東方Project  ―人生楽じゃなし―   作:ほりぃー

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31話

 地獄の沙汰はカネでは決まらない。

 全ての人と命はその終わりの「後」に裁かれる。それは法律や道徳を超越したなにかで。

 彼女の仕事はそんなもの。元々は小さなお地蔵さんだったと言われる麗しい彼女。

何者にも染まらない瞳と惑うこともない心、地獄の裁判にふさわしい絶対的な公平性を持つ彼女。

それが四季映姫・ヤマザナドゥ。この可愛らしい裁判長がそこに「座っている」だけでなんとなく侵し難い何かを感じさせる。透き通った声に濁りはなく、いつも死者へ厳正に行き先を告げる。一人として無下にすることはなく、一人として優遇することもない。

 

そんな彼女の元にある日、彼女の執務室へ部下の一人がやってきた。紅い髪を二つ結びにした「軽い」死神である。良くサボるので映姫としては悩みの種にはなっている。それによく幻想郷にも顔を出しているようでふらふらといなくなることもある。

会話はたわいもない。簡単な報告と幻想郷で流行っていることだった。

以外にあの「箱庭」はミーハーが多い。直ぐ物事が流行るし、直ぐに飽きられる。宗教騒動があった時、映姫も見物に出かけてしまったことがあるが、熱は殆ど刹那的に去った。実際とある妖怪、ともいえぬ面霊気が起こしたことだったので元凶が落ち着いたのだろう。

 

「今はこんなのが流行っているらしいですよ」

 

 ごとりと机に置かれた一枚の板。先が尖った五角形のそれは厚みが少しある。

 

「絵馬ですか」

 

 映姫は言い当てる。別に難しくなどない。部下の死神は、軽く頷く。真面目な顔をしているが映姫とて、非番の時に幻想郷へ行くことも多い。公事ではないが私事でもない。幻想郷の者たちに説教を行って、死ぬ前に悔い改めさせることをしている。ただ、中々曲者ぞろいの幻想郷ではうまくいかない。

 

「なんだか博麗神社を中心に妖怪やら人間達やらがこぞって書いては奉納しているらしいです。それで一儲けしようとしているんですかねぇ」

「あの巫女ですか」

「はい」

 

 けらけらと笑ってしまった死神はあわてて口をふさいだ。巫女とは「博麗の巫女」のことであろう。映姫は少し考えるような顔をして、絵馬を手に取る。そして手元にあった筆でさらさらと「部下が良く努めるように」と書いて死神に手渡す。

 

 むろん、神社の神様に言っているのではない。目の前の死神にそのまま言っている。

 受け取った死神はたはは、と頭を掻いてから絵馬を懐に入れる。そしてどうにかして自分から話題をそらそうとした。飄々と仕事はしたい。ゆっくりと船を漕いでいたいのだ。などと思っていると座っている映姫がじとりと見てくる。

 死神は冷や汗が出る。

 

「で、でもこんなことを書いて意味あるんですかねぇ……。世の中の願いを全て聞いてりゃ、神様も大忙しですし」

「意味は大いにあります」

「……それは何でですか?」

「世の中すべての願いはかないませんが、絵馬に書き付けること、心で祈る行為自体に嘘はないでしょう。人々のすべての声を聴いてあげることは難しいですが」

 

 いったん映姫は言葉を切る。

 

「絵馬を書くとき、それをほかならぬ自分が見ています。心で祈るとき、それも自らが聞いています。他のだれもが知らなくても、自分が知らないなんてことはない。願いとは本来そういう物よ。いわば、自らとの契約。それはある種の魔力を持っているわ」

「へー」

「…………」

「あ、いえ! ち、ちがうんですよ。今のは。映姫様のお言葉に聞き入っていたので生返事してしまっただけで、無意識に」

「…………まあいいでしょう。あまり死者と近づきすぎないことね。変なことを聞いていませんか、普段聞いていることはいずれ口に出ます。願いも同じそれを持てば人は変わる、意識するともせずともね」

 

 ため息を一つ。映姫は死神をちらりと見て、机に置いてある書類に目を通す。

 

「そう、願いはいつでも心と体を繋げているものです。呪いと願いにそこまでの違いはない」

 

 言ってから映姫は「だから早く死者をおくって来てください」と死神に伝えた。要するに仕事をちゃんとしろということだろう。

★☆★★★

 

 そんな閻魔大王とて今はしがない野球監督に過ぎない。応援席に詰めかけた人々を冷たい目で見返しながら、ちょっと誰にも気が付かれない程度に水着のお尻の部分を抑えている。観客の中には自らの指揮する少年野球団の子供達が居て、野球の応援歌を唄おうとしている。

 それはやめさせた。昔に流行った歌に合わせて、妙なことを口走る野球特融の応援歌は別段好きではない。四季映姫の名がキン肉マンに合わせて歌われた日には説教しかできまい。

 コートに立つ映姫は右側だけ長い髪をリボンで纏めている。スポーティな水着から伸びる手足は細く、しなやかである。たまにちらりと観客席を見れば、一瞬そこが静まり返る。理由は簡単である、単に美しい。

 

「あっはっはっは。覚悟してください河童!」

 

 対照的に明るく笑うお空も傍にいる。体格が大きな彼女は両手を組んでいる。どうやら映姫は「この手」の少女とは縁があるらしい。映姫の脳裏に死神の顔がふっと浮かんだ、少しは思慮的であるとしても根は一緒な気がする。

 審判はおかっぱの河童。審判台によじよじ昇る後ろ姿は少し可愛い。

 そんな無邪気なおかっぱとは別に、映姫に対するコートでは青い髪をポニーテールにしたにとりがぎらつく瞳で睨みつけてきた。その後ろには背景の様な赤毛の猫。

映姫にはなんでそうなっているのかだいたいわかる。それにもため息をつく。

 

「そう、貴女は少し直情的すぎる」

 

 小さく呟く映姫。彼女はかがんで一握の砂を掴んた。さらさらとして熱い砂。手を開けばぱらぱらと落ちていく。流石にあの死神と話している時にはこんなことになるとは思わなかった。

 今の「これ」は様々な思惑が絡み合った結果だろう。おそらく知らずに協力しているものもいるはずである。ドミノのようなものである。最初に倒した誰かがすべての元凶だろう。自分は前に出ずに何かを動かすことのできる、そんなも少女を映姫は一人思い浮かべた。

 その背中をお空がばーんと叩く。映姫はたたらを踏んで、倒れないようにする。

 

「なんですか」

 

 振り返ればお空の笑顔。何故かガッツポーズをしている。

 

「核のパワーを見せてあげるわ」

 

 会話がかみ合わない。

 ★★★

 

 ぴーと鳴るおかっぱの笛。てきとうに決めたサーブ権はにとりチームのものだった。もちろん最初にサーブをするのは河童である。対面しているのはお空。ぱんぱんと両手を鳴らしている。

にとりは上下青い水着を着ている。一応設置した実況席からちらりと「負ければいいのに……」と何輪の声がした。

 しかし、そんなことを気にするほど河童とて心は狭くない。単にプロマイドをさらに売りさばいてやると心に念じただけである。彼女は深く息を吸い。吐く。夏の熱気で体が熱い。

 

「人間とどれだけ遊んできたと思っているんだ……遊びで負けてやる気はないね」

 

 しゅっと天空に投げたバレーボール。にとりの体がが少し反り、構える。

 ぱーんと軽く打つ。芯を撃ったが勢いは弱い、事実一回戦の毘沙門天が見せた強烈さはない。それを見た瞬間お空が前に出た。

 

「貰ったわ」

 

 砂を蹴る地獄烏、にとりはサーブ位置から動かずに冷ややかに見ている。よれよれのボールが緩やかな弧を描いてお空の手元へ向かっていく。お空はぺろっと唇を嘗める。両手を組んで思いっきりレシーブしようとして、空ぶった。そのまま勢い余ってよろけた。

 弱く、砂場に突き刺さるボール。先制点はにとりである。彼女は映姫をジロっとみて片手を上げる。瞬間応援席からがワッと沸騰した。

 

「???????」

 

 歓声の中でお空は疑問符を浮かべている。何故取れなかったのかさっぱり分からない。

 しかし、映姫や観客からは見えた。つまり傍から見ればわかった。にとりのサーブは殆ど回転せずによれよれと向かっていった。お空の手元で妙な変化をしたことも横から見ればわかる。

 

「なるほど、無回転でのサーブ……ナックルですか」

 

 野球用語で説明してしまい、はっと映姫は口元を抑える。ナックルとは変化球の一種である。特殊なボールのにぎりで回転を抑え、どこに曲がるかわからない軌道を描く。過去には魔球として持て囃されたこともあり、今にとりがやったことも原理としては同じである。

 映姫は片手を上げて挑発的な顔をしているにとりを見た。

 河童、それは人間に最も近いであろう妖怪である。古代から水辺に住み着き、人々との間で多くの伝説を残している。それは天狗などと比べてもなお多いかもしれない。特に相撲などで人間とあそぶ妖怪と成れば筆頭と言っていい。

 

「…………」

 

 映姫はまだ迷っているお空に近寄る。彼女は手元で曲がったボールの原理がよくわからない。

 

★☆★

 

「いちりーん」

 

 肩を組みながら水蜜が一輪にちょっかいを掛けている。河童達が勝手にかつ、急造で作った実況席であるが、試合が始まって見れば黙りこくっている。当然と言えば当然なのだろう、一輪としても別に目立ちたいわけではない。

 語弊の無いように言えば一輪は目立ちたがりではある、単に肌をさらしていたくないだけである。妖夢は横で姿勢良く座っている。

 そんな一輪にどこか手に入れたのか酢昆布をくちゃくっちゃわざとらしく噛みながら、にやにやと水蜜が一輪を見ている。彼女はからかいに来ただけで直ぐに戻るつもりであろう、可愛い妹分を放っておくようなことはしない。からかえる時にはする。

 

「あんた……何しに来たの」

 

 青筋を立てながら一輪が睨んで来る。それをできるだけうざい顔をしながら水蜜はにやにやする。なんでこういうことをするかというと、さっき剥かれたからである。ある意味正当な復讐なのだ。

 

「いえいえ。実況さんが頑張ってるか見に来たんですよ」

「余計なことだから早くもど……」

 

 れ、と言いかけてそれはそれで水蜜を逃がすことになる。むしろ無駄に注目度だけ高いこの場に居させた方がダメージはあるだろう。

 

「こほん、まあいいわ。水蜜こそ次か次あたりに試合でしょう。河童に当たらなければそれなりに強敵なんじゃないの?」

「私と霊夢さんなら大丈夫でしょう」

「……あんた。聖様に当たったらどうするの」

「……!」

 

 目をぱちくりさせる愛らしいキャプテン。彼女はにやりと歯を見せて微笑む。

 

「遊びは全力でやるものよ? あんただってそうするでしょう?

「まーね」

 

 頬を指で掻きながら、困った様な顔で苦笑する一輪。これから未来、とあるヘンテコボールを集めるときに「大変失礼なこと」を聖白蓮に口走る彼女である。妖怪である彼女を真面目一辺倒に考えていると間違える。

 

「よし、そろそろ戻りますかね。霊夢さんも寂しがっているでしょうし」

「それはないと思うけど……」

「いやー結構あの子は……からか、かまいがいがあります」

 

 目を瞑ってうんうんと両手を組んでうんうん頷くキャプテン。一輪はははと乾いた笑いをしつつ、さっき地獄烏が両手を組んでた時は「載ってたな」と思い、キャプテンの首から下あたりを見る。すらりとしている。

 何も言わない一輪に気が付かず、水蜜はその瞳をコートに向ける。さっき青い髪の河童がやったことを彼女は思い出す。無回転ボールである。一回戦の毘沙門天やこいしの技は難しくとも、

 

「あれなら」

 

 ぎらりと光る瞳。いたずらを考えている悪い顔。

 魂魄妖夢は真顔でコートを見ている。解説らしいがすることがない。

★☆★

 

 続けてにとりがサーブをする。胸に空気を吸って、吐く。じりじりと焼かれる肌が心を熱くさせてくれるような気がする。とりあえず奇襲としての攻撃はうまくいった。ただ今度はボールを取るのは映姫だ、同じ手は通用しないとにとりは分かっていた。

 

「それじゃあ、やっぱり」

 

 にとりは片手に構えたボールを低く構える。それをふわりと投げた。今度は高くない。

 下から右手で突き上げるように叩く。バィンと音を立てて上がるボール。高く弧を描きながら相手のコートに行く。

 映姫は太陽の光に惑わされない様に気を付けながらボールの下へ素早く回る。あの打ち方では変化球など不可能であろう。それであればレシーブは容易である。下手打ちのサーブなどその程度である。

 数秒、落下まで時間がある。映姫の眼が動く。お空の位置が悪い。

 

「三歩、前へ行ってください」

 

 短く伝えるとお空は「え?」と言いつつ、三歩前へ進む。ネット際。

 映姫はそれを確認した後、膝を柔らかく構え、両手を組む。ぱんと綺麗に落下球を受け止める。上がったボールはちょうどお空の上空、絶好のスマッシュ・ボール。

 

「来ました!」

 

 きらきら光るような笑顔で待つお空の首元でペンダントが揺れる。先に説明した通り、このコートのポールとネットはわずかに正規より低い。それは盛り上げるための要素である。だからこそ体格の大きなお空がさらに有利なのだ。

 お空が砂を蹴り、飛ぶ。観客が湧く。決まるだろうと一身に期待と声援を受ける。

 

「こっちだ。こい!!」

 

 にとりが叫んだ。コートの奧である。レシーブの構えをしている。お空の眼に「めら」と燃える勝負の炎。映姫は「まずい」と瞬時に判断したが、伝えるすべはない。

 

「メガ!」

 

 消し飛べ河童の気合と共にお空がアタックする。振り上げた右手が勢いよくボールを叩く。

 

「フレア!!」

 

 直線、にとりに向かって打ち出されたスマッシュ。にとりは近づくそれに「かかった」と不敵に笑った。彼女は、構えを解いてとてとてと横へ「避け」た。一瞬あと彼女のやや後方にボールが突き刺さった。コートラインの向こうである。

 ぴーと鳴るおかっぱ。それから「アウト」を宣告する。にとりはわざわざコート後方でお空を挑発してきたのはこの為である。有り余ったパワーは利用するに限る。会場から「ああー」と嘆声が漏れる。

 

「けけ」

 

 にとりは次の策を考える。本来一回戦でねずみも同じことをしたかった可能性もあるが、彼女は相方の「古明地こいし」に精神的、物理的にふりまわされてできなかった。その点この腹黒い河童は幸運である。普段は仄暗い水の底からやってきたような河童である。黒い波動をだしているような錯覚すら感じる。

 

「おやびん、すごい!」

 

 とお燐が近づいてきた。にとりは「ああ。ありがと」とそっけなく返す。お燐はにゃははと笑う。おそらくお空が元気になって嬉しいのであろう。それはそれとして河童は彼女をことを冷ややかに見ている。元々クーデターに参加していた彼女である。

 

(反乱なんてしてただで済むと思っているのかな?)

 

 と思いつつ、

 

「これで二点先取だよ。張り切っていこうぜ!」

「おおっ!」

 

 ハイタッチとかする。ぱーんと手を仲良くならず可愛らしい少女達。一方の腹の中は泥が出そうな暗さである。証拠にくるりと振り向いた河童の顔はこれ以上ない程あくどいものである。にとりチームに足りないのは攻撃力である。それには「お燐」を捨て猫にするしか方法はない。

 

「く、くっそー。次こそは」

 

 悔しがるお空の肩をぽんと叩く映姫。彼女はお空を優しく見つめつつ。

 

「いいですか。コートの中央付近を狙って打ってください。仮に河童を倒すことが出来なくてもそれで充分です」

「で、でもそれじゃ」

「でもではありません。そもそもこれはビーチバレーであってボクシングではないのです」

「は、そうね! 流石監督!」

 

 なんか納得してくれたらしい。映姫は眼を閉じる。ここでお空を責めても何にもならない。むしろテンションが高いことを維持しつつ微妙に修正をする気だった。短い攻防を制したにとりチームではあるが、映姫は地力を見抜いていた。

 いくらにとりがトリッキーな策をつかおうとも、パワーではお空がその他のことには映姫が対応できる。長期戦ではまず間違いなく勝てるだろう。

 それでいいのだ。映姫がこの勝負に出たのはお空のためが9割である。しかし、流石に能力の使えない四季映姫には河城にとりの邪悪さが算出できていない。

 

 仕切り直しである。サーブはにとりである。彼女はまた無回転ボールを撃つだろうか、と映姫は予想した。むろん外れる。今度は情け容赦ない本気のサーブを撃つつもりである。にとりは少し前にいるお燐にと、

 

「あーもうちょっと右にきてよ」

「はーい」

 

 とポジションの調整をしている。そこにいては駄目である。

 

「あ、いいよそこで」

 

 にとりはいい位置についてくれたお燐を止める。とてもいい位置である。

 

「ところでさ、お燐」

「はいおやびん」

「先に言っておくけど。ごめん」

「はい?」

「いいや、こっちの話」

 

 しゅっと河童がボールを天空に投げる。狙うは一点。反逆者の頭。鈍く光る河童の両目、と容赦ないサーブの動き。打ち出された右手がボールと接触して、一直線にお燐――

 

★☆★

 

 

 哀れな猫が伸びていた。着飾った水着で寝ころんでいるので少しなまめかしい。眼はクルクルと動いているから気を失っているのは間違いない。これは事故である。

 にとりはうるると眼をうるませて、

 

「こ、こんなことになるなんて」

 

 わざとらしく言う。何故かネズミとこいしが持つタンカーがやってきて、お燐を載せるとどこかに連れて行った。先導するのはこいしである。はっきり言って、どこへ連れていくのか誰にもわからない。

 

「あーあ」

 

 にとりは言う。ざわざわとしている会場。まさかこんなことになるとは映姫ですらも分からなかった。お空はこいしを追いかけて行った。だから映姫だけがにとりに言う。

 

「わざと棄権……ですか?」

「はあ? 誰がそんなことを言ったのさ。負ける気はないよ」

「それはどういうことでしょうか」

「まんまさ。まだ試合は始まったばかりじゃんか。選手交代くらいは認めてくれるだろう?」

 

 にとりは映姫に薄ら笑いを見せつつ、観客席に近づく。そして途中で歩みを曲げて、実況席へ。そこにいるのはちょっかいを掛けるキャプテンと尼、そして、アイドル。

 にとりは呆けている一輪からマイクを貰うと、実況席に腰を預けたまま、観客に向かって言う。

 

「みなさん、選手交代のお知らせをいたします。今負傷しましたお燐選手に変わりまして」

 

 あくどい顔を妖夢に向ける。

 

「アイドル街道驀進中の魂魄妖夢さんが水着で参戦します。あしからず!」

 

 一瞬の静寂の跡、立ち上がる観客たち。だんだんと大きくなる声、地鳴りがするような拍手。わあわあと盛り上がる会場がそこにあった。にとりは口を開けて放心している妖夢に顔を向ける。実況席はパラソルがあるから影になった河童の顔はとても悪い顔だった。

 ただ、それが彼女の一番の魅力なのかもしれない。

「ということで、水着。宜しく」

「は、? え。き、貴様。まさか最初からこのつもりで……」

 

 妖夢はバンと席を立ちあがる。それを見て勘違いした観客がさらに大きな声を出した。もう逃げることはできないよ、と河童は言っている。これでチームの補強はできた。お燐よりも戦闘力が高い不審者兼アイドルが仲間に入ったのだ。

 


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