東方Project  ―人生楽じゃなし―   作:ほりぃー

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27話

 

 少女は海を見る。

 海岸線のうねる道をタクシーは走り、窓の外に見える夏の景色に心が癒される。

 心地よい空調の効いた車内。昨日は遠く南まで飛行機で行き、今日急いで帰ってきた。体はどことなく重い。身体的疲れよりも心理的な疲れの方が大きいだろう。

 彼女はタクシーの後部座席に座りながら、今日の予定を考えている。夜は「斬る」相手がいる。しかし、温泉地で受けた甚大な心理的なダメージを癒すために無性に誰も知り合いのいない場所へ行きたくなった。姿勢を正し。両手を膝に置き、背筋を伸ばしたこの少女。白い髪に緑のベスト。それに無理やり車内に詰め込んだ長い刀と別のもう一振り。

 どこにでもいる普通のアイドルである。

 彼女が車内の窓に顔を近づけて、遠くを眺める。大勢の集まる砂浜が見える。声は聞こえない、何をやっているのかは知らない。それでも水着姿ではしゃぐその人と波を見るだけでなんとなく嬉しくなる。

 人の楽しんでいるところを見て嬉しいと思える彼女は、とても純粋なのかもしれない。それはいろいろと利用されていることに繋がってもいるが、美点であることは間違いない。真っ直ぐな性格なのだ。

 タクシーはカーブを曲がる。見れば海水浴客用の駐車場とその前の広場、車は満杯だと一目で見える。そう、一目だけそれが見えた。

 広場の人だかりで灰色の髪をした少女と光るような緑の髪の少女がへんてこりんなポーズを決めている。なんだろう、と思う暇もなくタクシーはその前を通り過ぎてしまった。それはとあるネズミの苦悩の果てに行った地獄の苦行であるが、降り注ぐ陽光の下では関係がない。むしろ微笑ましい顔で少女は見送った。

 少女は運転手に声を掛ける。

 

「ここで止まってください」

 

 少し歩こう。と思う、潮風と共に。

 

★☆★

 一回戦が終わり、河城にとりはふうと息を吐いた。

 その顔は面白くなさげであるが、内心は全く違う。近くに霊夢や水蜜が居なければ小躍りして悦びたいくらいであった。小柄で容姿「は」愛らしい彼女が小躍りすればなかなかに可愛いかもしれない。

 実際の試合はナズーリンがダイレクトアタックを受けて退場してしまったが、それ以外はおおむね計画通りである。飲み物の売り上げも順調。闇取引は快調と幸先がいい。にとりは頭の中のそろばんを弾きながら、遠くを見ている。

 

「あの計画まで……まあ、あとちょっとくらいかな」

 

 にとりは海の家で商売する上でとある「計画」を立てている。そのためにも今は幻想郷の少女達にしっかりと働いてもらわなければならない。彼女は指をぱちんと鳴らした。河童の合図である。

 すかさず一人の河童が寄ってきてにとりに紙切れを渡す。そして即座にいなくなった。

 その紙切れにはいくつか文字が書かれており、それが丸でかこまれている。「一」「寅」「こ」

「ねずみ」といった具合であり、その横の数字が描かれている。

 

「ふーんあの尼とか金髪が売れてるね。意外とネズミも人気かぁ。もちっと値段を吊り上げればよかったかな?」

 

 涼しげな顔で邪悪なことを言うにとり。ふんふんと満足げに頷きつつ「ん?」と首を傾げた。紙切れの端っこに「に」と書かれた文字。丸で囲まれており、数字が描かれている。おそらく商品として売れたのだろうがなんのことかわからない。

 

「なんだこりゃ。に、って誰だ?」

 

 自分も知らない何かの暗号らしいが、とりあえず売れたのなら文句はない。企業とは営利の最大化を目的としているのだ。従業員が裏で静かなる反抗をしているくらいは笑って見逃すくらいの度量は経営者には必要だろう。

 にとりは確認した紙切れをびりびりと破ってゴミ箱に捨てる。証拠は残さない。それに今からちょっと忙しい。彼女は海の家を出て、バレーコートに向かう。

 試合が終わってもがやがやと賑わっているそこ。にとりはパーカーに両手を突っ込んで背筋を無意識に曲げながら近づいていく。見れば勝者である一輪と寅丸が大勢に囲まれているらしい。

 らしいというのは、にとりからは見えないからだ。それだけ人だかりができている。

 ただその中から「サインください」だとか「デビューはいつするんですか?」などと、いくらか勘違いしている声が漏れてきている。それに返答する尼と毘沙門天の返事ははかばかしくはない。

 一輪などはサインの要望に対して、

 

「ふ、筆が無いから」

 

 と時代錯誤な返答している。寅丸は何故か子供にじゃれつかれている。砂遊びを一緒にやった仲であるから、彼女は悪い気はしていないのかもしれない。にとりは人だかりの一歩後ろで両腕を組んで、じっと待っている。

 本当であれば少し話したいこともあるが、これはこれで面白そうだから放置しようかと彼女は考えている。しかしそれでは時間が進みやしない。彼女は仕方なくマイクを一本持ってこさせると「あーあー」とマイクテスト。

 

「みせも……あー皆さん選手は疲れていますんで、サインは全て終わった後におねがいしまーす。あと写真は禁止でーす。ほら離れて離れて」

 

 にとりはほらほらと人だかりを手で払い、一輪と寅丸の周りから人を遠ざける。一輪などは河童がかばってくれていると勘違いして「河童……」と感動したように言う。写真を撮られることまで禁止にしてくれるのはありがたい。涙が出るほどだ。

 河童としては単に写真が欲しければ買え、というだけなので「なんで涙目で私を見ているんだこいつ?」としか思えない。しかし河城にとりは物怖じしない。人だかりを手際よく払う。

 一応観衆は顧客であるが、にとりはしっかり駄目なものは駄目だという。少し冷たいくらいに彼らをコートの外にやる。スタッフには頼もしい河童かもしれない。そうしてから一輪にマイクと新しいカンペを渡す。

 

「ほい」

「えっ? これは?」

「司会だろう。それじゃ、あとは頑張って」

「え、ちょ、ちょっと」

 

 とりあえず子供に囲まれている寅丸だけを連れてにとりは外に出ようとする。他の河童達が人だかりに向かって拡声器でコートの外に出るようにただしている。ただし、尼は出ることはできない。それでも焦った一輪は背中を見せて行こうとする寅丸の肩を掴まえて

 

「ま、待って」

 

 と懇願するような目で言うが、寅丸は寅丸で振り向きもせずにこう返す。

 

「これも修行です」

 

 方便というものが仏教ではある。寅丸は巧みにそれを使用してそそくさと離れていく。にとりはちらりと二人の少女を見たが何も言わない。一輪は一人でまた残されることになった。

 

★☆★

 寅丸は海の家の裏で座り込んだ。近くにはにとりが居る。

 

「ほい。とりあえず一回戦突破おめでとう」

 

 キンキンに冷えたアーク・エリアースをにとりは手渡す。そしてから彼女は手近にあったゴムの浮き輪に腰掛ける。寅丸はその飲み物を受け取り、軽く礼を言う。それから開けてぐびりと飲んだ。

 試合で運動した体に冷たいスポーツドリンク。ほのかに甘い味。思わずぐっと彼女は飲んでしまう。ペットボトルを傾けて、喉を鳴らしながら。唇から離すときに少し音がする。それから彼女は脱力したように肩を落とす。

 

「ああ、おいしいですね」

「あんたCMに出られるかもね」

 

 にとりはちょっと自分も飲みたくなってしまった。だが持ってきていないから悔やむ。おいしそうに飲む毘沙門天がちょっとうらやましい。

 

「まあ、すごい盛り上がったし。結果は上々だったよ。あんたも本気だったしね」

「……勝負とは手を抜けば相手に対して非礼に当たります」

「ふーん。私には単にムキになっているようにも見えたけどね」

「そ、そんなことはありません」

 

 にとりは少しにやっとする。それを見て寅丸は眼を閉じてふんと鼻を鳴らす。毘沙門天の代理とは聞いていたが、存外「普通」なところがあるとにとりは思った。

 遠くからは笑い声が聞こえてくる。にとりが一輪に渡したカンペはいろいろと思いついたことを書きなぐったから、真面目な尼に読ませればさぞ面白いのだろう。要するに雲居一輪が一人バレーコートで役に立たないカンペを手に司会進行をしているのだ。

 それを思うとにとりは、くすり。少女らしく無邪気に微笑む。

 寅丸はそれを意外な顔で見る。少しイメージと違うらしい。ただ、彼女にはもう一つ気になることがあった。

 

「そういえばナズーリンはどうしたのですか? あの程度なら怪我はないでしょうが……」

「なず? ああ、あのネズミ科の。さっきあの相方に連行されて行ったみたいだよ」

「ああ、遊びに行ったのですね」

「へえ、あんたってそうとるんだ。あれは子供と遊ぶタマじゃない気がするんだけどなぁ」

「でも、意外と面倒見がいいのですよ?」

「それは、うん。わかるよ」

 

 寅丸とにとりはくすくすと笑う。ネズミはかなり意図的に周りに冷たく当たる、それに策を練って普通におぼれる。だから欲深いように見えるが実は義理堅い。そもそもこの試合に参加した理由もこの二人は知らないが、寅丸の為である。

 それでも寅丸はナズーリンの性格上「何かなければ」こんなことには参加しないことは知っている。

 

「伊達に永い間一緒にいるわけではありませんからね」

 

 寅丸はナズーリンのことをよく知っている。普段考えていることはよくわからないが、最終的にあの灰色の髪の食いしん坊が寅丸にとって悪いことをしないことを知っている。それはお互いを知った上での信頼であろう。

 にとりは聞く。

 

「あのネズミは結構食わせ物なところがあるんじゃないかな? 飼い主としてそこらへんはどうなのさ。しつけも必要なんじゃないの?」

「かい、ぬし。ふふ。それはあの子が聞けば怒りそうですね。確かにナズーリンはいろんなことを考えていますからね。ただ……あの子はきっと人のことを良く見ているのです」

 

 寅丸は河童を真っ直ぐに見る。大きな瞳に黄金の瞳。

 

「ナズーリンは常に相手のいいところも悪いところも真っ直ぐに相手のことを見ています。少し口にする言葉はひねくれているかもしれませんが。そもそもどんな知略も相手を知らなければ成り立ちはしません。彼女はああ見えて、一番他人を気にしているのです」

「単純に臆病なんじゃないの?」

「そういってしまっては身も蓋もありませんが……それでも、あの子は誰に対してもそっけない態度をとる代わり、誰であろうとみています。それでももう少し慈悲の心を学んでくれればいいのですが……」

「…………飲酒をして捕まったやつだからね」

「…………嘆かわしいことです」

 

 はあ、とため息をつく寅丸をにとりはちょっとからかってやりたくなった。彼女は肘を太腿にのせて行儀悪く片肘をつく。ほっぺたを手にのせるようにして、細めた眼で寅丸を見る。

 

「実はあんたも隠れて酒を飲んでるんじゃないの?」

「………………」

 

 寅丸は眼を閉じて、息を吐き、静かに言う。

 

「そんなわけありません」

「わかりやすいやつだなぁ」

 

 苦笑するにとりと冷や汗をかいている寅丸。仏の化身と言っても根本的なところが抜けていない。それでも堅苦しいことよりもにとりはそんな相手の方が好みではある。彼女は立ち上がってお尻のあたりの砂を払う。

 

「そんじゃ、次も頑張ってね。しばらくここで休んでいるといいよ。もう一人の相方はこき使うからさ、あの一輪とかいうの」

「こ、交代させてあげてはどうでしょう」

「あんた代わりにやるかい? 別に私はそれでもいいけど」

「……一輪。これも修行です」

 

 くっくと笑うにとり。彼女はまたパーカーに手を突っ込んですたすたと歩いていく。選手が休んでくれれば次の試合頑張るだろう。それはにとりとしても望むところなのである。海の家の裏手から彼女は角を曲がる。

 

「ああ、あんたいたんだ」

 

 そこには背中を壁に預けるように立っているネズミが一匹いた。心なしかげっそりしている。そしてその胸には大事に抱えたタブレット。ご主人様が大切にしている持ち物である。それを持ったまま彼女は寅丸に見えない位置に居たのだ。無論話は聞いていただろう。まさにネズミである。

 

「河童君。随分好きに私の陰口を言ってくれたね」

「陰口だって? 私は何も言っていないよ。ただ、あんたのご主人様があんたはよーく相手を見ている良いやつだって言っていただけさ」

「……ちぇ。節穴もいいところだよ」

「そうかなぁ。ま、いいや。それよりもあんた口だけだね。スパイするって言いながら全然役に立っていないじゃないか。全く」

 

 ネズミことナズーリンは深いため息をつく。返す言葉が無い「のではない」。単純に今日のことはいろいろと疲れているのだ。特に最後の古明地こいしと一緒に合体もどきのポーズをさせられたのが精神的にトラウマになりそうである。

 

「それは早合点という物だよ河童君。私はね、君たちが試合中に『妙な物』を売っていたことを知っている。こそこそしててもばれているんだ。あまりネズミを嘗めてはいけない」

 

 にとりはぱちぱちと瞬きして、にっこり笑う。

 

「よく他人のことを見ているんだね」

「……っ」

 

 ナズーリンは眼を見開いて、ほんのり頬を染める。それから余計なことを言ったと悔やんだ顔をする。少し恥ずかしい。ただ、こほんと咳払い。わざとらしい。

 

「ま、まあ。それはいい。君には私の分の販売は中止にしてもらいたい。忌々しいことだけどどうせ売っているんだろ」

「ふーん。見返りは」

「…………」

 

 ナズーリンは手者タブレットを指でなぞる。映った画面にパスワードを打ち込む。寅丸が落としたときはロックがかからず、他人に好きに使われてしまっていたのだ。だから取り戻してから即座にロックを掛けておいた。

 彼女は写真フォルダを開く。画面に映ったのは麗しい少女。白い水着をまとい、蒼い海をバックにピースしている毘沙門天の画像であった。ナズーリンは無言でタブレットの画面を河童に見せる。

 

「これで不足かい?」

 

 にとりはポケットからスマートフォンを取り出す。眼に浮かぶ「\」のマーク。素晴らしい写真である。

 

「ブルートゥースで通信できるよね」

「もちろん」

 

 主人の写真を保身の為に売り払うネズミと打算にたけた河童の取引。にとりはスマートフォンにデータを収めてからにやりと笑う、ナズーリンもつられて黒く笑った。

 

「好き勝手私のことを言ったご主人様へお灸をすえるのは悪いことだと思うかい? 河童君」

「いーや全く。全然」

 

 ナズーリンは満足げに頷き、タブレットを小脇に抱える。小柄な彼女が持つと意外に大きい。彼女は砂浜に足跡を残しながらぺたぺたとにとりの横を通る。今からタブレットの「持ち主」に返しに行くのだろう。

 にとりはスマートフォンを指でフリックしながら、つぶやくように言う。

 

「あんたは他のやつのことをよく見ているけど、あんたのご主人様はあんたのことよく見ていると思うなぁ、どう思う?」

「…………」

 

 ナズーリンはふん、と鼻を鳴らしてから歩き去る。答えないことしか不器用なネズミにはできない。

 

★☆★

 

『さーて、これから第二回戦の組み合わせを発表したいと思います』

 

 涙目で必死に「司会進行」を務めている雲居一輪がそこにいた。手にはマイク、傍にはおかっぱ頭の河童が中にチーム名の載ったボール入りの箱を抱えている。にとりの渡したカンペは意外に分厚くここまで進めるのに時間がかかった。

 カンペには観客に投げキッスだとか、ウインクだとか悶え死にそうなことが描かれており、一輪はできるだけ不真面目に黙殺していた。しかし如何せん一回戦での彼女の勇姿を慕って人は増えるばかりである。

 そんな中にとりも戻ってきた。スマートフォンをポケットに戻して、海の家に入るとアーク・エリアースを一本ぐいっと飲む。海の家も中々に盛況らしい。河童達が忙しく立ち回っている。霊夢達は外に置いておいたベンチに腰掛けている。

 水蜜は一輪の「勇姿」をにやにやにやにやと見ている。同僚の不幸は蜜の味である。にとりはそれをちらりと見てから、なんだかんだいっても一緒に座っている霊夢にくすりとする。

彼女はそれからにぎやかな海の家の周りを見る。

 幻想郷では見ることができるだろうか。少なくとも人間と妖怪が普通に存在し合っているこの状況は幻想郷の「ルール上」あり得てはいけないだろう。最近ではかなり緩くなっているとしてもだ。にぎやかに過ぎていく時間、普段は喋らない相手と親しく話すことのできる今。

 

「所詮、これは一種の祭りなんだ」

 

 にとりは誰に言うでもなく呟く。多くの人が集まる祭りはどこの世界の人間でも妖怪でも大好きである。そして、だからこそ祭りが終わるときの寂しさを知っている。だからだろうかにとりは一度胸に手を当てる。そして直ぐに外す。

 

「さて、とりあえず楽しむかな」

 

 いつものあくどい顔をして金儲けを考え始める。念願という訳でもないが毘沙門天の特別プロマイドを手に入れた。にとりは海の家に置いておいたパソコンを持ってきて開く。どうやらまだ「WinMac10」とやらにはアップデートが終わっていないらしい。彼女は仕方なく商品のソーダアイスを持ってきて口に咥える。

 細めの青いアイスで名前は「アイス・ソード」という。剣っぽい形をしていないでもない。はむはむと口に咥えたままにとりはパソコンをたたんだ。

 

★☆★

 

 人は極限状況に置かれるとテンションがハイになる場合がある。それが元人間である雲居一輪にも特性として残っていてもなんら不思議はないだろう。彼女はおかっぱ頭の河童が持っている箱に手を突っ込んでマイクに叫ぶ。

 

『よーし二つ同時にひくわよー!』

 

 なんの意味もなくみょんなことをし始める、それがハイになってしまっている証左である。彼女は片目を閉じて舌をちょっと出して唇を嘗める。わずかに片足のかかとを浮かせている。

 手に二つのボールの感覚。きらっと光る一輪の瞳。彼女は勢いよく箱からそれを取り出す。

 いちいち動作が大きいので観客も「おおぉ」と歓声を上げる。一輪は高々と二つのボールを器用に片手で掴んだまま、天に向かって手を上げる。

 

 ボールは二つ。一つは「お値段異常にとりチーム」。もう一つには「地獄烏の閻魔様チーム」と書かれている。恨み連なる河童ボールを引き当てた一輪は清々しい笑顔になり、さらにファンを増やした。

 

 そんなとき、歓声を聞きつけてふらふらと歩い来る一人の白い髪に黒いリボンの憐れな少女がいた。まだ彼女は己の不幸には気が付いていないが、無邪気に「なにかしら」などとのんきしている。次の試合に出る河童がスケープゴートを探しているなどと想像できまい。

 

 

 

 





海の家の裏側で嬉しそうにタブレットを抱える金髪の女性が居た。
彼女はそれを持ってきた従者にお礼いいつつ流石だと褒めて褒める。

其の従者は後ろを向いて、ぺろりと舌を出す。腹黒いところを見せているのだろう。
その頭にご主人様の手が乗り、優しくなでてきた。

とりあえず二秒くらい許してから、従者は「こどもじゃないんですよ」と怒った。

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