ハローチリちゃん、元気ですか?兄ちゃんは元気です 作:宮川アスカ
試験の結果が届いたのは、約1週間後のことだった。結果は合格。人柄良し、座学も成績優秀、実技では四天王に勝利する実力。オモダカは教師以外の仕事も任せようとしているが、現状シシィは上手いことかわし続けている。
合格してからはトントン拍子で物事が進み、校長であるクラベルへの挨拶、他教師との顔合わせを済ませ、今日がシシィにとって初となる授業になるわけだが──
「んー……誰も来ない」
既に授業開始5分前を切っているが、人が訪れる様子は無い。
グレープアカデミーでは、数学や言語学といった必修科目と家庭科や美術といった選択科目の2つが存在する。シシィが担当する事になった育成学は選択科目であり、急な授業追加ということも相まって、クラベルからは事前に、最初はなかなか生徒が集まりにくいかもしれません。と言われていたが、流石に0というのは中々に悲しいものである。
「授業内容も考えて来たんだけどなぁ」
シシィがそんな事を考えていると、教室の後ろの扉が勢い良く開く。
「ギリギリ間に合ったー! 危うく遅刻ちゃんになるところだったぜ」
大きな鞄を背負い、所々にメッシュの入ったブロンドアッシュの髪色をした少年が、息を切らしながら教室に入ってくる。
「……ってあれ? サワロ先生は? 他のヤツらは? てかアンタ誰だ?」
異変に気づいたのか、少年は腕を組みながら首を傾げる。
「僕は先日この学園の教師になったシシィ。それと今週から授業時間の変更があったはずなんだけど、連絡来てないかな?」
シシィの言葉を聞いた少年は、急いでスマホロトムを取り出し、目を通す。大量の未読メッセージのうちの1つに、授業時間変更に関する連絡と書かれたメッセージが。
「……まじかよ」
落胆しながら教室を出ていこうとする少年を、シシィは呼び止める。
「せっかく来たんだし僕の授業受けてみない?」
「……受けるっつったって、先生の授業はなんなんすか?」
「育成学」
「なら余計にむいてないですよ。俺、ポケモンバトル苦手なんで」
少年の言葉に、シシィは何かを考える様に少年に問いかける。
「キミ名前は?」
「……ペパー、2ーGのペパー」
「ありがとう。ペパーくんは育成学はポケモンバトルに対しての育成論だと考えているみたいだけど、それだけじゃないよ。そうだな、例えばキミが本来受けるはずだった家庭科に関する事で言えば料理だって、ポケモン育成の要素の1つだ」
シシィは、前職の育て屋での経験から、育成学に任命された。育て屋とは、ただポケモンを強くするだけでなく、トレーナーでは手に負え無いほどの難のある性格のポケモンの治療や、精神的な病を負ってしまったポケモンのメンタル治療など、幅広い内容が要求される。
「どうだい? 一括りに育成と言っても、そこにはポケモンとトレーナー、それぞれにそれぞれの形があるんだ。学んでおいて損はないと思うよ?」
「……まぁ、どうせこのままどっか行ってもやる事ないしな」
シシィの言葉に、ペパーは少し考えた後、荷物をおろし、教卓の前の席に着く。それを見たシシィは、嬉しそうにニコリと笑う。
「じゃあ、今日はペパーくんに合わせた授業にしようか」
「え? いいんすか? 授業内容とか考えてたんじゃ……」
「いいのいいの。そもそもペパーくんしかいないし、興味無い内容より興味ある内容の方が楽しいでしょ?」
「そりゃあ、まぁ……」
「じゃあ、ちょっと授業で使う道具持ってくるから10分位待ってて貰えるかな? 時間も限られてるしなるべく早く持ってくるね」
シシィはそう言うと、足早に教室を出ていく。
「……変な先生」
教室を出ていったシシィを背に、そう言ったペパーの顔は、ほんのりと笑っていた。
10分後、カセットコンロや鍋、木の実等を持ったシシィが再び教室に戻ってくる。
「それでは少し遅くなったけど授業を始めようか。本日の授業内容な育成とは切っても切り離せない料理、ポケモンフーズについて。ペパーくん、ここパルデア地方での主な料理はなんだい?」
「基本的には、サンドウィッチが多いな」
「そうだね。ただ、その土地、その地方によって主流となる料理やポケモンフーズは異なる。例えば、シンオウ地方ではポフィン、カロス地方ではポフレ、ガラル地方ではカレーライスみたいにね。ペパーくんは料理は得意かい?」
「ああ。意外って言われるけどピクニックが好きで、料理も良くするから」
ペパーはそう言うと、目を逸らしながら少し恥ずかしそうに頬をかく。
「ピクニックか、良いね。それじゃあ、ピクニックで使える料理のバリエーションを増やそう」
シシィは、調理器具や材料をお互いの前に仕分けていく。
「サンドウィッチはポケモンフーズじゃないし、カレーが似た傾向になるけど、あえてジャンルを変えてお菓子、ポフィンを作ろうか」
シンオウ地方で主流とされ、使用した木の実や調理時間によって味が変化するお菓子。ポケモンのコンディションを上げる事から、コンテストが盛んなシンオウ地方ならではのポケモンフーズと言えるだろう。
木の実を鍋に入れ、ゆっくりと煮詰めていく。混ぜる向きやペースをシシィの指示に従いながら、ペパーも慣れた手つきで調理を進めていく。
出来た生地を方に流し、オーブンで20分焼き上げる。待ち時間で座学を行い、授業が終わる頃には美味しそうなポフィンが完成していた。
「おー! これがポフィンかぁ!!」
「初めてとは思えないくらい素晴らしい出来栄えだね」
「へへっ! 先生のおかげだぜ!!」
ペパーは嬉しそうにポフィンを手に取り、シシィに貰ったポフィンケースに並べていく。
「ビックリするだろうなぁ。これでアイツも少しは……」
「アイツ?」
ペパーから気になる単語が出てきた所で、授業終了を知らせるチャイムがなる。
「おっと、もう時間か。それじゃあ今日の授業はここまでにしようか」
終わりの挨拶と共に授業を閉め、教室を出ようとしたペパーがふと教卓の方を向く。
「先生ありがとう。今まで育成ってあんま良い印象じゃなかったけど、なんつーか、その……」
「フフ。授業は楽しかったかい?」
「……! ああ!!」
「それは良かった。毎週水曜日と金曜日のこの時間に授業をしているから、気が向いたら何時でもおいで。待ってるよ」
ニコリと微笑み、手を振りながらペパーを見送る。
初めての授業で教えたのはたった1人の生徒だったが、生徒の笑顔が見れると言うのは嬉しいものであると実感する。教師という職業も良いものだなとシシィは思うのであった。
原作のヒロイン、嫁枠のペパーくん。本作品でも、作者の好みにより主要メンバー確定のお知らせ。
お気に入り、評価、感想。リキキリンなみに首を長くしてお待ちしております。