないのだ。この場合、白髪の少女に隠れて行わなければならないとフランは思っていた。だからこそ天狗にも嘘をついて部屋を出た。

 

 そのせいで天狗が命の危機に瀕しているなどとは流石に想像はできない。

 

 フランは事務所で務めている者たちの声が聞こえる部屋の前にいる。壁に背中を預けているのは、緊張していると同時に警戒しているからである。これから部屋の中にいる人間達に聞き込みを行うつもりだったが、普段から一部の者たちとしか話そうとしない彼女だから、どうしても部屋に入ることができない。

 

 部屋の中からは何人の声が聞こえる。女性の声も聞こえるし、男性の声も聞こえる。事務所の人間だろう。つまりはスタッフの部屋である。フランはそんなことは知らないが、人が大勢いることはわかる。

 しかし、彼女は意を決して、ドアを開けた。人にものを聞くときの第一声はよくわかっている。

 

「あ、あれれー」

 

 上ずった声でフランはドアを開けた。とあるアニメで手に入れた「話しかけかた」を実践しつつ、彼女は部屋の中に入る。中はデスクの並んだ、簡素なオフィスでそこにいた数人の人間が、いきなり入ってきたフランを見つめていた。その表情は驚いているか、呆然としているかである。

 

「あなたは、たしか文の連れてきた……名前は、なんと言ったかな」

 

 そのうちの一人は、白い髪をして髪型が犬耳のようになっている女性だった。そして何故か彼女は、どこかの巫女のように作業服を着ていた。そして手にはこれまた何故か、蛍光灯を握っている。

 彼女はフランを「少女」と認識して、近づいてくる。フランに目線を合わせて、その女性は聞く。子供を威圧しないようにしているようだが、口調は固かった。

「どうしたのか。ここには何もないぞ」

「えと、あの。その白髪のアリバイを、き、聞ききたんだけど」

「ん? あり、ばい?」

 

 女性も白い髪なので、引っかかるところを覚えたが、すぐに妖夢のことだと分かった。そもそも「同じ天狗仲間」が連れてきたフランは、妖夢に用があると考えた方が妥当である。そう考えられるのは、幻想郷の一員だったからである。

 名を犬走 椛という。白い髪をしているのは、文とは少し種類が違うのであるが同じ「山」の者である。だからといって仲がよいわけでもない。特に現在の彼女の境遇も関係している。

 

「こほん。まあ、なんでもいい……聞きたいことがあるならば、手短に答えよう」

 

 椛はフランをいったん部屋の外へ出して、言う。フランが出ていくときに、中の大人たちの微笑んだ顔がフランには見えたが、なぜそうなのかさっぱりと分らない。

 

 それでも椛は固い口調でフランに対する。彼女はこれから用務員としての仕事があるのだ。蛍光灯を取り換えるのもその仕事の一つである。幻想郷では山の見回りくらいしかしていなかったが、こちらに来てからはありとあらゆる仕事を押し付けられていた。

 

 それもこれも射命丸 文の『おかげ』であった。彼女は懇意にしている芸能事務所が用務員を募集しているからと、お金に困っていた知り合いを言葉巧みに誘いだして就職させたのだ。無論アルバイトである。

 

 そして椛は清掃をしたり、今日のように備品を扱う毎日である。最近は幻想郷の遊び相手の河童も忙しいので、オフにやることと言えばネットでの「将棋」くらいである。それはそれで楽しいのだが、休日の度に一日中パソコンにへばりついている自分には、椛も思うところがあった。

 

 ――人間の雑用をしつつ、暇な時にはネット。私はこれでいいのか……?

 

 椛は考えないときはないが、それでも生活をしていくためにはどうしようもない。たまに訪ねてくる文が「あっ、用務員さん!」とこれ見よがしに言ってくると、クイックルワイバーの餌食にしてやりたくなることも多々ある。

 

「ねえ」

 

 フランの言葉に椛ははっと我に返る。そして、頭を振った。白い髪が揺れて、もちっとした頬が少し震える。口調は固くても、彼女もれっきとした少女である。その仕草にはどこか、愛らしさがあった。

 しかし、口調は変わらない。

 

「すまない。ぼおとしていた。何だったかな?」

「あの、白髪は……殺人鬼なの?」

「…………ち、ちがうと思う」

「じゃあ、昨日は何をしていたのかしら」

「昨日? ……あの幽霊は控室でくぐもった声を上げていたが……それくらいかな。ああ、そうだ」

 

 椛は懐から冊子を取り出した。それは例の「斬るノート」である。それをなぜ、椛が持っているかというと一つしか理由はない。

 

「これは、昨日夜に清掃をしている時に見つけた。多分忘れていったものだと思うが……」

 

 言って椛はノートをも見る。誰が書いたのかも、誰に返すべきなのかもはっきりとしているが、凄まじいほどに返しにくい。ヘタをすれば、口封じを受けかねない内容である。今の椛には妖夢の刀を受ける武器も力もないのだ。あるのは、片手に蛍光灯。ポケットにシャチウハタ。ウエストポーチに工具と軍手くらいである。

 そこで椛はフランにノートを渡した。流石に子供から返して貰っても、妖夢は切りかかることはしないはずである。だからこそ、彼女は目の前に「子供」に言う。

 

「よかったらこれを返しておいてくれないか? ……くれぐれも文には見せないように」

「……」

 

 フランはそのノートを開いて、きらりと眼を光らせた。これは間違いなく動かぬ証拠である。何のとは、大した意味はない。それから、彼女は椛に向かっていう。さっきの注意など一切聞いていなかった。

 

「ありがとう!」

「あ、ああ」

 

 フランはノートを内ポケットにしまい込んで、踵を返すと妖夢たちの部屋に戻っていった。椛はいやな予感がしたが、仕事があるので妖夢の無事を祈りつつ、軍手をはめる――

 

 

 

 

 

「そうだったのですね。まさか椛が、グルだったとは……」

 フランの話を聞き終った文は、できる限り話を捻じ曲げて理解した。もちろん意図的ではある。しかし、それを目の前の少女は信じた。

 

「あ、あいつもグルなの?」

「ええ。残念なことに……」

 

 真顔で嘘を吹き込む文。フランはそれでも「き、気づいていたわ」と強がるが、その隙をついて文はノートの主だった部分を写真に収めてしまう。ただし、「斬るべきもの」のリストの鴉天狗を白狼天狗に手持ちのペンで変えておいた。

 そこで文はふと、思いついた。もしかしたら、この目の前に座っている少女は落し物を探したいのではなく「名探偵」になりたいのではないだろうかと。

(……USBをただ探すよりも、この「名探偵」の取材をすれば、面白い記事が書けるかもしれないわ……次の、記事は……)

 

 文の口元がにやつく、文はフランを見て言う。

 

「フランドールさん! まだ、容疑者は洗い終わっていませんよっ!! あと二人、特に次の人なんてすごく怪しいですから、できるだけおちょく……いえ、しっかりと調査しましょう」

 フランはいきなり言われて眼をぱちくりさせたが、すぐに言う。

「あ、当たり前よっ!」

 

 頼もしい返事に鴉天狗は、復讐の時が来たと勘違いした。そのせいで、屈辱的なことになるとはこの時点では思わなかった。

 




次が9月9日までに

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