東方Project  ―人生楽じゃなし―   作:ほりぃー

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26話

 争え……もっと争え。

 河城にとりは白熱している試合を見て、心の底からそう思った。彼女にとってはどちらが勝とうともグッズが売れないと話にならない。逆に考えれば売り上げの為にはどちらが勝ってもいい。ある意味では究極の中立であろう。

 そんな黒い思考をしている河童は涼しげな顔で両手を組んでいる。横にはいつの間にか焼きトウモロコシを片手に頬張っている巫女と船長。にとりは流し目でそれを見て静かに言う。

 

「ところでミナミツ。そのトウモロコシ代も貰うからな」

「なんで、もぐもぐ、私が持ってきたと、思うんですか。霊夢さんかもしれないじゃないですか」

「持ってきたのはこいつよ。にとりの隙を見て勝手に持ってきたのよ」

 

 霊夢はもぐもぐと食べながら水蜜に全てを押し付けている。にとりはどっちでもいい。とりあえず水蜜から徴収することを腹の中で思う。別に金の出どころなどどこでもいい。責任論には河童は与しない。

 水蜜は苦笑しつつ、太いトウモロコシの両端を持つ。横にしてこんがり焼けた「おこげ」と香ばしい醤油の匂いが食欲をそそる。彼女は口を開けて、がぶり。気持ちよくシャクシャクとコーンをかみ砕く。

 

「……もう少し、焼いてもいいかもしれませんね」

 

 美味しいが批評もしておく、昨日は一日中焼きトウモロコシを販売していたのだ。今は河童の一人がやっている。無意識に霊夢も水蜜と同じ食べ方をする。なんとなく見て、なんとなく真似る。

 水蜜は目ざとく見つけてにやり。黙っておく。それよりも彼女達の見物している試合も佳境である。体格的には毘沙門天がいるチームが有利かと思っていたが、トリックスターこと古明地こいしが頑張っている。それでいたずらっぽく笑い、水蜜が言う。

 

「さて、霊夢さんの予想はあたりますかね?」

「別に当たらなくてもどうでもいいわ」

 

 つんとした霊夢の返事。彼女にとっても河童同様にどちらが勝とうとどうでもいい。ただ、毘沙門天の方が勝つと厄介かもしれないとは思っている。しかし、彼女はとりあえずいう事があった。

 

「まあ、あのさとりの妹も頑張っているなら、そっちが勝てばいいんじゃないの」

 

 どっちが勝ってもいいのであれば知り合いの関係者を応援するのが人情である。水蜜の身内二人は応援しない。どうなろうとも所詮は遊びでもある。にとりも霊夢も水蜜も程よく応援しつつ、トウモロコシを食べる。にとりもいつの間にか持っている。

 そんな三人の後ろに影が一つ。

 頭にタオルを巻いて、水着の上から黒いシャツ。丈が短いそれはおへそまでは隠せない。下に穿いた水着のスカートはピンク色。ちょっとたれ目で片目を瞑った少女。

 

「霊夢」

「……なんだ、さとりね。何その格好」

「いろいろあるのよ……あの半分霊のアイドルの気持ちが分かった気がするわ」

 

 いきなり呼ばれてちょっと驚く霊夢。振り返れば「髪の色」を隠した古明地さとりが立っている。手には一つのデジタルカメラ。河童の手先であるネズミから徴発した物である。にとりは気が付くが、気付かないふりをする。

 

「ちょっと偶然にカメラが手に入ったの……持ち主には帰ってから返すわ。みんなの写真も撮ったんだけど、霊夢も撮っておこうと思って」

「い、いらないわよ。そんなの」

「はい。ちーず」

 

 さとりは問答無用でカメラを構える。霊夢は下がろうとするが、その首に手を回す船幽霊が一人。ノリのいい幽霊である。

 

「ほらほら霊夢さん、せっかく写してくれるんだからにっこり笑って」

「だ、だれが! 笑うわけないじゃない」

「こちょこちょ」

 

 と腋の下に手をやる水蜜、霊夢はその足をおもいっきり踏みつける。ぴぎゃっと妙な悲鳴を上げて涙目になるキャプテンだが、怨念を込めてくすぐりにかかる。負けん気の強いところはお互いに幻想郷の少女である。

 

「ややめなさいって、あはは」

「今ですよ。ほら、私が押えているうちに! は、ハヤク」

 

 笑いながら霊夢は水蜜を引きはがしにかかっている。じゃれついているように見えて、結構本気である。さとりははっとして、シャッターを切る。

 とりあえず、仲良くじゃれつくような写真が撮れた。霊夢と水蜜は肩で息をしながら、間合いを取り合う。写真一枚とるのに難儀である。さとりはふふ、と微笑してデジカメを下ろす。

 にとりはわれ関せずという表情だが、今デジタルカメラの機能で新しく撮った写真が彼女のパソコンに送信されているはずである。この河童は心の中で舌を出している。

 そんなことは知らない地霊殿の主はちらと河童を見てから、巫女へ言う。

 

「お米は必ず手に入れましょう。それじゃあ後でね……」

「あ、あんたは妹の試合を見ないの? はあはあ」

「遠くから双眼鏡を使ってみているわ。観客に近寄りがたいのが分かるでしょう。ほら」

 

 さとりが指をさす。その方向には逆にこちらを指さしている者たち「あれ、さとり様じゃない?」と聞こえてくる。霊夢は「あんたも大変ね」と言う。

 

「どこかの河童のせいね……」

 

 さとりがため息をつくとにとりが、

 

「そりゃあ、大変だね」

 

 と他人事のように言う。

 さとりのじっとりした視線を受けながら。河童はさりげなく物陰に歩いて行って、ノートパソコンを取り出す。届いた写真を確認するつもりなのだ。早速商品化しなければいけない。

 開いてみればまたあの「WinMac 10へのアップグレードの準備が整いました」のウインド。ちっと舌打ちをしてにとりはタッチパネルになっている画面を押す。

 消そうと思ったのだ。しかしウインドにはこう書いてある。

 

 ――「今すぐアップデート」

 ――「今からアップデート」

 

 にとりは後者のボタンを押してしまった。OSが起動を開始していく。

 夏の蝉の声と熱い観客の声がにとりにはクリアに聞こえてしまう。

 

 ★☆★

 

 体を深く沈めて、かかとを浮かせる。ナズーリンは火照った体から深い息を吐く。

 ちょっと涼しくなった気がする。頭はクリアにしてクールで居なければ参謀たりえない。それも今日の相手はあろうことか目の前にいる毘沙門天。補佐しなければならない者と相対する。

 ネットの向こうにいる寅丸星は片手にボールを載せて、金色の瞳でこちらを見ている。

 熱気のせいだろうか、寅丸の周りの空気がゆがんで見える。息一つ乱さず、ナズーリンとその後方を見ている。サーブは彼女であるから、打ち込むタイミングを見ているのかもしれない。

 

 後ろにいるこいしがぴょんぴょんと小さなジャンプをしている。よーしと口でいいつつ、スカートを揺らす。ナズーリンはそれをちらりと見る。意外と頼もしいなと絶対に口には出さないことを思う。

 こいしの瞳はきらきらと緑色に光っている。彼女はたまに前に出たり、後ろへ下がったりとせわしない。無意識に最適のポジションを探しているのだ。逆に寅丸も小さく目線を動かしたり、立つ位置を変えている。

 

 ナズーリンはそれを静かに観察している。

 寅丸もこいしも考えて行動しているのではない。現状での最適な行動を一方は野性でもう一方は無意識に選択している。だから寅丸が動けばこいしもうごく。こいしが動けば寅丸も動く。

 プレーの前から戦いは始まっている。お互いが必勝のポジションを探しながら、相手を牽制し合っている。もちろん観客からはわからない。ただ、ネズミは理解している。

 ナズーリンはそれとなく動く。彼女はしっかりとフォームを作って防御の構え。本気のように見えるが、少し違う。彼女は自分の「守備範囲」を限定している。

 

(後ろに行ったボールはこいし君にすべて任せる。私は前方の取れるボールだけを取る)

 

 既にこいしには説明している。寅丸が撃ってくるサーブの場所は、決まる可能性が高い場所である。ナズーリンはそれを全て推測している。そうすると大体打ち込める場所はわかるのだ。それを封鎖するために彼女はゆっくりと歩幅を小さく移動する。

 動き出す一瞬に打ち込まれる、それはさっきやられた。すでにナズーリンには通用しない。移動の歩幅を小さくすれば隙は少ない。彼女は可能性の高い場所を自分の守備範囲で塗りつぶす。

 するとこいしもナズーリンの取れない場所を無意識にカバーする。自然に鉄壁な陣形が出来上がる。無意識なこいしと意識的なナズーリンは意外にかみ合う。本気でやればである。

 

「さあ、どうするんだい。ご主人様……」

 

 ナズーリンはにやりと笑い、動く。立っている場所は固定しない。常に幻惑する。そしてたたたーとこいしが移動する。

 日差しが降り注いでいる。寅丸の首元から胸元へ汗が流れる。それでもこの戦いの神は表情を崩さない。すうと大きく息を吸い。しゅっとボールを天に投げる。一歩前へ。ジャンピングサーブ。

 ぱあんと小気味の良い音を立てたボールが放物線を描く。速度はそれほどでもない。

 

 ――まずい

 

 ナズーリンは即座に判断する。着弾点は彼女のわずかに後ろ。こいしが取るべき場所。

 しかし、サーブと同時に寅丸が前進してくる。

 ナズーリンの直ぐ後ろであれば、こいしの体勢が崩れる。それはネズミが一人で寅丸の相手をする時間が生まれるかもしれない。

 

「私が取る!」

 

 ネズミは叫んでからバックステップ。こいしは即座に前へ。声に反射して行動している。ナズーリンは後ろに下がって思う。

 

(高い)

 

 頭に当たる。とおもったから頭に当てる。ちょっとジャンプしてヘディングする。おおと歓声。ひりりとする額を抑えてナズーリンの眼が動く。

 ぽーんと上がったボール。前にいるこいし。構えているご主人様。情報を即座に理解するネズミ、いや小さな智将。

 

「叩きこめ!」

 

 ナズーリンが叫ぶ。合わせてこいしが飛ぶ。落ちてくるボールに合わせてのスマッシュ。小さな体を空中でそらせるこいし。胸を張り、右手を振る。落ちてくるボールを思いっきり相手のコートへと撃つ。

 一瞬のことだった。

 そう寅丸は一瞬身を沈めた。こいしの動きを余すところなくその両目に映して、飛ぶ。ブロックではない。彼女は右手を振った。こいしのスマッシュを自らもスマッシュで迎え撃つ、一秒でもずれれば成立しない攻撃。こいしの顔の横をボールが横切る、無意識の少女は「わ」と驚きながら眼だけはそれを追えた。体は空中。どうしようもない。風圧で綺麗な髪がそよぐ。

 

「わかっていたよ」

 

 曲がりなりにも数百年から千年の時を過ごしたのだ。ナズーリンにだけは寅丸の動きが予想できた。こいしの体が邪魔で打ち込めない場所以外。そこに反撃が来るとわかっていた。ネズミは着弾点に身構える。

 迫るボール。ナズーリンは膝をやわらかく曲げ、両手を組んでレシーブする。

 

(お、重い)

 

 レシーブしたナズーリンは後ろへ転げた。それでも辛うじてボールは上がる。しかし、上げすぎた。ボールは相手のコートへ、それもネットのギリギリへいく。寅丸が見逃すはずがない。

 ――虎が飛ぶ。体を伸ばして、とどめのスマッシュの一撃を打ち込む。これで決まり。

 ――こいしが横っ飛び、片手でレシーブ。砂煙を上げてごろごろ、反動を利用して立ち上がる。舌をペロリ。目元はきりり、口元にやり。まだ決めさせない。

 

「もう、通さないわ」

 

 それでもボールは寅丸の真上。流石にこいしでも返すので精一杯。だからもう一度、虎が飛ぶ。こいしが腰を落とす。お互いが視線を交わす。龍虎ではなくこいし虎相撃つ。

 寅丸の頭上でボールが音を鳴らす。力強いスマッシュ。

 こいしはボールしか見えていない。もう何も余計なことは消えている。全てはゆっくりと見えている。彼女は右に一歩。そして飛ぶ。またも片手でボールを拾う。ばちんと音がする。

 歓声は聞こえない。こいしは空気が震えることだけ、なんとなく心地いい。

 

「よーし、もう一回!」

 

 天真爛漫。にこにこしながらの鉄の守り。すべての事象に素直に反応する。だから彼女は無敵なのだ。ふっと寅丸も笑う。彼女の真上にボール。またもスマッシュの構え。これで三撃目。良い敵に出会うことこそ戦いの楽しみである。

 だからこその最高の一撃。腰を捻り、腕を振り。闘いの神がスマッシュを放つ。

 空気を切り裂く高速のそれ。こいしの真正面。一番取りやすい角度。にっこりこいしは迎え撃つ。両手組んでレシーブ。

 

「ふぇ」

 

 こいしの足が浮いた。後ろに倒れていく。ボールの衝撃に体が負けている。

 空が見える。太陽が見える。手元のボールがどこかに行ってしまう。

 

(あ、まって)

 

 無邪気にボールに問いかけるこいし。声の出せない一瞬。ゆっくり流れる世界の中で、ボールが砂浜につこうとしている。もうだめだ、とこいしがを閉じる。だが、あきらめていないネズミもいる。

 

「うわぁぁ!」

 

 柄にもなく叫び。ダッシュ。砂を蹴りあげ、ボールは足もと。だから彼女は足を引いて、そのまま蹴り上げた。ナズーリンの紅い瞳が空を見る。ボールは高く上がっている。推測した落下地点はナズーリン達のコート。攻撃のチャンス。

 

「立ってくれ!」

 

 ぱっちりこいしの眼が開く。仲間の声に答えないこいしではない。

 ここでやるべきことがある。高く舞い上がったボール。それに合わせた寅丸殺し。ナズーリンの考えた策は条件がいる。今度は太陽の逆光は利用しない。彼女はたたっとネット際に向かう。

 

 そして、相手に背を向けた。そのまま両手を組む。

 

「来るんだ! こいしくん」

「おーう!」

 

 こいしも立ち上がり元気に返事。ナズーリンに向かってダッシュ。彼女は言わなくてもわかっている。ネズミの二歩前で大きくジャンプ。その片足をナズーリンの腕に着地。

 

「ん、んん!」

 

 ナズーリンは顔を真っ赤にして「こいし」をレシーブする。腕を上にあげる。

 

 その瞬間、こいしが空を飛んだ。この場居る全員がこの可愛らしい少女を見ている。胸元のリボンもスカートのフリルも風になびかせて。太陽のような笑顔で全員を魅了する。

 

 ボールが落ちてくる。こいしはそれに体を捻り、足を上げる。かかとを構える。

 ――そうさ、あの状態のご主人様は何だって反応する。

 ナズーリンはそれを見ながら、思う。こいしは一瞬の空中散歩をたのしむ。雲がちょっとと近い。

 ――だったらネットの間際。真上からの角度から攻撃すれば、反撃すらさせてやらない。

 

 空中かかと落とし。

 落ちてきたボールをこいしは「蹴り下げる」。凄まじい勢いとも垂直に寅丸のコートへ落ちていく。まるで流星のように落ちるのはネット間際。レシーブすらも難しい。寅丸は真上から落ちてくるボールを見て慌てた。集中力すら、こいしに見とれてなくなってしまった。

 

「さ、させません」

 

 それでも毘沙門天の代理は両手を構えてレシーブする。押される。手元で跳ねる。

 ナズーリンは片手で小さくガッツポーズをした。如何に運動能力が抜きんでていても防げない攻撃はあるはずだった。幸いにもその攻撃を実行できるパートナーが今日はナズーリンにいた。

 

「やあああ」

 

 そう、パートナーは寅丸にもいる。一輪が前に出る。こいしはまだ空。ナズーリンは油断。

 誰にも注目されていなかった雲居一輪が跳ねたボールに合わせて彼女も飛ぶ。やっと来た出番にはしゃぐ彼女は思い切りスマッシュする。

 ボールがナズーリンに迫る。彼女は顔面でキャッチする。今度は跳ねない。バーンと小さな智将は後ろに倒れた。瞬間おかっぱ河童の笛が鳴る。

 

「やったー! やったー」

 

 両手を上げて無邪気に喜ぶ一輪、一秒遅れて観客から大きな歓声。得点は彼女である。寅丸も完全に忘れていたらしく「よ、よくやりまひた、いちりん」と噛む。ふふーんと得意気な顔をする一輪。彼女は自分が他の三人の眼中から消えていた自覚はない。

 

 とんと着地したこいしは「ちぇー」と悔し気に唸る。でも実はまだ、試合は終わっていない。今ので一輪達は「20点」なのだからあと一点取られなければ負けではない。

 

「よーしネズミさん。もうひと踏ん張りね! あれ、ねずみさん?」

 

 倒れているナズーリンからは反応が無い。仕方なくこいしがきょとんとした顔で覗き込むと、このネズミは眼をぐるぐるさせて気絶している。一瞬気が抜けたところに一輪スマッシュが決まってしまったのだろう。

 こいしは「んー」と人差し指を下唇にあてて、上目遣い。おかっぱ頭の河童に手を「はいはーい」と上げて、告げる。

 

 ★☆★

 

 

「ん。あれ」

 

 起きた時ナズーリンは目の前にこいしの顔があった。ぎょっとしたがどうやら膝枕されているらしい。ここは海の家の中で畳敷きの部屋。からからと回っている古い扇風機がある。

 

「試合はどうなったんだい」

 

 ナズーリンは直ぐに仏頂面を作ってこいしに聞く。彼女は「ネズミさんが倒れたから、きけんしたわ」と正直に答える。ナズーリンは「そうか」と何でもない様に答えるが、内心ちょっと悔しい。本気で考えて、本気で遊んでしまった。少しだけ清々しいのも恥ずかしい。

 

「まあ、さっさと終わってよかったよ」

 

 とナズーリンは正反対のことを言う。こいしはぱちぱちと瞬きして「あ」と立ち上がる。膝からずり落ちたナズーリンが頭を打ち、手で押さえて転がる。

 

「そうそう。貴女にこれあげる」

 

 こいしは部屋の隅に置かれていた「板」を手にして、またナズーリンの前に座る。そのまま「はい、これー。おめでとうー!」とにっこり。こいしはタブレットをネズミに手渡す。

 

「ああ、そういえば、そうだったね」

 

 起き上がりつつナズーリンはタブレットを抱える。はあ、とため息をつく。本当に疲れた。楽しかったとは口が裂けても言えないだろう。そんな彼女の頭に小さな手。こいしはナズーリンの頭をなでなでする。

 

「よしよし」

「やめてくれないか、子供じゃないんだ」

「顎の下?」

 

 と顎の下を撫でるこいし。

 

「猫じゃないんだ!」

 

 少しムキになってナズーリンは言う。全くともう一度ため息。達成感は少しある。

 

「それじゃあ、私はこれをご主人様に返しにいかないといけないから。まあ、君も頑張ったよ。それじゃ」

 

 がっしりとこいしがナズーリンの肩を掴む。にこにこしながら、引く。

 

「負けた時にはフュージョンの約束だったわ。できるだけ大勢いるところでやると成功するかも」

「い、いや。……いやだ! あんなことしてたまるか! 忘れたふりしていたのに! は、はなせぇ!!」

 

 ナズーリンの首根っこを掴み、こいしはどこかに引きずっていく。

 

 


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