東方Project  ―人生楽じゃなし―   作:ほりぃー

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おまけ:花の妖怪と三妖精

 今から少し前に幻想郷の少女達の多くが現代社会へと飛ばされることになった。それはとある集団の思惑によるものではあったが、現代に来た幻想郷の少女達もあるものはそれを純粋に楽しみ、またあるものは望むものを手に入れようと躍起になったりもした。

 

 それでも現代に来た妖怪でも巫女でも聖人でもその力は著しく減退しており、ほとんど人間と変わりがない。それどころか現代の常識がないことにより、その生活の基盤が整うまでは四苦八苦、という言葉が彼女達の現状を表している。

 仕事、住居と言った物から何とかして確保し、それでいながらも毎日の不安と現代社会の波に怯えて暮らすことになった。平安時代は殊に恐れられた、とある土蜘蛛などは人間を襲おうとして警察に補導された。以後絶対に人間を襲うことはなくなり、真面目にはたらくようになった。仕事場には見知った巫女もいたのでなんとかやっていけた。

 そんなこんなで段々と少女達は現代での暮らしに順応していくことになったのだ。

 

 ただそれは、自活能力のあるものだけに限られた話である。

 幻想郷の少女達と一言に言っても、個々の性格や種族は様々である。時には人間に恨みを持っている者や、アマノジャクに代表されるように純粋に順応の意思や能力が低い物。そして、その個体の能力に関わらず現代社会では働き手とみなされない「子供」のような者――

 

 つまりは「妖精」などは生活基盤を構築する以前に現代では自活すらもできないのである。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ここに三人の妖精が居た。彼女達はとある日に目が覚めると、ある橋の下にいた。

 理解できない。それが三人に共通した感情である。そもそも、昨日は神社の裏にある木、その中に作った家でいつも通り眠っていたのである。それが眼を覚ますとどこかわからない場所にいて、見上げると幻想郷ではほとんど見られない巨大な石橋があるのだ。

 目の前には川があるが、左右が土手になっていた。

 

 「石橋」の材料は正確にはコンクリートというが、そんなことも三妖精は知らない。いや、幻想郷から来た者たちは殆ど知らないだろう。知っているとするのなら、元々外にいた狸か奇人である男だけである。

 当たり前だがたちまちのうちに困窮した。

 三妖精は生活能力という点で言えば、ほとんど皆無といってよい。冷たい空から降って来る雪。仕方なく住処とした橋の舌を吹き抜ける風。そもそも毎日の食べる物すらもない。ただただ知らぬ街をとぼとぼ三人で歩く日々。

 たまに幻想郷で見たことのあるものを見ることもあったが、面識がほとんどないから関わることもなかった。それも当然である。相手は基本的に危険な妖怪だからだ。

 

 それでも生き抜いたのは三人寄れば文殊の知恵とでも言うべきか。それとも人間達の好意と憐みによる「施し」の為だろうか。時には青い服を着た大きな人間に三人は追いかけまわされたが何とか逃げ切ることができた。

 しかし、生活が苦しいことには変わりない。そもそも「生活」といえるものもほとんど成立していないのだ。お金にしろなんにしろ、何も手に入らないのだ。ただスーパーなるものを回って、試食品を食って凌いだ。

 

 

 とある日。三妖精はいつもの石橋の下で固まって休んでいた。お腹が減るのでできる限り動かないようにしていたのだ。空は曇天だが雨は降っていない。それでも彼女達にはやることはない。

 だが、その日石橋の上をとある少女が通りかかった。

 手には何かがつまったエコバックを下げている。買い物の帰りだろうが奇妙なことに、こんな曇り空の下で日傘をさしている。髪は緑色だが、その表情は傘に隠れて見えない。彼女はふと、石橋の下をのぞき込んだ。

 

 そこには三人の少女が何をするでもなく座り込んでいる。「いつ見ても」変わりなくそこにいる。日傘の少女は別段何か言うでもなく、只々石橋の上から三人を見下ろしているだけなのだ。別に憐れんでいるわけでもない。可愛そうなどとも思っていない。

 だが、この日傘の少女にはとある考えがあった。彼女は指をたてて三人に向ける。

 

「……風呂掃除」

 

 妖精の一人を指さして、少女は言う。それは金色の髪を顔の左右でドリルにした妖精であった。

 

「……雑巾がけ」

 

 今度は黒髪の少女を指さして、言う。

 

「……」

 

 そして最後の一人を指さして黙る。「理由が」出てこない。彼女はちょっと考え込んでいた。

 そうしていると、ぱちっと何かが鳴る音を日傘の少女は聞いた。顔をあげてみると、空からぱらぱらと雨が降ってきている。先の音は雨が傘を叩いた音なのであろう。日傘が雨傘として役に立つのは、奇妙ではある。

 石橋の下で三妖精も気が付いたようで、何か喚きながらいそいそと石橋の下へ戻っていく。日傘の少女はそこでちょっとだけ焦った。何に焦ったのかは本人にもわからない。

 少し早口に彼女の紅い唇が動く。

 

「……サンドバック」

 

 とりあえず最後の一人に役割を設定して、日傘の少女は息を吐く。空から降る冷たい雨が、急かしているようで不愉快である。

 日傘の少女、風見幽香は歩き出す。土手を降りなければならないのは多少面倒ではあった。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 幽香はそうして三妖精を家へ持ち帰った。食べ物をちらつかせると簡単についてきたので、少々呆れることにはなったが別にどうもいいことでもあった。

 家と言っても狭い。木造のアパートを借りて、幽香なんとか一人で生活していたのだ。畳敷きの部屋には小さな円卓。調度品などは当たり前のごとくない。箪笥もないが、着替えなどは部屋の隅で綺麗に折りたたまれている。

 幽香はアルバイトもあるので、あまり家にはいないがそれでも部屋の埃もたまるし風呂掃除は必要だ。あとサンドバックもいるかどうかと言われれば欲しいような気もする。だから三妖精を連れてきたのだ。

 ただ三妖精は雨の中を歩いてきたのでどうにも汚れている。仕方ないので幽香は風呂を沸かして、三人を入れた。そうすると今度は着替えがない。これも仕方ないので、三人が風呂に入っている間に安物を買ってきた。近くにある「ユニシロ」とかいう店はなかなかにコストパフォーマンスがいい。ただ、幽香は自分では何があろうとも着ない。

 

 帰ってきても風呂場できゃあきゃあと長風呂をする声を聞きながら幽香はてきとうにスープを作った。腹が減っては戦はできないというが、腹の減った召使などなんの役にもたたないので、これも仕方がない。

 

「…………」

 

 部屋の中にトマトの香りする。出所は幽香のかき混ぜている鍋である。部屋に備え付けられたガスコンロは安物だが、簡単な料理を作る程度ならばこれで十分である。

 赤く、とろみのついたスープが沸騰してこぽこぽと小さな泡を膨らませては割れる。焦がすわけにもいかないので幽香はかき混ぜているのだ。たまに小皿に一掬い取って、自分で味見してみる。

 口に含んだそれを味わいながら、幽香は何も言わない。「よし」とか「おいしい」とか肯定の言葉も言わないし逆に否定の言葉も言わない。ただ、無言でガスコンロの火を消して、風呂場で暴れている三人を怒りに行く。多少うるさい。

 あと、さっさと着替えさせて食卓に座らせないとせっかくのスープが無駄になる。一度冷えると味が落ちるし、温め直してもちょっと舌触りが変わる。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 そうして、花の妖怪と三人の妖精の奇妙な生活が始まったのだ。

 最初のうちは三人はどうにも風呂掃除にしろ雑巾がけにしろ役には立たなかった、サンドバックについてはおいおいのことでまだ一回も試してはいない。それでも始めてしまったことなので幽香は三人の居候をそのまま居座らせた。家事については教えればできようになるだろうと思っていたのだ。

 

 

 そのうち、幽香は仕事を増やした。彼女はぼろアパートなどに住んでいることに我慢ならなくなったのだ。そもそも狭い。なので朝は欠かさずの新聞配達、昼にはスーパーの店員か町のパン屋の手伝い。その他諸々の小さな仕事もできるだけした、ただ気に入らない仕事はしなかった。

 その間に三妖精は家事を覚えて、家のことを大抵はできるようになった。それでもたまに洗濯機に柔軟剤と洗剤アリエーナイを間違えて大量にぶち込んだり、床を水拭きしたまま『自然乾燥』などと言って空拭きしなかったりしたので幽香の信用度は低かった。この時点でもサンドバックは使わなかった。

 

 

 

 しばらくして2DKのマンションに引っ越すことになった。

 立地や建物を選んだのは完全に幽香だったが、わざわざ2DKにしたのは部屋を分けるためであった。もう川の字になって寝るのもたまったものではない。暑いのだ。それに妖精が三人も纏わりついてきてうっとうしいこと幽香にはこの上になかった。

 新しい部屋はフローリングのしっかりとしたつくりで、人を呼びこともある意味もないでリビングはない。だが部屋が二つに分かれていて、片方を幽香の部屋でもう片方を三妖精の部屋にした。

 

「とりあえず……カーペットがいるかしら」

 

 そんなことを言いながら、引っ越しの荷物を下ろした幽香は室内を歩いている。少しだけ頬が緩んでいるのは本人も気が付いていない。だが、そこにどたどたとした音が聞こえてきた。

 

「すごーい」

 

 雑巾がけことスター・サファイアを先頭に三妖精がフローリングの上で転がっている。黒髪の彼女は大きなリボンを頭にして、フローリングの海を仰向けで泳いでいる。フローリングの上でもがくと、少々滑りながら進めるのだ。キャミソールに短パンという薄着なので肌が床にこすれている。つまり服が汚れている。

 

「ちょっ、ちょっとサニー! ここすごい。お湯が出る!!」

 

 風呂場の方から声がする。「サニー」を呼んでいることと、幽香の目の前でスターがもがいているので声の主は「風呂掃除」ことルナ・チャイルドだろう。水音をもするので蛇口をひねってお湯を出しているのだろうか。

 

 幽香はにっこり笑って黒い何かを背中からだし始める。自分が思案しているというのにとちょっとだけ思うので、目の前にのスターの足首を掴んでから、ルナへの注意に向かう。水を無駄にしてはいけない。

 

「ちょっ、ちちょっゆ、ゆうかさん、ぶっ」

「どうしたの? ちゃんと滑らないと駄目よ?」

 

 スターは足首を掴まれたまま幽香に引きずられている。つまりは床で擦られているのだ。足首を掴まれたまま早足で引きずられるとスターには思ったように動けない。それに角を曲がったり、敷居を跨いだりするときに体にあたって「ひげ」「ふげ」と声が出る。もちろん幽香には「聞こえない」ので、対処できない。

 

 風呂場に行くと案の定ルナが湯船の蓋をあけて、お湯を注ぎ込んでいた。まだ昼前である。今そんなことをしても「追い炊き」をしなければならない。それは幽香はあまり好きでない。

 

「ルナ?」

「あっ、幽香さん。ここ、おゆ……が、で」

 

 ルナは左右の髪の毛をドリルにしている可愛らしい女の子だ。新しい家に純粋に驚いていたのだろう、彼女は「お湯が出る」喜びを伝えようと話しかけてきた幽香に振り返った。

 そこでルナは眼を見開く。幽香は風呂場の入口に笑顔で立っているが、その片手にはスターの足が掴まれていて、その身動きが取れない哀れな少女は後ろでぐったりしている。

 

 あっ。怒られる。ルナは直感した。何が悪いのかよくわからないが、彼女は栗の様に小さくて愛らしい口をぱくぱくと動かしている。

 

「そ、その。ご、ごめんなさい」

「……あら。まだ何も言ってないわ」

 

 幽香は風呂場に入ってくる。裸足であったので風呂場の床でペタペタと音がする。彼女はルナの前で膝を折ってかがむ。目の前に小さな少女に目線を合わせてから、ゆったりと手を動かして湯船にお湯を流し込んでいる蛇口を締める。

 

「いい? お風呂にお湯をいれるとのは夜よ。それ以外つかってはいけないわ」

「は、はい」

 

 存外優しく幽香はルナに諭す。ただ、このドリルの少女は別の物を見ていた。幽香の口調は柔らかいが、

 

 スターを離してはいない。

 

 風呂場の床でさらに擦られた哀れな黒髪の妖精が「ゆ、ゆうかさん」と力なく声をあげている。まるでルナには「もしも、悪いことしたらこうなる」と幽香から示されているかのようだった。

 

「いいかしら? ルナ」

「はい! わかりました幽香さん」

 

 とてもいい返事に幽香は満足げに頷くと、スターの足首を離す。やっと解放された彼女はよろよろと立ち上がった。

 

「そういえば、サニーはどうしたのかしら」

 

 とそのスターに幽香は聞く。まるで今まで何もなかったかのようである。スターも振り返って、ルナに目配せしたあと。

 

「し、しらないです」

 

 と言う。アイコンタクトしているからには何かを考えているには間違いないのだが、流石に幽香にもわからない。ただ、ルナとスターを交互に見ると何かを企んでいるかうっすらと笑っている。少々わざとらしすぎたのか幽香には二人が示し合わせていることがわかった。

 

「しかたないわね……頭をねじるか……」

 

 幽香は言いながらルナの頭を持った。とても恐ろしいことを言っているのだが、顔は笑顔である。にこやかに「吐け」とルナを脅しているのである。

 たまらずルナは叫んだ。

 

「ししし知らないですっ」

「そう? じゃあさよなら」

「ま、まってください!」

 

 なんとなく本当にやりかねないところが幽香にはある。ルナもスターも彼女とこれだけの期間一緒に暮らしているが、どうにも恐ろしい。それも慣れるどころか段々と頭が上がらなくなっている。

 ルナは首を振ろうとするががっちりと幽香の両手に掴まれていて動かない。スターに助けを求めようにも彼女はこそこそと風呂場から逃げようとしている。

 目の前には幽香の笑み。反対にルナは泣きそうになる。笑顔が怖い者は本当に恐ろしい存在なのだろう。

 

 

「スター! ルナ!」

 

 幽香、スター、ルナがいきなりの声にはっとした。声の主はサンドバックことサニー・ミルクである。しかし姿は見えない。おそらくダイニングの方にいるのだろう。幽香はぱっとルナを解放した。

 

「残念ね」

「えっ!?」

 

 不穏な言葉を残して、涼しげな顔で幽香は風呂場から出ていく。ルナはその場にへたり込んでしまったが、それではいけない。彼女はあわてて幽香の後を追った。スターはとうにダイニングに逃げている。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 幽香がダイニングに来ると。そこには一人の少女が居た。

 服装は二人の妖精と変わらない、桃色のキャミソールに短パン。しかし、その顔は自信に満ちているような何かに期待しているような顔だった。そう、彼女こそサニー・ミルクである。

 肩まで伸ばした金髪を、左右で結んでいる。少しあいた口元には八重歯が光り、大きな眼がきらきらと光っている。

 

「ふふふ。幽香さんっ。今日はすごいものをみせてあげるわっ」

 

 そういうサニーの前には「布」を被った何かがある。サニーの腰辺りまであるその高さから、それなりに大きなものと分かる。布自体も厚手らしく中はみえそうにない。

 幽香は訝しげに聞く。すごいモノというが、彼女は無駄な物を家に置く気など全くない。

 

「それは、何かし――」

「幽香さんへのプレゼントです!」

「!」

 

 幽香の言葉が言い終わらぬうちにサニーは言い切った。それでも幽香の表情は変わらない、ちょっとだけ指が二、三回動いただけである。逆にサニーは鼻をふふんと鳴らしているところを見ると、自信があるらしい。

 そこにずだだっとスターとルナも幽香の後ろから走ってきた。彼女達もサニーと並ぶ。三人の可愛らしい妖精が勢ぞろいした形になった。いや、三月精と言った方が愛らしいかもしれない。

 

 三人は目配せして、サニーが「せーの」と音頭を取る。そして一斉に言った。

 

「ゆーかさん、いつもありがとう」とサニー。

「いつもありがとうゆーかさん」とスター。

「ちょっ二人と、あ、ありがとうゆぅかさん!」とルナ。

 

 三人そろってバラバラの「お礼」。

 

「ちょっとスター、ルナ! 打ち合わせとちがうじゃない!!」

「間違えたのはサニーでしょっ。最初はありがとうからだったわ」

「ふ、ふたりに釣られて間違えたのよ」

 

 すぐにぎゃあぎゃあとどうでもいい喧嘩をし始める三月精。

 それに幽香はくすりとしてしまう。その笑顔は、本当に少女のようだった。だが、すぐにいつもの余裕のある表情に戻って、三人の間に入る。

 

「喧嘩なら、外でしなさい。三人のうち一人が生き残るまで帰ってこなくてもいいわ」

 

 仲裁にバトルロワイヤルを提案する幽香。ただ彼女に喧嘩を止められると三月精もぴたりと喧嘩をやめてしまった。これ以上すると別の意味でやばいことになると分かっているのだろう。

 サニーは言う。

 

「えっえっと幽香さん。これ」

「ええ。ありがとう」

 

 幽香は膝を折って、しゃがむ。そして「布」に包まれたプレゼントを「見る前」にお礼を言う。それが彼女の本心であろう。もう、これが何だったとしてもどうでもいい。だが、せっかくなので包みを解いて中身を見ておかないもったいない。

 幽香は布を指でつまんで、ふと止まる。彼女は期待した顔の三人を見渡して聞く。

 

「開けていいかしら?」

「「「えっ、は、はい」」」

 

 わざわざ聞いてくるとは思わなかった三人は慌てて答える。さっきはバラバラだったのに、今度はしっかりと同じだった。また幽香は口元を綻ばせたて、指で布を払う。

 

 

 そこに合ったのはただ一つのMS(モビルスーツ) だった。

 巨大な図体に一つ眼の両側に角の生えた頭。青い肩当にスカートを穿いているように膨らんだバーニア。両手の指先はメガ粒子砲になっている。そして太い両足はしっかりと地面についている。

 これこそジオン公国の栄光あるMSジオングの完全なる姿――パーフェクト・ジオングの雄姿であった。凛々しい顔つきといい、黒光りするフォルムといい美しいの一言である。要するにプラモデルだ。

 

 

 ――なにこれ?

 

 

 

 幽香は動揺した。パーフェクト・ジオングのあまりに勇壮な姿に圧倒されたのか、眼が泳いでいる。多少のことには動じない彼女だが、目の前の現実を脳内で処理しきれていないのだろう。ジオンの栄光の前には無理もない。

 

「どう? 幽香さんっ」

 

 サニーが聞く。幽香はこれほど返答に困る質問に会ったことはなかった。永い時間いきてきたが、これが何なのか見当もつかない。

 

「え、ええ。あ、ありがとう。嬉しいわ」

 

 幽香は言うと、三月精はそれぞれが向かいあってにっこり笑った。それから、

 

「やったー!」

 

 とハイタッチする。新しい生活の始まりに、ぱーんと景気のいい音が響いた。

 

 

 

 

 




――文々。新聞 

<不死の女性 人助けを生きがいに>

 最近町で有名な「何でも屋」こと藤原妹紅さんは快く取材に応じてくれた。妹紅さんは一定の報酬をもらえればなんでも行うという、まさに何でも屋を営んでいる。彼女は近所の子供がお小遣いを貯めた買ったというプラモデルを組み立てる依頼をこなしながらこういった。
「本当になんでもやるというわけじゃないわ。危なそうなこととか、まあ、悪いことはしないつもりよ」
 誠実な言葉の通り妹紅さんは近隣住民からの信頼も篤い。最近では近くのお年寄りの買い物代行もしているという(以下略)




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