商店街に豪族が小料理屋のようなものを開いていることは、幻想郷の少女達の間では有名であった。ともすれば食い逃げも可能とあれば、月末の厳しい時に計画的な食い逃げを行える場でもある。無論、ツケとして後々請求はされる。ただし、この話には少しだけ勘違いがある。
そのお店はそんなに広くはない。小さなキッチンに畳敷きの客席。テーブルは二つしかないが、真ん中に鉄板がありお好み焼きも食べることができる。それに加えて焼きそば、焼きおにぎりなどのお腹にたまるメニューもある。お品書きは手書きだった。
今日も今日とて豪族の少女は「新メニューの開発」を行っていた。銀髪のポニーテールを揺らしながら、「御飯櫃」を両手で抱え込んでいる。蓋が閉まっていて中は見えないが、少しよろけているところを見ると重そうである。
頭には烏帽子。何故かこれは幻想郷から変わらず身に着けている。黒のポロシャツに短パン。そして履いているのはクロックス。
「あんなーこといいなー! でっきてもいいな」
何かの歌を唄いながら、少女は座敷に上がる。テーブルの上に御飯櫃をドカンと置く。彼女は物部 布都。最近では自分のことを料理人と勘違いし始めた豪族である。このお店の管理者とよく勘違いもされる。ちなみに彼女の唄っているのは「坂田」とかいう侍が唄っていたものである。
布都は小さな手でお櫃の蓋を開ける。もあっと広がる湯気。そこからかおるほのかな香り。彼女はちょっとだけ満足げに鼻をくんくんと動かす。出来栄えは上々らしい。
それは炊き込みごはん。ご飯の一粒、一粒が淡いベージュ色に染められている。みじん切りにされた大根、ニンジン、タケノコ。それに舞茸などのきのこ類。色とりどりの具材がたっぷりと入った料理だ。
「なかなかよいではないか」
うんうんと頷く布都。烏帽子が落ちそうになったので、手で支える。これこそ彼女の「新メニュー」の素材である。つまりまだ完成はしていないのである。布都は手に団扇を持って、パタパタと炊き込みご飯を扇ぐ、水分を蒸発させなければならないのである。
実は彼女は一人ではない。座敷の隅でぱらぱらと雑誌を読んでいる少女が一人。癖のある金髪を肩まで伸ばした彼女は、ちらっと布都を見てから。親指を噛む。何に嫉妬したのかは彼女しかわからないであろう。
恰好はあまり布都とあまり変わらない。お店で働くことにお洒落はそこまで必要はないのかもしれない。ただ、ポロシャツは同じでも下はロールアップされたデニムである。服装に迷ったらとりあえずデニムというのは現代的ではある。旧地獄にいた彼女は、まるで民族衣装のようなものをよく着ていたが、それを着る勇気はない。
手に持った雑誌はファッション雑誌。ただし膝で隠すように読んでいるので布都には見えない。たまに「ねたましいわ」とぼそぼそと言う。彼女の名前は水橋 パルスィである。客もまだいないのでそうやって座り込んでいる。
余談だが、その雑誌の表紙には銀髪の女の子が壁に寄りかかって、恰好を付けている。ハットを深くかぶって、片目を隠している。それにストライブワンピースにベージュの上着。何でか刀を持っている。
ちりんちりんと入り口の鐘が鳴る。「おっ?」と布都が振り向くと、そこには紫の髪をした女性が立っていた。白いシャツを着ている。永江 衣玖であった。リサイクルショップから逃亡を図り、ここに来たのだ。
「あら、まだやっていませんか?」
衣玖は奥でリラックスしているパルスィと何かをやっている布都を見て聞く。だが、布都とパルスィはそれぞれ挨拶する。
「よく来たな!」
「いらっしゃい……」
☆☆☆
数か月前にやっとこさ仕事を見つけた水橋 パルスィはこのお店に就職した。その時に店をやっていたのは、年配の男性でアルバイトを探していたという。少なくとも生活には全く余裕のないパルスィに否応はなかった。
近くの小学校などから子供達が食事をしに来る程度の小さなお店である。商店街の住人も来てはくれるが儲かっているとは言えない。店の主人である男性はそれでもお店を閉めたくはなかった。子供の遊び場の一つであるから、笑い声は毎日聞ける。
男性は体調が思わしくはない。歳でもある。だからこそ、パルスィが雇われた理由はただ一つである。お店の切り盛りを誰かに任せたかったのだ。しかし、それはパルスィにとっては大変な毎日になった。
料理もする必要があるが子供達の相手もしなければならない。パルスィは人の子供の持ってくる「ぽけもん」や「かーど」の意味が分からないのである。スペルカードならばわかるが、どうにもカードゲームをしているようだった。トランプならばわかる。
パルスィは毎日へとへとになって働いた。黙々と作業をしているのではなく、人と交わることがあまりにも新鮮であるし、だから過酷でもあった。肉体的な疲れはともかく、精神的な疲れはどうにもできない。そのうち土蜘蛛のように眼が死んでいくかもしれない。と思っていた
そしてある日のこと。
外はしのつく雨。扉をしめ切っているのに店の中にも「ざあざあ」と聞こえてくる、暗い日。パルスィはやることもなく、一人で新聞を読んでいた。それは市販の物ではなく、鴉天狗が発行しているゴシップ紙である。それによると巫女が転職したらしい。
「転職かぁ。私も……ねたましわぁ」
最終的に「妬ましい」に行きつく彼女が窓を見る。外はたたきつけるような雨で、室内は電気をつけても、どことなく暗い。パルスィは元々人付き合いが苦手だからか、別に気にしてはいない。こんな日には誰も来ないだろうから、逆に楽なのだ。
ただ、今日という日は別だった。パルスィが何か洗い物でもしようと立ち上がった時である。
ドンッ! と扉が開いた。雷が鳴り。ドーンという音が室内に響く。
「ふぁっ?」
普段出さない可愛らしい悲鳴を上げて、パルスィはしりもちをついた。タイミングが悪すぎたのであろう。彼女が驚いて、入り口を見ると。そこにいたは一人の河童ならぬ、合羽姿の少女だった。
ぎんらり眼を光らせて、ふふと口角を吊り上げた彼女。背は低い。きゅぽきゅぽと間抜けな音を歩くたびに出すのは、足に履いた長靴のせいであろう。完全防備に見えるが、その軟かなそうなほっぺに水滴が付いている。
「たのもう!」
彼女こそが物部 布都であった。後々パルスィが聞くとアルバイトをさせてくれと頼みに来たらしい。それだけなのに騒がしい。よく言えばにぎやかである。
★★★
アルバイトが一人増えて、店はにぎやかになった。いきなり来た布都ではあったが、パルスィは人事権など持っていないから、オーナーへ話をしてみると簡単に採用された。採用理由は「明るい」ということであった。
パルスィはいきなり増えた同僚には、あまりかかわらずにいようと思っても店は狭い。自然と話をせざるを得なくなった。ここではパルスィの方が先輩だからなおさらである。何故か数か月後には布都の方が主人と勘違いされるようになるが、それは別の話。
銀髪のポニーテールを揺らしながら、台を拭く少女が一人。厨房で沈んだ顔をしながら、いろいろな料理をする少女が一人。商店街の一つのお店には見せないほど、濃ゆい店員がいる店になった。
料理はパルスィが行い、その他の雑務は布都がやるという役割分担がいつの間にかできていた。前には子供達もたまに遊びに来ていたが、布都がきてから何も食べる気がないのに来ることが多くなった。
パルスィは嫌われているのではない。単にミステリアスな雰囲気が子供にはとっつきにくいのであろう。反面、布都は子供が来れば「おお、来たか!」「ほれ、これを食べるのだ」などと気さくに話しかけているから、とっつきやすい。そのせいか良くポニーテールを引っ張られる。
そんな布都もとある野望があった。すでに外も暗くなって、店にはお客はいない。パルスィは洗い物を乾燥機にかけて、脱いだエプロンをたたんでいる。すでに変える準備をしていたのだ。
そんな彼女に布都は話しかけた。
「今よいか、パルの字」
「????」
ぱるのじ、と言われてパルスィは困惑した。きょろきょろとあたりを見回してから、人差し指で自分を指す。布都が「うむ」と言って、ようやく自分が呼ばれていると気が付いた。
「何? あとその妙な呼び方はやめて」
「すまぬ。水橋殿」
「……それも、いやね」
「むぅ」
むうと言って、両手を組んで布都は体を傾ける。「悩んでいる」と体で表しているのであろう。それが分かってパルスィもため息まじりに言う。
「パルスィでいいわ」
それを聞いて、布都はぱっちり眼を開けて、ぱちぱちと瞬きをする。そしてニコッと歯を見せて笑う。花が咲いたよう、というよりはその笑顔で人の心を開かせるような愛嬌がある。パルスィは眼をそらして、爪を噛む。嫉妬している。
「そうか、それではそのようにしよう。パルシー」
嫉妬など頓着せず布都は言う。微妙に間違っているのにはパルスィは何も言わない。
布都が話しかけたのはとあるお願いがあったからである。布都はこのお店に来てから、ずっと気になっていることがあった。
「いつもおぬしに飯炊を任せてしまっては、悪いと思ってな。よかったら、我と当番制にせぬか?」
「別に……悪いとかどうでもいいけど。あなた……できるの?」
「ふふっ、できぬ」
「そう、お疲れ様」
「まてまてまて」
帰ろうとするパルスィの前にずざざーと立ちはだかる布都。焦っているのか、頬が赤い。
「早まるでない。我もこちらに連れて来られるまでは幾度も料理自体はしたことはある。単に窯や、七輪などがなければな。それにやきそばやら、は作ったことがない」
「……それで」
「ふむ。教えを乞いたいのだ」
それから「頼む」といい、布都はぺこりを頭を下げた。歴史上の彼女が悪人であるとはだれも気が付かないだろう。パルスィはその素直な態度にねっとりとした嫉妬を思いつつ、自分の腰に手を当てる。
「まあ、いいけど」
嫉妬深い彼女も仕事の指導に関してはあまり頓着はしない。自分も楽になるからだ。
★★★
そんなこんなでパルスィと布都は仕事が終わってから、料理の勉強をすることになった。教師はパルスィで生徒は布都である。全般的なことではなく、このお店に出すものを練習するのだ。
とととんとパルスィはキャベツを千切りにする。「焼きそば」の具である。この麺類に入れるキャベツには大きく切って歯ごたえを残すやり方と、千切りにするやり方があるが、このお店は後者であるようだ。
その横で布都が先に墨の付いた筆と、ヨクコのミニノートを持ってみている。
パルスィは布都の鼻の頭に墨が付いているのに気が付いたが、何も言わずに手を動かす。言葉で説明するよりも、やって見せているのだろう。お昼時に大量に作っても、布都には子供の世話があるので見ることができない。
「ふむふむ。良い手並みであるな。そんなに早いと、添えた手を切らぬか?」
「……そこは猫の手にしているから大丈夫」
包丁を持つ手とは別に、キャベツを抑える手は指を丸めている。これが「猫の手」である。これならば包丁で切る心配は少ない。ただ、布都には意味が分からなかった。「ねこのて?」と頭に疑問が浮かぶ。
何を思ったか布都は両手の手首を丸めて、片手は顔の横。もう片方を肩のあたりに持ってきた。招き猫のポーズを想像すると分かりやすいだろう。顔は「こ、こうか?」と聞いているように不安げである。
「……」
パルスィはぼおと布都を見る。そして猫のまねをしていると分かって、ぷっとふきだしてしまった。口元を抑えて、肩を震わせる。必死に笑い声をかみ殺しているのであるが、目元に涙がたまってきた。
「わ、笑うでない! 真面目にやっているのだっ」
真面目にやっているからこそ性質が悪い。
ぷんすか怒る布都の顔を見ると、またパルスィは笑えてくる。嫉妬する暇がないほどに、くっくっくと笑い声をかみ殺しながら。笑顔を見られまいと、顔をそむける。布都はそこに至っては、もう苦笑いしかできなかった。
毎日、夜はそんな感じで二人の「料理教室」は開催された。外はすでに暗い。客もいない。それでも布都が身振り手振り、それに口ぶりが明るいから思わずパルスィも笑ってしまうこともある。ただ、笑い顔は見られない様にそっぽを向いて逃げもする。
お店ではそんなに難しい料理はやっていなから布都はめきめきと腕を上げた。実は隠れて料理本を読んでいることもパルスィは知っている。布都が自分で口を滑らせて、気が付いていないからだ。
そしてとある日パルスィはふんふーんと鼻歌を歌いながら洗い物をしていた。そこではっと気が付く。なんで鼻歌なんて歌っているであろうか。首をふるふると振って、やめる。客席を見ると布都が子供達にお好み焼きを焼いている。
「楽には……なったかな」
誰にも聞こえないようにパルスィは言う。なんとなく爪を噛んでしまう。
★★★
それが布都とパルスィのお店の短い歴史である。あれから、布都がいきなり「布都コロッケ」という物を開発して、パルスィが窒息させられそうになったり、巫女を中心に幻想郷の少女達がお店にやってきたりとなかなかに忙しい日々を送っている。
今日も今日とて布都は新開発のおにぎりを手で丸める。それは冒頭で作っていた味ごはんで作っているのだ。
「ふふふ、これこそ我が作ったふとおにぎりである」
目の前に座っているのは寝癖の付いた髪をした竜宮の使い。シャツも少し皺がある。衣玖である。彼女はお腹がくうくうとなるのを抑えつつ、布都がおにぎりを握っているのを見ている。
「布都おにぎり、ですか?」
「……」
にやっと布都が笑う。
「今、おぬし我の名前と掛けたな?」
「ええ」
「ふふふ」
布都はさらに目の前のお櫃からご飯を掬い上げる。そして元々手に合ったおにぎりと合体させた。それを小さな手で丸めていく。大きなおにぎりの出来上がりだった。おいしそうな色のついた、おにぎりである。
「これだけ大きなおにぎりだからな、これこそが太おにぎりである!」
手のひらに載せたおにぎりを持ち上げる布都。をぱんぱかぱーんという擬音が付きそうなほど楽しそうに、自らが作ったおにぎりを顕示する。しかし、そこの空気を呼んだ衣玖も立ち上がった。
「それでは一つ」
「あっ!?」
ひょいと布都の手から「太おにぎり」を盗って衣玖は両手で持った。大きい。衣玖はどうしようかと少々迷ったが、布都がちらちらと見てくる。いきなり盗られたことにおこっているというよりは、何かに期待しているようだった。
かぶっと食らいつく衣玖。もぐもぐと頬を動かして、ちょっと目を見開く。
「歯ごたえがありますね」
「タケノコが入っておるのだ」
説明しながら流し目で見てくる布都に衣玖は言う。
「美味しいですね」
布都はちょっと肩を動かしてから、横を向いた。
その頬がだんだんとゆるんでくる。
背筋をぴんと伸ばして、さらに胸を張る。
両腕は組んだまま。
「そうであろう、そうであろう」
心底嬉しそうに頷く布都。衣玖はもぐもぐと食べながら、それを見る。口に味ごはんを詰め込んだまま、ふっと笑う。どことなくシュールである。彼女はすとんと座り直して、時間をかけて食べた。布都はそれをじっと見つめている。食べているところを見るだけで楽しいのかもしれない。
ごくんと全て完食して衣玖は手を合わせる。だが、指にご飯粒がついていることに気が付いて親指を嘗める。無意識だったのではっとして、布都を見る。はっとして彼女も拭くものを探すが、台拭きしかない。
「はい」
と後ろから声が聞こえた。そこには黒のエプロンをつけたパルスィが両手でタオルを持っている。布都が「おお」と感心しながら付けとり、それを衣玖に渡す。奇妙なリレーである。最後にパルスィに衣玖から「ありがとうございます」と返ってきた。
「しかし」
布都はにやにやしながら言う。
「我の作る味ごはんの良さがわかるとはなかなかどうして……」
しみじみ呟く。かなり自信を持っていたらしい。別に衣玖にも反論する意味もなく実際美味しかったから
「ええ。ご馳走様でした」
と素直に返す。それに気を良くしたのか布都はさらに頷きながら。
「お粗末さまであった。これでこの味ごはんもマスターしたかもしれぬな」
「…………」
パルスィはじとっと調子の良いことを言う布都を見て、それから味ごはんを見る。むらっと湧いてくる嫉妬の感情。だが、彼女は黙っているだけではない。
お櫃にはまだまだ入っている。それは「今日必要」だからたくさん作ったのだ。あとでパッケージに入れておかなければならない。
パルスィはとてとてと厨房に戻って冷蔵庫を開ける。何かを取り出して、それとご飯茶わんとお箸を用意する。それとしゃもじ。くるっと踵を返して、布都の味ごはんの前に戻ってくる。
「な、なにをしておるのだ」
布都の疑問を聞き流しながら、味ごはんを茶碗によそって。その上に冷蔵庫から持ってきたものを載せる。小さな四角形、白いもの。バターである。それごとお箸でかき混ぜながら、ご飯の熱でバターを溶かす。ご飯粒が融けたバターをまとって、きらきらと光る。
「これ。食べてみなさい」
どんと衣玖の前に出す。彼女はいきなりのことに動ぜず、涼しい目で見ている。その眼は困惑する布都とパルスィをちらりちらりと見て、直感的に空気を読む。
「いただきます」
お箸をもらって衣玖は茶碗をとる。お箸で掬った味ごはんが輝いている。単にバターに反射しているだけではある。
ぱくりと食べた衣玖。もぐもぐと味わう。口の中に、広がる御飯の味は先ほどよりも、深い。なんとなく舌触りもいい。
「先ほどよりおいしいですね」
「なっ!?」
率直な感想に布都が立ち上がった。
「そ、そのようなわけがないであろう。ばたーなんぞ、パンに付けて食べるもので……か、貸すのだ」
衣玖からお茶碗をもらって、自らも箸を持つ布都。
食べた。布都は眼を見開て、がっときて,ぐっとのけぞって。ばったん床に手をつく。
「ま、負けた。このような使い方があったとは」
「……」
パルスィはその様子に鼻を小さく鳴らす。ただ、素直のそんなことが言える布都に嫉妬してしまう。それでも両手を組んでうっすらと笑う。料理の師匠としてまだ、負けるわけにはいかないのである。誰にも聞こえないように彼女は呟いた。
「まだまだね」
得したのは衣玖である。何も言っていないのにどんどん試食させてくれたので満足げであった。彼女はお腹をさすりながら、ふうと息を吐く。身をよじるとシャツがよれる。上着を着てくるべきかと思ったが、外は晴天。何も着たくはない。
衣玖はそう思いながら、窓の外を見る。
窓にへばりついている秦 こころがいる。無表情だが怒っている気がする。おそらく影にチルノとルーミアもいるだろう。店番は誰かに任せてきたか、それともサボってきたのかのどちらかである。
衣玖は何もみていないふりをして、目線をそらす。
ただ、「店員」は気が付いた。敗北者である布都は顔を上げる。
「お、おおお??」
窓にへばりついている不審者に悲鳴を上げる。ただ。これは癖になっているのであろう。こういった。
「い、いらっしゃい、ませ」
今日もお店にはお客が来る。