ハローチリちゃん、元気ですか?兄ちゃんは元気です 作:宮川アスカ
「本日の授業はテラスタイプを用いた育成論について学んでいこうか」
シシィが授業を持つようになってから1ヶ月が経った。
最初の数回は受講者がペパー1人だったものの、四天王チリに似た顔面偏差値600族の教師が居るという噂から始まり、普段家庭科以外の授業にあまり興味を示さないペパーが最近真面目に受けてる授業があるという話が広まり、興味を持った生徒達が徐々に増え、その授業内容のレベルの高さから、今では教室が埋まるほどの生徒がシシィの授業を受けに来ている。
「では、まずテラスタルの仕様から。バトル中お互いに1回だけ使用できて、使用後はテラスタイプ、つまり単タイプになるわけだけど、攻撃時、テラスタイプと技のタイプが一致している時、技の威力は何倍になるのか。分かる人いるかな?」
シシィの質問に、何人かの生徒が手を上げる。
「それじゃあ、ネモさん」
「はい! タイプ一致での補正が1.5倍から2倍になります」
「では、テラスタイプと技のタイプは一致していないけど、元のタイプと技のタイプが一致している時はどうかな?」
「元のタイプのタイプ一致補正はそのままなので1.5倍です!」
「その通り。しっかりと理解出来ているね」
生徒会長でチャンピオンクラス。ポケモンバトルが大好きな彼女が育成学を受講しないなどという選択肢があるはずも無く、ネモは嬉しそうな表情で、ありがとうございますと席に着く。
「更に、テラスタイプと技のタイプが一致していて、テクニシャン補正後の威力が60に満たない技は威力60に引き上げられるわけだけど、ここまでは多分タイム先生の授業でも習うのかな?」
シシィの疑問に、生徒達は軽く頷く。
「なるほど。じゃあ、テラスタルのおさらいも済んだことだし、本日の授業の本題であるテラスタイプを用いた育成について話していこうか」
シシィの授業は育成学。ここまではあくまでテラスタルの仕様であり、授業の本題はここから。
「テラスタルの使用方法は大きく分けて2つ。1つは攻めのテラスタル、もう1つは守りのテラスタル。まず攻めテラスタルは、さっきネモさんが答えてくれた様に、元のタイプ一致技の更なる火力強化の為に使うパターンと、不一致技をタイプ一致にすることによる攻撃範囲を増加させるパターンだね」
自身の授業を受講している生徒に、事前アンケートを行ったところ、前者を扱う生徒が大半であり、少し機転をきかせれる生徒だと、技範囲の広いポケモンには、後者を使用する生徒もいる。
「そして2つ目の守りのテラスタルは、弱点タイプに対する耐性獲得を目的としたもの。これを頭に入れてテラスタイプを選んであげると、戦略の幅が大きく広がるよ」
テラスタルの仕様として、防御時は元のタイプが参照されなくなるため、耐性の切り替えに使うことができる。
しかし、強制的に単タイプになる事から、複合タイプ故に本来持っていた耐性を失うという欠点もある。シシィの相棒であるヌオーなんかがいい例である。
「この様に、自分のポケモンが何を得意としているのかをちゃんと理解して、テラスタイプを考えてみよう。テラスタルは戦術の奥を深める無限の可能性。テラスタイプのベースは決めつつも、バトルする相手に合わせて変更してあげる事が何よりも重要な事だね」
生徒達は、それぞれシシィの言葉をノートに書いていく。ポケモンバトルが苦手と言っていたペパーも、所々頭を捻りながらも、しっかり授業内容を自分の頭に落とし込めるよう努力する姿勢が見受けられる。
「それでは本日の授業はここまで。ちゃんと復習するんだよ。分からない事があったらいつでも聞きにおいで」
授業が終わると同時に、何名かの生徒がシシィのもとに質問をしに行く。それを1つずつ丁寧に解説した後、シシィは教室を出る。
「おや? シシィ先生」
職員室に戻ろうとしていると、たまたま教室の前を通りかかったクラベルがシシィに声をかける。
「今授業を終えたところですか?」
「クラベル校長。はい。生徒達の質問に答えていたらついつい遅くなってしまいました」
「それはそれは、お疲れ様です。シシィ先生の授業は生徒達から人気ですからね」
アハハと笑うシシィに、クラベルは嬉しそうに頷く。
「クラベル校長は何か御用ですか?」
「ええ、実は──おや、ちょっと失礼しますね」
クラベルの手にはいくつかの資料。疑問に思ったシシィが質問すると、クラベルのスマホロトムに着信が入る。
通話を終えたクラベルは、少し焦った様子でシシィに話しかける。
「すみませんシシィ先生。医務室に行く予定だったのですが、緊急の用事が入ってしまいまして。ミモザ先生にこちらの資料を渡しておいて貰えませんか?」
「ミモザ先生ですか? 分かりました。それでは渡しておきますね」
「ありがとうございます」
一言お礼を伝えると、クラベルは資料をシシィに預け、足早に来た道を戻っていった。
「失礼します。ミモザ先生いますか?」
「はいはーい。ミモザの医務室へようこそー。ってあれ? シシィ先生じゃん。どうしたんですか?」
「こちらの資料をミモザ先生に渡して欲しいと頼まれたので」
ミモザは珍しい客人に、少し驚いた顔をする。学校保健師であるミモザは、基本的に1日医務室にいる為、シシィと顔を合わせることは少ない。
資料を渡したシシィは、初めて来たということもあり、医務室を軽く見渡す。
「医務室の利用者、多いんですね」
「アハハ。ここサボりに来る生徒多くて。まぁ、私も授業持ってないしその分退屈はしないんですけどね」
「なるほど。じゃあ僕も少しサボっていこうかな? ミモザ先生とはあまりお話する機会もないですから」
どこか複雑そうな表情をするミモザを見て、シシィはニコリと微笑みながら彼女の前に置かれた椅子に腰を下ろした。
「──それで、何回も養護教諭の試験落ちて、今じゃここでくさっちゃて。って、私何話してんだろ。シシィ先生にわざわざこんな暗い話して」
「いえ、全然気にしてませんよ。それにミモザ先生はくさってなんかいません」
化粧で隠してはいるが、ほんのりと残る目の下のクマ。綺麗な指に出来たペンだこ。それが何よりの証拠だった。
シシィはガラル地方に居た時の知り合いを思い出す。彼女も、チャンピオンの同期とジムリーダーの友人との間に密かに感じるコンプレックスや、勝手に感じている祖母からのプレッシャーで押しつぶされそうになっていた。それでも彼女は決して立ち止まりはしなかった。
「大丈夫。例えどんなに遠まわりになろうとも、前を向いている限り貴女の道は間違っていません」
シシィの真剣な眼差しに、ミモザはドキッとしてしまう。
「ついつい話し込んでしまいましたね。あまり長い時間居ると怒られてしまうので僕はこのへんで。僕がここでサボっていた事は2人だけの秘密にしておいてください」
シーと人差し指を口に当て、ウインクするシシィの破壊力は凄まじく、ミモザは顔を赤くする。
(って私顔赤すぎでしよ。めっちゃドキドキしてるし! 別にシシィ先生は私が暗い話しちゃったからアドバイスって言うか、慰めの言葉かけてくれただけだし!)
自分の顔を鏡で見て、ミモザは恥ずかしさから1人で悶絶する。
(でも……頑張ったら、少しはまた褒めてくれるかな)
生徒がいる前で勉強なんて、今更縋ってると思われたくなくて、そんな自分を想像すると惨めでダサくて、それが嫌でいつからかしなくなっていた。
しかし久しぶりに、ミモザは医務室で、大量の付箋が貼られ使い古された教材を鞄の中から取り出した。
基本的にはタグ付けされてるキャラとの絡みが多いです。もしかしたら増えるかも?次はチリちゃん出るで!
お気に入り、評価、感想。リキキリンなみに首を長くしてお待ちしております。