東方Project  ―人生楽じゃなし―   作:ほりぃー

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こんばんは。おまけです。本編とは殆ど関係ありません。



おまけ 名前はないけど

 わがはいは妖怪である。名前はまだない。

 なんて人間の書いた猫の本の真似をしてみる。私にはちゃんと名前がある。ただ、独りで自己紹介なんて変人な真似はしない。それにここは図書館。ちゃんと黙っていないとつまみだされる。

 私は妖怪。別に言うべきことでもないけど、特徴といったら本が好きなくらいだろうか。幻想郷では貴重な書物も外の世界ではうなるほどある。ふふふー。いけない。おもわず顔がにやけてくる。

 結構前に暴力巫女から追いはぎに会った時は本を数冊強奪されたっけ。あれはひどかった。とりあえず今は図書館の長い机に本を積み重ねて朝から読んでる。このごろは人間の管理人? いつも図書館にいるやつから挨拶されることもある。

 私は妖怪だ。人間とじゃれあうなんてしない。だから挨拶にはまあ、うん。会釈するくらいはいいだろう。それくらいはオッケーだよね。

 うん。

 他のやつらはいろんなところに散っていて、クリーニングや定食屋なんかをしているみたい。人間の世界は働かないと食べていけない。どんなに強がってもくうくうお腹が鳴ればひもじいとよくわかった。

 こちらではあのときの巫女みたいに強盗はできない。けいさつこわい。

 だから私は平和的に暇なときは読書しているの。これが一番お腹が減らない方法。走れメロスみたいなことをしていたら直ぐに食費があがっちゃうわ。アルバイトの給料もう少し上げてほしいな。

 

 ふぁーあ。お腹減った。いい天気だし。

 だってしかたないじゃん。本を読むのだってエネルギーがいるのよ。それにもうお昼時だしね。だからとりあえず机に置いておいた本を片付けないとね、よっと。おも。欲張りすぎたかなぁ。まあ、大丈夫だいじょうぶげ!

 

 いたた、こけた。

 本をばらまいちゃったわ。人間達が心配そうによってきているけど、大丈夫よ。私のことはほっといて……あ、ありがとうございます。

 会釈くらいはしてやるわ。本を集めるのを手伝ってくれたしね。

 

 ★☆

 

 図書館から外に出るだけで汗が滲みでてきたわ。

 ああークーラーの効いた部屋って天国ね。家にもあればいいんだけど、あるのは古ぼけた扇風機くらいね。夜は暑くて仕方ないわ。

 蝉がみーみんうるさいなぁ。遠くのアスファルトがゆがんで見える。ああ、もうシャツがべとつく。いやだいやだ。とりあえず図書館の隣にある小さなカフェにいこうかしら、あの豪族のところじゃないわよ。

 

 てくてく、からからーん。

 ドアを開けて無言でカフェに入ってカウンター席ににどっかり座って手繰り寄せたお品書きをぱらぱら。決まりきったいつもの動きだから、こわいくらい完璧な気がする。

 このカフェはちょっとおしゃれな場所で私が座っている椅子は背が高くて、足がつかない。ぷらぷら両足を動かしてみる。意味なんてないわ。

 店に居るのはいつも銀髪の人。幻想郷でも見たことあると思うけど、メイドっぽい恰好をしているわ。どうでもいいかな。それよりも今日のカレーはどうしようか、な。

 

 カツカレーにするか、カレーにするかっ。うーん、うーん。うううーん。お金ないしなぁ。でもなぁ。ここのカツカレー美味しくて好きなのよね。うーん、うーん。うん、決めた。

 サンドイッチください。

 しかたないじゃん。お金ないんだもん。あ、コーヒーは食後に。

 てきぱき注文した私に店員はにっこりして奥に引っ込んでいくわ。周りをみても私以外お客がいないから静か。店内に掛けてあるクラシックも私は好きだな。あの八目うなぎを出すあいつのやかましい音楽はいやだけど。

 

 こういったところでポケットから文庫を出すのが、私のたしなみ。

 静かなカフェで小さな文庫をめくる。なんとなくこの瞬間が好き。食事が運ばれてくる間のちょっとの時間の息抜きね。まあさっき図書館でいっぱい読んだけど。

 それでもさなだたいへいき、はやめておいた方がよかったかしら。空気に合っていない気もするけど、いいかな。いつもいる吸血鬼はどこにいるのかしら。

 

 そうしていると店員が私の前に食事の用意をしてくれる。まるいグラスに氷いっぱいの水。長方形の小さなバスケットにいれたフォークやスプーン。そして大きな皿には赤い何かが大量にかかった御飯

 なに、これ。

 どうみてもサンドイッチではないわ。ちょっと私こんなの注文していないわよ。え、赤カレー? 新しい商品の試食をしてくれって言われてもお金ない、え? 無料なの。先に言ってよ。

 ほかほか御飯にかかった赤いカレー。ところどころにお肉があって、いい匂い。思わず笑顔になってしまったけど、不可抗力。これでただは素晴らしいわ、でもなんで赤いのかしら。幻想郷ではこんな色の食べ物はないからなぁ。

 でも安心。こっちに来てからみょうちくりんな美味しいものをいっぱいたべたから、そのあたりは信頼できるわ。特にカレーのまずいことなんて、きっとない。だからいただきまーす。ぱくり。

 

 ぴぎぃい。

 ひーひー。か、からい。なにこれ。水、みずぅ。ぐびぐび。

 なによこれ! とうがらし? なにそれ? か、からい。唇がひりひりする。ちょっと店員、笑っていないで。え? 全部食べないと料金を取るって、お、おうぼうよ。こ、こんなの全部たべられるわけないじゃない。 

 ……な、なんで私の文庫本を持ってるの、い、いつの間に取ったのよ。あ、やめて。カレーにつけると汚れが絶対取れない。わかったわよ。食べるわ。食べればいいんでしょ。

 

 私は椅子に座り直して目の前にある真っ赤なカレーを睨みつける。手に大き目のスプーンを持って。水を注ぎなおしておく。額から汗がたらたら。ご飯を多めにスプーンにカレーを掬ってみる。

 目を瞑って、口にぱくり。辛い。それでももぐもぐとかんでやる。辛いけど、ご飯と絡み合ったカレーの味がちょっとわかってくる。美味しい。でも、辛い。飲み込んで、直ぐに水を飲まないと耐えられない。

 

 おいしくて無料だけど。これは、きつい。

 

 ★☆★

 

 ひいー。

 舌がぴりぴりする。あの全然怖くない唐傘お化けみたいにぺろりと舌をだしまま歩くのはすごく恥ずかしい。そうしないと耐えられない。タダより高いものはないってよくわかったわ。

 まあ、それでもとりあえず本は取り戻すこともできたし、まあお腹はいっぱいになれたからいいわ。

 クーラーがあるカフェで涼むつもりだったのに逆に体が熱いってどういうことかしら。……でも、赤カレーおいしかった。次も頼みそうでちょっと怖いな。あ、大丈夫ね。頼むことはないわ。高いから。

 

 アーケードをぶらぶらする。

 商店街を意味もなく歩いているとたまに声を掛けられることもあるのよね。八百屋の人とか肉屋の人とか。安くしておくよって言われても図書館のカードで払えるんなら買ってあげるわ。無理だと分かっているけど。でも、冗談で言ったらたまにお土産くれちゃうからなぁ。

 うげ。商店街の100円ショップだ。

 軒先にへんてこりんな模様の書かれた風船が置いてあるからここ通りたくないのよね。なんなのかしらあれ。あ、商品名が書いてある。鳥よけ? 私は避けられてるの? というか本当に鳥には効くのね。身をもってしるって変かな。

 そうやって私は警戒しながら歩きさる。

 そしてとある小料理屋の前。なんだか人だかりができている。あ、馬鹿だ。馬鹿っていうのはいつも烏帽子をつけた変なやつ。今日はかき氷を店の前で実演販売しているみたい。

 

 子供達が群がってる。うう。私も食べたいなぁ。

 あれ、あの馬鹿が何か言っているわ。ジャンケンで「我」に勝てれば食べられるって。

 

 気がついたら子供達に混ざって行列に並んでいたわ。元気よくじゃんけんぽんって声が聞こえてくる。負けたらああーって残念がってる子供。買ったらやったーって嬉しがっている子供。

 ふふ。

 あ、違う。私は妖怪だから人間とじゃれあったりなんてしない。微笑んだりもしてやるもんか。アルバイトはあれね、ぎぶあんどていくってやつ。

 そうこうしているうちに私の番。目の前にいるのは烏帽子を被った変な奴。ぎらぎらしている瞳で私を見てきたから、私だって睨み返してやる。

 ばちばちばちと火花が散るようなにらみ合い。よく考えたら負けた時に払うお金がない。かき氷を食べることもできずにとぼとぼ帰るなんていやだ。

 

 それじゃさーいしょはぐー、じゃーんけんぽん! チョキ。あいこ。

 やるな。と相手が言ってくる。正直周りより明らかに一人だけ身長の高い私がかき氷につられているだけで恥ずかしいからやめてほしいわ。でも、ここまで来たからにはまけてなんてやるもんか。

 それじゃ。

 あーいこーでしょ! ぱー! 勝った。やった。やった!

 

 こほん。

 ちょこっとはしゃいじゃった。悔しそうに烏帽子の馬鹿はブルーハワイのかき氷をくれる。透明なスプーンをもささっている。私はいそいそとそれを持って列から離れる。だって次の勝負に邪魔じゃない。

 備え付けられた長椅子に座る。店の中をのぞけば金髪の別の店員がいる。でも、どうでもいいわ。かき氷をいっぱいスプーンですくって口に入れる。甘くて、冷たくて、ん。おいしい。熱い体に気もちいいくらい。

 

 じゃんけんしている子供達を見ながらしゃくしゃくと食べるって、あ、やばい。んー頭がいたい。これ、なんでなのかしら。あーーきーーーんってするぅ。

 

 ★☆★

 

 からの容器を捨てる。椅子に座ったままお茶を飲む、冷たい麦茶だ。これも無料。

 ふうと息をはくと、なんだか気が抜けちゃった。別のいいかな。とりあえずポケットの中から文庫本を取ってひらく。

 ぱらぱらとめくる。続きが気になる。

 

 

 


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