ハローチリちゃん、元気ですか?兄ちゃんは元気です 作:宮川アスカ
とある日の休日。テーブルシティの西口前にシシィはいた。
通る人の殆どが1度は彼に目を奪われる。そんな中、1人の少女がシシィに声をかける。
「あれ? シシィ先生!」
「おや? ネモさん。こんにちは」
シシィに声をかけたのはネモであり、彼女の傍にはもう1人の少女が。
「ネモ。この人は?」
「あれ? そう言えばアオイと先生は、はじめましてだっけ。この人はシシィ先生! 最近アカデミーに来た育成学の先生だよ! それでこっちの子がアオイ。最近アカデミーに来た転校生です!」
「はじめまして。アオイです!」
「はじめまして。シシィです。なるほど、キミが噂の転校生」
ネモの紹介に合わせて、2人は軽く挨拶をする。そんな中、シシィの言葉に、アオイは首を傾げる。
「噂ですか?」
「うん。アオイさんは教師の間でも話題になってる生徒だからね。入学早々、崖から落ちたとか、スター団と勝負しただとか」
「おー、アオイってば入学早々から有名人?」
スター団。やんちゃな生徒の集まりで、授業にまともに参加しない不登校の言わゆる不良集団。そんなスター団から、一般の生徒を助ける為と言う報告も受けている為、決して悪い噂ではないのだが、教師としてはあまり危険な事はして欲しくないと言う気持ちもある。
そんな話をしていると、遠くの方から、誰かが走ってくる足音が聞こえる。
「おい、生徒会長! 勝手にどっか走ってくなっての! 猪突猛進ちゃんかよ」
「ペパーくんも一緒だったんだね」
「って、シシィ先生!!?」
肩で息をしながら、顔を上げたペパーは、シシィの存在に身体全体で驚きを表す。
「珍しい組み合わせだね。何かあったのかな?」
「アオイにテーブルシティを案内してあげようかなって!」
「俺は家庭科室で次のレシピ考えてたら無理やり引きずり出されて……」
元気良く答えるネモに対して、ペパーはどこか疲れた表情を見せる。そしてその仲介役がアオイという構造らしい。
「シシィ先生はどうしてここに?」
「ん? 僕はチリちゃんと待ち合わせ。これから買い物に行く約束をしてるんだ」
事の発端は、チリがシシィの部屋を訪れた時の事だった。
──兄ちゃん全然服持ってへんやん!
──ああ、こっちに来た時に着ない服は結構捨てちゃったからね
──相変わらずやな。せや! チリちゃんが兄ちゃんの服選んだるわ!
と言う事があったわけである。シシィは学校ではスーツを着用しているため、外出用の最低限の服しか持っていない。育て屋時代の職業柄、ポケモンの毛などが衣服に多く付着する為、オシャレな服などはあまり着ておらず、ファッションにはかなり無頓着な人間である。
一方でチリは意外と思われるかもしれないが、年相応の女の子といった感じで、流行に敏感な方で、ファッションに関してもオシャレな人間である。
「知ってはいたけど、改めてシシィ先生って四天王の1人と兄妹なんだな」
「シシィ先生、顔も良いしスタイルも良いからなんでも似合うと思います!」
「フフ。ありがとう。そうだ、アオイさんとは髪型、お揃いだね」
シシィはそう言うと、サラりと自身の三つ編みを触る。
所々に緑のメッシュが入った黒く長い髪は、後ろでゆったりとした編み込みでお団子状に束ねられており、余った髪をアオイと同じくサイドで三つ編みにしている。
「本当だ! お揃いですね!」
「じゃあ、私は髪色お揃いですね!」
「俺もメッシュがお揃いちゃんだぜ!」
ワイワイと話す3人を見て、案外良い組み合わせなのかも知れないとシシィは思う。
そして数分後、待ち合わせ時間の少し前に、3人と入れ違う形で集合場所にチリが訪れる。
「兄ちゃんお待たせ。ん? どないしたん、そんな嬉しそうな顔して。なんか良い事でもあったん?」
「あ、チリちゃん。チリちゃんが来る前にたまたまアカデミーの生徒に会ってね」
嬉しそうに話すシシィを見て、チリも嬉しそうに笑う。
「ん? どうかした?」
「いや、当たり前だけど兄ちゃんもちゃんと教師やってるんやなぁって」
「フフ。そうだね。チリちゃんには感謝しないと」
チリはそんなシシィの腕を組み、2人はテーブルシティの外へ出るように門を潜った。
カラフシティ。テーブルシティ、ハッコウシティと並ぶパルデア地方における三大都市の1つであり、中でも衣料品店の数が多いこの都市を、シシィとチリは歩いていた。
「砂漠に近いしお世辞にも立地の良い土地とは言えないけど、随分と人入りが多い良い都市だね」
「せやなぁ。その辺はやっぱりハイダイさんの情熱の賜物やね」
そんな話をする2人は、周囲の視線を釘付けにしている。それは何故か。四天王の1人であるチリが男を連れて歩いているから? 否である。寧ろ今の彼女をチリと判断出来る人はそう多くないだろう。
何故ならば、今の彼女は、いつも結んでいる髪を解き、ズボンではなく1部緑の生地を使った黒のロングスカートに、黒のハイヒール。普段はピアスしかつけていないアクセサリー類も、ネックレスや指輪、ブレスレットをつけており、普段のクールな彼女の特徴を残しながらも、スタイルの良さを活かしたより大人な魅力のある女性となっている。
そして、そのんなチリの隣を歩くシシィも、チリと同じく男性寄りの中性的な顔立ち。約170cmあるチリがハイヒールを履いているにも関わらず、それよりも高い身長。圧倒的なまでのモデル体型。服に無頓着で、持っている数は少ないとは言え、美的感覚は高い為、外出用の服はオシャレで、まさに美男美女。
ここまでキラキラしたオーラを振りまく2人を見るなと言う方が無理な話である。
「兄ちゃん、これとこれ、どっちがええ?」
「んー、こっちの方が好みかな」
まるで着せ替え人形。チリに渡された服を、シシィは次々に試着していく。
上は無地のTシャツにテラードジャケット、下はチノパンといったシンプルで清潔感のある服。
デニムジャケットやジーンズといったアメリカンスタイル。
モッズコートやカーゴパンツといったミリタリー系。
レザージャケットやスキニーパンツといったロック系。
あえてワンカラーで統一したモード系。
Tシャツや柄シャツといったカジュアルな格好から、リラックス感のありオシャレなビジネススーツといったフォーマルな格好まで、どんな服でも、シシィは完璧に着こなしていく。
先程から何度も女性定員がクラっと倒れそうになっている。
「兄ちゃん天才や。似合いすぎやろ、こんなん選べんわ。よし! こうなったら全部買ったろ!」
チリは楽しそうに大量の服をレジに持っていく。シシィは自分の服なのだから自分で払うと言ったのだが、頑なに断られた。
正直シシィには、オシャレに関するショッピングの楽しさは分からない。しかし、妹の嬉しそうな表情を見れるだけで、シシィにとっては価値のある事なのだ。
シシィがパルデア地方に来てから、チリとご飯を食べたり、飲みに行ったり、お互いの家に訪れたりした事は何度かあるが、こうして2人で1日出かけるというのは、なんだかんだで初めてだ。
勿論、シシィが教師になったばかりであり、他にも新生活といった忙しい時期ではあるというのもあるが、何よりチリが忙しい。四天王としての面接を含めた露払い役に加え、ポケモンリーグでの事務作業というのは周りが想像してる以上に何倍も忙しい。
そんな妹の貴重な休日を、自分と過ごして笑ってくれるのであれば、シシィはなんだってする。
そんな楽しい時間は案外直ぐに過ぎ去るもので、シシィの服だけでなく、チリの服や、お互いに欲しい雑貨や家具、本などを見ていたら、2人の休日は既に終わりを迎えていた。
「兄ちゃん今日はありがとうな。チリちゃんごっつ楽しかったで」
飲み屋からの帰り道、チリは少しフラフラとおぼつかない足取りで歩きながらも、意識は保てているようで、笑顔でシシィを見る。
「ありがとう。僕もチリちゃんのおかげで楽しい休日だったよ」
ただでさえハイヒールという歩きにくい靴を履いているのに、更にそこに酔いをプラスした危なっかしい妹の事を支えながら、シシィもニコリと笑う。
すると道中、何かを思い出したかのように、チリは鞄の中をガサガサと漁り、お洒落で高級そうな小さな箱を取り出す。
「これは?」
「遅くなってもうたけどこれ、チリちゃんから兄ちゃんへの就職祝い。開けてみてや」
チリから受け取った小さな箱を、シシィはゆっくりと開けると、中には赤い宝石がキラキラと輝くピアスが入っている。
「え、チリちゃん。これ凄い高そうなんだけど。これを僕に?」
「フフン。気にせんでええで。こう見えてチリちゃん結構稼いでんねん」
少し狼狽えるシシィに、チリはしてやったりとニヤリと微笑む。シシィとしては、今日はほとんどチリがお金を出した事もあり申し訳なさが大きいのだが、服だってピアスだってチリにとってはシシィへのプレゼント。普段はシシィがお金を出している為、チリとしては全く気にしていない。
そんなチリは、少し真面目な顔をしながら綺麗な夜空を見上げる。
「兄ちゃんは教師やし、ピアス贈るのもどうなんやろって思ってんけど、やっぱチリちゃんにとっては大切なものやねん」
チリは多くのピアスをつけており、気分によってつけ変えるが、1つだけ絶対につけ変えないピアスがある。
まだチリが冒険に出る前の事。久しぶりに家に帰ってきた兄の耳にはピアスがついており、かっこええなと思った。それはピアスがかっこいいのか、兄がピアスをしているからかっこいいのか。恐らく後者だろう。
そんな兄がかっこよくて、早く兄に追いつきたくて、少しでも大人になれる様な気がして、親の目を盗んで、こっそり安全ピンを使って穴を開けた。その結果痛くて泣いたのを覚えている。今思い返せばアホやったなとチリは思う。
その頃のチリはまだまだ子供で、勿論親には怒られたが、兄だけは違った。
──チリちゃんは美人さんだから、きっと似合うと思うな。けど他にも開ける時はもう少し大人になってから。兄ちゃんとの約束だよ?
小指を出しながらそう言った兄に貰ったのが、今も尚つけ続けている三角形のピアスだ。
チリにとってはそれだけ、プレゼントにピアスを贈るということに意味があり、兄との大切な思い出の1つだ。
「ありがとうチリちゃん。大切に使うね」
「やっぱ兄ちゃんはチリちゃんにとって世界一の兄ちゃんやわ!」
今日何度見たか分からない嬉しそうな彼女の笑顔は、夜空に散りばめられたどんな星よりも輝いていた。
女の子してるチリちゃんも、兄ちゃんの背中を追いかけてるちっちゃいロリチリちゃんも可愛いと思わんか?さぁ!!答えはYESですか!?
お気に入り、評価、感想。リキキリンなみに首を長くしてお待ちしております。