とある寒い日の帰宅途中、董子は何も思うのか
注意;
批判されるレベルで短いです。ふわふわした宇佐見董子のお話となっています。
挿絵が付いております。ひょんなことからもらい受けました。あとがきに絵師のアドレスほか載せていますのでご興味あるかたはどうぞ。
それはそれはとても寒い冬の日のことでした。
ちらほらと白い雪が降りてきては、すぐにアスファルトの地面に溶けていく都会の冬です。なんとなく静かな町は人々も寒さにほんのちょっとだけ背を丸めて歩ています。
バスがぶおおと音をたてて、通りを走っていくのが一番大きな音でしょう。
そんな中、一人の少女がかばんを振りながら速足で歩いています。
ふわっとした茶色の髪をふたつに結びしてした眼鏡をかけた少女です。
名前は董子といいます。彼女はとてもすごい力を持った女の子なのですが、今は必死な形相です。とにかく寒いさむいと口にしながら、たまに両手で口を覆って。はーはー。とあったかい息をあてています。
着ているのは黒いPコート。ちょっと裾が長くて彼女の体のほとんどを隠しています。ちらちら見える可愛らしいスカートは高校の制服でしょう。
雪は降りますが、積もりません。
ビルの間から冷たい風がひゅーひゅー吹いています。
董子は恨めし気に空を眺めますが。彼女の視界に入ってくるのは小さな雪たちだけです。彼女は高校も終わった帰宅途中。速く帰って「いいゆめ」をみたいと思っています。
少しあかくなった鼻をこすって董子は歩きます。
「身がひきしまる寒さっていうけど、これじゃあ……」
董子は愚痴が多いようです。
とにもかくにも彼女はすたすたと帰り道を歩んでいきます。「飛んでいけたらいいのに」とよくわからないことも言うのです。
彼女とすれ違うのは、スーツに身を包んだサラリーマンさん。もこもこのダウンジャケットを羽織って首にマフラーをぐるぐる巻いた子供たち。それと彼女と同じような学生たち。それがぞれが何かしらを考えながら笑い、どこかに行くのでしょう。
まあ董子にはそんなことは関係ありません。彼女はいつも以上にぶすっとした顔で背を丸めながら歩いていくのです。
せっかくのかわいい顔がだいなしです。
董子はそんな調子で家までたどり着きました。玄関をあけると中のひやっとした空気を感じます。どうやら誰もいないようです。
彼女はただいまも言わずにぽいぽいと靴をぬぎすてると、居間に直行します。Pコートを脱いでてきとうににぽーんと投げすてて、すさまじい速さでこたつの電源を入れました。
するっとこたつに入り込む董子ですが、こたつについたお布団すらもひんやりしています。
「う、う、うう」
こたつに両手足を入れて何かうめく董子です。寒いのでがたがたと震えています。こたつの中では両手をさすっているのでしょう。もぞもぞと動いています。
厳しい顔つきの董子ですが、だんだん、そうだんだんとそのほほが緩んでいきます。
ほっぺたがほんのり赤くなり、はーとゆっくりと息を吐く姿はリラックスしています。
どうやらこたつがあったかになってくれたようです。董子は体をさらにこたつにもぐりこませていきます。
どうせなら猫のように中で丸くなりたいかもしれません。董子はあごをこたつにつけて、ぐたーとそのほっぺたをつけました。だらしがありませんね。
「あ」
なにか気が付いたように董子は立ち上がります。それから速足で台所にいくと冷蔵庫をがちゃりとあけて中から目的のものを見つけます。
「月見だいふく~」
人がいないとテンションが上がってしまうことがありますよね。董子は冷蔵庫から出したアイスを片手で天に掲げてドラ猫ロボットのような声を出しました。
ちょっと恥ずかしいのでこほんとせきをして、あたりを見回します。誰もいないのは当たり前です。天井には一つスキマが開いてて「ふふ」と声がして閉じます。
董子はぺりぺりとアイスのふたを取り外して、こたつにもどります。
寒い時にこそアイスを食べたい、そんな気持ちに彼女はなっているのです。「月見だいふく」は大きなふたつの大福状のアイスです。もちもちの外側の中はおいしいバニラアイスです。
董子は一つとって大きな口でぱくり、大きいので頑張って食べます。たいへんですけど顔は笑顔です。ぺろっと台所からこたつに入るまでに平らげてしまいました。彼女はもうひつしかないことがとても残念です。自分で食べたとしても、もうあとひとつと思うと寂しい気がします。
さらに大きな問題がありました。董子はこたつに潜り込むと両手を外に出すのが嫌になってしまったのです。これには困りました。
「そうだわ!」
そこで董子はがんばって月見だいふくを咥えると、はむはむと食べていきます。
とても幸せそうな顔でした。
「うままーっ!」
妙なことをまだ言っています。