東方Project  ―人生楽じゃなし―   作:ほりぃー

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やっと時間取れたザウルス。

A=残った組
B=海の

それに合わせて更新速度を上げていくつもりです。できなかったときは世の中を恨んでおきます。


14話 A

 ぶかぶかのパジャマを着たフランドールは眠たげに眼をこすりながら廊下を歩く。僅かに寝癖のついた金髪から先ほどまで横になっていたのだろう。彼女は片手にピカチュウの顔の形をしたクッションを引きずりながら持っている。掴んでいるのはクッションの「耳」だった。

 廊下をぺたぺたと歩くフランの足は裸足。小さな「あんよ」で彼女は歩く。とはいっても紅魔館に住んでいた者たちがいるマンションの一室、その廊下だから長くはない。彼女はリビングに通じるドアの前で立ち止まってドアノブに手をかける。かちゃりと開ける。

 

 リビングにはまだ明かりがついている。フランが中に入ると水の音がした。フランは少しまぶしそうに眼を細めて室内を見回す。ソファーには紫の後ろ頭が見える。本の虫だろう。フランはそれを無視して、目線を動かす。

 リビングと台所は直結している。そちらからかちゃかちゃと音がする。見ると銀色の髪をした女性が洗い物をしている。フランから見ると後ろ姿しか見えない。だが、誰かなどと聞く必要性はない。

 その女性は銀髪を三つ編みして横に流して、白い半そでのカットソーを着ている。黒カーキ色のハーフパンツは脛まで、そこから見える細い足には大き目のスリッパ。それでいて腰にはエプロンをつけている。

 言うまでもなく十六夜 咲夜であった。彼女は洗い物をしながら言う。

 

「どうしましたか? 妹様」

「っ!?」

 

 フランは眼を見開いて驚いた。咲夜はこちらを見ていないのだ。それなのに彼女はフランとわかり、しかも先手を取るように聞いてきた。よく見ると咲夜の傍に立てかけられているガラスのコップにはフランが映っているがそれに気が付くものは咲夜だけだろう。

 

「咲夜。お姉さまは?」

 

 はぐらかすようにフランが聞く。眠気は今ので取れたので、ピカチュウクッションの耳を引き上げて抱く。流石に引きずることはやめたのだろう。咲夜は少しだけ息を吐いて答える。手は止めない。

 

「あの、人形師のところでお泊りだそうですわ。……」

 

 咲夜のどことなく声に元気がなくなるのはあまり「お姉さま」ことレミリアの動向が好ましくないと思っているからかもしれない。彼女はレミリアの従者だが、人形師と会いに行くときは絶対に同行させてくれないのだ。何故かはわからない。

 

 フランは本当はどうでもよかったらしく「ふーん」と気のない返事をしながら、台所の冷蔵庫を開けた。そこからコケコーラの缶を取り出す。それは小さな缶に入っているタイプでフランにはちょうどいい。余談だが冷蔵庫にはペシプとドクトル・ペッパーなる清涼飲料も入っているがフランは見向きもしない。特に後者は咲夜以外飲まない。

 

 フランは開けるのに邪魔なピカチュウをゴミの様に床に捨てて、コケコーラの蓋をプシュッと開ける。小さな目に見えない気泡がはじけて、フランの手に少しだけ付く。彼女はそのまま両手で持ってグイッと飲んだ。

 

 ぐびぐび飲むフランの眼はぎゅっとつぶっている。炭酸は「覚悟」して飲まないと咳き込みかねない。だが寝起きの体に冷たいコケコーラの味は心地よい。フランは全て飲み干してからぷはっと口を離す。唇が少し濡れたので、ペロッと自分で嘗める。

 

「妹様。寝る前に歯磨きを忘れないでくださいね?」

 

 咲夜はちょっと振り返ってフランを見る。その口から出てきたのは「歯磨きしろ」という釘差しである。吸血鬼が虫歯では恰好がつかないのだろう。フランは「うん」とまた気のない返事をしてから、空っぽの缶を冷蔵庫の横にある専用のゴミ箱に入れた。それを作ったのは咲夜で、後日リサイクルボックスにまとめて捨てる。

 

「咲夜、あっ」

 

 フランが「あっ」と声を出す。それは呼びかけでなく。足もとのクッションの中央を踏んでいたからだ。彼女はクッションを拾い上げた。そして眠気の取れたすっきりした顔で咲夜に言う。

 

「おやすみ」

 

 言い捨ててリビングから出ていくフランを咲夜は見送りながら返した。

 

「ええ。おやすみなさいませ、妹様」

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 フランは眼を覚ました。いや、さっきから寝てはいなかった。

 むくりと蒲団から体を起こして、横の布団でぐーすかぴーとだらしない顔で寝ている赤毛の女性をちらと見て、そっと蒲団から出る。疲れているだろう紅 美鈴を起こす気はないフランは手直にあったティッシュペーパーを一枚とると、美鈴の目元に掛けてあげる。優しさからの行為だった。

 

 葬式の時のようになった美鈴からフランは眼を離すと。パジャマを脱いだ。中から出てきたのは胸元にリボン状になっている黒いシャツとチェックの赤いスカート。これを隠すために大きなパジャマを彼女は着ていたのだ。正直言えば暑かった。

 さらに蒲団から取り出して足にニーソックスを履く。それを終えるとフランは部屋の隅にある箪笥から、幻想郷でいつもつけていた白いナイトキャップを取り出した。ナイトキャップとはふわふわとした被り物である。

 

「うわ。なにこれ」

 

 小声で驚いたフランは手を止める。ナイトキャップはずっと箪笥の中にあったからか少しだけ「箪笥の匂い」がついている。彼女はくんくんと鼻を動かしてから、箪笥の上に眼をやった。そこにはスプレーが置いてあり「ファブリーナ」が置いてあった。除菌用と書かれている。

 フランは帽子にしゅしゅっとスプレーをかけて頭に乗せた。しかしまだ準備は終わらない。偽装工作が必要なのだ。

 

 フランが取り出したのは「ピカチュウのクッション」だった。彼女はそれを反対向きにして彼女の寝ていた寝床の枕に乗せる。そしてパジャマを人が寝ているようにおいて、その上から蒲団を掛ける。

 見ると金色の何かが寝ているように見える寝床が完成している。耳が邪魔なのでフランは布団をうまく使って隠した。つまりはフランが寝ているように偽装したのだろう。つまりはこれで準備は完了である。何のと言えば簡単、

 

 夜更かしである。

 

 

 

 フランは物が詰まったポーチを肩に掛けて部屋のドアをそおっと開いた。廊下は暗い、リビングは暗い、もう皆が寝静まっているのだろう。うるさい姉もいない。彼女は「ニシシ」と口に手を当ててほくそ笑む。

 

 部屋のドアを閉める時には一度美鈴にだけ「いってきます」と言って手で行く。それに答えることは彼女にはできなかった。廊下に出ても今度はペタペタと足音はならない。ニーソックスで滑るように音を消して玄関に直行したフランはお洒落なブーツを履いて外に出ていく。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 町の入り組んだところに古ぼけた小さな店があった。駐車場などはないが入り口の近くに売り物なのか洗濯機を中心にいろんな商品が並んでいる。一応のこと雨除けの為にか透明なビニールは掛けているが泥棒などは気にしていないらしい。

 

 

 看板には「リサイクルショップ永江」と書かれている。とある女性と同じ姓だが、これは単なる偶然であろう。現代に元からあったこの店とその女性の名字が同じだっただけである。

 

 リサイクルショップ。それは日本全国津々浦々に存在する古道具屋と考えれば間違いはない。実際、江戸時代やそれ以後の時代にもある「質屋」などを思い浮かべればそう新しい概念の店というわけでもない。とある幽霊少女の通っている本屋もその亜種であろう。

 無論のこと幻想郷の少女達が暮らす場所にもそれは存在した。ここはその一つである。街を探せばいくつかのリサイクルショップはあるが、彼女達の行きつけは基本的に一店舗にのみ限られている。何故かといればそう難しい話ではない、そこの店員が単に幻想郷にゆかりの深い者であるからだ。

 だからこそそこの客層は特殊だった。ある時はどこかの巫女がテレビを買いに来たりして、廃棄物のような物を買っていったこともある。

 そもそも店員も癖しかないようなのしかいない。だから近所でも変な方向に評判の店になっていた。しかし、そこの店長は数日前に旅にでてしまい、いなくなっている。どうにも「秋葉へ」と言った次の日にはいなくなったらしい。なので今は別の人物が店長を代行している。

 

 

 それでもすでに夜。今からくる客はいないだろう。ゆえに店のシャッターは閉まっている。ただ中から明るい声が響いてくる。それは数人の少女の声だった。店は二階建てになっていて、その上階の窓には明かりがともっている。

 

 その店の前に一人の少女が現れた。金髪の髪にナイトキャップを付けた少女。フランである。彼女はあたりを見回して誰もいないことを確認する。それが終わってから、店の裏手に回った、そちらには勝手口があるのだろうと咲夜は思った。

 

 フランは勝手口の前に来るとノックする。そうすると中から誰かが近寄ってくる音がした、そして勝手口が僅かに開いた。それでもフランを迎え入れようとはしない。代わりにこう声が聞こえた。

 

「山」

 

 フランはあたりを見回しながら言う。

 

「かわ」

「よし、入れ」

 

 と中からぬっと表情のない顔を出したのは秦 こころだった。桃色の髪がしっとりとして、微妙に甘い匂いがするのはリンスの匂いだろう。そうフランは思ったが別にどうでもいいので勝手口から入っていく。ちなみにこの暗号を考えたのはこころであった。何に影響されたのかはわからない。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 フランが中に入ると同時に雄たけびが聞こえた。びくっとして、フランは声の聞こえる二階にどたどたと駆け上がった。二階に上がると、声のするそこはガラス戸になっていたのでがらっと開けた。

 

 部屋は畳敷きで狭い。蒲団が部屋に敷かれていてその上で青い髪の少女とフランと同じ金髪の少女が寝転がっていた。叫んでいるのは青い少女、チルノだった。無論もう一人はルーミアだ。

 チルノは何かのコントローラーを持っていた。部屋の隅に置いてあるブラウン管テレビを凝視しながらチルノは体を横に傾けながら、叫ぶ。

 

 テレビに映っているのは何かのレースゲームだった。しかし、かなりキャラクターはコミカルに描かれており、亀だとか姫様のようなものだとかキノコだとか、それでなければ髭面のおっさんのようなキャラがゴーカートのようなマシンで争っている。

 

 いわゆる「マリオカート」である。

 

 どことなく映像が古くさいのはこのリサイクルショップに合った中古のゲーム機を使っているからだ。テレビにつながったゲーム機は黒い筐体で、コントローラーが四つ刺さっている。何の数字かはフランにはわからないが「64」と書かれている。

 画面は三分割されているのはプレイヤーが三人いるからだろう。ルーミアもコントローラーを持っている。そして分割された画面で動いていないキャラが一人いるが誰のキャラかは無表情で部屋に戻ってきたこころが膝をがくんと蒲団の上で四つん這いになったことからわかるだろう。フランを迎えに行っている間にゲームが進行しているのだ。その絶望は深い。

 悔しげに床を叩くこころもチルノもルーミアもパジャマを着ている。ルーミアはフランに気が付いたらしくにぱっと笑った。それが挨拶なのだろう。可愛らしいが声を出さないあたり、ものぐさからのことかもしれない。

 

 

 

 チルノとルーミアをここに連れてきたのはフランと三月精であった。何故この場所かと言うと、良く子供と遊んでいる秦 こころが住んでいるからだ。半ば無理やり泊まり込んだのだが、こころは嫌そうな顔一つせずに受け入れてくれた。実際ゲーム仲間ができて楽しいそうに床ドンしている。

 

 

 こころの家に今夜秘密で集まろうと計画を立てたのはフランである。三月精は夜歩きすれば「殺される」ということで来ない。それでここに来たフランだが、チルノとルーミアがゲームをやっている姿を見てうずうずしてしまう。いつもは咲夜や美鈴と遊んだりはするが、それとは少し違う。

 

「チルノ! 負けたら交代ね」

「あたいは負けない!」

 

 フランの言葉に即座に返す氷の妖精。確かにもう彼女は負けないだろう。ある意味ではもうは敗北者「こころ」は決まっているのだ。しかし、フランにはどうでもいい、夜にこっそりと集まって遊ぶなど殆どやったことがない。だから自然と心が逸る。

 ちなみにチルノの姿勢が右に傾いているのは画面上のレースキャラが右折しているからだ。たまに彼女はアクセルとブレーキを間違えて、徐行することもある。

 フランは荷物を放り投げて、布団の上に座る。柔らかい感触の上に寝転がり、ゲームの内容を見る。こういう子供の遊びの場合「いまからこれしよう」などという合図はない。先に何かやっている相手の行動を即座に理解して、自然に混ざるのだ。

 

 こころは慌てた様子で自らのコントローラーを掴む。ただ、彼女の表情は動じる気配はない。冷静に画面を見て、冷静に「だめだこれは」と思った。三周くらい周回遅れになっている。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 フランは手に持ったカセットを裏返して、ふうふうと息を吹きかける。裏側には端子があり、そこから誇りを取り払っているのだ。誰に教えられたわけでもなく、なんとなくやっている。

 チルノ、ルーミア、こころ、フランの四人はゲーム機にカセットを入れ替えしていろいろなゲームを行う。全部店の中古品である。コントローラーももちろん販売品である。それなのに遊び尽くしている。

 

 とはいってもカセットの交換タイミングはてきとうである。僅かなアクシデントがあれば「違うゲームしよう」となるのだ。

 

 

 

 ――ピンク色の丸い大食いの生物を操り、宇宙を旅するゲームをやった時は意外にルーミアがハマった。その物語はクリスタルが砕けたから集めてとかいうストーリーだったが、アクションゲームである。

 ルーミアはそれをうまくプレイするのだ。ピンク色の生物は敵を食べるとその能力を吸収することができるという特性がある。ルーミアはチルノが食べられたらなどと考えながらコントローラーを動かす。

 

「わかったわ。ここはこうミックスするのよ!」

「おおお、あたいルーミアのこと阿保だと思ってたけど、頭いい!」

 

 チルノの本音に渋い顔をした少女は無言になった。

 

 ――ロボットをカスタムして戦う対戦ゲームは白熱した。何故かというと妙にこころが強いのである。明らかにやりこんでいた。このゲームは最初サイコロみたいなロボットが変形、人型になって戦うのだ。幻想郷で最強の称号を賭けて戦っていたこころの心に触れる物があったのだろう。

 フランが負け、チルノがシステムを理解できず。ルーミアが「違法パーツ」を使ってこころに惨敗した。三人は悔しげにこころをみると、彼女も逆に三人を見ながら言う。

 

「ふっふっふ」

 

 こころは不敵に笑う。表情は変わらない。

 

「もうさっきのようにはいかないわー。外に出る予定もない! さあ、かかってこい!!」

 

 と勝ち誇った上で言った瞬間にゲームから種目が「プロレス」に変わった。しかもバトルロイヤル制の三対一である。つまり他の三人が一斉にこころに「かかっていった」のだ。

 こころは「ちょ、ちが」と言いながら蒲団の上でもがきながらタップした。だが誰もプロレスのルールなど知らないのでやめなかった。

 

 

 ――そして「弾幕ごっこ」も行った。もちろんゲームのことである。

 とあるキツネの率いる傭兵団が戦闘機に乗って宇宙を駆けまわるシューティングアクションゲームである。対戦よりもストーリーモードを一面ごとに交代でまわしていくことを四人は選択した。

 ゲームの持主であるこころはともかく、他の三人はほぼ初心者だったが、これには適性があったようでフランがうまかった。元々この中で弾幕ごっこが「うまい」からなのかもしれない。

 

 画面上でフランが操る戦闘機が敵機体を撃墜するたびに歓声が上がる。八割はチルノである。彼女は誰がゲームをやっていても盛り上げてくれるのだ。口性はないが、それでも正直だからだろう。

 そしてまた画面でフランが敵を倒す。「アンドルフオジサーン」という断末魔を残しながら撃墜数がプラスされる。それを見てフランもよしと小さくガッツポーズをする。

 このあたりでこころは台所に引っ込んで、お菓子を両手いっぱいに持ってくる。しかし飲み物がないので、もう一度戻ってペットボトルを人数分持ってきた。

 

 ――ピッピカチュウ!

 そんな可愛らしい声がテレビから聞こえる。そこには黄色いネズミがこちらをつぶらな瞳で見ている。このキャラはもちろんのことポケモンの人気キャラ兼フラン身代わりのピカチュウだ。これもゲームの一種だが、なんとこのゲームは画面上のピカチュウと会話できるのだ。専用のインカムが必要ではある。

 チルノは耳にそのインカムをして、声を発する。

 

「ピカチュウ! あたいの名前は!チルノ!」

 

 ピカチュウが言葉を返す。

 

『ピッピカチュウ!』

 

 にっこりしてピースを指で作るピカチュウ。喋られるといっても所詮はプログラム。明らかに話を聞いていない。チルノはそれに激昂した。大声で叫ぶ。

 

「チ! ル! ノ!」

『ピッカー』

 

 ピカチュウが何を勘違いしたのかアイテムの「玉ねぎ」を持っている。馬鹿にされているとチルノは感じてインカムを外す。

 

「だめね。こいつルーミアみたいっ!」

 

 急にやり玉にあげられたルーミアはハッとして抗議しようとするが、フランがその前に言う。その言葉はルーミアに新しい現状認識を呼び起こすことになる。

 

「あんたの子分よりは頭いいんじゃない?」

「……こぶん?」

 

 ルーミアは考える。「子分」と「あんた」は誰を指しているのかを後者はチルノだろうが、前者はどう考えても自分である。彼女は意外に周りからは階級が下に設定されていることに頭を抱えた。いつからチルノのおまけになったのだろう。

 実際のところはポケモン好きなフランからすればピカチュウを馬鹿にされるのはあまり気分がよくないので抗議したのだろう。もしもこの世の中でポケモンを全面的に馬鹿にするものがいれば許せない。

 

 そんな中でこころはぽりぽりと「ポッキぃィー」というお菓子を食べている。表情は変わらないがずっと画面のピカチュウを見ている。

 

 

 ――それからもゲームをやり続けた。「万丈と数井」というゲームやゴリラの活躍する物、先ほどのレースゲームのキャラがテニスしたりパーティしたり、それでなければ爆弾を投げつけ合う対戦ゲームをしたりと四人は心行くまで遊んだ。

 フランが最初持っていた荷物には遊ぶ道具が多数入ってはいたが、それも遊ぶうちに忘れていた。子供の遊びではよくあることである。結局遊び切れないほどに彼女達は選択肢を持っている。楽しければそれでいい、それは少なくとも精神的に大人になれば消えていく感覚だろう。遊びにすらも目的を求めることを、子供はしない。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 こころはテレビを消した。蒲団の上ではチルノがルーミアにかぶさって寝ており。その横でフランがコントローラーを持ったまま寝ている。すでに時刻は日付を跨いでいる。天狗すらも寝ているかもしれない。

 こころは無表情でうつらうつらしながら、食べかすなどを片付ける。その時に部屋に誰かが入ってきた。女性である。すらっとした体にぴったりしたシャツを着て、色の良いジーンズを穿いている。これもぴっちりしている。

 髪の色は紫。肩より少し長い。それよりも透き通るように肌が白い。まるで陽の光を受けたことがないように。そう彼女は竜宮の使いであり、永江 衣玖ことリサイクルショップ店長代理である。

 

「おわりました?」

 

 衣玖はこころに聞く。桃色の髪をした少女はこくんと頷く。暴れまわったからかパジャマの首元がだらしなく緩んでいる。ボタンが一つ外れていた。それを見つけた衣玖は「ここ、外れてますよ」と首元を抑えてボタンを留めてあげる。

 

「それにしても元気な方々ですね。ここまでとはおもいませんでしたけれど」

 

 衣玖は「寝落ち」した少女達を見る。微笑を浮かべている彼女に悪意はない。形のいい唇からふふっと笑いが漏れる。そもそも迷惑に思っていたなら部屋に乱入してやめさせることもできただろう。それをしなかったのは性分もあるが、好意的に見ていたかもしれない。

 

「店長はまだ帰ってきませんからね……。困ったことですが、この子達を明日明後日泊めるくらいは大丈夫でしょう」

 

 こころはぐっとガッツポーズをする。衣玖はそれを見て眼を閉じる。店長代理ということはこの店に住む者たちのまとめ役でもあるのだが、そんな役は自分にはあまり向いていないなと彼女は思う。強く言うことは好きじゃない。

 

「その点はあの人も同じでしょうけれど。どこに行ったのでしょうか……?」

 

 本当の「店長」は秋葉へ旅に出てどんな旅路についているのかわからない。そもそもこのリサイクルショップ自体が店長のようにどんな物も多少なりとも「使い方が分かる」者がいないと全員が路頭に迷いかねない。アルバイトの赤い髪のろくろ首などは再就職が難しいだろう。首が取れる妖怪は「カタギ」は難しい。

 

 ただそんなことにはあまり興味のないこころは無表情でこくりとこくりとなっている。眠たいのだろう。「表情豊かなポーカーフェイス」とはよく言った物である。お面で感情を表現することはできないが、彼女の周りの者たちはこころの感情を理解してくれている。

 衣玖は苦笑して眠ることを促すように言ったが、それを遮るように勝手口がノックされた。衣玖がそちらを見て、階段を下りていく。こころはばたんと布団に倒れた。辛うじて部屋のスイッチを操作して電気をオレンジ色の豆電球にできた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 ノックしたのは十六夜 咲夜だった。彼女はフランが外に出ていくのをこっそりと後を付けておいて、場所を確認すると。近くのチェーンのカフェで時間をつぶしていたのだ。流石にもう遅いから迎えに来たのだろう。

 衣玖もだいたい空気を読んだらしく。詳しく話を聞かずに家にあげた。フランからすれば咲夜たちには脱走が秘密かもしれないが衣玖にはそれは関係ない。

 

「夜分遅くにごめんなさいね」

 

 二階に上がった。咲夜はフランをおんぶしながら衣玖に言う。フランはうーんと唸りながら、眠たそうにしている。それに「さ、妹様帰りますよ」と咲夜は問いかける。それに寝ぼけながらだろうフランが「帰らなぃ……」と返す。

 咲夜はちょっと考えて言う。

 

「妹様。美鈴が寂しがりますよ」

「…………か、える」

 

 殆ど眠ったままフランは言った。咲夜は彼女にくすりとすると、衣玖にもう一度お礼を言った。口調は砕けている。彼女は敬語を使うべき相手かどうかは見定めて使う人間なのだ。

 

「それじゃ。今日はありがとう」

「いえ、私は何もしておりません」

 

 衣玖は本当に何もしていないが、ただこうは言った。チラリと他の寝ている少女達を見てからでもある。

 

「よかったらですが、明日近くでお祭りがあるそうです。その吸血鬼の子もまわってみたらどうですか?」

 

 咲夜は一瞬きょとんとして、ああと何かを飲み込んだように言う。要するにフランがいなくて寂しがるのは美鈴だけでないということだ。だから衣玖としてもその者たちが寂しがらないように手を打ってあげたいのだろう。咲夜もそれに載った。

 

「それじゃあ明日、家のものに妹様を送らせるわ。その時はよろしく」

「ええ、私は……行くかはわかりませんが……」

 

 咲夜は衣玖の言葉にまた薄く笑って。階段を降りる。寝ぼけたフランが肩に噛みついてきた時にはびっくりした。

 

 

 

 

 

 

 




ブログ   花果子念報


今日友人と飲みに行ってすごく楽しかったー(^◇^)

ラーメン屋さんで飲み会とか少し不安だったけど、美味しかったわ
チャーシューばりうま!(≧◇≦)

明日は同じメンバーで近くのお祭りに行くことになったし、楽しみ!!!
なので今日は早く寝ます! お休み(-_-)zzz






コメント欄

Aya :いつも楽しみにしています。更新頑張ってくださいね。
Momi:…………頑張れ

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